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2007年3月

2007.03.30

■スタニスワフ・レム, 久山 宏一訳『フィアスコ(大失敗):FIASKO』

スタニスワフ・レム, 久山 宏一訳『フィアスコ(大失敗)』 (公式HP)  

任務に失敗し自らをガラス固化した飛行士は、二十二世紀に蘇生して太陽系外惑星との遭遇任務に再び志願する。不可避の大失敗を予感しつつ新たな出発をする「人間」を神話的に捉えた、レム最後の長篇。

Lem_fiasko

 1986年に出版されたポーランドのSFの巨人スタニスワフ・レム最後の長編小説。
 真正面からのファースト・コンタクトテーマのSF。思弁的であり、そして何故か日本のSFアニメーションを髣髴とされるストーリー。アニメファンに受けるワクワクする物語になってます(ラストはやはりレムですが、、、)。SFとしては、同じファーストコンタクト戦争ものとしても、神林長平の『雪風』の方がSFしてるかもしれない。

 世界の『FIASKO』のカバー絵。皆さんはどれがイメージに合いますか?
 残念ながら巨大ロボットを描いた表紙画家はいなかったようです。国書刊行会には、再販時には是非アニメータかロボットメカデザイナーの採用を希望したい(^^;)。

------------------以下、ネタばれ含みます。ご注意を---------------------------

 木星の衛星タイタンで描かれる巨大二足歩行マシン「ディグレイター」。壮大な木星のパノラマ映像の中で描かれる無骨な巨大ロボット「ディグレイター」の絵がまず素晴らしい。(あとレムの筆致で木星の巨大ロボットアニメを読める喜び(^^;)。)操縦方法はライディーン型というかエクゾスケルトン(外骨格)タイプ。乗り込んだ操縦者とロボットがマスター/スレーブの関係となっている。

 そしてロボットともにタイタンの地から掘り起こされ、22世紀の未来世界で復活する操縦士(固有名詞は不明)。
 人類は初の異星生命体とのコンタクトのため、「エウリディケ号」でブラックホールを利用して、光の速さを超える宇宙の旅へ。そして遭遇する球体戦域惑星クウィンタ。
 人類とクウィンタ星は知的なファーストコンタクトに失敗し戦闘状態に入ってしまう。そして、、、、。
 
 どうです、血沸き肉踊るでしょ。これがレムの小説のあらすじだと思えますか?ほとんどSFアニメ。

 ところどころ人類についてのレムの思弁が語られはするものの、それでもストーリーは真正面からファーストコンタクトSFアニメとしても読めるわけで嬉しくなる。ちまたでは翻訳の文が難渋で読みにくい話と言われているようだが、そんなことはなくて実に読みやすい(と言っておきます)。(確かに翻訳文は、わかりやすい言葉でも、単語が何故か原語のまま綴られて(   )の中に訳語が入っていたり読みにくいところはあるけれど、、、。)

 後半のクウィンタ星人とのコンタクト手法として、レーザーを用いてクウィンタ星の大空一面に映像が描かれるシーンがあるのだけれども、こんな壮大な映像ショー、是非観てみたい。クウィンタ星の知的生物がどうそれを認識したのかは想像するしかない。

 ラストは、レム的な不条理で終わる。しかし中盤の戦闘シーンがあまりに人間的な異星人を想像させており、僕はラストの不条理感とストレートにつながらなかった。もっともその落差、違和感が異質なものの出会いということなのかもしれないが、、、。
 あの擬人化したようにみえた敵 異星生命の思考の描き方は、レムは意図してやったのだろうか。もっとひねりがあっても良かったと思うのは、僕が読み込めていないだけなのかもしれない、、、。エンターテインメントとしても思弁的にも、とても刺激的なSFだけれど、ここがさらに過激だったら素晴らしい傑作になっていたと思う。

◆関連リンク
スタニスワフ・レム (Wikipedia)   
スタニスワフ・レム - 評山の一角:書評wiki

柳下毅一郎氏の 映画評論家緊張日記: 『大失敗』スタニスワフ・レム

 これは究極の宇宙冒険SFであり反宇宙SFである。つまり、究極の反SFなのだ。これが最後の小説になったのも当然のことである。

 実は柳下氏の言う「反SF」というところの意味が正直僕にはよくわからない、、、。たぶん読み込めていないと思うので、誰か僕に解説していただけると幸い。

・殊能将之氏の a day in the life of mercy snow 

 わたしの貧弱な脳みその限界ぎりぎりまで知的興奮をかきたてられるうえ、ほとんどスペースオペラのような通俗性があり、最後は夢の体験に酷似した幻想的・寓話的結末を迎える。「今年の海外SFベスト」と呼んでも、気が早すぎないと思う。

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2007.03.29

■ベルトラン・シュミット監督  『シュヴァンクマイエルのキメラ的世界』
  Chiméry Jana a Evy Švankmajerových

シュヴァンクマイエルのキメラ的世界』(レン・コーポレーション)

 先日『ルナシー』の感想を書いてから、時間が経ってしまったけれど、名古屋シネマテークで同時上映されたこちらのチェコのTVドキュメンタリーも観てきた。

 期待していたのだけれど、あまりラディカルにシュウ゜ァンクマイエル迫っていく作品にはなっていなかった。
 同じドキュメンタリーでも以前観た『プラハからのものがたり』というプラハの街でシュヴァンクマイエルの創作の姿勢について突っ込んで描いていたものに比べると、ものたりなかった。どちらかというと、どこかでみた映画のメイキングもの的(実際『ルナシー』のメイキングなのだが、、、)。

 このドキュメンタリーへの僕の期待は、実はヤン・シュヴァンクマイエルというより、奥さんのエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーだった。エヴァのシュールリアリストとしての創作姿勢を物凄く知りたいと思っていた。
 彼女のメディアム・ドローイングという絵画作品にすごくインパクトを受け、文章を読んでみると、文体が凄くシュールリアリスムで戦闘的。過激さではもしかして、ヤンを上回るような気すらしてくるものだった。

 この映画では残念ながらエヴァはシュヴァンクマイエルの補佐的存在としか描かれていない。映画の中の情報として書き留めるとすると、『オテサーネク』が実は、エヴァが最初自分の作品として映画化しようとしていたものをシュヴァンクマイエルが自作として(勿論承諾を得た上で)制作に入ったというところ。

 一昨年、惜しくも若くしてエヴァさんは亡くなってしまったのだけれど、もし『オテサーネク』が彼女の監督作として撮られていたらと思うと残念でならない。あのメディアム・ドローイングの持つパワーが映画で全開されたと想像すると、身震いしてしまう。改めて、チェコのシュールリアリストに哀悼の意を表したい。そして北海道の画家深井克美にも。

<当Blog記事>
『深井克美―未完のランナー』 : Katsumi Fukai
エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーさん 逝去 
エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー回顧展カタログ 
エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー:Eva Svankmajerova関連図録 
ベルトラン・シュミット監督  『シュヴァンクマイエルのキメラ的世界』
   Chiméry Jana a Evy Švankmajerových

GAUDIA EVAŠVANKMAJERJAN―
 造形と映像の魔術師シュヴァンクマイエル展 幻想の古都プラハから
 

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2007.03.28

■池谷裕二 『進化しすぎた脳』 感想 3 + α
   アニメーター磯光雄と金田伊功と脳の構造の関係

池谷裕二『進化しすぎた脳』 
 感想 1 「脳と無限の猿定理」 感想 2 「無意識の脳活動と芸術家の「半眼」」 
 感想 3 「脳のトップダウン構造と視覚」

 前日の記事 感想3で眼からうろこの視覚論を知ったわけですが、そこからアニメやその他映像について考えてみました。箇条書きですが、まずは覚書ということで、、、。

 これだけではわかりにくいと思いますので感想 3から先に読んでください。

視覚のトップダウン構造からアニメと実写映像を解読(序論)

・アニメの動きは、複数の静止画から、脳内の視覚情報処理メカニズムが動きを生成する幻の映像である。1/24秒のコマごとに眼から入ってくる、視覚野にとってわずか3%の映像が、脳内の複雑な動きの処理メカニズムを駆動し虚構の(しかし脳内では認識される現実そのものとしての)映像体験をもたらす
 つまり残り97%は眼から入った映像ではなく、脳の別の処理メカニズムが生み出した脳内映像である。

