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2007.07.15

■アルフレッド・ベスター著 渡辺佐智江訳『ゴーレム100

Golem100_2
※この本は、四枚の絵を切り貼りしてグチャグチャに並べて表紙にすると、少しだけベスターのイメージに近づくのかも。どの一枚も本の内容とは合わない大嘘なので騙されないように。

アルフレッド・ベスター著 渡辺佐智江訳『ゴーレム100 (amazon)
ストーリー(読むまで死ねるかっより)

 22世紀のある巨大都市で、突如理解不能の残忍な連続殺人事件が発生した。犯人は、ゴーレム100、8人の上品なミツバチレディたちが退屈まぎれに執り行った儀式で召還した謎の悪魔である。事件の鍵を握るのは才気あふれる有能な科学者ブレイズ・シマ、事件を追うのは美貌の黒人で精神工学者グレッチェン・ナン、そして敏腕警察官インドゥニ。ゴーレム100をめぐり、3人は集合的無意識の書くとそのまた向こうを抜け、目眩く激越なる現実世界とサブリミナルな世界に突入。自らの魂と人類の生存をかけて戦いを挑む。しかしゴーレム100は進化しつづける……。
 『虎よ、虎よ!』の巨匠ベスターの最強にして最狂の幻の長編にして、ありとあらゆる言語とグラフィックを駆使して狂気の世界を構築する超問題作がついに登場!

 『ゴーレム100』を読了。
 噂にたがわず、異色作/問題作でぶっ壊れている。約30年前の小説であるが、そのぶっ壊れ度が妙に日本の現実に合う。、、、というのは、この本を通学の学生がたくさん乗る電車の中で読んだのだけど、彼らの会話がバックグランドに聞こえてくると、妙にこの本の精彩が上がるのだ。訳者の渡辺佐智江氏があとがきで書いている下記表現が、まさにぴったり。

 現時点で既に言語崩壊のスピードを果敢に加速させ、ガフしゃべり一歩手前の日本人ならば、2280年を待たずして、世界の人々に先がけ、豊穣なるジョイス語をスイスイと繰り出しながら、二進法で女男で鳥肌で水不足で超格差で相互破壊なわけだ。

 僕は言語崩壊な本はバロウズもちょっと齧っただけだし、ジョイスも読んだことがない。だから一番近く感じたのが、古川日出男の描く小説だった。言語というのが人の無意識の脳活動と意識的活動の狭間で生まれているものなら、壊れているのはどちらなのだろう、なんてことを考えながら読んだ。

 ベスターが今回描いた世界はとても猥雑な2080年のアメリカ東海岸の巨大都市ガフ。退廃にして卑猥で不条理なその都市と登場人物。彼らはきっと意識も無意識もぶっ壊れているのだと思う。ベスターが描いた言語と無意識の世界の描写は、きっとそれら両方の破壊状況を描きたかったからなのだと思う。

 破壊状況を冷静に見つめる作家の眼がそこここに感じられるのだが、まだ表面的にしか読めていないので、それ以上の突っ込みは自分の意識の領域にも無意識の領域にも今は期待できない今日この頃。

 というわけで、実はこのぶっ壊れ方に中盤付いていけず、総論としてはあまり傑作とは感じらなかった。再読がきっと必要なのだろう。だけどまず未読の『コンピュータコネクション』を探してみたい。

◆関連リンク
映画評論家緊張日記: ゴーレム降臨!

(略)「〈三省堂SFフォーラム〉史上最悪のグタグタ」とか言われてしまいました……すいません……無理矢理登壇していただいた渡辺佐智江さん、若島正さん、山形浩生くんどうもありがとうございました。まあ滝本誠の知られざるSF史と自前でゴーレム・スタンプまで用意してきてくれる渡辺さんのラブリーさは伝わったと思うのでいいですよね。

a day in the life of mercy snow(殊能将之氏のメモ)

 でたらめで安っぽくて薄っぺらくて狂っていて下品で猥褻で悪逆非道なSFだった。

 「ガラクタ以下で完全にぶっ壊れている」という意見は変わらない。しかし、解説や訳者あとがきの評価にも反対はしない。(略)

 完全にぶっ壊れているからこそすごいのだよ。
 壮大な傑作イコール唖然とするようなクズ小説なのだよ。

夢のなかでも話したと思う。 (略)

ゴーレム降臨トークショーat神田三省堂(Blog 異色な物語その他の物語 さん)
 行きたかったイベントの貴重なレポート。かなり詳細に書かれていてとても嬉しい。

(略)滝本誠さんと柳下毅一郎さんが壇上に登場。ウォーミングアップにリンチとベスターの共通点について。キーワードは“フーガ”だと。次に滝本さんのSFとの出会いの頃の話。ディックの本を持っていると女の子に逆ナンされるという夢のような時代だったようだ。(略)

 それにしても渡辺さんの話が印象的で、『ゴーレム100』に関しては集中して訳す方法をとり、45日でほとんどを仕上げたようだ(これには山形さんも驚いていた)。(略)

  柳下さん「(渡辺さんが)訳すにあたって一番苦労されたところは」  渡辺さん「あの訳すときに、とっとこハム太郎のテーマがずっと頭から離れなくて」
  一同 ?????????

