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2007.08.29

■レポート④ ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展(2)
   @ラフォーレミュージアム原宿

 展示会のレポートの続きです。

●人形たちのインパクト

 葉山の展示会の時にインパクトがあったのは、『ファウスト』の人形(『舞台装置』と名づけられた作品)だった。
 今回の展示でも『ファウスト』の人形とセットを使って、『小劇場』という作品が展示されていた。舞台の中のセットと人形は少し前回と違うが、たぶん両脇に立つ巨大な2体の人形は同じもの。
 全体の印象は何故か少し違っていた。照明の関係だろうか。 

 今回、インパクトがあったのは、『悦楽共犯者』の人形二体を使った『ロウバロヴァーとピヴォンカ』という作品。

 会場でこの二体がいる空間は、何かまがまがしいものが漂っていた。前回の『自慰マシーン』の猥雑な空間も相当だったけれど、インパクトではこちらが勝ち。

 その他『アリス』の人形たちによる3つの作品も存在感が素晴らしい。
 前回もあった『兎とボート』の兎の顔は何度観ても飽きない。あとその兎が洋服を脱いで、裸の樹の人形と対峙する『帽子屋』。そして魚の剥製の貴族たちの『家』。

 これらも人形の質感を想像しつつ、シュヴァンクマイエルがどうひとコマづつ、触覚しながら動かしていったかをイメージすると、さらに味わい深い。舞台の横やうしろにも回れるので、いろんな角度からそんな想像をするのが、シュヴァンクマイエルの撮影風景をよりリアルに体感できる。
 

●メデュウム・ドローイング

 エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーの作品でとても気になっている『メディウム・ドローイング』であるが、今回も数点紹介されている。前回とは全部異なる作品で13作品。プラス『メディウム・オイル』と名づけられた同様のイメージの油彩の2点。

 いずれも眼や手や顔がモチーフになっていて、それらがなんとも言えない奇妙な、そして病的なタッチで捻じ曲がって描かれている。

 今回、ひとつ気づいたのは、モチーフとして二点に獣(たぶん狼)のイメージが大きく入り込んでいること。エヴァ氏はこうしたイメージをどのように抽出し、何を感じながら描いていたのか。抑圧したイメージが相当に浮かび上がっているので、質問するのが怖い気もするが、ご本人に一度でいいから聞いてみたかったと思う。すでに鬼籍に入られており、これは叶わぬことなのだが、、、。

 作品はいずれも2000年以降の最近のエヴァ作品。

 講座で話があったエヴァが書いていたヤン・シュヴァンクマイエルの映画脚本に、そうしたメディウム・ドローイングの内容が反映していたとしたら、、、。そして美術をエヴァが担当していたら、、、。シュヴァンクマイエル作品の幅をさらに深く広げることになったかもしれないこのイメージの導入は、我々ファンのイマジネーションを広げる。いや、この路線がファンを増やすのか減らすのかは、誰にも分からないのだが、、、。

Jan_svank_sign●触覚の一日としてのサイン会の意味

 そして17:00から整理券の順にサイン会が展示会場の外でスタート。

 順番がまわってきて、図録にサインをしてもらう。一人ひとりの時間が短いので、僕はペトル・ホリーさんを介して、講座がとても有意義だったことと、新作をがんばってください、と伝えただけだった。

 サインの際に握手をするのだけれど、シュヴァンクマイエルの手は大きく柔らかく暖かい感触を僕の手に残した。

 今日は触覚をめぐっていろいろと考えさせられた一日だったのだけれど、この握手の触覚がそんな一日の締めくくりになったのは、素晴らしく印象的で象徴的。

 この手が、あの映画作品のひとコマひとコマを作り出し、触覚実験を感覚していった手なのだ。ごく短い握手だけれど、その手の感触からいろんな触覚の想像を膨らませてしまった。まだ僕の手には、シュヴァンクマイエルの手が経験したいろんな触覚が微かだがイメージとして残っている気がする。その手が持っている感触がPCをタイピングする僕の指からこれら文章で伝わっていたらいいのだけれど、、、。