Eva_19_eye ・天才と呼ばれるアニメータは、外部に存在する事物の動きのデータとこの脳内の処理メカニズムの両方を直感的に理解して、映像に動きを生み出す存在なのだろう。それは我々が外部世界で観たものの再現の場合もあるが、脳内の処理メカニズムを利用した、どこにもかつて存在しなかった動きの映像なのかもしれない。
(ex.右図 磯光雄EVA第19話作画。この2コマの中間に我々の脳はどんな映像を生成しているのか?( 前日記事の図 薄いブルーの長方形に相当する映像のこと。これを脳の自動中割りメカニズムと呼んでみる(^^;)))

・従来、アニメ理論として外部の事物の観察の重要性が説かれている。しかし本来は、これに加えて、アニメータには映像の光刺激そのものより、それによって脳の自動中割りメカニズムがどう起動するかを観察/分析することが実はもっと重要なのかもしれない。

 錯視のメカニズムをそのわかりやすい例として挙げることはできるが、実は映像を観ることと脳内の動きの感覚を観察することがもっと重要なのだろう。どんな静止画のコマ運びがどんな動きの感覚として感じられるのか。つまりどんな静止画のつながりが、脳の自動中割りメカニズムを起動し、それにより生み出されたクオリアがどんなものなのか。
 優れたアニメータは、脳内映像クオリアの冷徹な観察者なのかもしれない。(だんだん妄想が暴走してます、すみません(^^;))

・絵画は現在アートとしての地位を確立している。それは現実の模写から始まり、抽象画に代表されるように脳内映像としか呼びようのないものを表現しているからに他ならない。静止画の脳内映像クオリアの優れた観察者が画家として優れた芸術家である。

 ではアニメータは?これは上の論述からそのまま、脳内の感覚として動きを視覚処理した結果のクオリアを表現できる/そして新たに創出できるアニメータは優れた芸術家である、と言うことができる。
 (こういう芸術という言葉を使った記述をすると、芸術とサブカルチャーの地位の問題に過敏に刺激を与えることになりますが、「芸術」を作家が脳内に持ったクオリアを他人に伝えることと定義していますので、別に呼び方による階層の議論をしたいわけではありません。ご注意を。)

Zambot_05_garunge ・静止画はじっくりと観ることができるため、意識できる外部の光刺激としての絵画情報に対して、無意識の脳内生成映像が介入する率が低いと思われる。それに対して、動画はその切り替わるスピードから、脳内活動が映像認識に占める割合が高い(もともと動きというのは脳内で生成されているし)。本来、絵画よりも動画の方が脳内映像の芸術としての創造の可能性が高いと言えるかもしれない
(ex.左図 金田伊功ZAMBOT第5話作画。この絵の中間に生成される脳の自動中割りメカニズムが生み出したクオリアは、新たなニューロンの回路を形成し、さらに次の斬新な動きのイメージを脳内に生み出しているのかもしれない。僕の脳の自動中割りニューロン回路の起源は金田伊功によるこの敵キャラ メカブースト ガルンゲの映像だと思う。そしてそれを進化させているのが、磯光雄他のアニメ作画のエッジに位置するアーティスト。)

村上隆氏の金田伊功分析で、狩野山雪『老梅図襖』とか北斎『富獄三十六景』を比較対象として挙げている。西洋美術の3Dに対して日本の2Dという視点で述べている。しかし僕には金田伊功論としてしっくりこない内容に思える。
 そもそも、僕は金田伊功の映像に、2Dというよりも、かなり立体感を感じている。何故、2Dのセルアニメーションで3Dのような空気感が出せているのか、という疑問を持ち続けている。
 この視点からみると、(欧米のCG,SFX等も含めて)20世紀が生んだ芸術:映像の先端を広げているように観える金田のアニメートを、過去の芸術の領域に回収しようとしている論述に感じられてモヤモヤした読後感がわいてくる。(これは村上氏が金田伊功リスペクトを、絵画やオブジェといった過去の芸術形態で作品にしているところからも来ている。新たに20世紀が発明した映像:動きの芸術を、静止しているもので表現しようとしていることがそもそも限界を持っているのでないか。)

 アニメーションを、脳内の動き感覚のクオリアという視点で分析し、立体的な空間と時間の表現:新しい芸術形態として位置づけるような試みを深めることしか、金田らが切り開いている何かの新しさは解析しきれないのではないか。

・コマごとに絵を描くことから、アニメで説明するとわかりやすいため上のような記述をしたが、当然実写映像や特撮映像にもこれらの考え方は当てはまる。映像によって人の心を動かす映画監督(もしくは撮影監督)は、脳内映像の優れた観察家でなくてはならないはず、事物を写し撮るのでなく、そこから生み出される感覚を写し撮るために。

映画評論家滝本誠氏は、画面に映し出されたものだけでなく、自らの中で暴走した脳内映像を含めて評論を書く(と言われている)。まさに上の脳のメカニズムを考えるとこれが本来の評論家の姿なのかもしれない。実は全ての人間は同じ映画を、同じ映像認識で観ているわけではないのである。暴走する脳内映像処理メカニズムを持った映像評論家は、それ自体、芸術家であるのかもしれない

・TVとフィルムで映画を観ることの違い、スタンダードTVとハイビジョンの解像度の違いをオーディオビジュアル評論家は論ずる。しかし実は脳内で補正されることで、映像の視覚野における質は、それほど違わないのかもしれない、特に映画を観ることに慣れた(脳内の動画映像を処理する回路が優れて育成されている)観客には。オーディオビジュアルマニアの細部にこだわる感覚と映画ファンのそれほどのこだわりのなさは、こんなところから説明できる。

・さらに、実は3%以外の残り97%は眼とは別の視覚を視覚野にもたらしている。脳内で作り出された宗教的体験(神)や幽霊や宇宙人といった幻の存在を観たり感じたりするのも、この脳のトップダウン機構が影響していそうである。
 小説や映画の描く空想を現実に近いものとして感じる感情移入の体験や、ヴァーチャルリアリティの持つリアル感がどこから来るのかということの説明としてもこのトップダウン機構は有効。

 さて、うだうだとした妄想に最後まで付き合っていただけて、ありがとうございます。
 最後は、またまた飛躍しておかしなことを書いていますが、さらにちょっとだけ続けてしまいます。

・『電脳コイル』は、電脳メガネによりヴァーチャルな映像が町に溢れる世界を描いている。案外と上のように考えてくると、実は人の脳が世界を観ている構造はこのアニメの描く世界に近いのかもしれない。つまり電脳メガネが強化現実として映像を付加している『電脳コイル』の世界は、すでに現在の人間の脳がやっているとを電脳メガネというガジェットでわかりやすく表現しているだけかもしれない。

 といった認識論的な視点でも僕はSF『電脳コイル』に期待してたりします。

 ではでは、今度こそ、ここで終了!!

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2007.03.27

■池谷裕二 『進化しすぎた脳』 感想 3
   脳のトップダウン構造と視覚

池谷裕二『進化しすぎた脳』 
 感想 1 「脳と無限の猿定理」 感想 2 「無意識の脳活動と芸術家の「半眼」」

 感想 3は、このBlogと最も関係の深い視覚と脳について。脳内映像を標榜する「究極映像研」としてはたいへん興味深い内容。

◆視覚における脳内のトップダウン構造

①人間の視神経は、眼の中心部は色を認識できるが、外周部はモノクロしか識別できない。(P144)

Shinnka_nou ②正方形の次に縦長の長方形を見せると、脳の「動き」を感じる部位が活動して、正方形が徐々に縦に伸びていったと感じる(右図)。脳が意識とは別の活動として「これは正方形が縦に伸びていった」と勝手に解釈し中間の映像を生成する(右図薄いブルーが生成された映像。まさにアニメの中割りを脳が実行しているわけです。)(P138)

③2004年の『ネイチャー』の論文によると、自然の風景を見ている時と暗闇の中にいる時を比較して、大脳皮質の視覚野の神経活動は10%ほどしか違わない。つまり外からの視覚刺激があろうとなかろうとニューロンはほぼフル活動している。我々は眼の刺激だけで視覚を構成しているわけではない。(P338)
 論文 Small modulation of ongoing cortical dynamics by sensory input during natural vision PDF

④視覚野のシナプス活動のうち、視床から入ってくる視覚情報は15%に過ぎない。さらに視床そのものも眼からの情報を中継する部分(外側膝状体)は視床全シナプスの20%。つまり視覚野が処理する外の視覚世界の情報は、わずか15%×20%=3%。我々の観ている画像は、そのわずか3%が外の視覚世界でそれ以外は脳が処理した別の視覚情報(例えば上述②の止まっているものを動いていると知覚する脳内の活動情報等)。(P351)

