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2007.02.21

■黒沢清監督 『LOFT(ロフト)』

Loft_dvd
 映画へ行きそびれていたので、待ち望んでいたDVDをさっそく観た。

 これはなかなかの傑作。僕は前半が特に素晴らしかった。映像の冴えも奇妙な展開も素晴らしい。画面から死がしたたり落ちるようなあのムードはいったいどのようなデティルが積み上がった時に観客の脳内に生成されるのだろうか。全体の暗いトーン、不安定なカメラワーク、不自然な登場人物たちの間、そんなものが渾然一体となってあの独特のイメージが生み出されているのだろう。

 一点、個別に抜き出すとしたら、僕は上の引用シーンにゾクゾクするような映画的な凄みを感じた。青空の切り出し方、カメラのパンの不安定さとそのスピード、女優のブレと湖上の霧の垂直方向への不思議な動き。黒澤清独特の映像の魔力が溢れる素晴らしいシーン。
 前半はリンチの『マルホランド・ドライブ』の凄さに迫っていたと言ったら誉めすぎだろうか。

 後半、謎解きに少し片寄った展開がいまいち。
 たしかに中谷美紀演じる芥川賞受賞作家礼子のラストへの感情の動きが追えない奇妙さは買うけれども、もっと映像中心にイメージをたたみかける方がよかったのではないか。トリッキーなミステリー的な面白さは出たかもしれないが、そこの理路整然さが映画としての膨らみをスポイルしていると感じた。

 それにしても礼子の最後のあの表情をどう捉えればいいのだろう。僕にはまだ解析できない。もう一度、ちゃんと観るべきなのだろう。

◆関連リンク
『LOFT ロフト』黒沢清監督インタビュー | 関西どっとコム

 「これこそホラー映画だ」と思っています。近年、ビデオや電話など、日常的なものから異様なものが出現する恐怖を描いた「ジャパニーズ・ホラー」がはやっていますが、この『ロフト』はそのジャンルを逆手にとったフィクションです。

 「どれだけクリアにすれば良いのか」「“わからせるもの”のほうが、おもしろいのだろうか」といつも考えます。今回は、中谷美紀さんと豊川悦司さんの奇妙なラブ・ストーリーが二転三転して、ある結末を迎えます。ぎくしゃくしながらもその展開が貫かれていれば、あとは蛇足になるようなことはあえて説明しないほうが、観やすいのではないかなと。かなり色んな要素を詰めこんだので、「やりすぎたかなあ」なんて思ったりもしましたが、「デヴィッド・リンチ監督はもっとやっているよな」と考えたり、あと鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』の多彩な世界を浮かべたりして。

殊能将之氏『LOFT』評 (mercysnow official homepage 2006年9月後半Diary まん中あたり)

 (略)「CURE」(1997)や「カリスマ」(1999)に匹敵する傑作だと思う。

 (略)動きだしたら止まらない死の機械、なにもかも突き放したあっけないラストと、黒沢清印満載。しかも、すべての要素が非常にうまくいっている。(略)

◆当Blog記事
 ・黒沢清監督 『LOFT(ロフト)』 予告編
 ・『映像のカリスマ』 ・映画『叫』公式サイト
 ・『アカルイミライ』(2002,UPLINK)
 ・雑誌新刊メモ「文學界_黒沢清とは何者か」
 ・映画情報 黒沢清『死の乙女』
 ・『回路』ハリウッドリメイク "Pulse" 予告篇

DVD『LOFT ロフト デラックス版』

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コメント

はじめまして、ryoddaと申します。
『LOFT』について評価の高いサイトが本当に少ないもので孤独感に苛まれていたのですが、こちらでかなり高く評価してあったのでつい勢いで駄文をトラックバックしてしまいました、失礼。
私は新作の『叫』よりも『LOFT』の方がキレがあっていいと思います(『叫』もそりゃあいいと思いますが)。

リンチとの比較、とても興味深く読ませていただきました。
私も『マルホランド・ドライブ』なんかは大好きです。
『インランド・エンパイア』も楽しみですね。
では。

投稿: ryodda | 2007.03.19 17:45

 あんまりようさん、こんばんは。

 黒沢清選『映画はおそろしい』!こんなDVDが出ていたのですね。知りませんでした。それにしても青土社の本をベースにDVDが出るとは、いい時代になったものですね!

>>笑いと紙一重というかハズしそうでハズしてない感じとか。
観念的抽象的な会話がいきなりはじまるラブシーンとかね

 この持ち味も黒沢清ですよね。

>>話題にあがった「回転」、亡霊出現の場面は中学生のときにTVの
ハリウッド大集合!というFOX映画の紹介番組(ナレーションは小林恭二)で初めて見ました。

 いい体験をされてますね。僕も中学時代くらいに観たかった。
 黒沢清は大学時代にやはりこの番組で観たんでしょうか。

>>そういえばユリイカ臨時増刊・怪談の対談で監督が仰った数少ない御言葉(笑…対談に参加してるのに途中迄全然喋らないんだもん…)、Vシネマで「普通じゃない」霊の動きをしていた作品は未見のままです。結局作品名自体失念していまいました。

