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2006.01.22

■町山智浩著 『ブレードランナーの未来世紀』

Bladerunner_no_mirai〈映画の見方〉がわかる本 
80年代アメリカ映画カルトムービー篇 
ブレードランナーの未来世紀 (Amazon)

 町山智浩氏の本を実は初めて購入。自分の好きな映画についてのレビュウとエピソードを読むのが元々好きなのだけれど、この本はその両面で大満足。知らないエピソードや、新たな切り口の監督論が楽しめます。

 監督ごとに紹介されているこの本を読んで思い出したのが、いにしえのSF雑誌『奇想天外』に連載されていた中子真治氏の<新進主流派SF映画作家論>。これは僕の学生時代の映画のバイブルでした。当時気鋭の新進映画監督であったジョン・カーペンター、ダン・オバノン、S・スピルバーグ他の作家論と作品論を、僕たちが観たこともない映画のタイトルを挙げて紹介した評論で、ワクワクする映画論になっていました。(記憶で書いています。実家の本棚を調べないと全部の監督を挙げられません。ネットにもこの評論の情報がないのが残念。どこかの出版社で是非単行本化してほしいものです)。
 まさにこの本の紹介の仕方が、中子氏の映画論を彷彿とさせて、もしかして町山氏もこの連載のことが頭にあって、こういう構成にされたのかと邪推。各作品を徹底して調べた上で、各監督にインタビューして確認していく丁寧な仕事が着実に実った力作。あと80年代をハリウッドが監督中心からプロデューサ中心の映画作りに動いた時代で、これら監督はアウトサイダーだったという年代論も興味深い。次の本、『80年代アメリカ映画ブロックバスター篇』で描かれるこのプロデューサの時代も楽しみに待ちたいと思います。

◆で、本書の各監督の章について、ちょっとだけ自分の思い出話等メモを。 。

第1章 デヴィッド・クローネンバーグ『ビデオドローム』―メディア・セックス革命
第2章 ジョー・ダンテ『グレムリン』―テレビの国からきたアナーキスト
第3章 ジェームズ・キャメロン『ターミネーター』―猛き聖母に捧ぐ
第4章 テリー・ギリアム『未来世紀ブラジル』―1984年のドン・キホーテ
第5章 オリヴァー・ストーン『プラトーン』―Lovely Fuckin’War!
第6章 デヴィッド・リンチ『ブルーベルベット』―スモール・タウンの乱歩
第7章 ポール・ヴァーホーヴェン『ロボコップ』―パッション・オブ・アンチ・クライスト
第8章 リドリー・スコット『ブレードランナー』―ポストモダンの荒野の決闘者

 クローネンバーグについては、ダビングを重ねてボケた映像になっていた『ビデオドローム』を観たときの事をひさびさに鮮明に思い出した。町山氏が書いている「今、見直すとすんなり理解できるので驚いた」というクローネンバーグの最近の言葉は実感しますね。

 ジョー・ダンテの『グレムリン』1と2は、僕には悪ふざけな映画にしか観えていなかったのだけれど、このような解説を読むと、ダンテの恐ろしいまでのカトゥーンへのこだわりに涙が出ます。僕はダンテは『エクスプローラーズ』がベスト、と思う。

 『未来世紀ブラジル』についてのギリアムの言葉、「体制はテロリストが必要なんだ」。これってまさに現在のアメリカを考えるとぞっとしますね。今こそ、ギリアムに反体制な映画を撮ってもらいたいけれど、『ブラザーズ・グリム』がこけたのでそれどころではないね。

 『プラトーン』のオリヴァー・ストーンの屈折した青春時代と監督になるプロセス、実は知らなかったので、凄く面白く読めた。あとベトナム戦争についての記述とかなかなか凄い。一度この映画見直したい。ストーン「中卒の貧乏人には徴兵をのがれる術はない。貧乏人たちがジャングルで戦っている間、中産階級以上の連中は戦争をテレビで観るだけで、金儲けに忙しかったんだ」。自由の国アメリカが聞いてあきれる。

fish_kit   リンチの『イレイザー・ヘッド』については自分に子供が出来たことがモチーフになっているのは知っていたけれど、結構根が深い。娘のジェニファー・リンチの「あの赤ん坊は間違いなく私」って、当人にはショックでしょうね。あと本書で触れられているリンチのFish Kitはこことかここに写真(右)がある。やはりこういう趣味がある人なんだ。
 で、面白かったのが、リンチが好きな画家フランシス・ベーコンの絵と『ブルー・ベルベット』のシーンの対比についての町山氏の指摘。本書ではモノクロの写真だったのだけれど、どうしてもカラーで観たくて、下記ネットで探して引用。ベーコンのTwo Figuresとの対比です。映像のボケ方に注目。
FrancisBacon_bluevelvet

 次のヴァーホーヴェンについても同じオランダが生んだ画家ヒエロニムス・ボッシュの絵の影響が指摘されていて面白い。ヴァーホーヴェン、あまり好きではないので、ちゃんと作品観てないのだけれど、オランダ時代の作品が凄そう。『危険な愛』とか。

 最後の『ブレードランナー』についてはさすがにエピソード的にはいろいろなところで語りつくされ、あまり新味のあるネタはでてないように思った。でもポスト・モダン言説とウィリアム・ブレイクとかミルトンとかを引用しながら、デッカードとロイの最後の決闘シーンを描いた描写が素晴らしい。

