■押井守監督『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』
死と対峙した陰鬱な秀作
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』公式サイト
完全な平和が実現した世界で大人たちが作った「ショーとしての戦争」
そこで戦い、生きることを定められた子供たちがいる。
思春期の姿のまま、永遠に生き続ける彼らを、
人々は《キルドレ》と呼んだ――。空と地表の境で繰り返される、終わらない、愛と生と死の物語。
◆結論
今回、押井もついにヒットを狙ってエンターティンメントに徹するか、と思っていた僕が馬鹿でした。宣伝キャンペーンはヒットのため頑張っているけれど、作品はエンターティンメントとして描かれてはいません(断言)。
これは気持ち悪い映画です。決して空中戦を描いた普通の恋愛映画ではないのでくれぐれもご注意を。
いつもの押井守的不条理映画として今回は死をテーマに描いている、というのが僕の結論。
死をもろにテーマにしたこんな重い映画はヒットはしないでしょう。だけれども押井守の映画としては、ストレートにシンプルに死をテーマにしたことで、生々しくそれが強烈に伝わってくる成功作と言えるのではないかなー、といった感想。
終わらない生は永遠に続く死と同じ、というのが今回のテーマ。
本当に観ていて吃驚するくらい陰鬱な映像。空戦シーンのみが活き活きとしていて、それ以外はまるで死人の日常を描いたように陰々とした映像が続く。
業界全体の作画力の低下と3D-CGの可能性ということを押井は語っているが(ORNADO BASE / 押井インタビュー)、それを逆手にとったテーマ設定と言えるのかもしれない。基地での日常として描かれる部分、特に死んだ眼のままでいいという草薙水素のアニメートへの演出の開き直りは凄まじい。その眼はまるで『イノセンス』の人形の眼と同じ。そして声の芝居に頼り、動きを極力抑えた芝居。ある意味、2Dアニメへの決別宣言ともみえる恐ろしい監督の判断と読める。
◆死との対峙
北欧のように見える寒々とした海の断崖の空撮映像が後半で描かれている。
このシーンを見ながら、僕はデヴィッド・リンチが年齢を重ね、死と対峙して制作した『ストレイト・ストーリー』や『マルホランド・ドライブ』を思い出していた。
リンチや押井守といったある種の妄想的な鋭敏な感受性が、死をその対象とすると、こんなにも独自の解釈が生まれてくるのか、といった感想。人形のような眼のキャラクターや雨に沈む空や海岸線の映像が全体として浮かび上がらせる「死」のイメージは強烈である。劇場内は無意識下に展開されたそのイメージで重い空気が充満。表面的な恋愛劇や空中戦でカモフラージュされているが、あの重い雰囲気の正体は、押井の感性がとらえている死の正体であると言い切るのは無理があるだろうか。
死が特別なものでないのは自明である。しかしある年代まではそれはフィクションとしか感じられない。しかし周りの身近な人たちの死と自身の年齢が進むことで実感されるリアルな死。
永遠に生きるキルドレの物語で明確になっているのは、一回限りでないことで日常に充満してくる死である。
これは函南雄一が草薙水素と見知らぬ街の酒場で二人飲むシーンに端的に表れている。そして三ツ矢碧が語る自分がキルドレでないか、子供の頃の記憶があるシーンしかないことの不安を語るシーン(まるで『ブレード・ランナー』のレプリカントそのものである)。
リアルな戦争がないと生を実感できない人間。そのために存在するキルドレたちの戦争。永遠に生きられることでいつでも死を見せることのできる存在たちが苦悩する姿。
◆若者へのメッセージとは
NHK 夏の特集番組 アニメ監督・押井守のメッセージ~新作密着ドキュメント~(仮) 8月4日(月)総合 午後10:50~11:30.
