
◆監督の脳ミソの釣堀
スペシャル(2007年3月27日放送)
自分の脳ミソの中に釣り糸を垂らしているようなもんだから。もともと何もないのに、ただむなしく釣り堀に釣り糸を垂らしているんじゃないかという恐怖はいつだってある。それはおれの意識の領域じゃないところで決まるんだもん。
アイデアじゃないんだよ。アイデアを出すだけでいいんだったら、本当に楽な商売だよ。幾らでも出せるよ、何十通りも。こういう出し方もある、ああいう出し方もある…とか、映像的にこっちのほうがパンチ効いているぜ!とかね。
でも、違うんだよね。自分でも分からないけど、なんとなくおぼろげにあそこのゴールに行きたいなと思いながらつくっているわけだけど、ゴールに行く道筋がわからないんですよ。
最近、脳と芸術の関係を考えていたので、この宮崎のコメントがすごく興味深かった。
意識と、脳の活動の差異。まさにそうした構造を的確に芸術家が表現した瞬間の映像がここに記録されていた。そしてそれをインタビューしている脳科学者のさらなる根源的な質問を僕は期待したのだが、、、、。茂木健一郎からはこの後、宮崎の名声に関する全くむなしい質問しか発せられなかった。いったい何故??
この釣りに例えられた脳の中の「意識の領域じゃないところで決まる」感覚は、以前書いた記事とまさに符合しますね。同じ脳科学者でも池谷裕二氏であったら、別のさらに深く映像作家の創作のメカニズムに迫る対話があったことでしょう。残念。
◆巨匠の怒り
宮崎駿監督取材秘話(3) 「最後の宣教師」
取材者と取材対象者の密接な距離。取材はいつしか、3か月を過ぎ、新作「崖の上のポニョ」のイメージボード作りも佳境を迎えていました。そんなある日、宮崎さんからこんなことを言われました。
「今はまだ映画に集中してないから、荒川君の相手してるんだ」
いつまでも幸運な時間がつづくわけではない…。その予感は取材終盤、まさに現実となるのでした。
映像には、カメラマンと撮られる人との関係が出てくる。だんだん不機嫌になる宮崎の映像をみて、これはきっとカメラマンと宮崎の相性が著しく悪かったのだろうな、と思った。取材したのは上のリンクによれば、ディレクターの荒川格氏。ご愁傷様、としかいいようがないが、われわれにとっては、スタジオでは怖いという宮崎監督の怒った映像を初めて見られたわけで、監督の人物像を生に近い感覚として残された貴重な記録だったと思う。以下怒りのシーンの書き写し。(趣味が悪くて御免なさい)
(カメラが無神経に近づくのを極度に嫌うようになったシーンで)
一番 人間が孤独でいるときに声をかける必要は全然ないんだよ
それをどういう風に撮るかってのがカメラを持っている人間の仕事なんだよ
そのときにどういう気持ちなんですかって君は聞くだろう
僕は不機嫌でいたい人間なんです 本来
自分の考えに全部浸っていたいんです
だけどそれじゃならないなと思うからなるべく笑顔を浮かべている人間なんですよ
みんなそういうものを持っているでしょう
そのときにやさしい顔をしていますねとか
笑顔 浮かべていると思う?
映画はそういう時間に作るんだよ
映画が近くなって来たらどんどん不機嫌になるさ
さあ もういいだろう
◆テートブリテン ラファエル前派の絵の衝撃
オフィーリア(1852) ジョン・エヴァレット・ミレイ
(オフィーリアに大きな衝撃を受けたという)
精度を上げた爛熟から素朴さへ舵を切りたい
なんだ 彼らが全部やってたことを下手くそにやってんだって思ったわけよね
驚嘆すべき時間だったんだけど
ああおれたちのアニメーションは
今までやってきた方向でこのまま行ってもやっぱりダメだって
よくわかったなって感じして帰ってきた
自分たちが薄々感じているもんなんだけど
おれは感じてる もうこれ以上行きようがないって
「精度を上げた爛熟」の例としては『千と千尋の神隠し』のカオナシが暴れるシーンが紹介されていた。
一枚の絵画の密度と、アニメの一枚の絵を比較することに、元々無理があるのは承知の上なのでしょう。それにしても、、、。こんどの『崖の上のポニョ』は素朴さへの回帰ということですが、その素朴さが動きの想像力に繋がっていることを願ってやみません。
ちなみに『オフィーリア』はご存知のとおり、テリー・ギリアムの『ブラザー・グリム』に影響したシーンがありますね。
◆映画の本質の一枚
大津波を巨大な魚の絵で
ポニョ、来る
男の元に駆けつける恐ろしいポニョ
この映画の本質はあの一枚なんですよ
こういういっぱいの絵を描いているけどこうじゃないんですよ。現象なんですよ
本質はあそこにあるんですよ
だからやっと本質の絵が描けたんですよ
それは風呂敷に簡単に収まらない絵なんですよ
これが映画の最初の一枚なんです
この絵が誕生するシーンが捉えられているのがドキュメンタリーとしては最高に素晴らしかった。
今まで数々の宮崎インタビューを読んできたけれど、これだけ創作の生の感覚に近づけたのは、そうそうないだろう。魚が釣りあがる現場を捉えていて、ものすごーく面白かった。
この一枚の絵からどんな映像が展開していくのか、期待して見守りましょう。
◆関連リンク(08.8/9追記)
・この番組のビデオが下記に掲載されています。
プロフェッショナル 仕事の流儀 宮崎駿SP1 ~ SP4
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