■感想 黒沢清監督『トウキョウソナタ』
舞台はトウキョウ。線路沿いの小さなマイホームで暮らす、4人家族のものがたり。 (略)
お父さんはリストラされ、お母さんはドーナツを作っても食べてもらえない。お兄ちゃんは、アメリカ軍に入隊することに!? そしてボクは、こっそりピアノを習ってる。
08年カンヌ国際映画祭“ある視点”部門審査員賞受賞作。
オーストラリア出身のマックス・マニックスの脚本が先にあり、黒澤が監督として抜擢され、黒澤テイストをというプロデューサーの依頼で脚本がリライトされたとのこと。
今回、映像に冴えがないと最初、思った。まるで、免許更新時に見せられる交通事故映画のような日本の湿度の高い気候を写し取ったようなどんよりとした映像。
でもこれがこの映画が描いたような、日本の閉塞感の映像化としては、もしかしてベストマッチかと思いなおす。閉塞感を描出するのに、交通事故映画のタッチは最高かもしれない。観客が重い波動をうけとることを目的とした映像。
日本の現状の描出として、アメリカ軍への日本からの参加というエピソードが持つリアリティも興味深い。
傭兵ということではなく、米軍への正式入隊。確かに今の日本でそれを募集したらかなりの数の人間が集まるのではないか。国が戦争へと向かうメカニズムの一端がここに描写されているのだと思う。
もうひとつ特筆すべきは、役所広司のシーン。ここは怖い/そして可笑しい。山田太一が描いた主婦のフラストレーションと同種のものだが、さらに黒澤テイストで狂気的に描いてある。ギリギリ耐えていた家庭が同時並行で崩壊する様が、本作のクライマックスの前半。
そしてその後半のドビュッシー「月の光」のシーンが素晴らしい。
日常に潜む崩壊へのきっかけと芸術による希望のアプローチ。
この二つの側面を多くの作品でテーマにしている山田太一による黒澤清評を、僕は強烈に読みたくなった。(残念ながらネット検索では出てこなかった)
◆関連リンク
・黒沢清×わたなべりんたろう『サーチャーズ2.0』トークイベント (webDICE - 骰子の眼 - )
黒沢:『トウキョウソ ナタ』は一昨年の12月に撮ったんですけど、準備している10月くらいに、よせばいいのにクエンティン・タランティーノの『デス・プルーフinグラインド ハウス』を観にいったんです。誰にもわからないと思いますけど、『トウキョウソナタ』のいくつかのカットは『デス・プルーフ~』そっくりっていう。どう やって『デス・プルーフ~』でなくせるか苦労したくらいで。
残念ながら、僕はまだ『デス・プルーフinグラインド ハウス』を観てません。
| 固定リンク
« ■神山健治監督『東のエデン』 「第4話★リアルな現実 虚構の現実」
絵コンテ:柿本広大 演出:前島健一 作画監督:山本径子 |
トップページ
| ■新刊メモ『外套』『SFM 09.05』『モーフィー時計の午前零時』他 »
コメント