その押井が今夏、4年ぶりとなる新作アニメ映画「スカイ・クロラ」を発表する。押井はこの作品に「生まれて初めて『若者』へのメッセージを込めた」と語 り、周囲を驚かせた。これまでは10代後半~30代の若者たちに絶大なる支持を受けながらも、「若者たちに語ることは何もない」とひたすら自分自身に向け て作品を作り続けてきた押井。ところが55歳となり、「今なら若い人になにかを語れるのではないか」という心境になったというのだ。そのため脚本家に20 代の若手を抜擢し、これまでの難解なSF的世界ではなく「若い男女のラブストーリー」を目指すなど、新境地を開拓すべく自分よりはるかに若いスタッフと対 話を重ねながら製作作業を進めてきた。
今回、押井守は初めて作品で若者に語りたいことがある、と公言している。それはいったい何なのか。僕は極々限られた状況にいる若者へ向けたメッセージなんだろうと思った。
対象としている相手は、最近の無差別殺人の犯人とその予備軍なのではないか。
自分と他人の双方に生と死の実感を持てず、自ら殺人を犯すことでその実感を手に入れようとする若者。事件を起こしてマスコミに登場することが目的だったと公言するわけのわからない認識。
たぶんその心理的なメカニズムは、この映画で水素が飲み屋で語ったことで説明できるのではないか。
リアルな戦争をTVにより報道することでしか生を実感することができなくなっている人間の脳の問題を指摘したシーン。
TVで殺人事件の報道を見ることでしか、生のリアリティを確保できない者たちが少なからず存在するのが、現実の平和国家 日本の実情なのかもしれない。そしてそんな存在が、自らの生を実感するために、TVでの報道を目的に自分で殺人事件を引き起こしてしまうのでないか。仮想をまとい何重にもオブラートで包まれて、死とかけ離れた現実を生きるそんな人へ向けたメッセージがこの映画なのかもしれない。
では、その対象となる人物に、この映画はそんな認識をちゃんと付きつけられるだろうか。答えはノー。きっと彼らは、無意識で何かを感じたとしても、決して表層の意識ではこの映画からそんな本質的な指摘を何も感知できないのではないか。どだいそんな感受性があれば、事件を起こすようなことはないはずだ。ここらあたりもこの映画の限界を感じて、陰々としてしまう部分。
この映画が広く観られて議論が進んで、この日本の実情が変わるかといったら、おそらくこれもノーだろう。実に現実分析としては面白いが、その実効力は疑問。またしても非常にマニアックな映画になっているというのがこの点でも言えるかもしれない。でも映画祭では受けるかもね。
◆その他 雑記
・冒頭の空中戦と雲の描写とそれにかぶる音楽でゾクゾクした。
『パト2』の音楽に似た旋律がかすかに鳴っているのがいい。
・生き続けるからこそ、死を何度も経験し、いつも死を抱いているキルドレ。それを見つめて彼らが戻ってくるたびに尻尾を振るバセハンが哀れ。そして笹倉等の地上の大人たちの寂しげな瞳。ここにも死を見つめ続ける者たちがいる。
・空手やって何かが変わったようなことを言っているのは恐らくブラフ(^^;)。
この映画、押井守が何も変わっていないことの証明。
・音響が今回も素晴らしい。古い建物の床がたてる音。音の厚みが平板な絵を助けている。そして飛行機のリアリティ。エンジンの音と風切り音、そしてアルミの軽量なボディが空気にあおられる動きの描写。空力に配慮した映像と音が特にいい。
・森作品に感じるプラモデルのような人物。
・今回、原画に沖浦氏はいない。
本田雄,井上俊之の名前はあるが、どこを担当しているのだろうか。
僕は作画的には、大プロジェクトの後のブリーフィングと、それに続くボーリングのシーンがやたらうまかったのが印象的だった。
・永遠の子供(まるでアニメの世界)に対して、外部としてのティーチャー。
・菊池凛子の声の存在感が凄い。「いるかいないかこのふたつしかない」とか
◆関連リンク
・スカイ・クロラ - Wikipedia
・『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』動画を無料放送<パソコンテレビ GyaO[ギャオ]>
行定勲監督のが本編の本質を抽出している。
無理だろうけど、この空戦の素材で宮崎駿にも予告を作ってもらいたいもの。
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コメント
木達さん、こんばんは。
>>http://www.style.fm/as/01_talk/nishio_sky_01.shtml
>>こちらのサイトで作画について色と書かれていますね
アニメスタイルの記事はいつも参考になります。
このような活動がアニメータの地位向上に結びつくといいですね。
あまり期待してませんが、もし麻生が総理になったら、アニメを国として育成するような政策もありですかね。へたな補助金よりアニメータの芸術家としての認知活動(たとえば美術館での原画展の開催とか)が有効かも。
投稿: BP(木達さんへ) | 2008.09.05 22:17