⑤人間が机を正面から見て、次に右へ90度回って視点を変えたとする。視点による机の見え方が変わるため、ただ外部の視覚情報からだけではそれを机と認識できないはず。脳の中では「これは机なんだ」という内部情報が発生し、外部の視覚情報に対して机という認識を貼り付ける強力な脳内の「トップダウン」による情報処理の機構が働いている。
 ④の眼から視床を通過して入ってくるわずか3%の外世界の光情報を「ボトムアップ」による生データとすると、それに対して意識のレベルでは「トップダウン」方式によって内なる97%の視覚情報が覆いかぶさって我々の視覚認識がなされる
 眼の解像度が100万画素のデジカメ程度だとして、世界を滑らかに見せているのは、この「トップダウン」の視覚の認識機構によるものである。(P353)

 どうです、面白いでしょ、眼から鱗の視覚の驚愕すべきメカニズム。
 本の中では、錯視や盲点等の例を紹介して、眼からの情報だけでなく、我々が視認識しているものの正体を一部実感させてくれながら、解きほぐしてくれています。わずか3%が眼からの直接の情報であると考えると、究極映像研的にはいろいろと人間の映像処理の説明が付けやすくなります。

視覚のトップダウン構造からアニメと実写映像を解読(序論)

 上の視覚のメカニズムを使うと、いろんな映像について面白い解釈ができます。その一例を簡単に述べます。(これはいずれ書いてみたいと思っている僕の「脳内映像論」みたいなものの骨格になるかもしれません、、なんちゃって(^^;;)。以下、もう少しだけ妄想にお付き合いください)。★長文になったので、次の記事にします。(明日アップ予定→アニメーター磯光雄と金田伊功と脳の構造の関係)

続きを読む "■池谷裕二 『進化しすぎた脳』 感想 3
   脳のトップダウン構造と視覚"

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2007.03.26

■磯光雄監督 『電脳コイル:COIL A CIRCLE OF CHILDREN』
  TAF2007 プロモーション映像

磯光雄監督 『電脳コイル』 Coil_poster公式HP プロモーション映像
TAF2007プロモーション映像
オープニング(Youtube)
 (07.4/14追記 削除されたみたいです。O.P.映像は残されています)

ひねもすのたりの日々: TAF2007(東京国際アニメフェア)

これはすごい(・・;。
派手な色彩もアクションもないのに観客を引き込む演出が素晴らしいです。
躍動感溢れるキャラクターの動きだけでなく、細かな仕草もしっかり描かれて
アニメーション本来の”動く”魅力がいっぱい。かわいいキャラクターも登場するし、子供受けも最高でしょう。

 shamonさんの紹介された記事を読んでいて、どうしてもプロモ映像が観たくなって探したら、さすが10億ドルの訴訟を起こされるYouTube、しっかり既に映像がアップされています。
 こうなることは初めからわかっているので、NHKや徳間もプロモをいち早く公式HPでアップすれば良かったのに。

 アニメータ磯光雄氏はその超絶アクションでならした凄腕ですが、演出家磯光雄氏は『ラーゼフォン』15話で渋い落ち着いた芝居をみせていたので、初監督作がどうなるか注目の的だったのですが、どうやらその両側面の融合+「子供受けも最高」路線。

 オープニングと予告篇を収録した5分30秒のプロモ映像には、しっかりと丁寧な芝居とアクションが息づいてる。電脳メガネというガジェットを導入したことで、普通の町に不思議な空間が露出してくるイメージがワクワクさせてくれます!

◆関連リンク
NHKアニメワールド:電脳コイル(公式HP)  5/12(土)18:30- 全26話
 26話という発表がありました。
【TAF2007】プロモ映像初公開 『電脳コイル』(アニメイトTV Web)
【電脳コイル】(徳間公式HP)

東京国際アニメフェア2007 出展情報プロモーション映像 初公開!
来る3月22日(木)より開催される「東京国際アニメフェア2007」において、『電脳コイル』は徳間書店ブースで、プロモーション映像の上映&特別展示会を行います。
オープニング「プリズム」/エンディング「空の欠片(かけら)」
作詞・作曲・歌 池田綾子  編曲 TATOO

・主題歌を担当された音楽製作者北村岳士氏のBlog 「暇」を生きる: 電脳コイル 

 作品のイメージや描きたい世界の映像感を「言葉」で狭めないで伝えてくれようとする姿勢は常々「言葉」の持つ伝達能力の限界を感じていた私は非常に共感を持ちました。「そう!クリエイターかくあるべき!」
 綾子嬢もそういうタイプなので二人のイメージリンクはとてもうまくいったのだと思います。
 出来上がった作品は・・

 オープニング曲:「プリズム」
 エンディング曲:「空の欠片」

 「プリズム」は磯監督のイメージと映像感と・・場所感??例えば「空き地」や「路地」などの場所が持つ感覚・・感情を描きたいという試みを受け書き上げた歌で、誰もが持つ「孤独」をテーマにした楽曲です。綾子嬢が最近身につけた歌唱法で感情表現をトライしています。

<当Blog記事>
アニメータ磯光雄 と 監督作『電脳コイル』 
NHK07年春放映の『電脳コイル』 スタッフ公開! 
磯光雄監督 NHK教育『電脳コイル』 COIL A CIRCLE OF CHILDREN

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2007.03.25

■古川日出男公式サイト と 朗読ギグ

Furukawa 古川日出男公式サイト フルカワヒデオ日記
 (どちらも集英社サイト)

 取材のために南房総へ。充実した時間を過ごす。ここから二日間ほど、合計して四つの作品のアイディアが同時多発的に爆発。いったいおれの脳味噌どうなっちゃってるんだ状態になる。だが、いざ新作中編にとりかかると、地獄のはじまり。ネタが浮かぶことと小説が“書ける”ことはまったく違う、という当たり前の認識に蒼白となる。凄絶な恐怖。正直、白髪がどんどん増えるのがわかる。ひたすら新しい文体に嬲られ、それでも喰らい付きつづける……しゃにむに、死に物狂いで。

「古川日出男×向井秀徳 in KYOTO」information
(mixiに足跡を残されたKIASMA:キアズマさんの ライブイベント紹介ページより)

「古川日出男×向井秀徳 in KYOTO」
2007年5月5日 (土・祝) 17時開場/18時開演
@ 京都METRO

  最新作『サマーバケーションEP』が刊行された古川日出男の公式サイトが07年2月にできていたようです。知りませんでした。日記がなかなか注目、マジカルな文体で作家の日常がつづられています。古川日出男創作の秘密に迫れるかも??(しかし「ヒデオ日記」は「ビデオ日記」との誤読を狙っているのでしょうか。それともベストセラーひでお日記をパロった?)

 あと朗読ギグのイベントも面白そうです。渋谷でも5月3日に開催されるとのことです。
 昨年、NHK週刊ブックレビューで初めて朗読する古川日出男を観たのだけれど、あのまるで小説の文体をさらに拡張したようなテンポが舞台に炸裂するのでしょうか。京都、観たい。

◆関連リンク
   
古川 日出男「ゴッドスター」掲載 (雑誌『新潮』 2007年 04月号) 
         『サマーバケーションEP』

・当Blog記事
『爆笑問題のススメ』 古川日出男の巻 『ロックンロール七部作』 『ボディ・アンド・ソウル』 『ベルカ吠えないのか』  『LOVE』 NHK週刊ブックレビュー 特集 古川日出男『LOVE』を語る

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2007.03.24

■『NOEIN:ノエイン』サテライト製カット袋入り複製原画 by たのみこむ

Noein たのみこむ「NOEIN」
 (カトゆー家断絶経由)
東京国際アニメフェア2007参戦!(「たのみこむ」)

 「この“情熱”を…人の手による原画の凄さを!ライヴ感を伝えるには…」
 製作現場で一枚一枚魂を込めて描かれた原画を最新の印刷技術によって可能な限り再現した複製原画で実物と並べると、どちらが本物か分からなくなりそうな精度はエイリアス(分身)と呼ぶに相応しいアイテムです。

・キャラクターデザインの岸田隆宏氏による「イメージボード」
・OPの名シーンを1/10スケールにしたパラパラ動画
・赤間たつひろ氏制作によるペーパークラフト「ペパット アトリ」
・アニメーター必須!?原画が入るお蔵出しイラストを使用したA3サイズクリアファイル
・赤根監督によるメッセージ「NOEINの原画を見ることが楽しかった日々…。」

等、盛りだくさんの30点以上がアニメ製作現場で使用される「サテライト製カット袋」に入ります。
※当商品は、TAF東京国際アニメフェア「サテライト」ブース(B-8)にて3/24・25のパブリックデーに先行販売を行います!

