■神山健治監督『東のエデン』
「第9話★ハカナ過ギタ男」
演出:柿本広大 作画監督:伊藤秀樹
脚本:神山健治/岡田俊平 絵コンテ:吉原正行/河野利幸/柿本広大/神山健治 演出:柿本広大 作画監督:伊藤秀樹 美術監督:竹田悠介
まず冒頭の板津の回想シーンがいい。
自身の発明した「世間コンピュータ」で予言される板津の10,20年後。風にとばされるズボンに象徴される若者の無力感。背後に流れる音楽によって醸し出される哀愁。
ノイタミナは女性枠なはずであるが、実はこんな深夜だと生で観られる中心的視聴者は、板津のようなひきこもりなのかも。
あきらかにそうした視聴者に向けたメッセージが今回の神山監督のテーマのひとつである。
2010/12/22/Wed/21:22
戦後からやり直すため日本をミサイル攻撃
¥8,883,000,000 残高¥14,189,000レーダー上に幻の機影を映し出し、トマホークミサイルを発射させた。
そして、押入れの秘密基地で解明されるセレソンNo.10結城の計画。
この部分、師匠作品への明確な批評(^^;)。
まるで押井守『スカイ・クロラ』の主人公カンナミな外観の結城、軍事評論家への取材、そして「幻の機影」と「トマホークミサイル」。まんまじゃないっすか。
物語はこのミサイルとともに始まり、どうやらこのミサイルでクライマックスを迎える気配。
あきらかにミサイルを撃つだけでは日本の空気は変わらない、痛烈に押井守を批判し、神山監督はメッセージしようとしている。
番組終了後に本件については子弟討論を期待したい。
僕自身は『パトレイバー2 TOKYO WARS』は映画として大好きなのだけれど、この視点のみ取り出すと、下記のような批判が存在する。少し長文だが、気鋭の論客 永瀬唯氏の言葉を引用。
腐食する記憶の東京—押井守『機動警察パトレイバー』の都市論世界
P196
ただし、彼がおこなうのはあくまでもテロのシミュレーション、疑似攻撃にすぎない。
なぜなら、その目的が破壊や、破壊による権力の奪取ではなく、この「平和」に対する警世にすぎないからだ。
ここにあるのは、国家を管理し運用する、平和ぼけしたエスタブリッシュメント集団は、国際化時代に対応できない、という週刊誌等の政治欄でおなじみのお説教の、おそまつなミリタリズム版だ。
いやミリタリズムには、ありうべき社会の姿というヴィジョンが、いかに安易であろうと、確固として存在する。
ここにあるのは、有事を願うミリタリー・マニアの、そして、乱世を願いながら、すべてのイデアを喪失した元左翼の、それぞれ「有事」と「乱世」への隠微なる欲望にすぎない。
『パトレイバー』にかかわったスタッフの中には、ただ一人だけ、この二種の欲望をあわせ持った人物がいる。(略)
いったい数々の傑作を生んだこの監督が、どうして、ここまでみっともない作品を作り出すことができるのだろう。
痛烈ですね。でも神山監督が描こうとしているのは、カンナミ(押井守のある意味、分身)とそっくりな男が起こす、まさに「「有事」と「乱世」への隠微なる欲望」の敗北の姿である。
(永瀬氏はこの文の続きで、『パトレイバー1』は絶賛して評価しています)
◆関連リンク
・当Blog記事
第8話「あらかじめ失われた道程をさがして」
第7話「ブラックスワン舞う」
第6話「東のエデン」
第5話「今そんなこと考えてる場合じゃないのに」
第4話「リアルな現実 虚構の現実」
第3話「レイトショーの夜に」
第2話「憂鬱な月曜日」 第1話「王子様を拾ったよ」感想
竹田悠介美術 HDR(High Dynamic Range)写真タッチの映像
神山健治 『映画は撮ったことがない』刊行予定 小説版『東のエデン』
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パンツの下宿の建物もそのまま存在するみたいです!労作。
・青の零号さんのセレソンNo.0のエンブレムつくってみました - Biting Angle
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コメント
ぷーさん、コメントありがとうございます。
>>なんか読み間違えてる気がします。
これは「東のエデン」についての指摘か、永瀬氏の本についての指摘か、どちらでしょうか。
すっごく気になりますので、もうちょっと書いて頂けると嬉しいです。
投稿: BP(ぷーさんへ) | 2009.07.11 08:49
なんか読み間違えてる気がします。
投稿: ぷー | 2009.07.09 18:37
shamonさん、こんばんは。
>東京組はガマンしたのに~ずるい~(笑)。
あれ、もしかして一週我慢ということですか?
>>でもオリジナルアニメって先が読めないワクワク感がいいですよね。
>>この感覚とっても久しぶりって感じ。
僕は『電脳コイル』以来。
あー、磯監督はどうしているのだろう。
投稿:
投稿: BP(shamonさんへ) | 2009.06.27 19:38
まいどでーす^^。
>もしその話が出なかったら、shamonさん、質問Please!
ひぃーっそりゃ荷が重いです(^^;。
>最終回も昨日ついに我慢できずネットで観ましたが、
東京組はガマンしたのに~ずるい~(笑)。
でもオリジナルアニメって先が読めないワクワク感がいいですよね。
この感覚とっても久しぶりって感じ。
リアルタイムで全部観たから尚更でした。
投稿: shamon | 2009.06.21 22:16
shamonさん、青の零号さん、おはようございます。
>>弟子の神山監督だからこそ許される特権とも言える。
僕は弟子なのにここまでやるか、と(^^;)。
ある意味、作品のペースネタをいただいているのに、ここまで否定するというのは確信犯。
たぶん子弟の間では、このテーマについて口頭のバトルは既になされているのでしょうね(酒の席?)。
>>今年の○○総会で是非(爆)。
もしその話が出なかったら、shamonさん、質問Please!