ttp://www.style.fm/as/01_talk/nishio_sky_01.shtml
こちらのサイトで作画について色とかたれれていますね
第三回ではどなたがどのシーンを担当なされたかとうとう
投稿: 木達 | 2008.09.02 15:52
まいどです。BPさん。
>shamonさん以外にいるんでしょうか?果たして。
いないでしょう^^;。
行定監督はわからいでもないけど、
西尾さんの写真とインタビューには店頭で観てびっくらこきました。
公式サイトの最新号目次(いつ変更されるかわかんないけど)
http://www.fujinkoron.jp/newest_issue/index.html
に
我が心の師……西尾鉄也
とありますよ。
若かりし頃のお二人のエピソードとかおもしろいです。
殿方は図書館でどうぞ~。
投稿: shamon | 2008.08.18 02:06
KEN-Gさん、shamonさん、コメントありがとうございます。
イベントと雑誌の情報、どちらも貴重です。ありがとうございます。東京近郊でないと手に入らない情報は、地方在住映像ファンBlogとしては、こうしてコメントいただけると本当にうれしいです。
>>つい先ほど、ロフトプラスワンのイベントから帰ってきました。何と言いますか。。。作画の事を事細かに語り合う言うよりは、黄瀬さんの押井作品への思いを語るワンマンショー的な趣もありました。黄瀬さん、毒舌にも程があります。
これ、凄く面白そう。もしかして完全オフレコ?といってもどこかで詳細レポートされてしまうのがネット時代なので、近々検索かけて調べてみます(^^;)。
>>あと、件のボーリング場はやはり本田さんのようで、レイアウト、絵コンテ、原画を繋げた映像で説明してくれました。
これも素晴らしい!本田氏が自ら語っているのですよね。こういうの貴重な映像の制作情報になりますね。
>>自分も一昨日観たのですが、やはりボーリングのシーンはすげー思いましたね。
たしかに無駄に凄い。
もっとキーポイントのシーンが他にあったろうと思うのですが、、、(^^;)。なんでボーリング??
>>あと、覚えてるのは、うつのみや理さんは、「かわいそうじゃない」って水素がいうとこをやったらしいです。
ここはまさにキーシーンですねー。
僕、大好きなシーンでした。
>>余談ですが、ロフトプラスワンで「Core Memory ―ヴィンテージコンピュータの美」の出版記念イベントもあって、それも行ってたりします。
>>超が何個も付くほどグダグダなイベントでした。。。
こんなんもイベントになっているんですね。グダグダでも行きたい(^^)
>>作画について1点。
「婦人公論」(^^;8/22号に
作監の西尾さんのインタビューが掲載されていて
うつのみやさんをリスペクトしてるとありました。
これは地方在住でも入手できますが、男性では無理(^^)。凄いですねー。今の「婦人公論」ってそんなものが載っているんですね。母が買ってましたが、まさに隔世の感。押井でなく、西尾インタビューというのが凄い。「婦人公論」読者でうつのみや理氏が誰かわかるのって、shamonさん以外にいるんでしょうか?果たして。
実は「婦人公論」は作画オタクの隠れた必読書???凄い時代ですね。
投稿
投稿: BP(KEN-Gさん、shamonさんへ) | 2008.08.17 22:50
まいどです。BPさん。夏風邪からようやく復帰です。
作画について1点。
「婦人公論」(^^;8/22号に
作監の西尾さんのインタビューが掲載されていて
うつのみやさんをリスペクトしてるとありました。
この雑誌には伊藤ちひろと行定監督の対談も載っています。
投稿: shamon | 2008.08.16 16:33
いつもと言う程頻繁にではないのですが、SF好き、リンチ好き、アニメ好きとして楽しく拝見させて頂いております。
つい先ほど、ロフトプラスワンのイベントから帰ってきました。何と言いますか。。。作画の事を事細かに語り合う言うよりは、黄瀬さんの押井作品への思いを語るワンマンショー的な趣もありました。
黄瀬さん、毒舌にも程があります。
あと、件のボーリング場はやはり本田さんのようで、レイアウト、絵コンテ、原画を繋げた映像で説明してくれました。
自分も一昨日観たのですが、やはりボーリングのシーンはすげー思いましたね。
井上さんは余りガッツリ関わっておられないみたいです。
コイルの方にかなり注力されてて、かなり後の方で入ってるとのこと。ただ、入ったら入ったで異常なスピードであげていたとも語っておりました。
あと、覚えてるのは、うつのみや理さんは、「かわいそうじゃない」って水素がいうとこをやったらしいです。
余談ですが、ロフトプラスワンで「Core Memory ―ヴィンテージコンピュータの美」の出版記念イベントもあって、それも行ってたりします。
超が何個も付くほどグダグダなイベントでした。。。
投稿: KEN-G | 2008.08.16 00:13
shamonさん、いつもありがとうございます。夏風邪いかがですか?