関連リンク
ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記
当Blog記事 新刊メモ『ブレードランナーの未来世紀』

◆中子真治関係
Blog版香港中国熱烈歓迎唯我独尊 りえ的日常・非日常@香港 : 中子氏来港、香港TOY巡り
 ネットには既に中子氏ご本人のHPは消えています。このリンク先で近況発見!この中子さんの発言、凄く良いです。

「50代以下は、まだまだ子供だね。やりたいことなんていくらでもできる。
やり直しだってできる。俺なんか、これからだってまだまだ大きなこと
やろうと思ってるよ~。」

中子真治氏 下呂のアプライド美術館と中子真治氏の倉庫
 僕が過去に書いた中子真治氏関連記事。

◆リンチ関係
Francis Bacon Image Gallery
Francis Bacon Image Gallery_Two Figures, 1953
 ベーコンはこのモチーフにこだわりがあったみたいで。
あの「ツインピークス」に続編製作の計画浮上! : ABC(アメリカン・バカコメディ)振興会
LynchNet: The David Lynch Resource

First Photos from Inland Empire! The Canal website has a video clip which features some stills from Inland Empire.

◆ギリアム関係
・ギリアムの中断した映画『ドン・キホーテを殺した男』のメイキング『ロスト・イン・ラマンチャ』(公式HP)。このトップページが秀逸。
キース・フルトン, ルイス・ペペ監督『ロスト・イン・ラマンチャ』(知らなかった。Amazonで買えるんだ。)

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コメント

 suzuki-riさん、TBとコメント、ありがとうございます。

 記事で紹介されている前著も面白そうですね。今度、入手して読んでみようと思います。
コッポラ、ルーカス、スピルバーグよりは今回の監督たちの方が好きなのですが、町山氏の手でどのように書かれているか、凄く読みたくなってきました。

 また、よろしくお願いします。

投稿: BP | 2006.01.25 23:00

TBありがとうございました。
こちらの手違いで3つもTBしてしまいました。
申し訳ありません。

本書は読んだ後に紹介されていた絵画や本などを
図書館などで調べたくなる
映画をきっかけに他の世界もひろがるいい本でした。
気が早いですが、90年代のも楽しみです。

投稿: suzuki-ri | 2006.01.25 11:16

 「ミミカキ」とか「ミソシル」とか「ミケネコ」は考えてたのだけれど、「ミジンコ」できましたか。なかなかやるな(^^)。ohnoくん、こんばんは。

>>カゴシマの空はTVの空きチャンネルの色だった(...火山灰だよ)

 おっ、良いですね、このフレーズ。
 思わず「未来世紀カゴシマ」文書に載っているのかと思ってまた見ちゃったじゃないか。

 カゴシマと言えば、我々の友人の「ひがしと書いてあずまと読む」東氏が結婚した時に、一度行きました。桜島のゴツゴツした風景を見ていると、たしかに「未来世紀カゴシマ」のイラストのようなSFの夢が必要になる地ですね。SFによる街お越し。成功すると良いですね。

 ではではまた。
 ミジンコBlogの誕生を心待ちにしています。

投稿: BP | 2006.01.24 22:50

いかにも、ミジンコ職人でございます。
トップページのイカしたイラストと、カゴシマとギリアムのコラボを見ていただきたくて書き込みました。
明るいイラストにも関わらずSF作品となると書き出しは暗めで、こんな感じ。

カゴシマの空はTVの空きチャンネルの色だった(...火山灰だよ)
映像方向に振ってみました。

投稿: ohno | 2006.01.24 20:37

 ohnoさん、こんばんは。
 (たぶんこの文体、僕の知り合いの某ミ○○○職人のohnoくんですよね?違ってたら、ごめんなさい。)

 今、ざっと見てきました「未来世紀カゴシマ」。うーん、PDFだけなのが辛い。しかも38ページと重い。「未来世紀カゴシマ」の皆さんには、是非、要約版をhtmlであげてもらえるようにお願いしたい。これでは目を通すのがたいへん。

 うちのBlog的に面白そうだったのはイギリスのギブステクノロジー社のアクアダという水陸両用車。P19に写真がありますが、なかなかかっこいい。こんなんが海上を走りまわる街になったら、鹿児島、行ってみたいです。

投稿: BP | 2006.01.23 22:57

BPさんこんばんは。
未来世紀という単語つながりだけで以下の現実をご案内。ご存知でしたら失礼しました。

未来世紀カゴシマ
http://www.kagoshimajc.or.jp/miraiseiki-kagoshima/

オリジナルSF作品募集してます。副賞に甘藷一年分です。れっつ、とらい。

投稿: ohno | 2006.01.22 23:46

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映画の見方がわかる本80年代アメリカ映画カルトムービー編 ブレードランナーの未来世紀 を読みはじめた。 著者:町山智浩氏。前著の映画の見方がわかる本を 友人から頂き読んだ時、単なる監督や映画のバックグラウンドを まとめたものとは違った感動を覚えた。 特にスピルバーグの未知との遭遇の話は後半は涙が出た。 今回は80年代にハリウッドでコッポラ、ルーカス、スピルバーグ…等の あとに出て来た映像作家がメインだ。 クローネンバーグ、ダンテ、キャメロン、ギリアム、ストーン、 リンチ、... [続きを読む]

受信: 2006.01.25 11:07

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