■ネタばれ感想 庵野秀明総監督 摩砂雪;鶴巻和哉監督
『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:破 YOU CAN(NOT) ADVANCE.』
◆汎用ヒト型決戦兵器 人造人間エヴァンゲリオン
オープニングから凄まじい映像のシャワー。
5号機の回廊と海上での決戦と、空からのさっそうとしたアスカと2号機による一瞬の戦闘。
そして月のシーン、真空中のカヲルと6号機の不気味な姿のセンス・オブ・ワンダー。
TV版「命の選択を」で描かれた3号機の使徒化。
アスカを搭乗員とすることで、さらに残酷な状況として描き出している。
シンジには何が進行しているか見えない形で、ダミーシステムの初号機による3号機/使徒捕食までの展開、飛び散る3号機の内臓(!)。
ここで捕食シーンを描いてしまったら、この後に続く「男の戰い」をどう描くか、と不安に思って観ていると、、、、。
◆「男の戰い」の飛躍
ここから、さらに見事なグレードアップ。
まずマリによる2号機の戦場への投入と、「裏コード、ザ・ビースト!」の発動。
これは初号機の暴走と近いが、別のモード。まるで原子炉の制御棒を抜くようにして、人造人間エヴァンゲリオンの拘束が外され、暴れる姿の凄さ。
そして畳みかけるように、ミサイルで攻める零号機と、使徒による零号機捕食シーン。
アスカに続き、レイをも破滅させようとする使徒の行動に対して、爆発するシンジの感情。「男の戰い」のまさにアップグレード版がここに存在する。
このシーンに向けて、積み上げてきた物語は、「序」から続く、綾波レイと碇シンジの物語。「序」のラストシーンのレイの微笑みと、「破」で描かれた弁当や味噌汁や「ポカポカ」が見事にクライマックスを迎える(^^;)。
新劇場版の物語の骨格がエンターテインメントとして組み上げられていることがわかる。
TV版19話「男の戰い」はシリーズ屈指の出来であるが、そのさらなる進化は、このドラマの骨格部分と初号機の天使化で描きだされている。
「男の戰い」は、アニメ史上最高峰の幽玄なSF映像を、初号機の暴走と捕食シーンで創出していた。それを凌駕するような今回の展開。シンジの怒りに呼応して現れる初号機頭上の光のリング。
まさに旧約聖書の「知恵の木の実」と「生命の樹」に触れた人類のエッジ・初号機が天使(そして神?)になる瞬間の映像。
◆エヴァンゲリオンとヱヴァンゲリヲン(09.7/11修正)
この映画は、ロボットものではない。
まさに、言葉どおりなのだけれど、それはロボットでなく「人造人間」エヴァンゲリオン。
人が「生命の樹」(バイオテクノロジー)に手を伸ばし、人造した大型人間エヴァンゲリオン。その進化する姿を、骨格となるドラマのクライマックスと同時に描き出した今回の物語構造は強固である。そして、その過程で描かれた巨大人造人間と使徒の戦いの映像の奇想。
スピードと緊迫感、謎の暴走映像とメカと内臓が飛ぶ怪奇。この畳みかける映像の持つイメージを補足しようと脳の回路も暴走気味。あきらかに僕の脳内映像は、圧縮され画面に展開された庵野監督のイメージの全体像に飽和状態。
しかしそれを観劇後、整理してみると、やはり拘束具としてのメカ部分でロボット然として見えるのだけれど、ここで描かれたものは、生命工学を駆使して人造的に進化させられた獣の姿である。大画面に展開されたのは、巨大ロボットヒーローものではなく、新生命体である巨大な獣が、人間の制御を超えて暴走するそんな映像である。
旧作のTV,映画版でもそれはある程度描かれてはいたが、この新作のクライマックスで明らかに軸足をロボットから巨大人造人間に移して戦闘シーンが描かれていたのだと思う。知性が人間とは異なる巨大生命体の中に、子供たちが搭乗することの異様さとそれを最大限に映像に昇華させた観たことのない奇怪な戦闘シーン。
本作品のクライマックスが、誰も観たことのない壮絶なイメージとして、21世紀の映画シーンに登場したことは特筆していいと思う。ハリウッドが逆立ちしても追い付けない奇想イメージがここにある。
このようにして、新劇場版第二弾は、アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』への庵野監督の挑戦として、その端緒を見事に描ききった。
SF的には、このSFの王道である人類進化テーマの傑作に対して、それを超えることを目指し照準にとらえた映像が、今回の『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:破』の達成点である。
ロボットもののフォーマットから、巨大生物体の異様な戦いへシフトしている意味は、そこにある。
気になるのは、「汎用ヒト型決戦兵器 人造人間エヴァンゲリオン」というチラシの表記と、映画の「ヱヴァンゲリヲン」という表記のズレ。今後の2本でどのような展開があり、どうこの壮大な映像ページェントに結末がつくのか、期待大である。エヴァはどこまで行くのか!?