>>「スカイ・クロラ」の残酷なまでの光と影のコントラストはどこか細田「時かけ」に似てる。細田「時かけ」はタイムリープという小道具を使ってますが、”繰り返す生”は同じでどこかで死を匂わせてる。
>>そして押井の名作「ビューティフル・ドリーマー」も”学園祭の前日”を何度も繰り返している。
確かに繰り返しというキーワードで並べられますね。
でも志向はまるで違う。ここが面白いところですね。今回のはあまりに絶望の色が濃すぎた、何故?というのが僕の第一印象でした。
投稿: BP(shamonさんへ) | 2008.08.11 23:39
あんまりよう/あまりとなえさん、こんばんは。
>>今回の映画も、すべての事象、枝葉が個人それぞれの異なる感想、思惑を産ませる「豊かな」作品に仕上がっていると思います。個人個人が抱く記憶の中の、相似類似したイマージュを掘り起こさせるような。
NHKの特番で見ましたが、微妙なアニメートに相当今回凝ったようですね。無意識/意識下でのそこの感知の仕方で随分と見方が変わるということはあるのかも。
>>で、もう1回観るとまた全然違う印象を持つ映画なんだろうなあと。
うーん、そうかも。
確かに二度めを試したくなりますね。でも僕はまず『ポニョ』へ行きます。
投稿: BP(あんまりよう/あまりとなえさんへ) | 2008.08.11 23:35
卑下する石屋さん、コメント、多謝です。
>>本屋で何度か手にとって悩んだことはあるのですが、私にとって森博嗣氏はあくまでも漫画家であり、あの漫画を超えるものを小説が備えているとはどうしても思えなかったのです。
漫画って商業出版はされていないですよね。
そこまで書かれると読みたくなります(^^:)。
>>森博嗣氏は本作のパンフレットのインタビューで「今回の作品は原作の空気、世界などを非常に正確にとらえている」といった趣旨のことを語っているようで、その通りではないかと思います。
あの雰囲気は原作のものということでしょうか。
>>正確にはスカイ・クロラという本の世界観、空気というよりは、むしろ森博嗣氏自身の世界観、空気なのかもしれません。
僕が読んだ初期ミステリー作品とはちょっと違うと思いました。ミステリー以外も一回、読んでみた方がいいのかな。でも実はあれらミステリーで、この人の小説は僕には合わない、と実はその後手に取る気がしてなかったり、、、(^^;;)。
>>人は誰でも思春期を経て大人になります。しかしながら、大人になってもある種の『幼児性』を捨てきれない人もいます。
この観点は僕もいっぱい語りたいことはあります。このBlog自体そうした視点だけで成立してたりしますので(^^)。でもここでは語りきれないので、いつかBlogの方で『幼児性』ということより『子供』という観点で何か書くかもしれません。キルドレ的なものより、好奇心の点から書きたいことがいろいろあります。
>>話は変りますが、この作品に漂う生と死、転生、そして愛のイメージ、陰鬱な空気感、ある種だるい時間の流れ、どこかで観たことがあるとずっと思っていましたが、今気がつきました。タルコフスキーの『ソラリス』です。
>>検索したら押井守氏はタルコフスキーのファンのようですね。←ちゃんと調べてから投稿しろよ!
押井守がファンなのは知ってますが、僕は実はあまりタルコフスキーの作品と押井守作品は似たように感じません。あの静謐な世界と立ち喰いを根元に持つ世界の落差が許容でせきないというか、、、(^^;)。
タルコフスキーでは『ストーカー』のストイックさは凄まじいものがあります。
>>『明るい絶望』と『暗い希望』
>>この作品を暗いと感じるか、明るいと感じるか、こういう読み解き方もあるのではないかと思います。3Dと2Dの意図的な落差も説明がつくような気がします。
僕は今回の『スカイ・クロラ』は、「明るい絶望」のようには思えませんでした。では「暗い希望」かというとそういう二面性もあまり感じませんでした。
ただ永遠の生の辛さを描いた作品、と見えてしまったということです。ここは観客一人一人で感じ方の異なる点のようですね。
投稿: BP(卑下する石屋さんへ) | 2008.08.11 23:30
またまたの連投失礼いたします。m(_ _)m
検索したら押井守氏はタルコフスキーのファンのようですね。←ちゃんと調べてから投稿しろよ!