 以前記事にしたアニメータりょうちも氏も参加した『ノエイン』の原画集。なんともマニアックな形態で、こんなものが発売されるそうです。サテライト製カット袋入りという作画オタクの心をくすぐるアイテム。(と言いつつ、上のサイトではアニメータの名前が出ていないのが残念。って言うか、こんなものを買いたい人は、この絵を観ただけで誰かすぐわかるから必要ないのか??ちなみに私は実は偉そうなタイトルのBlogをやってますが、わかりません(^^;;)推測は下記)

 OPのパラパラ動画とかあるので、原画としては作画監督も務めたりょうちも氏の師匠 松本憲生氏の原画かもしれない。誰か詳しい方、もしくはTAF2007で現物を見た方、コメントをお待ちします。

◆関連リンク
赤根監督に訊く「メイキング・オブ・『ノエイン』」第3回 張り切り原画マンとキャスティング (WEBアニメスタイル_特別企画)
作画@wiki - りょーちも
作画@wiki - 松本憲生 松本憲生作画MAD vol.3
株式会社サテライト:作品紹介 ノエイン もうひとりの君へ
ノエイン もうひとりの君へ|公式サイト トップページ
「たのみこむ」の検索(「原画」で検索すると88件のリクエスト) 
  宮崎駿 参加作品「赤胴鈴之助」DVD化とか面白そう
「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 原画集」発売決定!

<当Blog記事> 
アニメータ りょうちも氏 の映像 (ノエインより) 

『ノエイン もうひとりの君へ DVD 第7巻』
 このDVDに上記映像が特典で入っているらしい。
『ノエイン』 りょうちも氏、本のイラストも描かれている

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2007.03.21

■インディアンのカチナ と ツリーハウス
  KACHINA & TREE HOUSE

『インディアンの贈り物―ネイティブ・アメリカンのクラフト図鑑』

 最近書店に並んでいるムック。この本に載っているカチナ:KACHINAという人形がなかなかいい感じなので調べてみました。

カチナの話(カチナドールの専門店KOKOPELLI)

カチナ(kachina/katsina)はホピ族が信仰する精霊、精神のこと。それを形にしたものがカチナドールです。元々カチナドールは儀式の際子供達に与えられ、カチナの意味、目的、起源、歌、踊り、力、飾り、デザインを教えるための教材のように使われました。

 この専門店のHPにも、いくつか写真が掲載されています。
 で、グーグルイメージ検索してみました→KACHINA

Kachina
 こういう民俗学的な人形って、独特の世界観があって、どこの国のもいいですね。この本には、もっと水木しげるが喜びそうな妖怪的なものもいろいろと載ってます。
 こういうの、収集したくなりますね。

ピーター ネルソン『ツリーハウスをつくる』

 カチナから鬼太郎を連想して、彼の家を思い出したというわけではないのですが、最近、CM(ネスカフェ ゴールドブレンド「オンリーワン」篇)に出てくるツリーハウスが気にいって、ちょっとだけリンク集。
 ツリーハウスにカチナやその他、世界の不思議な形の人形を飾ったら楽しいでしょうね。退職後にコツコツ作ってみましょうか。と遠い眼(現在、仕事たいへんモードが続いており、つい夢想)。

THP | Japan Tree House Network: TOP 
TreeHouse(グーグルイメージ検索)
Treehouse_boat_1Scallywag Sloop
 まるでギリアムの世界ですね。
 素晴らしい。

Most Peculiar Tree House
 宙吊りの目玉おやじですじゃ。

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2007.03.20

■ジブリ 宮崎駿監督新作『崖の上のポニョ』

 shamonさんのひねもすのたりの日々で知りました。
 ジブリ新作は宮崎駿監督「崖の上のポニョ」とのこと。ネットにもまだあまり情報はないですが、検索に引っかかったのは2件。

Ponyo_1中国新聞 時事ドットコム

 「崖の上の-」は宮崎監督のオリジナル作品で、人間になりたいと願う金魚姫ポニョと5歳の男の子宗介の物語。宮崎監督が瀬戸内海の町に滞在して構想を練り、昨年10月から自ら作画に取り組んでいるという。

 スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーは「アニメーションの原点に戻ろうと、これまでの宮崎作品と違って緻密(ちみつ)ではなく、子供が描いたようなタッチの絵に挑戦している」と話している。

 なにやら金魚の毛が生えた頭がチラと見えます。セル画というか、クレヨンみたいで、新しいアニメのタッチを試すのかもしれないですね。

 5歳という対象は、もしかしたら宮崎監督の孫の世代かも。かつて息子のために『パンダコパンダ』を作ったように宮崎じいちゃんから孫への贈り物なのかも。

 大人の痛快アクションマンガ映画を観たい私たちは今度も置いてけぼりなのか、、、宮崎監督なので、なんらか社会的なアプローチはきっとあるのでしょうね。

 脳のこんがらがりそうな話の合間には、こういう息の抜ける記事がいいかと思い、掲載しました。瀬戸内海の町ってどこなんだろう。瀬戸内海だと地中美術館のある直島をつい思い出すけれど、来週の「プロフェッショナル仕事の流儀」でどこかわかりそう。

 作業の中心は、「イメージボード」と呼ばれる絵を描くこと。鍵となるシーンやキャラクター設定などを描く、映画作りの根幹ともいえる作業だ。こうした、映画の「核」を生み出す創造の現場に、カメラが立ち入るのは初めてのことである。
 老境に達した宮崎監督が自らの限界と向き合い、もがきながら、映画と真正面から向き合う姿。不安にさいなまれながら、自身が「映画の本質」と語った1枚を描き上げる場面。

 NHKの紹介文によると、なかなか面白そうです。

◆関連リンク 当Blog記事
BS アニメ夜話 『カリオストロの城』
BS アニメ夜話 第4弾 『未来少年コナン』
叶精二『宮崎駿全書』 と 宮崎駿『もののけ姫』について
アーシュラ・K・ル=グウィン公式コメント ジブリ映画化『ゲド戦記』
ON YOUR MARK

宮崎駿 初期原画<3>『ルパン3世』「ルパンを捕まえてヨーロッパへ行こう」
宮崎駿 初期原画<2>『ルパン3世』「黄金の大勝負」第14話「エメラルドの秘密」
宮崎駿 初期原画<1>『侍ジャイアンツ』第一話

「スーパーマン」vs照樹務「泥棒は平和を愛す」 
「宮崎駿新作短編」 『やどさがし』、『水グモもんもん』、『星をかった日』 

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2007.03.19

■池谷裕二 『進化しすぎた脳』 感想 2
   無意識の脳活動と芸術家の「半眼」

 感想2は、こんなタイトルにしてみた。「半眼」は浦沢直樹氏の話につながるはずなのだけど、どうなることか。(自分でも書いてみないとうまくつながるか自信ない(^^;))

 まずは『進化しすぎた脳』から面白かった部分をポイントで紹介。

◆無意識の活動と意識

・病気(水頭症)で通常の脳体積の10%しかない人でも、大学の数学科の首席をとり通常以上の思考活動ができる例がある。病気にかかったとは知らずに検査で初めて気づいた。「進化しすぎた脳」はその一部だけでも充分な仕事を果たす(P84)

・ボールが投げられてからキャッチャーがうけるまで0.5秒。人間はものを見て判断するまでに0.5秒かかる。野球選手は視床から視覚野に入った映像を意識して行動をおこすのではなく、「上丘」で原初的だけど素早い視覚処理をして意識することなくダイレクトに行動してボールを打っている。意識はあとでついてくる。(P138)

・ボタンを押すという行動と脳波の関係を調べると、「動かそう」という意識が現われる1秒前に、すでに「運動前野」という運動をプログラムするところは動き出している。「動かそう」としたのは無意識の脳活動が先で、それを後追いで意識が確認している。
 「動かそう」と脳が準備してから「「動かそう」と自分では思っている」クオリアが生成されている。自由意志というのは実は無意識の脳活動の奴隷(の場合がある)。(P171)

 一番眼からウロコだったのは、意識より前に脳は行動を開始しているという部分。それを並行で意識が確認していく。そして生成されたクオリアが本末転倒な認識を形作る、というところ。これって、ものすごーく深い内容のような気がする。

 意識というものの正体が、こうした実験からある程度あぶりだされてくるのではないか、という予感に溢れている。ただ著者の池谷裕二氏はこれ以上の推測を学生たちに突っ込んで語ることはない。(別の箇所では「意識とか心というのは多くの場合、言葉によって生まれている。意識や心は言語が作り上げた幽霊、つまり抽象だ」「意識とか心は<汎化>の手助けをしている」「人に心がある<目的>は汎化するためなんだろうね」(P196))

