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2009.04.20

■感想 アラン・ムーア原作/デイブ・ギボンズ作画『ウォッチメン』

アラン・ムーア作/デイブ・ギボンズ画『WATCHMEN ウォッチメン』

 公開中の映画が観たくて、まずは原作を読みました。
 あまりに有名な作品で今更なのが恥ずかしいですが、映画のレビュウ前に、まずコミックの感想です。

 これはまぎれもない、傑作。そしてヒューゴー賞受賞に恥じない堂々たるSF(ネヴュラ賞でないところが残念だけど、、、(^^;)。当時のSF作家がこの才能に嫉妬してネヴュラは逃したりして、、、)。

 無数の画面を同時に眺める感覚はウィリアム・バロウズが提唱したカットアップ技法を思わせる。彼は、単語とイメージを一見無秩序に並べて提示することで論理的分析を避け、未来の印象を潜在意識的に把握させようとした。来るべき新世界を断片的に覗かせようとしたのだ。
 また、こうして大量の情報を同時に受け止める時の気分は、動く抽象絵画を見ているようでもある。
 隣接した光の明滅が頭脳をすり抜ける前に記号論的な混沌と結合し、一瞬かすかな意味を持つのだ。
 その曖昧な閃きを、素早く補足しなければならない。
(P347オジマンディアス/エイドリアン・ヴェイト)

 南極で世界のTVをザッピングし、分析しているオジマンディアスの独白。
 リアルにスーパー・ヒーローを描き出している点がまずは傑作たるゆえんなのだろうけれど、さらにこうしたセリフやDr.マンハッタンの神的能力、火星のシーン(P295の火星成層圏まで達するオリュンポス山の描写)。こうしたものがSFのセンス・オブ・ワンダーの源泉となっている。

 これらのシーンが、映画でさらにリアルに描き出されていたら、と思うとワクワクする。

 全体としては、70-80年代の冷戦の重苦しい雰囲気。核戦争の危機。このコミックは、我々の世代が体感してきた不安感の具現化になっている。
 絵空事のヒーローがリアルな人間関係の現実に放り込まれる様が、まさに戦争へのヒリヒリする危機感を表現するのに有効な装置として働いている。アメコミのあのタッチで語られるこの冷戦の記憶の物語は、貴重な人類の記録ですね(このまま核最終戦争が起きなければだけれど、、、)。


 ★★★★ ★★★★ ネタばれ注意 ★★★★ ★★★★

 ケネディの演説原稿を読んだかね?  今、この地に集う我々は、好むと好まざるとにかかわらず、世界の自由を守る城壁の見張り(ウォッチメン)となる運命なのです。
 鍵は超能力者の脳髄だ。(略)  この脳は超能力の共鳴器だ。怪物は死の瞬間に増幅された激烈な精神波動を放射した。単なる波動ではない・・・・。我々が膨大な量の情報を波動に組み込んだ。(略)  マックス・シェアが発想した異世界を、ハイラ・マニシュが視覚化し、リネット・バリーが音を加えた。  オジマンディアス/エイドリアン・ヴェイト(P390)

 さらにクライマックス。
 
 世界の戦争を終わらせるために、異次元からの侵略の危機を提示するという方法のなんたるワイド・スクリーン・バロック。コミックっぽい絵のタッチがここでも活きてくる。
 日本の漫画のタッチでこの描写をしても、絵空事に感じられるだけだろう。
 アメコミのタッチが、絵空事感と妙にマッチして、バロックな迫力を醸し出しているというところではないだろうか。クライマックスに、本当にワクワクさせられた。

 これも映画での描写が楽しみである。
 アメコミのタッチでなく、リアルな実写映像として、どうこのシーンを描くが、ザック・スナイダーのお手並み拝見。

◆関連リンク
『ウォッチメン [Soundtrack]』
『Watchmen [Original Motion Picture Score]』
ウォッチメン - Wikipedia

制作が終りに近付いた頃に、ムーアはこの作品がアウター・リミッツの一エピソード『ゆがめられた世界統一』(原題:The Architects of Fear)に似通った物となりつつある事に気付いた。
YouTube - The Architects of Fear(Part One)
映画『ウォッチメン』公式ブログ - livedoor Blog(ブログ)
映画『ウォッチメン』オフィシャル・サイト

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コメント

 英樹くん、こんばんは。コメント、感謝です。

>>何度も読みましたが、『ウォッチメン』はやはり傑作ですよね。

 「T・T」誌でもしかしてレビュウを読ませてもらってたかもしれませんね。
 すみません、アメコミってどうもあの絵柄で馴染めなかったので、、、(^^;)

>>どのページもどのコマも情報がぎっしり詰まっていて、無駄がなく、しかも美しい。架空のヒーローの歴史がそのまま架空のアメリカの歴史と重なっているところも、そしてそれが現実の世界を見事に浮かび上がらせているところもスゴイと思っています。

 アメリカというものを体感させるメディアとして、アメコミってこんなにも力があったのかと、感嘆。
 考えてみれば当たり前なんですが、、、、アメリカがあってアメコミが生まれたわけで、その文化は染み込んでるわけですから、内部から喰い破る力も絶大。

>>実は映画をまだ観ていないので、先にこちらにコメントしました。映画の感想は観てからということで……。(もう公開終わっちゃうかな?)

 名古屋でもかなり大部分が金曜までで終わってしまいますね。これはさすがに一般受けする映画ではないので、ロングランは無理だったですね。なので僕は慌てて日曜に春日井(^^;)コロナへ出向きました。

 でもまだ2~3館はやってそうなので、観られたら感想楽しみにしてます!

投稿: BP(渡辺英樹さんへ) | 2009.04.24 00:50

何度も読みましたが、『ウォッチメン』はやはり傑作ですよね。どのページもどのコマも情報がぎっしり詰まっていて、無駄がなく、しかも美しい。架空のヒーローの歴史がそのまま架空のアメリカの歴史と重なっているところも、そしてそれが現実の世界を見事に浮かび上がらせているところもスゴイと思っています。

実は映画をまだ観ていないので、先にこちらにコメントしました。映画の感想は観てからということで……。(もう公開終わっちゃうかな?)

投稿: 渡辺英樹 | 2009.04.23 05:19

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