『明るい絶望』と『暗い希望』
この作品を暗いと感じるか、明るいと感じるか、こういう読み解き方もあるのではないかと思います。3Dと2Dの意図的な落差も説明がつくような気がします。
投稿: 卑下する石屋 | 2008.08.09 12:14
BPさま、お返事ありがとうございました。連投失礼いたします。
実は原作は読んでおりません。あははは。
本屋で何度か手にとって悩んだことはあるのですが、私にとって森博嗣氏はあくまでも漫画家であり、あの漫画を超えるものを小説が備えているとはどうしても思えなかったのです。
>あの雰囲気は原作から色濃くでているものなのですね。コラボレーションとしてはなかなか素晴らしいものだったわけですね。
その後ネットで検索したところ、森博嗣氏は本作のパンフレットのインタビューで「今回の作品は原作の空気、世界などを非常に正確にとらえている」といった趣旨のことを語っているようで、その通りではないかと思います。パンフレットがとても良い出来だと言うことで欲しかったのですが、売り切れでした。クヤシイ!
正確にはスカイ・クロラという本の世界観、空気というよりは、むしろ森博嗣氏自身の世界観、空気なのかもしれません。
人は誰でも思春期を経て大人になります。しかしながら、大人になってもある種の『幼児性』を捨てきれない人もいます。そして、それが良い意味で発現する人もいるし、悪い意味で発現する人もいる。森博嗣氏や押井守氏は前者であり、ある種の無差別殺人犯などは後者なのかもしれません。だとすれば、私を含めてこの作品に心揺さぶられる人もそうした『幼児性』を捨てきれない人でしょう。押井氏がこの作品を「若者へのメッセージ」と呼ぶのは、実年齢を指すものではないような気がします。
> 対象としている相手は、最近の無差別殺人の犯人とその予備軍なのではないか。 自分と他人の双方に生と死の実感を持てず、自ら殺人を犯すことでその実感を手に入れようとする若者。事件を起こしてマスコミに登場することが目的だったと公言するわけのわからない認識。
そういう意味で上記のBPさまの発言に同意いたします。本作が語りたいことの全てではないにせよ、明らかにそうした意図を含むのではないかと思います。
話は変りますが、この作品に漂う生と死、転生、そして愛のイメージ、陰鬱な空気感、ある種だるい時間の流れ、どこかで観たことがあるとずっと思っていましたが、今気がつきました。タルコフスキーの『ソラリス』です。BPさまのおっしゃるように絶対にヒットはしないでしょうが、映画祭(特にヨーロッパの)では受けるかもしれなません。ひょっとすると…。
それにしても日テレはこれを地上波で放送するんでしょうかねぇ。だとすれば勇気あるよなぁ。
投稿: 卑下する石屋 | 2008.08.09 10:55
>>shamonさま
はじめまして。コメントはちょくちょく拝見拝読させて
頂いてました。
芸能人、タレントの声優起用を全否定するつもりは毛頭
ありませんが、もののけ姫からこっち、もう宮崎駿の
映画は少なくとも劇場で観る気は失せました。
…ナウシカ連載〜映画公開のころはラジオのアニメ番組
ですら「みやざき・しゅん」なんて紹介してたりして
号泣していた頃もあったなあと(号泣は嘘)…今や
幼稚園児すら「みやざき・はやお」って知ってるよなあ
と‥余計な事でした。
ポニョ、相変わらず絵、場面で描写しているところを
更に科白で全部説明するところが変わらないなあとちょ
いと呆れ…海が○○なのも、船が××も、見りゃわかるよ
!
