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2005.12.11

■白岩玄 木皿泉 『野ブタ。をプロデュース』

野ブタ。をプロデュース(公式サイト)

 うちの子供たち二人がとにかく集中して観ている『野ブタ。をプロデュース』。ゴーヨク堂店主 忌野清志郎目当てで観ていたのですが、そのうち引き込まれ自分もどっぷり(^^;)。PRODUCE 3の「恐怖の文化祭」と今回のPRODUCE 9「別れの予感」が今のところベスト。

 今週の9話「別れの予感」、傑作でした。観ている途中、ゴールデンタイムのドラマでこれはないだろう、と先がどうなるか本当にドキドキしてしまった。子供にこんなん見せていいのか??うちの小学生の方はかなり衝撃を受けてました。この子にとっては凄いドラマとの遭遇になったようです。

 原作の白岩玄『野ブタ。をプロデュース』(河出書房新社)は、高校という狭い檻の生活の中で、高校生としての自分を「着ぐるみ」している主人公を語り、現代的な関係性を描き出しているところが面白い小説である。

 TV版はそれに加えて(というか「着ぐるみ」部分は随分とトーンダウンさせて)、木皿泉(シナリオ)他スタッフが、3人の男女の友情もの+主人公が逃げないで前向きに進んでいくよう原作を描き直す試みをしている。
 特に視聴率を狙って導入されたようにも思える「野ブタ。」を男から女へ移し変えたことと、草野彰というキャラクタの追加。そして仇役キャラクタの導入。これらによってドラマは原作にない魅力を放っている。そしてそれが結晶化したのが今回のPRODUCE 9「別れの予感」(新聞に出てた「別れても友達」というタイトルとどっちが本当?)。

 前週でとんでもないキャラクタとして描かれた仇役(うちの子供たちのブーイングは最大級)が重要なシーンを演じる今回のストーリー。3人が4人として描かれて、それがすぐに破綻していく物語。4人目の絶望を描くことで4人目は離れていき、まさにチリのブタ人形の足の数3本が象徴するように3人の物語が結晶化していく瞬間。痛いけれど、いい話でした。

 で、詳細はネタバレ含めて、以下へ続く。

幻想ドラマとしての『野ブタ。』
nobuta_okujyou
 葵「許してほしくなんかない」
 修二「じゃあさあ、おまえ、何がしたいんだよ」
 葵「覚えててほしい。いやな思い出でもいいから、あたしがいたことを。覚えていてほしい、それだけ」そして飛び降りる葵。
 高校生活の闇が露出する瞬間。結局彼女は狭い檻の生活からの脱出を、ああいう形で人の記憶に残ったうえで自殺することとして考えていた。それの実行が動機としてあって、小谷信子を絶望に追い込もうとしていたのだろう。

 夢オチにもみえて2chとかでは非難囂々のこのシーン。
 収拾の付かない恐怖へと物語を運びかねない飛び降り自殺の実行に対して、同時に4人が観ることと芝生の人型という奇想で、そうした恐怖に拮抗して物語を再生させる手腕。「取り返しのつかない場所」の幻想を、チリのお守りが4人に観せたように描くことで、ドラマの緊迫感と3人の物語への結晶化を実現していて、原作を数段凌いだ素晴らしいクライマックスになっている。(来週の最終回がどうなるか、にもよるけどね)

----------以下、思いつくままの蛇足-----------------------

RCと鴻上尚史と『野ブタ。』

 『野ブタ。』でずっと印象的な場所として描かれる高校の屋上。第9話はまさにそこが中心舞台だ。この屋上は、もちろんゴーヨク堂店主の所属グループRCサクセションの「トランジスタ・ラジオ」で描かれている屋上のイメージがある。

 屋上を舞台にした作品はいくつもあるけれど、さらに僕はどうしても鴻上尚史の描く屋上を想いだしてしまう。元々鴻上尚史は「トランジスタ・ラジオ」に影響されているわけだが、『青空に一番近い場所』『ハルシオン・デイズ』『トランス』等々で脱出の場としての屋上を印象的に描いている。たとえば『ハルシオン・デイズ』では、「素敵な屋上は、喜びもくれるし、死という悲しみもくれるのです。それは、恋人と同じでしょう。本当の恋人は、喜びと同じくらいの悲しみもくれるのです」なんて書いている。 第9話の屋上の描写は、まさにこの鴻上尚史のイメージを想いだした。

S・キングと『野ブタ。』

 もうひとつ、先行作品との関係でスティーヴン・キングが描いた『キャリー』について。
 4話「愛の告白大作戦」のステージの場面は、『キャリー』のダンス・パーティのシーンを意識しているように見える。そして5話「悪夢のデート」の回では、シッタカが話す「キングがデ・パルマの『キャリー』のラストを気に入っていなかった」という薀蓄として直接描かれている。元々のストーリーが、みにくいアヒルの子という同タイプの作品であることから、自然に想いだされるわけだけれど、こうした場面を描いているところから、スタッフはキャリーが果たせなかったやりきれなさからの脱出を『野ブタ。』で突破しようとしているようにみえる。

岩井俊二と『野ブタ。』

 僕の好きな第三話「恐怖の文化祭」は、高校時代の混沌とした楽しさに充ちた文化祭と、追憶になるだろう高校生活について彰のナレーションで語られるシーンが好きなのですが、岩井俊二『花とアリス』の高校文化祭をどうしても想いだします。『花とアリス』の猛烈亭ア太郎(本名:洩津当郎)役の坂本真が、生霊として「バイトのミーラ男」役を演じているのも、いい味を出していました。青春ものとして第三話のみ取り出しても秀作。

ひとつ疑問

 第九話の修二のナレーションで、「俺は怖くてしかたなかった。たぶん道を間違えたのは、そのせいだ」と言うのがあるがこれがどういうことなのか、疑問。上の文脈から、僕は原作が描いた「道」を外れたということを言っているのだろう、と理解しているのだけれど、どうだろうか。最終回でわかるのかな??

◆関連リンク
・『野ブタ。』の画面キャプチャーサイト 「恐怖の文化祭」のシーン
・鴻上尚史『映画に走れ!―メイキング・オブ青空に一番近い場所
・映画『青空に一番近い場所』。
 なんとビデオ。DVDは未発売なんですね。
・当Blog記事 『花とアリス
・3本足のブタのチリの人形は本当にあるらしい。ここ。

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