Urasawa◆半眼のメカニズム

 さてここで、先週のNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」(創造性を生む「半眼」の境地)インタビューイ浦沢直樹氏に登場いただこう。

 クオリティーの高い作品を絶え間なく生み出し続けている漫画家の浦沢直樹さんは、アイデアを生み出す時や非常に大切な1本の線を描く時に、座禅で言う「半眼」の状態に自分を置くと言う。

 ここで面白かったのが漫画を描く時の「半眼」。一本の線を引く時に、意識が介在するよりも少しぼんやりとした「半眼」の状態の方がイメージに合ったいい線が引ける、という話。

 これと上記の意識より前に脳は行動を開始しているという部分をあわせて読むと、「半眼」の正体が見えてくる。ここまで書いたら言わずもがなだけれど、豊かな描線を無意識の脳活動が描こうとしていて、それを邪魔してしまうのが、この時、後追いで生成された「描こう」と自分では思っている」クオリアとそれにより無意識の活動に介入する意識なのだろう。

 それを意識をぼんやりさせて「半眼」で動き出した脳活動にまかせる、というのが、池谷的に表現した浦沢の描線の豊かさの秘密なのかもしれない。

 僕はイラストをちょこっと描いた経験しかないけれど、最初の鉛筆でささっと描いたネームの方が自分ではうまくみえる(脳内のイメージに近い)というのは、なんとなくこの脳活動と意識のメカニズムを想起するとよくわかる。

 天才というのは、積み上げた経験訓練が無意識の能力として高いレベルにある人のことをいうのだろう。剣豪の「半眼」というのは聞いたことがある話だけれど、まさに努力によって作り上げた脳内の回路による活動と、それを阻害しないで「半眼」の意識でうまくコントロールする状態を作り出すことが漫画家や剣豪の優秀さと直結しているのだろう。

◆蛇足 そして無意識の脳活動を恐れる人々

 例えば、P・K・ディックが小説やエッセイで描く「自分が何者かに操作されているのではないか」という強迫観念は、上で記述した意識が持つ無意識の行動への恐れみたいなものと考えると理解できるような気がする。
 実は自分がコントロールしているのではなく、脳内の無意識な情報処理、行動指示が自分の体を操作している場合があるということを過度に意識してしまったらどうなるか。クオリアという意識を騙す伏兵のようなものがいくら頑張っても、一度疑いの気持ちを持ってしまったら、自分の脳の活動と意識が乖離してひどいことになりそうだ。
 本来、全部が自分の脳活動だと、しっくり理解/体感すればいいことなのにネ、、、。

 という蛇足はここまでにして、次回は『進化しすぎた脳』から視覚の秘密をご紹介の予定。やっと究極映像研らしいネタに回帰できて、めでたしめでたしとなりますか??

◆関連リンク
Neuron池谷裕二のホームページ 東大薬品作用学教室 (公式HP)
 池谷裕二は何を研究しているのか、何を目指しているのか

 ここから神経細胞の発火パターンの映像 →

 池谷氏が開発した世界最高のリアルタイムニューロン観測。手法としては多ニューロンカルシウム画像法というものだそうです。同時に1000個の神経細胞の発火現象をとらえることが可能とか。チカチカしているのがリンク先で確認できます。

・当Blog記事
 『進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線』 感想・1

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2007.03.18

■池谷裕二 『進化しすぎた脳
   中高生と語る「大脳生理学」の最前線』 感想・1

 池谷裕二『進化しすぎた脳』
 知らない著者の本に書店で出会い、吸い寄せられるように購入、結果、傑作!というのは本好きにとっては至福なのだけど、この本はそんな本の一冊になった。

 タイトルどおり、脳科学者の著者が中高生と語りながら、人間の脳認知の最先端状況を説き起こす本。書かれた本ではなく、語られた本なので平易。今、届いた学会誌にこんな記事がとか、まさに現在進行形の話が、ホットに語られる。あとがきで著者が述べているようにグルーヴ感に溢れた熱い一冊。(2年前に出た単行本からブルーバックスで再刊された本だけど、最後一章に自身の東大の研究室の学生と最新の情報を交えた最新分が追加されている)

 以下、刺激的な部分から僕が思ったことをご紹介。

人の脳は「無限の猿定理」の5億乗

Monkey_typing  無限の猿定理とは「無限の数の猿がタイプライターを叩き続けば、いつかはフランス国立図書館に収蔵されている書物の全てを書きあげることができる」ことを意味する定理」である。この本にこうした話が出てくるわけではないけれど、読後、僕がまず思い出したのはこの無限の猿定理。ちょっと長くなるけれど、どういうことかというと以下。

 『進化しすぎた脳』によると、脳のニューロン:神経細胞の数は1000億、そこから出たシナプスがそれぞれ1万。1000億×1万=1000兆のシナプスが神経伝達物質による神経細胞のスパイクを1000分の1秒ごとに行っているのが我々の脳の活動ということになる(P231)(大脳皮質だけ140億×1万=140兆のシナプス)。

 そして脳がものを考える時間ステップは、だいたい0.1秒、100ステップのシナプスの活動で言葉を認識したり思考したりを繰り返している(「脳の100ステップ問題」P272)。たとえば大脳皮質だけで考えると、140兆の100乗の組み合わせにより思考を生み出している。
 140兆の100乗!!これはexcelでは既に扱えない(扱える最大値はわずか9.9E307≒140兆の21乗)。この神経細胞の膨大数の組み合わせ活動が思考の源と考えると、脳科学は、「再現性があり追試が可能であることを基本とする」科学の範疇をはみ出すのではないか、という疑問も提示されている(P372)(この部分だけでも凄く刺激的)。

 で、ここからこの膨大数を理解するために僕が思い出したのが「無限の猿定理」。 わかりやすくここではシェイクスピアの本で仮定する。
 シェークスピアの本が200(文字/ページ)×300(ページ)=6万文字で構成されているとすると、猿が英文タイプライターを叩いて時にシェークスピアの作品を書き上げる確率はアルファベット26文字の6万乗。これは26の6万乗匹の猿が全員6万文字タイプすると、その中の一匹が『ハムレット』を書き上げる計算になる。
 この時タイプされた全情報量は、26文字≒2^5とすると、
 26^60000匹*60000文字*2^5≒(2^5)^60000*2^16*2^5≒2^300021≒2^30万。

 140兆の神経細胞の発火のありなしの組み合わせは2^140兆。2^140兆≒(2^30万)^5億。我々の大脳皮質が瞬時瞬時に持っている情報は、「無限の猿定理」の5億乗ということになる。もちろんこれは強引な比較だけれど、膨大数を直感的に理解するためということで、お許しを。

 つまり我々一人一人の脳の中には、大脳皮質だけでも「無限の猿定理」の5億乗の情報が存在できることになる。これは物凄い数だと理解できる。我々は26の6万乗匹の猿に任せなくても、つねに『ハムレット』5億冊を生み出せる可能性をもっているのだ。(アッテルカナ?)

 脳が意識を持つことの不思議も、この膨大な数字の積み重ねの結果なんですね。(アレ、この膨大数の話だけでこんな長文に。この本の紹介はもっといろいろ書きたいので、次回に続けます。押井対談会のレポートもあるのに、、、。)

◆関連リンク
池谷裕二のホームページ 東大薬品作用学教室 (公式HP)
 池谷裕二は何を研究しているのか、何を目指しているのか

・当Blog記事
 『進化しすぎた脳』 感想 2  無意識の脳活動と芸術家の「半眼」

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2007.03.15

■新刊メモ 『攻殻機動隊SACアルティメットアーカイブ』
  『BIRTH:バース スペシャルボックス』

ロマンアルバム『攻殻SAC』発売(野良犬の塒)

 実は私、都々目さとしがこちらの本の制作のお手伝いをさせていただいております。現在編集作業の大詰め段階です。私の担当部分では、以前HPや同人誌などに掲載した文章を加筆訂正して、一部流用させていただきました。(略) 神山監督のインタヴューについては、がっつりやっていただけたと思います。

 ロマンアルバム『攻殻機動隊SACアルティメットアーカイブ』

DVDセールス累計150万本を突破するという記録的大ヒットとなった「攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX」シリーズ。今回、なんと全てのシリーズを総括したコンプリートブックが登場!!
【内容】
◇後藤隆幸による描きおろしカバー ◇攻殻機動隊SACの世界観
◇設定資料集 ◇メインキャラクター紹介
◇公安9課紹介 ◇各話紹介 ◇版権イラスト紹介
◇神山監督1問1答 ◇神山監督インタビュー