投稿: あんまりよう/あまりとなえ | 2008.08.08 21:57
連投失礼(・・ヾ。
原作者・森博嗣さんは大の萩尾ファンとお聞きしてます。
キルドレという存在は「ポーの一族」へのオマージュかもしれませんね。
鑑賞後しばらく経ってから思ったのですが、
「スカイ・クロラ」の残酷なまでの光と影のコントラストは
どこか細田「時かけ」に似てる。
細田「時かけ」はタイムリープという小道具を使ってますが、”繰り返す生”は同じでどこかで死を匂わせてる。
そして押井の名作「ビューティフル・ドリーマー」も”学園祭の前日”を何度も繰り返している。
こう並べてみるとなんだか不思議な気分に襲われます。
>あんまりよう/あまりとなえさま
>山口智子を起用したポニョと
>は大違いです。
まったくですね(苦笑)。
ポニョキャスト発表の折には爆笑しちゃいました。
映画どころか舞台にもろくに立たない人たちを
話題性だけで起用することが
本業の人たちに失礼って思わない・・・んでしょうね、○木Pは(苦笑)。
投稿: shamon | 2008.08.08 21:03
おはようございます。
遅ればせながら(って先週公開はじまったばかりか)
昨日観ました。トラックバックもさせて頂きました。
当初、役者ばかりのキャスティングに非情に疑問と
戸惑い怒りも覚えたのですが、実際に映画を観て、
確固たる意図をもって行われた配役と察知し納得
致しました。
単に話題づくりと、イノセンスのときに押井に拒否
された恨み?(笑)で山口智子を起用したポニョと
は大違いです。
今回の映画も、すべての事象、枝葉が個人それぞれ
の異なる感想、思惑を産ませる「豊かな」作品に
仕上がっていると思います。個人個人が抱く記憶の
中の、相似類似したイマージュを掘り起こさせるよ
うな。
で、もう1回観るとまた全然違う印象を持つ映画なん
だろうなあと。
何でも2回観る必要があるんだby及川ヒロオin
トーキング・ヘッド〜この科白も未だに自分の脳髄
に実感として焼き付いたまま。
投稿: あんまりよう/あまりとなえ | 2008.08.08 07:24
卑下する石屋さん、はじめまして。
なんだかイマジネーションにあふれるお名前ですね。いたく想像力を刺激されます(^^;)。
>>原作の森博嗣氏は私の高校の先輩です。学生時代から天才的漫画家としてその世界では有名でした。彼の作品のいくつかを所持しており、30年近く経った今でも私の宝物です。
残念ながら東海地方に同時期にいながら同人誌は買ったことはなかったですが、漫画は何かの雑誌採録かなにかで拝見したことがあります。
>>そういう視点から『スカイ・クロラ』を観ると、驚くほど森博嗣の世界の空気感を伝えてくれる作品になっていると感じました。小説だけではなく、彼の漫画を読めばそのへんが少しはわかっていただけるかもしれないなあ、と思います。おそらく、押井守はこの作品を作るに当たって森博嗣の漫画をかなり読んだのではないかと推察しています。
興味深いご指摘ですね。
この視点で評論など書かれたら面白いものになりそうですね。(SFレビュアーで押井映画の評論も雑誌に書かれている森氏の慢研の後輩だったという渡辺英樹氏の『スカイ・クロラ』評が是非読んでみたいものです。英樹さん、期待してますって、ここを読んでもらっているはずはないし、、、(^^;))
>>草薙水素のこちら側を透見するような目、特にたばこに火をつけてもらった後に見上げた時の目を観た時には、森氏の過去の作品がフラッシュバックして胸が高鳴りました。
森氏の小説はデビューから3冊ほど読みました。当時はウェブの日記も毎日チェックしたりしてました。最近、とんと読んでいないので『スカイ・クロラ』も未読、押井作品との比較が書けないのが寂しいです。
>>私には今までの押井守作品は、どちらかというと原作を換骨奪胎した上で押井色を前面に押し出した物が多かったように思えてならないのですが、それに対して今回の作品は原作の森博嗣の色も濃く反映されているように映りました。
あの雰囲気は原作から色濃くでているものなのですね。コラボレーションとしてはなかなか素晴らしいものだったわけですね。
>>「森博嗣という器に押井守という素材が見事に盛り付けられている」という京極夏彦氏のコメントが一番この作品を良く表しているのではないでしょうか。
以前から森作品と自分の作品の似通った部分を京極夏彦はコメントしていましたが、さすがに押井ファンでもある、この作家の眼力は鋭いですね。
今後も何かこうした面白い視点を紹介いただければ幸いです。よろしくお願いします。
投稿: BP(卑下する石屋さんへ) | 2008.08.08 01:05
shamonさん,Aさん、コメント、ありがとうございます。