 このシュルレアリストのサイン会と握手は、触覚というキーワードで他と違う特別な意味を日本のファンにもたらしたのかもしれない。

 行かれた他の皆さんの触覚はいかがでしたか。コメントいただければ幸い。

●ちょっとしたまとめ

 2ヶ月前にダリ展を見に行ったけれど、実はあまり感動しなかった。高校の頃からずいぶん好きだったはずなのに、実物を見てもインパクトを今は受けなかった。

 シュヴァンクマイエルの作品は、ダリに比べると一見美術的な価値は低く見える。知名度はもちろんだが、ダリのがフォーマルな絵画の文脈の中にあり、シュヴァンクマイエルのアートはそこから外れてジャンクな感覚に溢れている。

 ダリ展の年齢層のそれなりに高い客層に対して、今回は若い人がほとんどな会場をみて、ダリが20世紀の代表的シュルレアリスムなら、こちらのジャンクで肉感的なシュヴァンクマイエルがもしかしたら21世紀のそれになるのかも、なんてことを考えていた。

 幻想的なチェコ人形アニメーションの映画作家という現在のシュヴァンクマイエルの位置づけは、しか本来映画の文脈だけでとらえるのでなく、映画にも絵画やオブジェやそうしたアートにも反乱を続ける戦闘的シュルレアリストと捉えなおした方がいいのではないかと思った今回の展示会だった。

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コメント

 おさるさん、こんばんは。
 こんなイベントがあるんですね。情報、ありがとうございます。

>>池袋P’パルコ地下1Fでチェコグッズを集めたミニショップ開催していて本日行ってきました!ヤンさまのデザインのオリジナル手ぬぐい、

 てぬぐい!!
 実に日本的なグッズとシュヴァンクマイエルのコラボ。いいですねー。

 遠くて行けないので、ネットで調べてチラシ等観て、楽しませていただきました。

 これからも情報があったら、ぜひ教えてください。

投稿: BP | 2008.04.26 20:41

池袋P’パルコ地下1Fでチェコグッズを集めたミニショップ開催していて本日行ってきました!ヤンさまのデザインのオリジナル手ぬぐい、サイン入りの人間椅子を購入!ほかにもチェコの新書&古書、おもちゃやイジーヴォトルバグッズ、アクセサリーとかかわいいのいっぱいありました!
5月11日までらしいです、はい。

投稿: おさる | 2008.04.26 02:25

 榊原遥さん、シュヴァンクマイエル展のレポート、ありがとうございます。たいへん、興味深く拝読しました。

>> しかし個人的には、会場に飾られた数多のコラージュ作品にこそ「触覚」への欲望を強く抱いていたような気がします。
 生々しい貼り合わせの跡をなぞってみたい……という欲望。あるいはアリスの衣装を飾るレース素材や『人間椅子』の婦人の髪を飾る毛皮を撫でてみたい……という欲望。万人に共通の衝動なのか、それとも私の個人的なものに由来するのかは、わかりませんけれども……。

 これ、少なくとも僕は凄く共感します。
 観ていて、とにかく一度触ってみたいという欲望が強く立ち上がりました。観ていた人のどれくらいの率でそう思った人がいるか、アンケートをとってみたい(^^;)。

 「個人的なものに由来」ということでは、僕もかなり特殊かと思います。というのは、この展示会に限らず、他の美術展や通常のショッピングでも実はつい何でも目の前にあるものを触ってみたいという欲求があります。

 親に「あなたはずっとつい小さい頃から何でも触りたがった」と言われたことがありますが、どうやらこうした点もシュヴァンクマイエルに共感を覚える理由なのかもしれません。何故、なんでも触りたがるかの理由は未だ解析できていませんが、、、。(だって触ってみないとわからないじゃない、という実にプリミティブな感覚と思うのですが、、、。)