 野良犬の塒の都々目さとし氏が参加された『攻殻機動隊SAC』の本が3/31に出版されるとのこと。
 都々目氏による文章が楽しみです。氏が発行されているファンジン『犬からの手紙』では押井守をはじめ、神山監督のインタビュー等、他で読めないほど、濃い話が詰まっており、今回のロマンアルバムでの記事、とても楽しみ。(実物を見る前からこれは(^^))お薦め。

金田伊功監督DVD『BIRTH:バース スペシャルボックス』(公式HP)

「1/10ユピテル・ラサ」PVCフィギュアの限定カラー版に、DVDをセットした完全受注生産のコレクターアイテムが登場。フィギュアにはバイクが付属し、劇中でのアクションシーンを再現、更にベースはアニメーター金田氏の特徴ともいえるパース的表現を表した仕様になっている。

 なんともマニアックな商品です。
 『バース』と言えば、野放図に金田アニメートが炸裂しすぎて、不発の感がいなめない金田ファンとしては忸怩たるものがある一品。この主人公のフィギュアは、「金田的パース表現」になっているとあるが、写真で見る限り、太目すぎて金田キャラの再現というにはあまりな感じ。顔のアップ(このページ中段をクリック)も全く似てないし。
 僕も金田伊功ファンだけど、これはちと、、、。

 出たという事実だけが素晴らしいスペシャルDVD。ということにしておきましょう。

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2007.03.11

■対談会 押井守צ松岡正剛
 「21世紀のISIS:イシス ~想像力と映像~」 レポート.0

Oshii_tenji  押井守と松岡正剛の対談のレポート。
 速射砲のように映像哲学を語り続ける押井守に、冒頭1/5、松岡氏もなかなか口を開けずって展開。押井氏が語りだすと凄いというのはよく聞く話ではあったのですが、目の当たりにしたのは初めてで結構インパクトありました。しかも相手が博覧強記の松岡正剛なのに。

 文字で読んでも難解な話を耳で聞いて理解しなくてはいけない観客も脳力全開。要するに人間にとっての現実が全て仮想でしかない、という一点が了解されていれば、それほど難しい話ではないのだけれど、そこの認識が異なっていると難解極まりないかも。

 私は1時間45分に及んだほぼ全体を、ペンでメモをとり指がヘロヘロ。 B7サイズの小さい手帳で30ページ分。我ながらアホですが、メモ魔な性格は直せない(^^;)。

 まずは全体の概要を御紹介し、それぞれ詳細は一個づつ、記事にしていきます。まどろっこしいけれど、中味が濃かったので分けますのでお付き合いいただければ幸い。概要は以下。各記事をアップした段階でリンクを貼ります。
 押井守の本のどこかで読んだ内容もかなりあります。僕は

① 松岡正剛と押井守の関係
② 『イノセンス』に偏在するイシスと莫大な情報量
③ 人形とロボットと仮想 21世紀の回帰
④ アニメーションの欲望と映画産業
⑤ アニメーションと日本人の感覚
⑥ 犬と神 アリスター・ハーディ『神の生物学』
番外 展示会「水木&押井ワールド~それぞれの世界~」

◆関連リンク 当Blog記事
水木&押井ワールド~それぞれの世界~
会場状況と整理券 対談会 押井守צ松岡正剛
 「21世紀のISIS:イシス ~想像力と映像~」
  織部賞が生んだ「縁」と「演」~水木しげる・押井守~

予習 対談会 押井守צ松岡正剛「21世紀のISIS:イシス ~想像力と映像~」

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2007.03.09

■予習   対談会 押井守צ松岡正剛
  「21世紀のISIS:イシス ~想像力と映像~」

「21世紀のISIS:イシス ~想像力と映像~」(公式HP) (Production I.G告知)

2007年3月10日(土)に『織部賞が生んだ「縁」と「演」~ 水木しげる・押井守 ~』と題して、押井守氏と松岡正剛氏の対談会や『イノセンス』の上映会、展示会が行われます。

 というわけで、開催が明日に迫りました。
 対談をより楽しむために、一夜漬け(^^;)の予習です。松岡正剛氏と押井守氏のつながりということで若干ネットで調べたことを以下引用。

松岡正剛氏の『イノセンス』評
千夜千冊『未来のイヴ』ヴィリエ・ド・リラダン

Villiers_de_llsleadam 第九百五十三夜 04年3月23日
 Seigow's Book OS / PIER
 Villiers de l'lsle-Adam : L'Eve Future
 斎藤磯雄 訳

 リラダンがここからエジソンとエワルドに交わさせた会話は、おそらく人間人形思想をめぐる「義体文明の可能性」に関する最も高邁精緻なプレゼンテーションである。(略)

 リラダンが言いたかったことは、「或る超人間的な存在が、この新しい芸術作品の中に呼び醒まされてゐて、これまで想像もつかなかったやうな神秘が決定的にその中心を占めるといふこと」である。
 これは、義体文明にこそ新たな宇宙思想や地球精神が胚胎するであろう可能性についての、それこそ全き確信ともいうべきものだった。(略)

 さて、以上の、この一文のすべてを、完成したばかりのフルCGアニメーション・フィルム『イノセンス』を世に贈った押井守監督に捧げたい。(略) 

 もっとも、『イノセンス』のみならず、押井守はもともと青年期からのただならない人間人形感覚の持ち主で、とくにハンス・ベルメールの人形描写にはずっとぞっこんだった。(略) 

 『イノセンス』の映像はほとんど完璧ともいうべき場面を連続させていた。傑作などという言葉は使いたくない。こうあってほしいと思う映像場面を徹底して超構造化し、細部にいたるまで超トポグラフィックに仕立てていた。。(略) 

 『イノセンス』――。これは21世紀の押井リラダンが掲げた映像音響版『未来のイヴ』なのである。ともかく、ともかくも、脱帽。

 これは見逃してた。松岡正剛氏がここまで『イノセンス』を絶賛していたとは知らなかった。しかも今までみた『イノセンス』評の中でも最大級の賛辞。工作舎のというか、編集工学研究所のあの松岡正剛氏がここまで誉めるというのは凄い。
 なにしろこの一文は、リラダンの諸作と『未来のイヴ』について論じた長文だが、実は「押井守に捧げ」るための文章なのだ。寡聞にして松岡正剛が押井守を評価しているというのを知らなかったので吃驚。

 もっとも織部賞の選考委員に松岡正剛氏が入っていたことで、きっと押井守が選ばれたと想像できるので、驚くことではないけど。ちなみに押井守は第一回の織部賞受賞者で1996年のこと。だから『イノセンス』で選ばれたのではなく、その前作の『攻殻機動隊/GHOST IN THE SHELL』(1995)が評価されたのだろう。

対談タイトルの「21世紀のISIS:イシス」とは?
千夜千冊『未来のイヴ』ヴィリエ・ド・リラダン

 ポーを夢中で読んだリラダンは、22歳か23歳のときにほぼ1年を費やして一つの物語を書きこんだ。
 これが未完の傑作『イシス』(ISIS)である。どのようにであれリラダンを語るには、まずもってこの『イシス』を知らなければならない。チュリヤ・ファブリヤナ伯爵夫人の、物語ともプロフィールともつかない肖像画作品である。(略)

 千夜千冊のサイトが、http://www.isis.ne.jp/「イシス」というアドレス。そして自ら開催する編集学校がISIS。

ISISは"Interactive System of Inter Scores"の略である。「相互記譜システム」とか「相互的情報編集記譜システム」などと訳す。インターネット上に「編集の国」というヴァーチャル・カントリーを想定したときに命名した。この「編集の国」の一隅に、2000年6月、編集学校が産声をあげたのである。だから相互記譜ということを重視してISISとした。(略)命名にあたっては、やはり女神イシスを連想してもらえることを念頭においた。イシスは再生の女神であって、月の舟に乗るものなのである。

 対談のタイトルの「イシス」の意味が気になっていたのだけれど、松岡正剛にとってどうやら重要なキーワードになっているようだ。「21世紀のISIS:再生の女神」としてどんな話が語られるのか?『イノセンス』の上映会も同時に行われるので、必然的に話題は『イノセンス』へ。ということは「再生の女神」は草薙素子なのか??

