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2007.08.29

■レポート③ ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展(1)
   @ラフォーレミュージアム原宿

Laforet_svank ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展
~アリス、あるいは快楽原則~
(公式HP)

夢と現実、秩序と混乱・・・
カオスを漂うシュヴァンクマイエルの自由世界へようこそ

会場/ラフォーレミュージアム原宿
期間/2007.8月25日~9月12日

 待望の美術展がスタートした8/25に、観てきました。

 既にレポートした朝日カルチャーセンターの講座とあわせて、東京へ出かけることにした。シュルレアリスムに理解のない家族にはまるで韓国スターに会いに行くおばさんみたい、と言われつつ(苦笑)。ま、チェコまで行ったと思えば安いし、この機会に会えれば、と思った僕の感覚はそうした人たちに近いでしょう。

 ヨン様ならぬ、ヤン様だね、と家族に自虐的に言って出発。あんまりだ。
 どうせ君たちには戦闘的シュルレアリストに会ってみたいなんていう僕の感覚はわかんないんだ(^^;)。

◆ファースト・コンタクトと骨骨ファースト・フード

 朝10:30に炎天下のラフォーレに着いた。もう既に長蛇の列。列の後ろにつくとサイン会の整理券97番です、11時までここで並んでください、と言われる。
 どうせ東京まで出たんだからしっかり充実させようと思っていたので、炎天下だけど並ぶことにする。それにしても若い人ばかりの中に並ぶのは、なかなか抵抗が、、、。にしても直射日光が暑かったー。

 やっと11時に会場へin。しかしそこからさらに図録を買って整理券をもらう順番をラフォーレの階段に並んで待つ。

 で、並びつかれた30分後。
 突然、階段を下りてくるチェコのシュルレアリスト。オープニングセレモニーが終わった会場から出てきたらしいシュヴァンクマイエル氏は、僕たちの横を手を振りながら、にこにこして軽やかな足取りで通り過ぎていく。
 今、ヤン・シュヴァンクマイエルが近くにいるんだ、という現実感のない感覚が到来。とにかくこれだけで並んだ汗は充分報われた感じ。

 図録を買った上で、整理券をもらって会場を後に。今度は13:00の新宿の講座へ移動だ。移動前に原宿で昼飯。やはりシュヴァンクマイエル・デーは骨骨なフードが似合うと、骨付きチキンが食べられる駅前の名も知らぬファーストフード店へ。手が油でベタベタになるあの触感とスパイシーな味覚を感じつつ、新宿住友ビルへ。(朝日カルチャーセンターの講座の詳細はこちら)

◆ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展 

Laforet_svank02

 講座で直にアーティストの言葉を聞いた後、その作品をじっくり観る。これは作品が我々に与えるイメージをある領域へ縛り付けるリスクもあるけれど、語られた思想をダイレクトに生の作品で体感できるという贅沢なチャンスでもある。

 そんなワクワクした気持ちで再び原宿へ。

 会場の広さは葉山の神奈川県立近代美術館で05年に開催された展示会に比べると狭いと感じたが、作品数は葉山165点から今回の216点(除資料)へと拡大し規模は大きくなっている(図録を数えたので点数は正確かわかりません)。

 まず骨のオブジェの06年新作「ヤマアラシの馴致」が観客を出迎える。
 このヤマアラシくんの愛嬌が素晴らしい。卵と骨で作られた愛嬌。この不気味とユーモアのバランスがシュヴァンクマイエルファンにはたまりません。