>http://animesama.cocolog-nifty.com/animestyle/2008/08/post_3486.html
に「本田師匠のボーリングが巧すぎる。」とあります。
アニメ様の情報ですね。僕も観ました。
本当にため息が出るほどうまいですね。あと井上俊之氏はどこ描かれてるのか知りたいですね。
ロフト・プラスワンで、本田氏が登場する『スカイ・クロラ』イベントがあるようですね。
野良犬の塒さんの情報です。ロフトプラスワンで『スカイ・クロラ』のイベント 続報
>>ですが、私にはとても明るい映画に見えました。
>>確かに、ラストに至るまでは重く、暗い死の世界ですが、それだけにあのラストシークエンス、ユーイチのモノローグからスタッフロール後のラストシーンまでがとても映え、明るく絞めていたように思えます。
そのようにも受け取れますね。
ここは観客それぞれの映画を読み解く楽しみ、だと思います。
>>長々と駄文でした。すいません。
いろいろな見方ができるのが作品の楽しみですので、こうして感想を聞かせていただけるのはとても嬉しいです。今後もどんどん長文でコメントいただければ、幸いです。いろんな人のレビュウを読むのが三度のご飯より好きなのです(^^;)。
>これを見た友人が
>「未来版『ポーの一族』ね。」と言っていました。
>あることから不死の身体を手に入れ、
愛するものを失っても生き続けなければならない苦悩はエドガーたちヴァンパイアに通じます。
おー、ポーの一族ですか。もう読んでから三十年になります(^^;)。記憶を呼び起こすとどこか似ているようなイメージがかすかにあります。再読せねば(^^)。
投稿: BP(shamonさん,Aさんへ) | 2008.08.08 00:18
初めまして、卑下する石屋と申します。いつも楽しく拝見させていただいております。
本日『スカイ・クロラ』を観てきました。
原作の森博嗣氏は私の高校の先輩です。学生時代から天才的漫画家としてその世界では有名でした。彼の作品のいくつかを所持しており、30年近く経った今でも私の宝物です。
そういう視点から『スカイ・クロラ』を観ると、驚くほど森博嗣の世界の空気感を伝えてくれる作品になっていると感じました。小説だけではなく、彼の漫画を読めばそのへんが少しはわかっていただけるかもしれないなあ、と思います。おそらく、押井守はこの作品を作るに当たって森博嗣の漫画をかなり読んだのではないかと推察しています。
草薙水素のこちら側を透見するような目、特にたばこに火をつけてもらった後に見上げた時の目を観た時には、森氏の過去の作品がフラッシュバックして胸が高鳴りました。
私には今までの押井守作品は、どちらかというと原作を換骨奪胎した上で押井色を前面に押し出した物が多かったように思えてならないのですが、それに対して今回の作品は原作の森博嗣の色も濃く反映されているように映りました。
「森博嗣という器に押井守という素材が見事に盛り付けられている」という京極夏彦氏のコメントが一番この作品を良く表しているのではないでしょうか。
投稿: 卑下する石屋 | 2008.08.07 00:15
連投失礼します
>それに続くボーリングのシーンがやたらうまかったのが印
>象的だった。
http://animesama.cocolog-nifty.com/animestyle/2008/08/post_3486.html
に
「本田師匠のボーリングが巧すぎる。」
とあります。
なんだかもう一度観たくなりました。
投稿: shamon | 2008.08.04 10:45
とても面白いレポートです。流石!と思わずうなりました。
ですが、私にはとても明るい映画に見えました。
確かに、ラストに至るまでは重く、暗い死の世界ですが、それだけにあのラストシークエンス、ユーイチのモノローグからスタッフロール後のラストシーンまでがとても映え、明るく絞めていたように思えます。
また、真っ黒なスタッフロールの後に映る真っ白な空がとてもまぶしく思えたのを覚えています。
狙ったのかどうかは分かりませんがこれがとてもあたまの中に残っており、そのせいで明るい映画に思えているのかもしれません。
長々と駄文でした。すいません。
投稿: A | 2008.08.04 02:00
まいどです。BPさん。TBとコメント感謝です。
さすがのレポートですね。
やっぱりというか案の定というか
見事なくらいに押井映画でした。
>行定勲監督のが本編の本質を抽出している。
これを見た友人が
「未来版『ポーの一族』ね。」と言っていました。
あることから不死の身体を手に入れ、
愛するものを失っても生き続けなければならない苦悩は
エドガーたちヴァンパイアに通じます。
同時にそれを解決すべく取る行動は清水玲子「ミルキーウェイ」のエレナとよく似ています。
投稿: shamon | 2008.08.03 20:13