『GARUM』の話題? 
松岡正剛の千夜千冊『AKIRA』大友克洋

押井守の『GARUM』も同じこと、ぼくはそのプロトタイプ版を六本木のライブハウス「ヴェルファーレ」で発表してもらったのだが、やはり商業状況から突き落とされて、以来8年近くの中断になっている。まあ、このことはここではこの程度にしておくが、押井や大友の表現世界をどのように評価し、これを享受できるかということは、実際には社会と産業の仕組みの対決とともにあるわけなのだ。

 対談の中で、『GARUM』パイロットフィルムが映写されたら最高なのに。いまだ未見なので期待したい。
 ではこの続きは、対談レポートをお楽しみに。(いつ書けるかなあーー。)

◆関連リンク
ヴィリエ・ド・リラダン, 斎藤磯雄訳『未来のイヴ』
・ヴィリエ・ド・リラダン, 斎藤磯雄訳『ヴィリエ・ド・リラダン全集 第5巻』「イシス」 Isis 収録
ヴィリエ・ド・リラダン (amazon)

<当Blog記事>
水木&押井ワールド~それぞれの世界~
会場状況と整理券 対談会 押井守צ松岡正剛
 「21世紀のISIS:イシス ~想像力と映像~」
  織部賞が生んだ「縁」と「演」~水木しげる・押井守~

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2007.03.08

■写真家 橋村奉臣:Yasuomi Hashimura

HASHI[Yasuomi Hashimura] hashi-ten.com 『一瞬の永遠』&『未来の原風景』

本展は2部構成になっており、『一瞬の永遠』では、最速10万分の1秒という肉眼では捉える事の出来ない一瞬をレンズに捉え、ニューヨークを拠点に世界中のクライアントから依頼を受ける写真家として不動の地位を築くもととなった、「アクション・スティル・ライフ」をはじめとする作品約40点を、『未来の原風景』では、今から千年後、西暦三千年の未来社会で生活する人々の目に、現代にクリエイトされた作品がどのように見えるかを想像し、表現している橋村のオリジナル技法「HASHIGRAPHY」 (ハシグラフィー)の作品約50点を紹介します。

 shamonさんに教えてもらった面白そうな写真展の記事です。ただ昨年既に終了した展示会。
 で、この方の写真を観てみたいと、ネットで探したのですが、残念ながら、ほとんど見つからない。下記の写真集を紐解く他ないようです。

橋村 奉臣『HASHIGRAPHY―Future Deja Vu《未来の原風景》』

橋村 奉臣『STILL LIFE―a moment’s eternity《一瞬の永遠》』

 ということだけでは寂しいので、瞬間を切り取った写真のリンクです。またflickrのお世話になりました。
 キーワード splashキーワード hispeedキーワード Frozen Momentが比較的ヒットしました。

猫が水を飲む瞬間 ・水滴の爆発 ・水滴のスライドショー

割れる水風船 ・この王冠は最高

◆関連リンク 
高速度カメラ入門 Q&A

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2007.03.07

■森田芳光監督 『椿三十郎』リメイク

Tsubaki_sanjyurou_2 映画「椿三十郎」(公式HP) 森田芳光監督の言葉

黒澤明監督の作品を、自分がリメイクすることになるとは思いもしませんでした。しかも45年前と同じ台本を使用しますので、「とんでもないことだ」、「プレッシャーが相当あるだろう」と言われています。

脚 本・・・・・菊島隆三 小国英雄 黒澤明
監 督・・・・・森田芳光

 黒沢監督の三十郎シリーズは、日本映画史上、特筆すべき痛快娯楽映画だと思う。特に『用心棒』の鋭利な凄みのある桑畑三十郎が大好きなのだけれど、まずリメイクは『椿三十郎』からということのようだ。

 シナリオは黒澤組のものをそのまま使用するということで、まさに森田監督の演出の手腕と、俳優人の実力が試されることとなる。

Tsubaki_sanjyurou_face  もちろん三十郎は、若かりし日の三船敏郎以外には考えられない野性味と知性を両立させたキャラクタなのだけれど、織田裕二がどこまで迫れるか、見もの。僕は三船を継げるとしたら、本木雅弘くらいかなーと思っていたので残念。

 まずは07年12月公開を待ちましょう。

◆関連リンク
・映画をめぐる怠惰な日常さんの - 森田芳光の「椿三十郎」と崔洋一の「用心棒」

「椿三十郎」 2008年正月東宝系公開 監督/森田芳光
「用心棒」 2009年正月東宝系公開 監督/崔洋一

 こちらのブログによると、昨年夏に角川春樹がインタビューに答えて、このようなラインナップを話していたらしい。なぜか順番が逆なのは、やはり傑作『用心棒』へ向けて、一作目で助走をとるということなのでしょうか。
『時代劇マガジン Vol.15』 (辰巳出版公式HP)

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2007.03.06

■ヤン・シュヴァンクマイエル監督『ルナシー:Lunacy』
  Svankmajer's "Sileni"

Sileni_lunacy『ルナシー』ROAD SHOW @ 名古屋シネマテーク
『ルナシー』(レン・コーポレーション公式HP)

 待望のヤン・シュヴァンクマイエルとエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーの新作を観てきた。

 主人公のまわりに現われるのは狂人ばかり。狂気から唯一逃れられる場が睡眠なのに、そこには自身の狂気が眠っているという救いのないストーリー。侯爵の笑いの薄気味悪さにまず象徴されている。この役を演じた俳優ヤン・トシースカの演技は、シュヴァンクマイエル作品の実写中、最高の出来ではないだろうか。名演であり怪演。

 ところどころユーモラスな場面はあるにしても、いつものシュヴァンクマイエル作品と比べて、描写がストレート。というか真剣で鬼気迫るものがある。
 僕はシュヴァンクマイエル作品の大きな魅力の一つが、シリアスな状況であるのに何故か素朴なこっけいさが溢れているところだと思っているのだけれど、本作ではなかなか肩の力を抜くところがない。話は非常にリアルで、重い。そしてエロティックな場面もいつになく描写が直接的。
 ポーとマル・キ・ド・サドの作品から引用していると冒頭で監督自らが登場し語っているが、後者の作品からの影響が強いのだろうか。作品を読んだことがないのでよくわからない。

 それにしてもこのシリアスさは何から来るのか。

これは芸術ではありません。芸術はとっくに死にました。(略)
一番悪いところを組み合わせ、そして膨張させた原理。
それが使われる場所こそ--我々が生きるこの狂った世なのです。

Sileni_tar 冒頭で述べられるこれらの監督の言葉に全てがこめられているのかもしれない。加えて戯画的に狂った人々によって模倣されるドラクロアの『民衆を導く自由の女神』。狂った論理による自由の暴力、これが何を意味するかは言わずもがなであろう。シュヴァンクマイエルの絶望がうかがいしれる。 

 素朴なこっけいさという意味では、にわとりの毛を付けたタール人間たちとかいろいろといじれるアイテムは出てきている。今回は、そうしたシーンがあるにもかかわらず、あえてシリアスなトーンで通している。

 後半の舞台は精神病棟。
 医師と患者が入れ替わってしまうという設定は、まさに本編の狂気と現実の境界のあいまいさの表現としてストレートなのだけれど、僕はこの設定で鴻上尚史の芝居を想い出す。(でも本当はこの設定で真っ先に『天才バカボン』のある話を想い出したのだけど、、、(^^;)。たぶん僕がこの設定に初めて出会った作品は『バカボン』)

Sileni_earl  神は幻想(キメラ)であるという侯爵の涜神の長いモノローグ。ここの狂気の度合いと、上で述べたにわとりの毛のタール人。これらをもっと有機的に、そしてユーモラスにさらにクローズアップして描いていたら、僕の好きなシュヴァンクマイエル作品にはなったと思う。
 だけれど、たぶんあえて選んだ今回のトーンを真っ直ぐ受け止めるのが、チェコのシュルレアリストの頭の中を擬似体感する一つの手だてなのだろう。DVDが出たら再見したい。

◆関連リンク

『オールアバウト シュヴァンクマイエル』(エスクァイアマガジンジャパン)
 この本には『ルナシー』シナリオ完全版や各界評者の評論があり読み応え充分。
@nifty:デイリーポータルZ:シュヴァンクマイエルさんに会った
YouTube - Svankmajer's "Sileni"(予告篇)

続きを読む "■ヤン・シュヴァンクマイエル監督『ルナシー:Lunacy』
  Svankmajer's "Sileni""

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2007.03.05

■新刊メモ 新美直写真集
  『アリゾナの青い風になって』~Spiritual Journey~

Niimi_nao アリゾナの青い風になって(公式HP)