 あ、僕もこの本の「フーガ」という言葉には反応。リンチファンなら当然かも。『ロストハイウェイ』のサイコジェニックフーガ(心因性記憶喪失)」。滝本氏がさらにどう深く『ゴーレム100』に切り込んだか、確認したいものです。

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国書刊行会  ・ゴーレム(wiki)

当Blog記事
新刊メモ アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』
『願い星、叶い星』アルフレッド・ベスター/中村 融訳
国書刊行会-<未来の文学>第Ⅱ期、開幕
ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』 
R・A・ラファティ 『宇宙舟歌』 
ジーン・ウルフ 『デス博士の島その他の物語』
イアン・ワトスン『エンベディング』

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コメント

 さあのうずさん、こんばんは。

>>『アジアの岸辺』最高ですよね!あと未来の文学の初心者の方でユー
>>モア好きの方は『グラックの卵』もオススメかと。

 『グラッグ』は未読なのです。浅倉久志氏のセレクトがいいんでしょうね。『アジアの岸辺』はブラックなところが凄くよかったですよね。

>>で、リンチとゴーレムなんですが実はトークショーの次の週に>>http://www.eigaseikatu.com/theater/t-1000455
>>このイベントが滝本&柳下で予定されていたので、冒頭以外はリンチ
>>封印状態だったのです。少し記憶が定かではないところもあります
>>が、残念ながらリンチ関連話はそれ以降出ていなかったと思います。

 あ、そうなんですか。封印とは残念。
 『インランド・エンパイア』公開記念 世界の映画作家(53)デイヴィッド・リンチトークショーの方はどんな按配だったのでしょうね。ウェブにもあまりこちらはレポートが出てないようです。

投稿: BP | 2007.07.21 20:42

コメント有難うございます。『アジアの岸辺』最高ですよね!あと未来の文学の初心者の方でユーモア好きの方は『グラックの卵』もオススメかと。で、リンチとゴーレムなんですが実はトークショーの次の週にhttp://www.eigaseikatu.com/theater/t-1000455
このイベントが滝本&柳下で予定されていたので、冒頭以外はリンチ封印状態だったのです。少し記憶が定かではないところもありますが、残念ながらリンチ関連話はそれ以降出ていなかったと思います。

投稿: さあのうず | 2007.07.19 21:26

 さあのうずさん、はじめまして。say*3さん、こんばんは。
 コメント、ありがとうございます。SFの本に関するコメント、実は少ないので、とても嬉しいです。

>>いつも楽しく拝見させていただいているHPからトラックバックがあると嬉しいものですね。有難うございます。

 こちらこそ、いつも見ていただいてありがとうございます。
 行きたかったゴーレム降臨トークショー、さあのうずさんの詳細レポートで楽しませていただきました。遠方で行けない我々ファンにとって素晴らしいレポート、ありがとうございました。

 にしても、こわもての渡辺佐智江さんが「ハム太郎」とは!!(^^;)しっかり笑わせていただきました。

>>リンチは数本しか観ておらず『ロスト・ハイウェイ』もまだなのですが、俄然興味がわきました。これは観なくては。

 同じフーガでも、ゴーレムとは全然タッチは違います。リンチの映像は同じく壊れてはいますが、豪快ではなく繊細、『ロスト・ハイウェイ』が気に入られたら、是非最高傑作の『マルホランド・ドライブ』をお楽しみください。

 滝本氏がリンチとの関係で、ゴーレムについて「フーガ」以外でどう発言されていたか、お時間が許せばもう少し教えていただけると幸いです。


 say*3さん

>>「未来の文学」シリーズは好きで「集めて」おります。
>>「読んで」と言えんのが情けないトコロですが。
>>ディッシュとワトスンしか読んでないので・・・。

 ディッシュの『アジアの岸辺』、ラディカルで凄くよかったですね。『エンベディング』はひさびさのワトスン節を堪能。これから「未来の文学」読む方には『ゴーレム』より『アジアの岸辺』が僕はお薦めです。
 『ゴーレム』は先端文学趣味の方向けかなー、って感じ。

 この先はなんと言っても大作『ダールグレン』のディレイニーにワクワク。

投稿: BP | 2007.07.16 23:36

「未来の文学」シリーズは好きで「集めて」おります。
「読んで」と言えんのが情けないトコロですが。
ディッシュとワトスンしか読んでないので・・・。

投稿: say*3 | 2007.07.16 09:30

いつも楽しく拝見させていただいているHPからトラックバックがあると嬉しいものですね。有難うございます。リンチは数本しか観ておらず『ロスト・ハイウェイ』もまだなのですが、俄然興味がわきました。これは観なくては。

投稿: さあのうず(異色な物語その他の物語) | 2007.07.15 14:06

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