■辻 惟雄『奇想の江戸挿絵』
辻 惟雄『奇想の江戸挿絵』(amazon) 試し読み(集英社公式HP)
(略)北斎・馬琴の『新編水滸画伝』『椿説弓張月』から無名の作者、絵師の作品に至るまで、幽霊や妖怪、異界のものたちが跋扈し、生首が飛び、血がしたたる、残虐とグロテスクに満ちた「奇想」のエネルギーが横溢しており、斬新な技法、表現、意匠の実験が絶えずくりかえされている。
・はじめに 江戸後期挿絵の魅力
・第1章 「異界」を描く ・第2章 「生首」を描く
・第3章 「幽霊」を描く ・第4章 「妖怪」を描く
・第5章 「自然現象」を描く ・第6章 「爆発」と「光」を描く
・第7章 デザインとユーモア
日本人は静的でなく、動的な絵を描くことを昔からしていた、という言説とその例示としてのダイナミックな奇想画のコレクション。随所に現在の漫画、アニメの文脈へとつながっていくイメージが散らばっている。
特に「自然現象」、「爆発」と「光」とか人物のクローズアップとか。
大友克洋『AKIRA』の絵との比較にも触れられている。当時の読者へのインパクトが、現代人が大友漫画を見たのと同じものだったのではないか、と書いているところがさもありなん。江戸の町で、和紙に印刷された浮世絵で、大友漫画と同じサイバーパンクな感覚を江戸人が楽しんでいたかと思うとリアル。
よく日本人は平面(2D)、欧米人はかたまり(3D)で事物をとらえていて、工業デザインにその嗜好が表れている、という記述はみたことがあり、事実自動車デザインにそれが顕著なのも実感していたのだけれど、ここに動的/静的という対立項を持ち込むと、もっと面白い分析になるかもしれない。本書でもそれほどこの部分は記述されていないが、今後、折に触れ考えてみたいと思った。
では、インパクトのあった絵の紹介(残念ながら図版はネットにはほとんどないので、興味がわいたら是非本書、ご一読を)。
P27 月霄鄙物語. [前],後談 / 四方歌垣主人 著 ; 柳々居辰斎 画
この火車の映像の迫力が凄い。色を思わず想定して見てしまうダイナミックな絵。
P92 戯作者神屋蓬洲「天縁奇遇」の全身口だらけの妖怪野風。
この描き込みは素晴らしい。水木しげるの緻密画にはかなわないけれど、この土俗的な感覚がとてもいい。この野風の絵が引用してある→Hugo Strikes Back!さん: 読んだ本「奇想の江戸挿絵」
P99 馬琴『十三鐘孝子勲績』の挿絵
丸い目の妖怪のキャラクター性が際立っている。
P105 歌川広重『平清盛怪異を見るの図』
多数の髑髏が庭に現われている図 夢幻なタッチがたまりません。
P121 蹄斎北馬『尼城錦』
陰影を利用したモダンなタッチの狐の絵。これ、結構怖い。
P152 北斎『新編水滸画伝』
火山以外には当時見る機会のなかったはずの爆発を描いた迫力の一枚。
閃光の描写が素晴らしい。
P162北斎『霜夜星』
瓦の落ちるシーンにスローモーションの技巧が使ってある。当時の究極映像である。
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コメント
anonさん、はじめまして。コメント、ありがとうございます。
>>つかぬ事をお伺いしますが、ページトップの写真はどちらの場所ですか?
究極映像研の建屋から見える景色です、、、ってすみません嘘です。海外のある公共施設の屋上からの光景です。5年ほど前、海外出張の間の日曜に訪れた時の写真。
もったいぶるような場所でもないのですが、どこかは描かない方が少しミステリアスでいいかな、と勝手なことを思ってます。
ドームがヒントだったりしますが、、、、まずは内緒とさせて下さい(^^;;) anonさん、もしかしてこの街、ご存じ?
投稿: BP | 2008.06.03 23:44
興味深い記事に魅かれて、最近、貴ブログを訪れるようになったものです。
つかぬ事をお伺いしますが、ページトップの写真はどちらの場所ですか?
投稿: anon | 2008.06.03 07:34