>>そのへんを結城の陰謀露見と歩調を合わせて見せていく手腕は、並みの連続ドラマ以上に
冴えていると思いますが。
いやいや、上級なドラマに並ぶか、超えているでしょう。最終回も昨日ついに我慢できずネットで観ましたが、ここまできっちり11話で設定したテーマを描き切っている手腕は凄い。
>>永瀬氏の批評から『東のエデン』評へと持っていく展開って、実にエレガントだと思います。
他人のふんどしでなんとやら(^^;)
実は僕もshamonさんと同じく『パト2』は押井映画でも1,2に好きな映画なので、批判的視点は持っていなかったので、この永瀬氏の文章は新鮮だったわけで、、、。要するに自分では『パト2』を『東のエデン』のように批判できる言葉がなかったので、永瀬氏の引用をしただけ(^^;)。
>>「有事を願うミリタリー・マニアの、そして、乱世を願いながら、すべてのイデアを喪失した元左翼」
もともと学生運動そのものにそうした側面が強くあったことも間違いないところでしょう。
>>じゃあぶん殴るべき「Mr.OUTSIDE」、あがりを決め込んだ年寄りってのは、
>>やっぱり押井さんのことになりますか(笑)。
「あがりを決め込んだ年寄りってのは、やっぱり押井さんのこと」!!そこまで言いますか!(^^)僕はとてもそんなところまでは、よー言いません。
もともと二人は立ち位置が違いますよね。
「世界を具体的に救いたい男」神山に対して、ある種哲学的に人のあり方にアプローチしている押井。
>>結城という人物にその思いを込めたとすれば、それって黒羽社長と同じくらいにエレガントな批評行為ですねー。
でもあの顔の相似はある種、嫌味ですよねー。
本当に子弟で本件どうやり取りされているか、非常に(品性が低く下世話ですが^^;;)興味大。
投稿: BP(shamonさん、青の零号さんさんへ) | 2009.06.21 08:42
あっちで見解を求められたのでこっちでお話させていただきます。わたしがveohで見たのは最終11話でしょうか、イージス艦から発射されたトマホークをAAMやPAC-3で落とすシーン。細部を取り上げてあれが違うこれが違うなどと申し上げません、フィクションですから。でも二点だけ。
AAMでの直撃はたぶん無理でしょう、そういう風にはできていないので。PAC-3なら当たりますが都心で落とすのは感心できません。たとえ経空脅威を無力化できても質量と運動量が消えてなくなるわけではありませんので。
あ、それからガメラレーダ初アニメ化おめでとうございます>三◇電機
投稿: ミのつく職人 | 2009.06.20 20:50
こんばんわ、青の零号です。
毎回コメントが長くなってすいません。
>実はこんな深夜だと生で観られる中心的視聴者は、板津のようなひきこもりなのかも。
>あきらかにそうした視聴者に向けたメッセージが今回の神山監督のテーマのひとつである。
なるほど、そこがねらい目でしたか!
ならば板津の登場も、そういった視聴者層の共感を呼ぶための仕掛けなのでしょうね。
おとぎ話のような設定の中にじわじわとリアルな感触を持ち込んできた神山監督ですが、
ここに至って真のターゲットをあらわにしたようでもあります。
そのへんを結城の陰謀露見と歩調を合わせて見せていく手腕は、並みの連続ドラマ以上に
冴えていると思いますが。
>あきらかにミサイルを撃つだけでは日本の空気は変わらない、
>痛烈に押井守を批判し、神山監督はメッセージしようとしている。
>でも神山監督が描こうとしているのは、カンナミ(押井守のある意味、分身)とそっくりな男が起こす、
>まさに「「有事」と「乱世」への隠微なる欲望」の敗北の姿である。
永瀬氏の批評から『東のエデン』評へと持っていく展開って、実にエレガントだと思います。
「ケルベロス」や「立喰師」シリーズに顕著なのですが、
「有事を願うミリタリー・マニアの、そして、乱世を願いながら、すべてのイデアを喪失した元左翼」
こそ、まさに押井さんの出発点であり、そして帰着点でもあると思います。
辛い言い方をすれば、本質的には敗北主義者なのかなーと。
でも神山さんは「これからはそれじゃダメなんです!」と
師匠に噛み付こうとしてるんですかね。
じゃあぶん殴るべき「Mr.OUTSIDE」、あがりを決め込んだ年寄りってのは、
やっぱり押井さんのことになりますか(笑)。
結城という人物にその思いを込めたとすれば、それって黒羽社長(そしてBPさん)と同じくらいに
エレガントな批評行為ですねー。
投稿: 青の零号 | 2009.06.17 23:34
まいどでーす。東京ではいよいよ明日最終回です。
>この部分、師匠作品への明確な批評(^^;)。
ですね(^^;。
弟子の神山監督だからこそ許される特権とも言える。
>痛烈ですね。
しかし妙に納得できます。
「パト2」は私的ベスト1押井映画ですが
状況だけを作り出すという点において
大いにフラストレーションがたまる映画だったから。
>番組終了後に本件については子弟討論を期待したい。
今年の○○総会で是非(爆)。
投稿: shamon | 2009.06.17 21:02