■ケリー・リンク,柴田元幸訳 『マジック・フォー・ビギナーズ:Magic for Beginners』
ケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』(amazon)
ハヤカワ・オンライン
アメリカ東海岸に住むジェレミー・マーズは、巨大蜘蛛もの専門の人気ホラー作家を父に持つ15歳の少年。毎回キャストが変わり放送局も変わる、予測不可能で神出鬼没のテレビ番組『図書館』の大ファンだ。
大おばからラスベガスのウェディングチャペルと電話ボックスを相続した母親とジェレミーは、そこに向けての大陸横断旅行を計画している。自分の電話ボックスに誰も出るはずのない電話を何度もかけていたジェレミーは、ある晩、耳慣れた声を聞く。「図書館」の主要キャラのフォックスだった。(略)
爽やかな詩情を残す異色の青春小説である表題作(ネビュラ賞他受賞)。国一つが、まるごとしまい込まれているハンドバッグを持っている祖母と、そのバッグのなかに消えてしまった幼なじみを探す少女を描いたファンタジイ「妖精のハンドバッグ」(ヒューゴー賞他受賞)。なにかに取り憑かれた家を買ってしまった一家の騒動を描く、家族小説の傑作「石の動物」。
ファンタジイ、ゴースト・ストーリー、青春小説、おとぎ話、主流文学など、さまざまなジャンルの小説9篇を、独特の瑞々しい感性で綴り、かつて誰も訪れたことのない場所へと誘う、異色短篇のショウケース。
長文の引用で申し訳ない。自分でこの人の作品の持つニュアンスを短い文で表現する自信がなかったので、引用した。
この短編集、素晴らしい味わいだった。"電話ボックスを相続する"とか"ゾンビの住む「聞こ見ゆる深淵」と人の町の間に開店したコンビニ"とか"恋した妻は死んでいてその間にできた死んでいる三人の子供と暮らす夫"とか、、、とにかくその奇妙な設定の魅力がまず印象的。そして繰り広げられる人間と奇妙なものたちの劇。
レイモンド・カーヴァーの作品は、普通の生活だけれど、根底に横たわる不安感寂寥感みたいなものが個々の登場人物の会話やちょっとしたしぐさに微妙なニュアンスで浮き出て、そこに漂う孤独感のようなものが絶妙な味わいを残す。
このケリー・リンクの作品には、奇妙な幻影のような事物で表象するしかないような複雑な何ものかの感覚が漂っている。それは必ずしも負のイメージばかりではないのだが、我々が抱えてしまっている現実の個々に先鋭化し一言でくくれない何ものかは、こんなアプローチが必要なほどこんがらがっているのか、という感慨を抱かずにはおれない。
でもこの奇想は本物です。お薦め。
◆関連リンク
・KellyLink.net(ケリー・リンク公式HP)
The Faery Handbag (「妖精のハンドバッグ」原文)
他の作品 インタビュー等もあり充実。
・ケリー リンク『スペシャリストの帽子』(amazon)
これも読んでなかったので、さっそく購入しました。
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コメント
say*3さん、さっそくコメント、ありがとうございます。
>>今月のSFマガジンにインタビュー載ってましたよ。
手元に(今)実物ないので確認できませんが・・・。
あ、今月まだ見てない。ここ10年ほどは立ち読みなのです、SFM。たしか今回の世界SF大会で来日したんですよね。日本の街はどっかリンク世界と近い気がするので、どんな刺激を与えたか、気になります。
>><プラチナ・ファンタジィ>、いつの間にか文庫からハードカバーになってしまってちょっと残念。
あ、そういえばそうですね。
でもこの本だったら文庫でなくても満足できますよ。僕は新聞の書評で豊崎由美氏が絶賛してるのをみて、即決しました(^^;)。
投稿: BP | 2007.11.04 23:01
今月のSFマガジンにインタビュー載ってましたよ。
手元に(今)実物ないので確認できませんが・・・。
<プラチナ・ファンタジィ>、いつの間にか文庫からハードカバーになってしまってちょっと残念。
投稿: say*3 | 2007.11.04 22:20