●視覚と触覚のジャンクイメージ

 そして葉山でも凄いと思った猿の剥製を貝殻や鉱物でキメラ化した「食虫動物Ⅳ」。これは圧巻。ずっと観ていたい。
 そして今回、講座の言葉がまざまざと脳裏に。触覚をフル稼働して触れぬ作品を脳内で触って体感。そうすると以前の展示と違った見方が立ち上がってくる。あくまでも映像として視覚で感じていた作品が、もうひとつ豊かな触感として脳内にイメージを沸き起こす。
 つまり猿の体毛に触る柔らかい感覚、鉱物のごつごつした手触り、貝殻の軽密度な独特の触感。そうしたものが綯交ぜになった独特の触覚イメージと、視覚から入ってくるブラックでシックでシュールなキメラ映像の融合。この感覚はどう表現したらいいだろう。触れないことによる想像力の倍加イメージも手伝って、このジャンクな感覚は、新しいものだった。

 シュヴァンクマイエルが描くオブジェに込めたものは、その素材の選定から触覚を大いに意識したものであることがぐっと身近に体感される。

●何故、触覚のシュルレアリスムなのか

 何故彼が触覚芸術に目覚めたかは、今回の講座では、映画が当局の弾圧で撮れなくなって、その期間に何か新しいことをしようとして触覚実験をしたと語られただけだったけれど、僕の推定はこうだ。

 粘土や樹の人形を使ってコマ撮りをするアニメータは、長時間手を使って撮影対象をこねくり回す。これは映画監督や2Dアニメ監督が対象を視覚と聴覚だけで捉えているのに対して、圧倒的な差異である。コマごとに粘土の形を指で変え、視覚的な形状の小さな変化の連続を映像として捉える。しかし彼の手はその触覚をひとコマごと感覚し、試写の際にはその触覚を明瞭に頭の中に再生しているのではないか。ひとコマづつが連続して流れることにより、その触覚の記憶も連続的に。

 ここでクリエータの脳内イメージとして感じられているのは、視覚だけでなく触覚の連続的なイメージである。粘土が変形する指がそこに食い込んで行くヌルッとした感覚。人形の材料である樹木の断片の持つごつごつした手触り。

 講座で映写された『闇・光・闇』が持っていたのは、粘土、樹、布、卵、毛、そして骨や動物の内臓や脳の手触り。脳そのものの手触りを脳内イメージとして視覚と触覚が稼動して立ち上げる。

 人形劇とコマ撮りアニメから出発したシュヴァンクマイエルのシュルレアリスムが触覚の芸術へと向かったのは、こう考えると必然に感じられる。

 そんなことを考えつつ観る、オブジェ作品は、今まで以上に刺激にとんだ脳内イメージを沸き起こしてくれた。触覚を想起しながらの鑑賞をお薦めします。

★長文になったので、続きは(2)で書きます。

◆関連リンク
渡邉裕之編集『ヤン&エヴァシュヴァンクマイエル展 アリス、あるいは快楽原則』(amazon)
Blog 辛酸なめ子の女一人マンション シュヴァンク先生

◆当Blog記事 関連リンク
造形と映像の魔術師シュヴァンクマイエル展 
エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー回顧展カタログ
エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー関連図録
エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーさん 逝去
『GAUDIA(ガウディア)造形と映像の魔術師 シュヴァンクマイエル』

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コメント

 tQyさん、こんばんは。

>>私も神戸から仕事のついでをかこつけて今週行ってきます。

 感想など、コメントいただけると嬉しいです。

>>粘土のコマ撮りは、私も何回かやったことがありますが、確かに触覚を刺激しますね。

 五感のうち、視覚と聴覚と嗅覚(匂い付き映画があったと聞きます)は、映像作品で再現されていますので、いつの日か触覚を直接表現するものも出てくるかもしれません。(ヴァーチャルリアリティの世界では既にありますね。シュヴァンクマイエルは知っているのでしょうか?)

投稿: BP | 2007.09.02 21:22

ヤン様って・・・(笑

私も神戸から仕事のついでをかこつけて今週行ってきます。

レビュー参考になりました。
粘土のコマ撮りは、私も何回かやったことがありますが、確かに触覚を刺激しますね。

ではでは。

投稿: tQy | 2007.09.02 17:14

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