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2007.11.19

■小宮 正安 『愉悦の蒐集ヴンダーカンマーの謎』

小宮 正安『愉悦の蒐集ヴンダーカンマーの謎』

 この本を読んでまず思ったのは、世界がその隅々まで解明されていない時代の想像力を刺激するワンダーな事物への人々の憧れとか遊び心といったものだった。

Wunderkammer この本に登場する珍奇なヴンダーカンマーには、科学に毒され(あえてそう表現してしまおう)、空想力が著しく制限された現代が持ち得ない精神の自由な感覚に溢れているといったら言い過ぎだろうか。

 著者の小宮氏がこんな風に書いている。

 存在が確認されているものはもとより、存在未確認のものすら、それを作り出してでも展示しなければならない。世界を映し出すヴンダーカンマーにおいては、存在する「はず」のものはまがい物であろうとも、堂々と蒐集された。

 この本に溢れている人々が奇妙なものを求めてやまなかった好奇心には凄く憧れる。何か珍しいものに強烈に惹かれる人々。仰天させることに無常の楽しみを感じる蒐集家とそれを観る人たちの感じた驚異の世界。奇想な小説や映画を観て感じる驚異を、現実の世界で体験していた人々の愉悦が紹介される展示物の数々から感じられる。

 こうした幸せな時代の想像力にシュルレアリストたちがインスパイアされていた事実もさもありなん。現代は科学やテクノロジーによってその驚異を感じるのしか残されていないのかも。SFが生まれてきたメカニズムもこんなところに原点がありそうな気がしてくる。

 奇想と人間の関係を紐解くのには、最適なガイド本である。

◆関連リンク
高山宏の読んで生き、書いて死ぬ
 『愉悦の蒐集-ヴンダーカンマーの謎』

ヴンダーカンマー研究書は、ぼく自身、一時かなり蒐めたものだが、肝心の図版類はどれもこれも似たようなもので、あまりインスパイアされることがなくなっていた。見たこともない視覚材料で網膜がおかしくなるのは斯界御大のパトリック・モリエスの"Cabinets of Curiosities"で、2002年。眺めて嬉しいという点では、小宮氏の本はお世辞でなく、それ以来の嬉しさである。文化史ファン必携。

Patrick Mauries "Cabinets of Curiosities"
ニッポン・ヴンダーカマー荒俣宏の驚異宝物館
・当Blog記事 小宮 正安 『愉悦の蒐集ヴンダーカンマーの謎』

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