■レビュウ 古川日出男 『聖家族 生まれちゃったんだよ、俺たち。』
古川日出男と聖家族(公式サイト)
記録シリーズ・天狗 古川日出男|RENZABURO レンザブロー
扉一
狗塚らいてうによる「おばあちゃんの歴史」
扉二
聖兄弟・1 地獄の図書館・白石
聖兄弟・2 地獄の図書館・大潟
聖兄弟・3 地獄の図書館・郡山
聖兄弟・4
扉三
「見えない大学」附属図書館
扉四
記録シリーズ・鳥居 聖兄妹・1
記録シリーズ・天狗 聖兄妹・2
記録シリーズ・学府 聖兄妹・3
記録シリーズ・DJ扉五
狗塚カナリアによる「三きょうだいの歴史」
2005年の夏から書き進められ、ついに刊行された古川日出男渾身の2000枚の大作。738ページにおよぶ大部の小説を一ヶ月近くかかってやっと読了(結構遅読(^^;))。
読後の感想をどう記したらいいのか。これはわかろうとしてはいけない物語かも。
読むことによって通り過ぎて行ったもの/ことの残した痕跡/記憶のかけらを拾い集め、姿を変える全体イメージを、時々頭の中に浮遊させるべき本か。
、、、、、というわけで、Blogの短い文章でこの膨大なイメージを受け止めるために、今日は文章を破たんします、とあらかじめ宣言。
◆物語を喰い破る無意識の侵犯
羅列された記憶と歴史の断片が「無意識」の領域となって、物語という「言葉」の世界に属するもの/「意識」される何ものかを侵犯していく。
そうして読者の頭の中に展開される、広大な古川の脳内みちのくイメージ。
通常、作家は自らの脳内世界と格闘し、読者とコミュニケーションするために言語というツールを使って物語を紡ぎだす。
だが古川日出男は音楽も使用する。それは独特のテンポで切り出された言葉による音楽。文体というよりも音楽と呼ぶのがふさわしいような何ものか。音楽のような古川のリズムを直接体感するには以下をクリック。それは物語を破壊し、言語コミュニケーションの限界を越えようとしている作家の戦術。
朗読ライブラリ(古川日出男公式サイト)
聖兄弟・2 01_100k.asx (video/x-ms-asf オブジェクト).P225-229
朗読のリズムを体感し、その音楽的なテンポで彼の文章を頭の中の声として読みこむ。作家の頭のイメージが、読者の中に少しだけ正確に再現される気分。
だが「言葉」の世界でコミュニケートする我々読者は、物語部分にどうしても魅力を感じてしまう。
ダイナミックなイメージを展開するのは、やはり物語として構築された部分である。特に前半の短編はそうした色彩が強い。大部を読ませるため前半に置かれたこれも作家の作戦?
馬の切り裂かれた胴に頭を入れて死んだらいてうの夫。それを見てヂゴクを得た牛一郎と羊二郎兄弟の父 真大。
平成元年で時間を止め、街全体がテーマパークとなってしまった街 白石。(これは現実にそうした街が存在すると思わせるリアルな描写。しかし現実の白石はそうではない。)
前半の短編のイメージ喚起力は絶大。破綻の手前の物語がまず我々に提示され、リーダビリティを獲得する。そして続けて、後半炸裂する物語の破たん。
◆市井の長大な歴史のパースペクティブ
時間の切り取りのテク。語っている現在のポイントの跳躍。
壮大な家族の歴史、市井の人々の歴史を描くのに、個人の年齢を跳躍して描く手法。
『ベルカ吠えないのか』の犬たちの歴史。
『ロックンロール七部作』のロックの歴史。
それら市井の歴史を描く古川の筆。歴史を描く、音楽的な跳躍文体。歴史丸ごとを本の中に圧縮して閉じ込める古川日出男の実験は、さらに完成度を増し、この本の中にある。
◆私の読書の記憶としての記録
・おばあちゃんの歴史 異能の狗塚家の七百年
・聖兄弟 土地の記憶 ご当地ラーメン 殺人体術 対人練習
・図書館シリーズ 東北の三つの街 真大と有里が「見えない大学」のためのフィールドワークを進める
・鳥居の向こうから現れる神隠しの記憶 鉄と馬と剣の歴史
・見えない大学 附属図書館 船の形の図書館 両眼を包帯で覆った老人司書
・新興宗教 誘拐事件とDJたち 森の中の船
・記録シリーズ・天狗 歴史から不要とされた異類である烏天狗
◆関連リンク
・執筆中の日記(五月前半脱稿)
・古川日出男『聖家族』(amazon)
・当Blog記事
超大作『聖家族』シリーズ 朗読ムービーファイル
朗読ギグ 古川日出男×向井秀徳
『爆笑問題のススメ』 古川日出男の巻 『ロックンロール七部作』 『ボディ・アンド・ソウル』 『ベルカ吠えないのか』 『LOVE』 NHK週刊ブックレビュー 特集 古川日出男『LOVE』を語る
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コメント
ナカムラのおばちゃんさん、はじめまして。
勝手にトラックバック、すみません。
おまけにコメントまでいただいて有難う御座います。
>>古川さんの言葉が大好きです。
>>リズムがおばちゃんには心地よい。
>>こんな難解な小説でも心地よい。
まさに言葉の音楽ですよね。
古川氏、演劇畑の出身というところが、小説に最大限活かされていると思います。
古川さんの書いて演出した芝居、むちゃくちゃ観てみたい。どこでも観えるタイムマシーンTVを切望するのがこんな時です(^^;)。
それにしてもネットでの『聖家族』のレビュウ、想像してたより少ないですね。mixiでもトピックにすら挙がっていない。こんな凄い小説(大説?ん?)が評判になっていないのが、寂しいです。
古川ファン、立ちあがれ!!
投稿: BP(ナカムラのおばちゃんへ) | 2008.11.07 00:49
TBありがとうございました。
古川さんの言葉が大好きです。
リズムがおばちゃんには心地よい。
こんな難解な小説でも心地よい。
投稿: ナカムラのおばちゃん | 2008.11.04 19:28