■トーマス・ジョンソン監督 『チェルノブイリ 連鎖爆発阻止の闘い』
Thomas Johnson's Battle of Chernobyl
Discovery Channel - Battle of Chernobyl (米国公式HP)
チェルノブイリ 連鎖爆発阻止の闘い (米国公式HP)
1986年4月26日午前1時24分、1000mの高さにもなる虹色の炎がウクライナの空に立ち上った。チェルノブイリ原子力発電所が爆発事故を起こしたのだ。
それから8ヶ月、8000人の若き兵士、炭坑夫、市民がソ連全土から救援に駆けつけた。彼らは広島に投下された原爆の10倍とされる2次爆発を防ぎ、全世界を放射能汚染から守ったのだった。それから20年が経った今、史上最悪の原子力発電所爆発事故を様々な角度から検証する。
04/26(水) 21:00~23:00 04/27(木) 12:00~14:00
05/03(水) 01:00~03:00 09:00~11:00 18:00~20:00
ディスカバリーチャンネルで事故20年を期に放映されたドキュメンタリー番組。隣接したウクライナのプリチャピ市を中心に、20年前の事故当日から「石棺」の封印が完成するまでの約7ヶ月を描いている。ここでいう闘いとは、放射能の封じ込めと、二次爆発の阻止である。
◆1986.4/26
冒頭、1986.4/26 AM1:23に起こった爆発は地上1000mまで届く「オレンジと赤と青の閃光で、まるで虹のようだった」という目撃者のコメントとCGの(ちょっと稚拙な)再現フィルムからスタート。 AM8:00のシーンでは、一番にヘリコプターで取材したノーボスチ通信社のイゴール・コスティン氏の空撮映像がながれる。これは番組によると、20年間極秘とされていた封印された映像らしい。続く、放射性物質の直撃を受けたプリチャピ市の映像では、放射線による画面の白い閃光が確認できて、生々しい。
◆人の作りしものとの闘い
今回の番組で初めて知る当時のソ連政府の現場での対応がものすごくリアル。下記のプロセスが、その場その場で作戦が練られて対策として処置されていく様が描かれる。まさに人類が自ら招いたパンドラの箱を前にして、あわてふためいてそれを封印する様が描かれる。
①ヘリコプターで80kgの砂袋で合計6000tの砂とホウ素を投下してまず灰の拡散を止める。
②地下に貯まった消火の水と核燃料が反応して一瞬にして3~5メガトン級の爆発が起こり欧州全域が壊滅する危険があるため、地下の水を抜く。
③地下トンネルを掘って、爆発した4号炉の地下に30m四方の穴をあけ、最終的には炉が地下へメルトダウンしないようにセメントを流し込む。
④セメントと鉄骨と鉄板で石棺を建造し、4号炉を封印する。その過程で、問題となった建屋屋上の汚染された高放射能を帯びたグラファイトの処理がすさまじい。ロボットで対応していたのが、電子機器がいかれて作業が進まず、最終的には予備役の20代の若者たちが自家製の急ごしらえの簡易装備だけで素手でグラファイトを階下へ投下していく。この兵士たちを「バイオロボット」と呼んだ。なんとも痛ましい。人間を機械的でそう呼ぶ感覚がどう出てきたのかまでは番組は追求していないが、行く方も行かせる方も、そこまで過酷な状況だったのだと思う。
カメラマンのイゴール・コスティン氏はこの光景を「別の惑星のようだった」と表現している。現実感が保てなくなるほど、辛い光景だったのだろうと想像できる。
最終的には、50万人が作業に従事し、この人類未曾有の人災はなんとか封じ込めることが出来た(といっても第二の石棺計画を急ぐ必要が出ているというが、、、)。しかしソ連の政治的にこのタイミングで起きたことが人類としてはまだましな結果になったようにみえてしまった。(もちろん被爆し死亡もしくは後遺症に苦しむ人たちには本当にたいへん気の毒なのだけど、、、。)
ひとつは当時ゴルバチョフが進めていたグラスノスチで情報が西側にも開示され、国際原子力機関の査察が可能だったこと。
そしてもうひとつは、とは言ってもまだ共産主義体制が継続しており、人海戦術をとらざるを得なかったところで、兵士や民間人(特に賞賛すべきはわずか100ドルの賃金で穴を掘らされた採掘労働者)を強制的に政治の力で投入できたこと。これが自由主義の国だったら、これだけの人を投入することはきっと不可能で、事故の被害はもっと拡大していたことだろう。
国際原子力機関でのソ連のレガソフ氏の4万人がガンで死亡する恐れがある、という当初の推定の数字は、当の原子力機関で西側に受け入れられずに4千人の見積りとされたらしい。そして、結果現在までの公式な死者はわずか59人。作業員50万人と避難民13万人の現在までの実態調査はなされていないという。なんということか、愕然としてしまう。
◆日本では
もし日本で起きた時に、誰がその現場へ作業へ向かうのだろう。自らの命を賭けて(ほとんど捨てて)、日本人を救おうとする人々がどの程度いるのか、、、。むずかしい問題だと思う。国家プロジェクトもしくは電力会社がその利益を吐き出してでも、そうした時に遠隔で作業が出来るロボットの開発は、狭い国土でこれだけ原発を擁する日本としては、リスクマネジメントとして急務ではないだろうか。
と言ったことを考えさせる鮮烈な映像の番組でした。これが一部の限られた視聴者に向けてしか放映されないところが、チェルノブイリ問題の「風化」なのでしょうね。僕としては、『ダーウィンの悪夢』より衝撃的でした。映像の持つ力をまざまざとみせつけられた2時間。これから広く再放映されることを望みます。
◆関連リンク
・製作会社 PlayFilm
・イゴール・コスティン Igor Kostin photographer Google Image
Igor Kostin『Chernobyl: Confessions of a Reporter』(Amazon)
Igor Kostin『Tschernobyl. Nahaufnahme. Nahaufnahme』(Amazon)
・23 Random Images from album :: Chernobyl(スライドショー)
・日本チェルノブイリ連帯基金-home-
・チェルノブイリ子ども基金
・京都大学原子炉実験所 原子力安全研究グループ
チェルノブイリ事故データ等
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