■押井守原作・総監修 『真・女立喰師列伝』
『真・女立喰師列伝』(amazon)
真・女立喰師列伝オフィシャルサイト Wikipedia
遅ればせながらDVDで観ました。
あちこちで述べられているように、前作『立喰師列伝』とは随分と雰囲気を変えた観やすいエンターテインメントな連作短編集。各監督の個性を楽しんで観られるのがうれしい。
映像としては『立喰師列伝』のような2次元と3次元を複合したような面白さとかはなかった。あと一本戦後史として縦糸がしっかりとあったのが、今回はそうしたものはなく、一作ごと楽しめる作り。
個人的に好きな順に短い感想です。
■「草間のささやき 氷苺の玖実」 主演:藤田陽子
監督・脚本・撮影・編集:湯浅弘章
唐黍畑の中、妖しい美しさで通りすがりの男たちを惑わせる女。エロティシズム溢れる美的映像詩。
一番映画らしい作品。
緊張感のある映像。夏の唐黍畑の雰囲気と、語られる物語の親和。
畑の生き物たちのクローズアップをインサートする手法とか、風に揺れる葉とそれをカメラの移動でとらえた動的な画面作りもうまい。
本編の湯浅監督は、別のいくつかの作品の撮影も担当している。『真・女立喰師列伝』にひとつのトーンがあるとすると、撮影の湯浅弘章氏の個性なのかもしれない。各作品のタイトルのところに撮影スタッフは記したが、4篇プラスOP,中CMが湯浅弘章氏撮影。
この監督、今後も要注目ですね。アニメも撮ったら面白いかも。
■「歌謡の天使 クレープのマミ」 主演:小倉優子
監督・脚本・撮影・VFX:神谷誠/撮影:村川聡
1985年の原宿を舞台に、ブラックユーモアたっぷりに描く、虚実入り交じった「もう一つの昭和アイドル史」。
前作の昭和史の側面を引き続き描いた作品。最初はタイトルに引いていたのだけれど、アイドルをアメリカの策略として描いて、ひとつの昭和史を浮かび上がらせた手腕がなかなか。
B29二機と日本中にTV放映網を整備する予算が同じくらい、というトリビアにも感心。この作品は前作同様の写真の切り絵のようなアニメーションでみせてもらってもよかったかも。
■「金魚姫 鼈甲飴の有理」 主演:ひし美ゆり子
監督・脚本:押井守/撮影:坂崎恵一、撮影/編集:湯浅弘章
“伝説の女立喰師”をめぐるエロティックな幻想譚。アンヌ隊員ことひし美ゆり子・32年ぶりの主演映画が、押井監督の熱望で実現。
映像と雰囲気の作品。
短い中で緊張感のある画作りがされている。それにしてもひし美ゆり子に一言もしゃべらせないとは。
■「ASSAULT GIRL ケンタッキーの日菜子」 主演:佐伯日菜子
監督・脚本:押井守/撮影:湯浅弘章
AD 2052。巨大降下猟兵に乗って地球に降り立つ女大佐(カーネル)。戦艦やメカへの押井監督のフェティシズムが炸裂する異色SF編。
なかなか迫力のCG。
だけど予算が余りかかっていないのはよくわかる。
この作品観ると、押井守が『GARUM戦記』を撮りたいのだろうな、というのがよくわかる。
本作のオチはあんまりでしょう。
■「荒野の弐挺拳銃 バーボンのミキ」 主演:水野美紀
監督・脚本・撮影・編集:辻本貴則/編集:湯浅弘章
“幻のバーボン”を求めてさすらう美貌の女立呑師が壮烈なガンアクションに挑む痛快ウエスタン。
ひさびさに西部劇を楽しめた。
アクションシーンがなかなか。
■「Dandelion 学食のマブ」 主演:安藤麻吹
監督・脚本:神山健治/脚本:檜垣亮、撮影:村川聡
神山店長のファミレスに深夜現れた謎の美女。本作品中随一のスリリングでリリカルなラブストーリー。
これ、神山監督ファンとしては悲しすぎるのだけれど、心を鬼にして言えば、出来が恐ろしく悪い。自主映画でももっとしっかりした作品はいくらでもある。脚本も月並み、撮影もあまりにもだるい絵が多く、なんでこれがあの『SAC』と同じ監督の作品かと我が眼を疑った。
「映画は撮ったことがない」というのはSTUDIOVOICEに連載中の神山監督のエッセイのタイトルだけれど、この作品はファンとしては、神山監督第一回実写映画作品とは呼びたくない(^^;)。
画面のレイアウト、実景の切り取り方 そうしたもので映画の空気感が出てくるはず。それは撮影機材がたとえディジタルビデオカメラであったとしても。
ファミレスと街という極日常の風景を選んでしまったのがまず敗因かもしれない。しかしそれでもうまい監督とカメラなら、その切り取り方で映画になる可能性は充分あったはず。
緊張感のない、まるでファミリービデオのようなカメラアングルがつらい作品。
クランクインと映画公開の時期を誤解していたらしい神山監督、今回の作品は日程の問題とファンとしては思いたいものです。次回、期待します。
◆関連リンク
・湯浅弘章監督
1978年、鳥取県生まれ。大学在学中よりミュージック・クリップを監督し、卒業後、林海象監督や押井守監督など数々の作品で助監督を務める。映像制作プロダクションのデイズにて押井監督作品ほかの演出や制作助手等を務める傍ら、自らの監督作品の企画・脚本執筆を続け、06年、第28回ぴあフィルムフェスティバルで入賞、函館港イルミナシオン映画祭の第10回シナリオ大賞でグランプリ受賞。本作『真・女立喰師列伝/草間のささやき 氷苺の玖実』(07年)で商業映画デビューを飾った期待の新鋭。また、本作品収録の多くのエピソードで撮影を担当し、美しい映像を紡いでいることも特筆に値する。
押井守の実写映画での弟子?
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コメント
まいどです。やや浮上しましたが大事を取ってます。
>これ、やはり美しいですね。
ふんわりとでも澄んだ映像に仕上がってましたね。
玉蜀黍畑から青い匂いが立ち上る感じがすばらしい。
>撮影を湯浅氏にしていないのも、押井の○略だったり。
「お前は一から覚えろっ!」ってな師匠の愛ですよ、きっと(^m^)。
投稿: shamon | 2008.05.03 09:47
shamonさん、いかがですか?
>映像的には一番好み。
これ、やはり美しいですね。
>ひし美さん、「スカイ・クロラ」にご出演です。
へー、どんな役なんでしょうね。僕も小学生の時からの菱見(やはりこちらの字の方がアンヌ隊員らしい)ファンなので、楽しみ。
>師匠の策○だったりして^^;。
おー、ありそう。
撮影を湯浅氏にしていないのも、押井の○略だったり。
投稿: BP | 2008.05.03 09:32
TB感謝です。
>■「草間のささやき 氷苺の玖実」
幻想的な雰囲気の作品でしたね。
映像的には一番好み。
>それにしてもひし美ゆり子に一言もしゃべらせないとは
ひし美さん、「スカイ・クロラ」にご出演です。
http://blog.mf-davinci.com/mori_log/
の4/19分をご覧ください。
>クランクインと映画公開の時期を誤解していたらしい神山監督、
SF大会での講演(リュウの付録)でも仰ってました。
師匠の策○だったりして^^;。
投稿: shamon@低空飛行中 | 2008.05.02 18:29