■池谷裕二 『進化しすぎた脳』 感想 3
脳のトップダウン構造と視覚
池谷裕二『進化しすぎた脳』
感想 1 「脳と無限の猿定理」 感想 2 「無意識の脳活動と芸術家の「半眼」」
感想 3は、このBlogと最も関係の深い視覚と脳について。脳内映像を標榜する「究極映像研」としてはたいへん興味深い内容。
◆視覚における脳内のトップダウン構造
①人間の視神経は、眼の中心部は色を認識できるが、外周部はモノクロしか識別できない。(P144)
②正方形の次に縦長の長方形を見せると、脳の「動き」を感じる部位が活動して、正方形が徐々に縦に伸びていったと感じる(右図)。脳が意識とは別の活動として「これは正方形が縦に伸びていった」と勝手に解釈し中間の映像を生成する(右図薄いブルーが生成された映像。まさにアニメの中割りを脳が実行しているわけです。)(P138)
③2004年の『ネイチャー』の論文によると、自然の風景を見ている時と暗闇の中にいる時を比較して、大脳皮質の視覚野の神経活動は10%ほどしか違わない。つまり外からの視覚刺激があろうとなかろうとニューロンはほぼフル活動している。我々は眼の刺激だけで視覚を構成しているわけではない。(P338)
論文 Small modulation of ongoing cortical dynamics by sensory input during natural vision PDF
④視覚野のシナプス活動のうち、視床から入ってくる視覚情報は15%に過ぎない。さらに視床そのものも眼からの情報を中継する部分(外側膝状体)は視床全シナプスの20%。つまり視覚野が処理する外の視覚世界の情報は、わずか15%×20%=3%。我々の観ている画像は、そのわずか3%が外の視覚世界でそれ以外は脳が処理した別の視覚情報(例えば上述②の止まっているものを動いていると知覚する脳内の活動情報等)。(P351)
⑤人間が机を正面から見て、次に右へ90度回って視点を変えたとする。視点による机の見え方が変わるため、ただ外部の視覚情報からだけではそれを机と認識できないはず。脳の中では「これは机なんだ」という内部情報が発生し、外部の視覚情報に対して机という認識を貼り付ける強力な脳内の「トップダウン」による情報処理の機構が働いている。
④の眼から視床を通過して入ってくるわずか3%の外世界の光情報を「ボトムアップ」による生データとすると、それに対して意識のレベルでは「トップダウン」方式によって内なる97%の視覚情報が覆いかぶさって我々の視覚認識がなされる。
眼の解像度が100万画素のデジカメ程度だとして、世界を滑らかに見せているのは、この「トップダウン」の視覚の認識機構によるものである。(P353)
どうです、面白いでしょ、眼から鱗の視覚の驚愕すべきメカニズム。
本の中では、錯視や盲点等の例を紹介して、眼からの情報だけでなく、我々が視認識しているものの正体を一部実感させてくれながら、解きほぐしてくれています。わずか3%が眼からの直接の情報であると考えると、究極映像研的にはいろいろと人間の映像処理の説明が付けやすくなります。
◆視覚のトップダウン構造からアニメと実写映像を解読(序論)
上の視覚のメカニズムを使うと、いろんな映像について面白い解釈ができます。その一例を簡単に述べます。(これはいずれ書いてみたいと思っている僕の「脳内映像論」みたいなものの骨格になるかもしれません、、なんちゃって(^^;;)。以下、もう少しだけ妄想にお付き合いください)。★長文になったので、次の記事にします。(明日アップ予定→アニメーター磯光雄と金田伊功と脳の構造の関係)
◆関連リンク
・池谷裕二のホームページ 東大薬品作用学教室 (公式HP)
池谷裕二は何を研究しているのか、何を目指しているのか
記憶を行列計算でシミュレートしてみよう
このシミュレーションはとてもわかりやすい。複雑な思考もベースはシンプルな反応なのだというのがわかります。
・ほぼ日刊イトイ新聞 - 海馬
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