■東京都現代美術館『スタジオジブリ・レイアウト展』カタログ図録
宮崎駿 金田伊功 大平晋也のレイアウト画
スタジオジブリ・レイアウト展(NTV)
公式ブログ
田舎住まいゆえ、こうした首都圏のイベントは指をくわえてネットの評判を読むしかないのですが、今回shamonさんのご厚意で図録を手に入れることができました。東京のイベントのレポート等、いつもお世話になりっぱなしです。>>本当、感謝しています、shamonさん。
で、展示で実物を見ることはかないませんが、その分図録は誰にも負けないくらい穴があくほど、この二日間、観ました(大袈裟(^^;) 穴と言えばタップ穴は元々開いてますがね(^^)) これは400ページを超えるその図録のレポートです。(レイアウト図はページあたり1~8枚掲載。平均4枚/頁として1600枚の大画集)
◆宮崎駿の重厚なレイアウト
まずはなんと言っても、やはり宮崎駿のレイアウトである。
たぶん体感的には全体の1/5ほどが宮崎のレイアウト画ではないかと思う(本当のところどれくらいか無性に知りたい)。
もちろん『アルプスの少女ハイジ』や『未来少年コナン』におけるレイアウトシステム成立時のTVゆえシンプルだけれども、それが逆に構図として強い力を持っている初期の作品も素晴らしい。
でもその本領は、より緻密さを増して画面の情報量が過激に過大になっていく『もののけ姫』以降の作品である。特に僕は引用した『ハウルの動く城』の城のレイアウトが強い印象に残った。
各原画家の特徴は、細部のタッチとさりげなく省略している遠景の人物の表情等に表れているように思うが、まさに「動く城」は宮崎の真骨頂。ゴテゴテと積み上がった不定形のメカニズム、そしてその質感を活き活きと描きだすその鉛筆のタッチ。重量感溢れ山岳の草原をのし歩く圧巻のイメージ。ここらはCGを利用して重量感を出していたアニメの映像そのものよりもむしろ素晴らしいのではないか。作家のプリミティブな脳内イメージが鉛筆の先からほとばしるこのダイナミズム。(印刷の縮小された絵でもこれだけ力があるから、原画はさぞかし、、、。観られないのが本当に悔しい。是非各地巡業を企画してほしいものである)
それにしても、初期の映画作品よりも、この『もののけ姫』以降でのレイアウトの宮崎率が高いような気がするのは気のせいだろうか。年齢とともに作業の効率化を狙って、原画への介入を減らし、レイアウトを自ら描くのを増やしたのかもしれないが、恐るべきパワーである。
それにしても特に『ナウシカ』『ラピュタ』『紅の豚』等の初期・中期長編で気の抜けたような構図の甘いカットがかなりの比率で入っていたと思うけれど、それらは今回のレイアウト画を見ると、やはり宮崎の手になるものではないですね。鉛筆のタッチとかが違う。そういう部分もあぶり出してしまうわけで、資料的な価値としてもこの図録は素晴らしいと思う。編集は奥付によると、東京都現代美術館のスタッフでなく、スタジオジブリらしいけれどとにかくまずは感謝。
◆その他アーティストの作品
まず注目したのは、『となりのトトロ』のレイアウト画。
あの里村の光景が詩情豊かに描かれている。特に素晴らしいのは、左に引用した夕焼けの光景。省略された線と色鉛筆の色のタッチが凄くいい。
たぶんその絵柄からこれは宮崎作ではないと思う(でも赤で描かれたサツキの絵が宮さんっぽいかも)。
作画監督は佐藤好春氏であるが残念ながら作家不詳。
ここで苦言を呈すると、これが美術館の作品図録で、アニメのレイアウトは絵である、と解説文で複数名が書いているのにもかかわらず、画家の名前がひとつもないこと。この不備は絵画展の図録としては致命的であると思う。
アニメーターの不遇は世にいろいろと語られているが、それだからこそ、この図録では作家名を明記してほしかった。もちろん資料的な意味もだけれど、むしろアーティストを尊重する意味で。
もともとそうした作品として扱う予定のなかった作品で記録も残っていないのは理解できるけれど、それにしても宮崎の作品くらいは本人のチェックで分かるだろうし、作画監督に丁寧に確認していけばかなりの量が誰の手になるものか判明したのではないか。これだけの図録なのだから、全くこの点が惜しまれる。