 あの展示会に吸い寄せられている人が、実はかなりの率でそうした「触りたがり」の人々だと考えると、なんだか滑稽というか楽しくなります(^^;)。

>>「触覚」についてコメントするなら、やはりド直球とはいえ『触覚による肖像』と『実利主義への隷属(触覚の椅子)』が外せません。
 印象深かったのが、私の友人と『シュヴァンクマイエルのキメラ的世界』に登場したチェコのお姉さんとの『触覚による肖像』の受け取り方の違い。前者は「これは革靴、これは貝……」と"答え探し"に終始したのに対し、後者は「あら、どうやら子猫がいるみたい」と触覚による想像力を羽ばたかせていました。

 というわけで実際に触れる『触覚による肖像』はたいへん嬉しい展示。(でもかなりの人が並んで触ってみようとしてましたね)

 手を入れる時はかなりドキドキしますが、触ってみると、特別な感触ではなく、どっかで触ったことのあるものの感触だけで実はちょっとものたりない。どちらかというと僕は榊原さんのご友人に近い感想。
 触覚の想像力が足りませんね。

>>でも会場を出てみると、ヤンの「触覚遊び」より、エヴァ夫人のメディウム・ドローイングや油彩画のほうが強烈に印象に残っていました……。

 「触覚遊び」って、まさに言い得ていると思います。
 触覚でメディウム・ドローイングを観たときのような芸術的感動というものを感じるような素晴らしい作品というのは、ヤンの到達点の問題ではなく、ヒトの感覚の持つレベルの問題として存在するのでしょうか。この点が凄く今、興味があります。(その意味でも『アリス』のウサギとか帽子屋には触ってみたかった)

 あとエヴァのメディウム・ドローイングって、凄いですよね。
 あんなイメージを自動書記的に描き出していく時のエヴァさんの脳内感覚を想像すると、凄みがあります。

 どんなことを感じながら描いていたか、、、今は想像するしかありませんが、聴いてみたかった。

 ではでは、今後ともこういう話でお付き合いいただければ嬉しいです。よろしくお願いします。

投稿: BP | 2007.09.05 05:36

 こんばんは。
 私も8/30に足を運びました。開館直後でしたが、混雑にはならない程度の客足で(ほんとに女学生さんが多かったです……)終始ゆったりと回ることができました。

 「触覚」についてコメントするなら、やはりド直球とはいえ『触覚による肖像』と『実利主義への隷属(触覚の椅子)』が外せません。
 印象深かったのが、私の友人と『シュヴァンクマイエルのキメラ的世界』に登場したチェコのお姉さんとの『触覚による肖像』の受け取り方の違い。前者は「これは革靴、これは貝……」と"答え探し"に終始したのに対し、後者は「あら、どうやら子猫がいるみたい」と触覚による想像力を羽ばたかせていました。
 そして『実利主義の椅子』。「座ってみたい!」という欲望がむずむずと沸きあがるのを感じましたが、太股の当たる位置に鋭く画鋲が光っているのを発見してビックリ。「安全なもの」「無害なもの」のみでは表現され得ない、触覚のもうひとつの側面といった感じなのでしょうか……。

 しかし個人的には、会場に飾られた数多のコラージュ作品にこそ「触覚」への欲望を強く抱いていたような気がします。
 生々しい貼り合わせの跡をなぞってみたい……という欲望。あるいはアリスの衣装を飾るレース素材や『人間椅子』の婦人の髪を飾る毛皮を撫でてみたい……という欲望。万人に共通の衝動なのか、それとも私の個人的なものに由来するのかは、わかりませんけれども……。

 長々と書いてしまいましたが、私が感じたのは以上のようなところでした。
 でも会場を出てみると、ヤンの「触覚遊び」より、エヴァ夫人のメディウム・ドローイングや油彩画のほうが強烈に印象に残っていました……。

投稿: 榊原遥 | 2007.09.03 01:23

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