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2005.12.04

■石橋冠演出『終りに見た街』 山田太一作

終りに見た街(公式ページ)
 さきほど観終わりました。(感想が遅れましたが、VTRに撮った『野ブタ。』観てたもんで(^^;))

 今回も1982年制作版と同様に、とても重厚なドラマに仕上がっていました。CGの発達とディジタル技術のおかげでリアルさは増していたと思います。(どっかに1982年版のVTRが残っているはずで、比較して観てみるのも面白いでしょうが、、、今は時間がない。)

 映像的に好感が持てたのが、昭和の街並みが古めかしくなかったところ。
 本来、昭和の映像がくすんでいるのは写真がモノクロだったり退色しているからであって、その当時は新しかった街並みがハイビジョンのドラマの中で、ちゃんとくすんでいずに新しい雰囲気があったのは、(たんなる予算の問題ではなく)スタッフがそのように作り上げたからではないかと思う。
 ラスト前で子供たちが、お父さんたちとは違って私たちは過去を生きているのではなく、これが自分たちの現在なのだ、と痛切に訴えるシーンがあるけれど、そんな街並みの描写がそうしたセリフにもリアリティをもたらしていたのではないかと思う。

 当時の生活の中で一億火の玉な現実が体に染み込んでいった子供たちの痛切なセリフ。
 これは、洗脳の怖さをうたっているという風にも受けとれるのだけれど、子供たちの真剣さがある種の輝きを持っているのに対して、中井貴一と柳沢慎吾の顔がいかにも現代的に弛んでいるように見えてしまうと捉えると、もっと怖い映像に見えてくる。

 つまり、「洗脳」と一言では言い切れない戦争状況でのリアリティ--当時の人たちにとってはあの世界認識が、それだけが紛れもなく現実だったわけである。「洗脳」といったテクニカルな矮小化されたわかりやすいメカニズムでなく、まさに生活感覚として「戦う」ことの重要度が人々の心に根付いていた、そういったところを描き出しているところが、このドラマの凄みになっているのだと思う。

 そして、そこから一転する世界。前述の凄みを(たぶん観客の無意識へ)一瞬感じさせて、そのままズトンとあのラストを持ってくる。『想い出づくり』('81)と『早春スケッチブック』('83)の間に挟まれた'82年、山田太一が最も脂がのっていた瞬間に生まれたこのドラマのシナリオの力が、充分現代にも通用することをラストシーンの(二度目の23年ぶりの)戦慄とともに感じで観終えた。

 エンドタイトルで小泉首相の映像が出ていた。ここはブッシュとのツーショットでないといかんでしょう。

◆関連リンク
THE BELLさんの 終りに見た街 '82版の情報に詳しいBLOG
公式サイトの掲示板(OWARI)
 今回はじめて観た方たちのショックの様子が伝わってきます。
 (しかし公式サイトなのに、「終わりに見た街」になってるのはいかがなものか?)
公式サイトのAP日記

 群馬県桐生市に、昭和な町並みが残っているのをご存知ですか?嘉衛門町というレトロな町並みがあり、古い建物がそのまま残っている通りがあります。今日は、そこでの撮影でした。平成の現代から、昭和19年にタイムスリップした6人が、途方に暮れながら昭和の町を行く・・・というシーン。

テレビドラマデータベース 山田太一

山田太一は小説ではこの種の非日常をベースにした作品が多く、のちの「飛ぶ夢をしばらく見ない」や「異人たちとの夏」に先立つ作品として注目される。

 『飛ぶ夢をしばらく見ない』や『異人たちとの夏』よりもこの作品の方が早かったわけで、『終りに見た街』により幻想的な手法が持つ力を山田太一が認識していったのでしょうか。
「ふぞろい」トリオがそろい踏み
・こんな番組もあったようですが、東海地方では未放映。
 「終りに見た街」放送直前SP第2弾(12/3(土)PM 3:30 ~ 4:25)
・旧作 1982/8/16 ゴールデンワイド劇場 『終わりに見た街』
・芝居 前進座公演 前進座劇場
・山田太一『終りに見た街』 ・その他作品(Amazon)
・当BLOG記事 『終りに見た街』リメイク 

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コメント

 高橋善昭さん、はじめまして。コメントいただき、ありがとうございます。

 戦時中のリアリティに関して、実際に体験された方に書き込んでいただき、やはり山田太一氏の書かれていることは、まさしく戦時中を知っている方からすると、実感なんだというのが、よくわかりました。

 私も父親からそうした話はよく聞きました。きっと現代に対して、リアリティのない、なんらかの違和感を持っていて、それで戦時中の話をしてくれるのでしょうね。父親から、うちの子供たちにも直接戦時中の話を今度してもらおうと、このドラマを観て感じました。

投稿: BP | 2005.12.07 22:10

私はあの頃、小学四年生だった。
今は71歳だ。ドラマは現代から戦中にタイムスリップしたが、私には、戦時中の方がリアルで、現代が幻想のように感じられる。
こんな世の中がつづくとは思えない。
今は生きている実感が薄い。軽薄な社会。
戦争は不幸なはずだが、命の危機が迫っている時には妙に体験が鮮烈に感じられた。平和がつづくと、生きている実感が薄れる。
だからといって、戦時をよいと言っているわけではありません。

投稿: 高橋善昭 | 2005.12.07 21:02

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受信: 2005.12.04 09:33

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