◆アニメの地平を切り拓くアニメーターの画
その独特のタッチで有名な二人のアニメーターのレイアウトは、僕でも判別できる。
ひとりはこのBlogでもよくとりあげる金田伊功氏の『風の谷のナウシカ』。有名なアステルのガンシップによる襲撃シーンである。
そしてもうひとりは、『イノセンス』のバトーの落下戦闘シーンで有名な大平晋也氏の『千と千尋の神隠し』の釜爺のシーンのレイアウト。
金田のそれは、既に雑誌等で紹介されていたものだけれど、いつもの独特のアングルが宮崎絵コンテの統制のもと、抑えられているが抑えきれず金田タッチがみえみえ(^^;)。そしてアニメーションの原画として見るだけでなく、絵としてもこのタッチは素晴らしい。既に画家の頭の中に生成している虚構の映像の動きが一枚の絵にほとばしっている。それは色鉛筆を走らせる手をコントロールする脳の部位にも影響して、色の塗り方にも動きがにじんでいる(と言ったら修辞しすぎだろうか(^^;))。
これは大平晋也の絵にも言える。あの独特の輪郭がぼそぼそに分解したような動きがレイアウトの一枚の絵にもにじんでいる。アニメートも素晴らしかった釜爺のみごとなフォルムが画面の中で既に息づいている。この釜爺を主人公にした短編か何かを是非観てみたいものだ。8本脚というのがこの映画のようにひと処に留まるのではなく、外で動き回ったとしたら、アニメートとしてはすこぶる面白いものになると思うのだけれど。
この二人の個性的なアニメータの絵でわかるのは、動きで先端を切り拓いているようなアニメーターの絵は、一枚の絵を見てもその中には芸術的で天才的なタッチがうかがい知れるということ。原画を観ていないのが全くもって残念なのだけれど、きっとこの一枚が持つ迫力は芸術と称される絵画の持つイメージよりも観る者にインパクトを与えるだろうということ。(少なくともこの土日に24時間なんとかでずっーとTVに映り続けていたカイカイだかキキだかという、絵画の危機的な状況を示しているなんのセンスも感じられない凡庸な平板なタッチの某芸術家の作品よりも数倍の作品としての強度を持っていると思うのは僕だけではないはず、、、。)
アニメーションという、二次元のセルやディジタル画によるどうしても平板になりがちな絵の世界で、その設計図になる鉛筆による絵が魅力的なものであるということを質と量で示したこの図録は、20世紀生まれのアニメーションという映像の芸術の貴重な記録となっていると思う。この本を観て思ったのは、セルではなくこの鉛筆のタッチそのままで、アニメーターのイメージが映像化されたら、その画面の持つインパクトはどれほどのものだろう、という空想。作家の脳内イメージの原型がこの鉛筆のタッチであるとしたら、その映像はいかばかりのものになるのだろうか、、、それは今は想像するしかない。将来的に3D-CGと脳とのインターフェースがなんらか登場した時に、その映像は我々の眼前に現れるのかもしれない。
◆関連リンク
・『美術手帖 2008年 09月号』(amazon)
表紙が金田な美術誌!!これは素晴らしい事件です。
・『Cut (カット) 2008年 09月号』(amazon)
渋谷陽一氏の宮崎よいしょなインタビューはともかく、今回の展示のレイアウト画が17点掲載されています。遠方の方は是非。
・YouTube - 大平晋也 : Shinya Ohira MAD
・作画@wiki - 大平晋也
■千と千尋の神隠し
原画 千尋が釜爺のところへ行き、働かせてくれ、と頼み込むシーン
・shamonさんのレポート ひねもすのたりの日々: 「高畑・宮崎アニメの秘密がわかる。 スタジオジブリ・レイアウト展」
・当Blog記事
ガイキングオープニング 金田伊功の作画の進化 アニメータ磯光雄と『電脳コイル』
池谷裕二 『進化しすぎた脳』 感想 3 + α アニメーター磯光雄と金田伊功と脳の構造
磯光雄,井上俊之監修 『電脳コイル ビジュアルコレクション』原画2000点とタイムシート
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