■平山 夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』
平山 夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』(amazon)
遅まきながら平山夢明氏の短編集を読んだ。この平山夢明氏って、自主映画番組えび天で、「ペキンパーの男」を作ったデルモンテ平山氏らしい。僕は「怖い話」シリーズを一冊読んだことがあるだけだったので、どんな小説世界が開陳されるか期待してページをめくった。
噂に違わぬ傑作。暴力と人体改変等の強烈なインパクトのある7編の短編。
良かった順に簡単な感想です。もともと映画を撮っていた人なので、このままヒットを続ければ、いずれ自作の映画化もあるのかも。
「Ω(オメガ)の聖餐」
映像的に強烈なイメージ。Ωの異様さにゲぇッとなりながら、数学の探究とか、幼い頃の匂いの記憶と養蜂家のエピソードで清廉なイメージをパラレルに感覚させる話。この重層的な幻想、たしかに癖になりそうなトリップ感がある。
「C10H14N2(ニコチン)と少年 ― 乞食と老婆」
いじめられるこどもの視点と大人の世界。乞食を通して語られる恐ろしい街の現実。しかし一皮剥けたこの世界が、どっか日本の典型のように見えてしまうところが凄く怖い。
「無垢の祈り」
これも現代の子供の世界の闇を描いた作品。
ラストに登場する者に象徴化するイメージがなんだか凄い。何が描かれたか、実は具体的に掴めないのだけれど、それでもこのラストの必然は無意識の何かを形象化している感覚で凄い。
「独白するユニバーサル横メルカトル」
タクシードライバーと地図の物語。
半村良の「箱」を思い出した。もう一歩ひねりあったら傑作かなーって感じ。
「卵男(エッグマン)」
ラストへ向けた変転がうまい。幻の記憶のリアリティと、隣の独房の男の言語崩壊感が面白かった。この作品、CGアニメ化されるのですね→ここ(Egg Man)。
「すまじき熱帯」
『地獄の黙示録』21世紀版。熱帯世界のガイキチな社会に頭がクラクラしてくる。これにも言語崩壊なシーンがいくつもある。
「オペラントの肖像」
異様な社会体制と芸術の位置づけの変容と、そこでのラブストーリー。
ラストのまとめかたが鮮やか。
「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」
この拷問話は痛すぎる。痛さに著しく弱いので、いちばん後ろに来ました。
◆関連リンク
・光文社エンタテインメント Blog:
3刷できました。新オビです。パネルも作りました。
・咄嗟の判断でオリーブオイルをよける:
「平山夢明とデルモンテ平山のゴミ鍋~大毅サイボーグになれ編 」
・Edoardo Belinci ARTWORK Gallery
表紙のイラスト「WATERMETER」のアーティストのギャラリー。
ここ、なかなか素晴らしいので、明日の記事へ続きます。
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コメント
イワナミさん、おはよーございます。
>>僕も読みましたよ〜めちゃめちゃ気持ち悪かった記憶があります。
そーなんですよね、万人にはお薦めできないね。
僕もスプラッターは全然ダメなのですが、この本の「Ω(オメガ)の聖餐」と「C10H14N2(ニコチン)と少年―乞食と老婆」にはKOされました。
あの異様なヴィジョンは素晴らしい。強烈なシーンがスパイスになって全体を印象的にしているのは間違いないですが、、、。
>>これっきり平山氏の作品は手にとってませんが他に良いのあるんでしょうか?
>>あっても読むかな〜
帯にあるように確かに癖になりそう。
恐る恐る他にも手を出してみようかなー。
投稿: BP | 2008.06.14 08:02
僕も読みましたよ〜めちゃめちゃ気持ち悪かった記憶があります。
毎年『このミス』一位は読みますよ。
発表後すぐ読みます。たいがいはずしませんが、コレはかなりキショかったです。
乙一のハードコアバージョン畸形有りって感じな印象でした。これっきり平山氏の作品は手にとってませんが他に良いのあるんでしょうか?
あっても読むかな〜
投稿: イワナミ | 2008.06.10 20:35