 これ、たぶん『学校の怪談』のどれかですね。何本もやられているのでどれだったか僕も良くわかりません(『ユリイカ』をいまパラパラ見てみましたが、発見できず)。

投稿: BP | 2007.03.02 00:24

おはようございます。
LOFT、自分も漸く見ました。不安な不穏な雰囲気空気で終始満たされて
いる、不気味で薄気味悪い時間がじわーと過ぎていく傑作でした。
片方で、笑いと紙一重というかハズしそうでハズしてない感じとか。
観念的抽象的な会話がいきなりはじまるラブシーンとかね…大体安達
祐実が…の役って事自体暴挙というか無謀…。いきなり佇んでいる
亡霊とそれを見て大仰に叫ぶトヨエツ、あの場面が一番ぞっとしたか
なあ…。笑いそうだけど笑えないというか。

話題にあがった「回転」、亡霊出現の場面は中学生のときにTVの
ハリウッド大集合!というFOX映画の紹介番組(ナレーションは小林恭二)で初めて見ました。詳細はネタばれになるので記しませんが、
「ただ佇んでいるだけの、表情も判然としない亡霊」にゾッとした記憶は未だに鮮烈に残ってます。
DVDは、「映画はおそろしい」BOXに収録されてますね。僕は結構前に
VHSソフトを借りて全編見ました。

そういえばユリイカ臨時増刊・怪談の対談で監督が仰った数少ない御言葉(笑…対談に参加してるのに途中迄全然喋らないんだもん…)、Vシ
ネマで「普通じゃない」霊の動きをしていた作品は未見のままです。結局作品名自体失念していまいました。ユリイカ引っ越しのどさくさで何処かいっちゃったし(泣)。
TVスペシャルの「降霊」で少女の亡霊が、風船か吊り上げるかの仕掛けで不安定に立ち上がる場面がそれのリスペクトなのか?と勝手に想像し
てますが。若しくは「回路」で、関節がなくなったような動き方をする
霊とか?

投稿: あんまりよう | 2007.03.01 09:37

 ダグさん、こんばんは。引き続き黒沢コメント、ありがとうございます。

>>黒沢監督、確か「映像のカリスマ」で「芸術なんぞはデビッド・リンチあたりに任せておけば良いのだ」と書かれていたと思います。

 あ、最近「映像のカリスマ」読んだのですが、記憶から欠落してました。一度黒沢監督にはリンチ論をじっくり書いてもらいたいものです。黒沢清って映画論も素晴らしいですよね。

>>しかし「エレファントマン」の撮影監督だったフレディ・フランシス経由で入ってきたであろう「回転」やハマー、アミカスのブリティッシュ・ホラー、リチャード・フライシャーの「十番街の殺人」「絞殺魔」といったサイコスリラーの心象風景はリンチにも黒沢監督にも共通した映画体験だったような気がします。

 黒沢がよく語っている「回転」、僕は未見です。リンチも同一の映画体験がベースにあるのだとしたら、東西の映像ホラーの両雄のルーツ、ぜひとも観てみたいものです。

>>風景が歪んで不気味化する、そうしたことにかけてもっとも先鋭的なアプローチかけているお二人かと。「叫」「インランドエンパイア」が立て続けに迫ってくるのは堪りません。

 「風景が歪んで不気味化する」、まさに的確な表現ですね!
 「叫」「インランドエンパイア」、ますます楽しみになりました。

 また『叫』観られたら、コメントいただければ幸いです。僕は今週末はシュヴァンクマイエル『ルナシー』の予定です。『叫』は翌週かなー。

投稿: BP | 2007.02.27 23:46

黒沢監督、確か「映像のカリスマ」で「芸術なんぞはデビッド・リンチあたりに任せておけば良いのだ」と書かれていたと思います。
しかし「エレファントマン」の撮影監督だったフレディ・フランシス経由で入ってきたであろう「回転」やハマー、アミカスのブリティッシュ・ホラー、リチャード・フライシャーの「十番街の殺人」「絞殺魔」といったサイコスリラーの心象風景はリンチにも黒沢監督にも共通した映画体験だったような気がします。
黒沢監督がこだわっている「死の機械」も、リンチ的な狂った、死んだ機械にそう遠くないところにあるものに思えますね。
風景が歪んで不気味化する、そうしたことにかけてもっとも先鋭的なアプローチかけているお二人かと。「叫」「インランドエンパイア」が立て続けに迫ってくるのは堪りません。

投稿: ダグ | 2007.02.27 00:08

 タグさん、はじめまして。

>>黒沢監督はリンチに否定的なことを以前書かれていましたが、謎を宙摺りにする構成や、光と影の変化だけで異様なものを引き出していく方法論など比べたくなるところ多いですよね。女性を妖しく美しく撮れるという美点も似ているかも。

 「リンチに否定的」だったのですね。これ、知りませんでした。
 おっしゃるとおり、類似点は最近作では特に複数挙げられると思います。

 『マルホランド・ドライブ』の影響は、この『LOFT』にもしっかりとあると思います。北野武が『TAKESHIS'』でもろに「泣き女」を美輪明宏でパロディにしたのも仰天しましたが、、、。

投稿: BP | 2007.02.25 21:53

黒沢監督とリンチの比較、面白いですね。黒沢監督はリンチに否定的なことを以前書かれていましたが、謎を宙摺りにする構成や、光と影の変化だけで異様なものを引き出していく方法論など比べたくなるところ多いですよね。女性を妖しく美しく撮れるという美点も似ているかも。

投稿: ダグ | 2007.02.24 01:29

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