帰ってこない人もいるとは聞いたが、それはそれでいい。
荒々しい大地を、誰もいない道を、ひとりとばしてみよう。

著者、撮影 : 新美 直
発行 : アップフロントブックス

 本屋で偶然見かけた写真集。極彩色のアメリカの生々しい映像が凄い。たぶんディジタル処理してあるのではないかと思うのだけれど、この写真集の色は素晴らしい。上の公式HPにいくつか写真が紹介されているが、どれも本の発色を再現できていない。是非、まずは本屋で手にとって、その鮮烈な映像をその眼で確認してみてください。

 特に素晴らしかったのが「フィンキャニオン」と名づけられた写真。砂漠の峡谷のパースペクティブ。真っ青な空の奥に浮かぶ雲の映像の立体感が美しい。Flickrでfin Canyonを検索してみたが、この人の写真ほど凄い絵は見つかりませんでした。

 それにしても、今、ウェブで探してみたけれど、この写真家の情報がほとんど見つからない。いったいどんな方なのだろう。どなたかご存知でしたら、コメントをお寄せください。

◆関連リンク 
・peko_1980さんの脱OL日記! 南風浪漫。
 新美直氏の写真集の感想があります。
新美 直『アリゾナの青い風になって』 
その他 作品集(amazon)  

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2007.03.04

■「怪獣と20世紀の夢 開田裕治展
  ~21世紀につなぐ幻想とロマンの系譜~」@金沢21世紀美術館

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「怪獣と20世紀の夢 開田裕治展2007年2月24日(土)~4月8日(日)
 ~21世紀につなぐ幻想とロマンの系譜~」
(特設ページ)
展示作品43点リストオリジナル怪獣絵コンテスト
「幻想とユートピア-怪獣映画の魅力を探る」 唐沢俊一講演

●3月24日(土) 16:00~
 『都市と怪獣の人間学~なぜゴジラはビルを壊すのか』
●4月7日(土) 16:00~
 『三丁目の怪獣~高度経済成長と怪獣ブーム』

 今日、街でポスターをみかけて知りました。ポスターが素晴らしくかっこいいです。全体像は、上の特設ページのリンクで観てください。金沢21世紀美術館のモダンな建築とドラゴン風の怪獣が見事にマッチしています。

 唐沢俊一氏の講演もあるということで、ずっーと行きたかった金沢21世紀美術館なので、足を伸ばしてみようかな。ちょっと遠いんですが、、、。

◆関連リンク
開田裕治氏ウェブミニ展(Googleイメージ検索)
開田無法地帯 開田裕治HP 
唐沢俊一ホームページ
「SFアニメ特撮に於けるエロスとジェンダー」
 日時 2月24日(土)14:00~17:00
 出演 小谷真理 (聞き手 開田あや)

『ウルトラQ―開田裕治画集 』 他の作品(amazon)

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2007.03.02

■モスクワの地下トンネル網 と 幻想野菜 ロマネスコ

Metrodream_by_russos
想像を絶するモスクワの地下ダンジョン写真いろいろ - GIGAZINE

モスクワの地下鉄駅は「地下宮殿」とも呼ばれているのですが、こっちはまさに全体がRPGのダンジョンみたいになっており、ものすごい光景です。

これらはいずれもHDR(ハイダイナミックレンジ)処理されているのでこのように迫力のある写真になっているというわけです。

 是非、GIGAZINEの素晴らしい写真を見てください。
 そこには絶句するほどの美しい地下迷宮の写真が掲載されています。

 HDR(High Dynamic Range)写真は、僕も記事にして自分でも作ってみたことがあるのですが、素材が凄いと、出来上がった作品はこのように幻想的な光景となるわけです。
 工場萌えな日々さんの写真が一時マイブームだったのですが、地下鉄HDR萌えになりそう。探してみるといろいろとあります。

http://www.funmansion.com/html/Underground-City.html 
http://russos.livejournal.com/210363.html(下のほう)

Romanescoフラクタル図形をした野菜
  「ロマネスコ」の写真 - GIGAZINE

カリフラワーとブロッコリーをかけあわせてできた野菜「ロマネスコ」はその形がとても変わっていて、まるでフラクタル図形のような突起があります。

 もうひとつGIGAZINEネタ。上の地下迷宮を昨日見つけて記事にしようとしてたら、某ミのつく職人君のmixi日記で偶然に、このように不思議なアートベジタブルを教えてもらいました。これも素晴らしいので、合わせてご紹介。

 flickr:フリッカーでRomanescoを検索するといっぱい美しい写真が出てきます。

 一度食べてみたいものです。食べると言うより、このみかけから人間が食べられそうな雰囲気もありますが、、、(^^;)。どうも一部スーパーでは売っているところもあるみたい(しかも「ヤドカニくん」と明記している店も(^^;))。種も売ってるので、今度うちの畑に蒔こうか知らん。こんなのが一面に顔を出していたら、さながら異星の農園。近所の人の度肝を抜けること請け合い。ああ、また家族に顰蹙買いそう。(でも猛烈にほしくなって、今、種の通販申し込みました!!)、、、あれ、この通販サイト、これ最後の1つだったみたい、SOLD OUTになってしまいました。皆さん、ごめんなさい。) 11月に収穫できたら、レポートします。あー気が長い。

 あと世の中には、アートフードなるものが存在し、ネットショップもあることを初めて知りました。

◆関連リンク
石井哲 写真/大山顕 文『工場萌え』 (公式HP)が3/6に出るのですね !
『工場萌え』刊行記念 “工場ナイト”開催のお知らせ

【会場】 新宿ロフトプラスワン
【日時】 2007年3月9日(金) 18:30開場 19:30開演
【出演】 石井 哲 (ブログ「工場萌えな日々」管理人)
大山 顕 (住宅都市整理公団総裁)
【内容】 珠玉の工場写真の紹介と生解説
実践・工場デート 体当たりレポート
「なぜわれわれは工場の景観に惹かれるのか」の学術的考察 etc.

DVD

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2007.03.01

■堀晃著『バビロニア・ウェーブ:BABYLONIA WAVE』
  創元SF文庫 国内SF刊行開始!

堀晃著『バビロニア・ウェーブ』
『バビロニア・ウェーブ』(東京創元社 公式HP)

 ――太陽系から3光日の距離に発見された、銀河面を垂直に貫く直径1200キロ、全長5380光年に及ぶレーザー光束「バビロニア・ウェーブ」。いつから、なぜ存在するのかはわからない。ただ、そこに反射鏡を45度角で差し入れれば人類は厖大なエネルギーを手中にできる。傍らに送電基地が建造されたが、そこでは極秘の計画が進行していた。

堀晃 文庫版あとがき(東京創元社|Webミステリーズ!)

 構想を巡らしているうち、宇宙SFとして、設定の大きさだけならちょっとした記録が狙えそうな気がしてきました。

 これぞ、SFの醍醐味。この全長5380光年という超巨大な存在の設定にドキドキしないSFファンはいないでしょう。長らく幻の作品となっていた傑作がついに文庫として復刊されました。
 宇宙空間の広大さと、真空の空間の虚無感に酔えること間違いなしです。徳間書店版ハードカバーを持っていますが、加藤直之氏の表紙も美しいので、もう一冊、買います!

創元SF文庫 2007年2月より国内SF刊行開始!
堀晃『バビロニア・ウェーブ』(創元SF文庫): Blog マッドサイエンティストの手帳

 創元SF文庫の一冊。クラーク、アシモフ、ハインライン、アンダーソンからイーガンまで、ずらり並んでいるあの薄紫の背表紙と同色で並べていただけるとは、さすがに感激ですねえ。

 そして創元SF文庫での日本人作家作品の刊行開始。
 ミステリは国内作品もあったので、これまでSF文庫で出てなかったのも不思議。引き続き、復刊が望まれている名作と、それから新たな新作の登場を心待ちにしたいと思います。まずは『バビロニア・ウェーブ』がヒットして、堀晃作品が続々と刊行されたら嬉しいです。

◆関連リンク
黄金の羊毛亭さんの堀晃<情報サイボーグ・シリーズ>について
てつの本棚さんのリストによると、SFマガジン1977年10月号(227号) ヒューゴー賞特集!に短編版「バビロニア・ウェーブ」が掲載。 「太陽風交点」1977年3月号、「バビロニア・ウェーブ」1977年10月号、「梅田地下オデッセイ」1978年5月号と怒涛のように傑作のオンパレード。あの時は幸せでした(^^)。
田中芳樹著『銀河英雄伝説 1 黎明編』
 創元SF文庫のもう一冊はこれ。星野之宣氏によるカバーがこちらもなかなか素晴らしい。

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