■レイモンド・カーヴァー Raymond Carver ファースト・インプレッション
今年になってから、ふと図書館で手にとってレイモンド・カーヴァーを読みはじめた。読んだ順にまずは簡単にファーストインプレッション。
うちの町の図書館にカーヴァーは『必要になったら電話をかけて』が一冊あるきり。カーヴァの死後に見つかった未発表の原稿からなる短編集。凄く読みやすい。静かなトーンの小説群。でもゴツゴツと何か引っかかる感覚。(しまった、こういう特殊な一冊から読むべきでなかった。)
ということで、気になってきて村上春樹が選んだ傑作選『カーヴァーズ・ダズン』を読む。
これは、どれもレベルが高い。「でぶ」、「ダンスしないか?」、「足もとに流れる深い川」、そして「大聖堂」。どれも底流でほのめかされる何かが響いてくる感覚。書かれないことで予感させる向こう側。
んで、次に読んだのが、最近再刊された初期短編集『頼むから静かにしてくれ Ⅰ』。
ただの日常の描写なのにどこかで齟齬する現実。書かれないことで訴えてくる何ものかが全ての短編にある。一編づつ、ジワジワと自分の中にそれが堆積していく。
そして後半の「アラスカに何があるというのか?」と「ナイト・スクール」を読んだところで、カーヴァー作品によって無意識領域に堆積していたものがグワッーと浮き上がってくる。背筋がゾクゾクする。これがカーヴァーの凄さなんだと(まずは第一段階だろうけど)わかった気がする。この作家、本当に凄いです。
白日にさらし描写されるよりもそこへ至る過程のみを淡々と見せられ、その先を想像にまかされることほど、人間の想像力を刺激するものはないのかもしれない。想像力ほど怖いものはない。そんな本質を直撃する短編を(それだけを)なんでもない日常の物語としてずっと書き続けていたカーヴァーの暗黒を思う。直視することは決してないのだろうけれど、その淵からのぞきこんだものの深さに慄然とする。凄いイメージをみせてもらいました。
◆「ナイト・スクール」より。
その窓の男は部屋の中をじっと覗き込んでいる。それから網戸をこじ開けにかかる。夢を見ている男は身動きすることができない。彼は悲鳴をあげたい。でも息を吸い込むことができない。しかしそのとき雲が切れて、月が姿を見せる。そして彼は外に立っている男が誰かを見分けることができた。それは彼の一番の友達だった。夢を見ている男の一番の親友、でもその悪夢を見ている人間にとってはまったくの知らない男だ。
◆P.S.
・カーヴァーを全て訳している村上春樹も作品のタッチはとても近い。だけれどももしかしたらカーヴァーのは桁が違うレベルなのかも。
・あと村上春樹の『アフターダーク』は、何故この作家がこういう本を書いたのかな?と不思議だったけれど、カーヴァーをそのミッシングリングにあててみると、凄くよくわかる気がした。日常に現われた裂け目をこの作家は覗き込んでみたかったのでしょう、きっと。
『必要になったら電話をかけて』 『Carver's dozen―レイモンド・カーヴァー傑作選』
『頼むから静かにしてくれ〈1〉』 (Amazon)
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