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2007.03.06

■ヤン・シュヴァンクマイエル監督『ルナシー:Lunacy』
  Svankmajer's "Sileni"

Sileni_lunacy『ルナシー』ROAD SHOW @ 名古屋シネマテーク
『ルナシー』(レン・コーポレーション公式HP)

 待望のヤン・シュヴァンクマイエルとエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーの新作を観てきた。

 主人公のまわりに現われるのは狂人ばかり。狂気から唯一逃れられる場が睡眠なのに、そこには自身の狂気が眠っているという救いのないストーリー。侯爵の笑いの薄気味悪さにまず象徴されている。この役を演じた俳優ヤン・トシースカの演技は、シュヴァンクマイエル作品の実写中、最高の出来ではないだろうか。名演であり怪演。

 ところどころユーモラスな場面はあるにしても、いつものシュヴァンクマイエル作品と比べて、描写がストレート。というか真剣で鬼気迫るものがある。
 僕はシュヴァンクマイエル作品の大きな魅力の一つが、シリアスな状況であるのに何故か素朴なこっけいさが溢れているところだと思っているのだけれど、本作ではなかなか肩の力を抜くところがない。話は非常にリアルで、重い。そしてエロティックな場面もいつになく描写が直接的。
 ポーとマル・キ・ド・サドの作品から引用していると冒頭で監督自らが登場し語っているが、後者の作品からの影響が強いのだろうか。作品を読んだことがないのでよくわからない。

 それにしてもこのシリアスさは何から来るのか。

これは芸術ではありません。芸術はとっくに死にました。(略)
一番悪いところを組み合わせ、そして膨張させた原理。
それが使われる場所こそ--我々が生きるこの狂った世なのです。

Sileni_tar 冒頭で述べられるこれらの監督の言葉に全てがこめられているのかもしれない。加えて戯画的に狂った人々によって模倣されるドラクロアの『民衆を導く自由の女神』。狂った論理による自由の暴力、これが何を意味するかは言わずもがなであろう。シュヴァンクマイエルの絶望がうかがいしれる。 

 素朴なこっけいさという意味では、にわとりの毛を付けたタール人間たちとかいろいろといじれるアイテムは出てきている。今回は、そうしたシーンがあるにもかかわらず、あえてシリアスなトーンで通している。

 後半の舞台は精神病棟。
 医師と患者が入れ替わってしまうという設定は、まさに本編の狂気と現実の境界のあいまいさの表現としてストレートなのだけれど、僕はこの設定で鴻上尚史の芝居を想い出す。(でも本当はこの設定で真っ先に『天才バカボン』のある話を想い出したのだけど、、、(^^;)。たぶん僕がこの設定に初めて出会った作品は『バカボン』)

Sileni_earl  神は幻想(キメラ)であるという侯爵の涜神の長いモノローグ。ここの狂気の度合いと、上で述べたにわとりの毛のタール人。これらをもっと有機的に、そしてユーモラスにさらにクローズアップして描いていたら、僕の好きなシュヴァンクマイエル作品にはなったと思う。
 だけれど、たぶんあえて選んだ今回のトーンを真っ直ぐ受け止めるのが、チェコのシュルレアリストの頭の中を擬似体感する一つの手だてなのだろう。DVDが出たら再見したい。

◆関連リンク

『オールアバウト シュヴァンクマイエル』(エスクァイアマガジンジャパン)
 この本には『ルナシー』シナリオ完全版や各界評者の評論があり読み応え充分。
@nifty:デイリーポータルZ:シュヴァンクマイエルさんに会った
YouTube - Svankmajer's "Sileni"(予告篇)

Sileni_dvd<当Blog記事 シュヴァンクマイエル関連>
 うちの定番アイテムです。こんなにお世話になってます(^^;)。

ヤン・シュヴァンクマイエル監督来日イベント
『シュヴァンクマイエルのキメラ的世界』
cinra magazine vol.11
  特集:ヤン・シュヴァンクマイエル

エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー回顧展カタログ
エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー関連図録
アンダーカバー・ミーツ・シュヴァンクマイエル
アンダーカバー シュヴァンクマイエルへのオマージュ
GAUDIA EVAŠVANKMAJERJAN
   ― 造形と映像の魔術師シュヴァンクマイエル展
      幻想の古都プラハから

エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーさん 逝去
・本 『GAUDIA(ガウディア)造形と映像の魔術師 シュヴァンクマイエル』
・「シュヴァンクマイエルの新作『Lunacy』とリトグラフ
・「ゴシックとシュールリアリズム
  ヤン・シュヴァンクマイエル『オトラントの城』

・「チェコプラハ⑤ Gambraギャラリー
チェコプラハ① ヤン・シュヴァンクマイエル他監督
 『Kouzelny Cirkus (Wonderful Circus)』atラテルナマギカ

チェコプラハ② チェコの壮大な究極映像 プラハ城 聖ヴィート大聖堂

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コメント

二週間で打ち切りですか・・・。むむ。
「叫」いわゆるJホラーの心霊実話テイストとは違ったものが目指されていて、新しい恐怖表現の模索が始まっているな、と思わせてくれる作品でした。「怖い」かというと、微妙なもの多く含んでいましたが。
今年はあと、「ユリイカ 怪談特集」で黒沢監督と対談していた高橋洋監督による「狂気の海」「女優霊2」なども撮られるようですが、こちらも実話テイストとはずれたものが目指されているようですね。恐怖と共にメタな驚きに襲われる様な映画体験を待ち望んでいるのですが・・・。

投稿: ダグ | 2007.03.18 22:42

 ダグさん、こんにちは。コメント、ありがとうございます。

>>「天才バカボン」の、狂人が・・・をやっていたというエピソードは、真に戦慄的でしたね。多分、ネームを書く寸前ぐらいに「こうしようか」と思いついたんじゃないかという唐突さが凄かった。あのころの赤塚不二夫の運動神経は素晴らしかったです。

 運動神経!まさにそんな感じですね。赤塚ギャグって。
 実家の押入れから「天才バカボン」を発掘して、読み直してみたくなりました。

>>「叫」観てきました。これもリンチとつながってくることかもしれませんが、「叫」はオブストラクトな表現取り入れつつ、しかしそれが物語りを相対化するのでなく物語りの力を深化させているように思えました。ご覧になられたら是非感想を。楽しみにしております。

 「オブストラクトな表現」が「物語りの力を深化」。あー、観たくなってきました。最近仕事が忙しかったのと、東海地区ではほとんどこの映画2週間ほどで打ち切りになっていて、結局観られませんでした。

 脳内感想は書けないことはないですが、電波なので止めときます(^^;)。感想、書けなくてすみません。DVDを待ちたいと思います。

投稿: BP | 2007.03.18 17:47

「天才バカボン」の、狂人が・・・をやっていたというエピソードは、真に戦慄的でしたね。多分、ネームを書く寸前ぐらいに「こうしようか」と思いついたんじゃないかという唐突さが凄かった。あのころの赤塚不二夫の運動神経は素晴らしかったです。

「叫」観てきました。これもリンチとつながってくることかもしれませんが、「叫」はオブストラクトな表現取り入れつつ、しかしそれが物語りを相対化するのでなく物語りの力を深化させているように思えました。
ご覧になられたら是非感想を。楽しみにしております。

投稿: ダグ | 2007.03.18 05:29

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受信: 2007.06.07 00:04

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