◆その他 補足
・S-DATは碇ゲンドウのものだった。前作からたびたび描かれた25曲目と26曲目のリピート。(たぶん)これらの曲がクライマックスで流された曲「翼をください」と「今日の日はさようなら」なんだろう。
あきらかに戦いの中でシンジの頭の中にはこの曲が流れていたのだろう。極限状態に対して精神的なガードをかける意味で。
これらは、たぶん碇ユイとゲンドウが若い日に聴いたであろう曲。そしてシンジが父親と母親がいない隙間を埋めるように何度も聴いた曲という設定かも。
シンジが料理を作るシーンで表現されていた優しい性格の根っこに、このテープの曲があったととらえたら間違いだろうか。
考えたら映像とこの歌のミスマッチも凄いが、ゲンドーの音楽の趣味がこれっていうのも物凄いミスマッチ。どんなおっさんだ。
赤い鳥「翼をください」1971
森山良子「今日の日はさようなら」1966
水前寺清子「三百六十五歩のマーチ」1968
ピンキーとキラーズ「恋の季節」1968
1967年4月29日 六文儀ゲンドウ誕生
1977年3月30日 碇ユイ誕生
年代的にはゲンドウが聴いていたにしては曲が古いような気が、、、、(^^;)
個人的にはここでもし白い色は恋人の色が流れていたら号泣だったかも(^^;)。「大人帝国」に使われたこの歌、原監督のこの選曲にはかないませんね。
・アスカの3号機破壊後にシンジの声が太くなったように感じたのは空耳だろうか。
こうした細かな演出がクライマックスに隠されているような、、、、。今回のシンジの成長を描いたシーンは、TV版のようにまたここから退化するような描写につながらないことを祈ります。
◆関連リンク
・新世紀エヴァンゲリオン - Wikipedia
・Quickening - Wikipedia, the free encyclopedia
・MIYADAI.com Blog
・端材で創る エヴァンゲリオンを創る19
・ラジオ批評ブログ――僕のラジオに手を出すな!: まとめ(2)「破」:ヱヴァンゲリヲン新劇場版公開記念 深夜の緊急対談(TBSラジオ、2007年9月2日(日)25:40-28:00).
cf. アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』 ・当時、共産主義思想の体現として批判される。 ・心がつながった新人類、個の消失、人類がひとつの主体となるというモチーフの起源 ・「オーヴァーロード」による不完全な地球の補完。飽和後に「オーヴァーロード」、人類もろとも滅亡させる目的。 ・救済観の原形。 『エヴァ』 ・救済観をめぐる対立を主題としている。 ∴ユダヤ教の聖典『旧約聖書』と外伝の反復的言及 「生命の樹」と「知恵の実」
裏 コード「ザ・ビースト」を入力することで、「獣化第2形態」が起動する。このとき、身体各部の拘束具が弾け飛び、全身に打ち込まれたリミッターが強制排除 される。この形態は「ヒトを捨てた形態」と呼ばれ、獣の如き獰猛かつ醜悪な姿に変貌することで真の力を発揮できるようになるが、パイロットにも相当な負担 をかける。第10の使徒が展開した何層ものATフィールドを突破し、零号機の突撃に際しては口でATフィールドを噛み千切って支援するなどの活躍を見せる が、一歩及ばなかった。
・鷺巣詩郎『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 オリジナルサウンドトラック SPECIAL EDITION』
09.7/8発売
・高橋洋子, 及川眠子, Bart Howard, 大森俊之, 森大輔『残酷な天使のテーゼ 2009 VERSION』
1. 残酷な天使のテーゼ (2009VERSION)
2. FLY ME TO THE MOON (2009VERSION)
3. One Little Wish
・ 庵野秀明;摩砂雪;鶴巻和哉『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 (EVANGELION:1.11) [Blu-ray]』
・新劇場版ヱヴァンゲリヲン:破の演出が神がかっている件 - 最終防衛ライン2
当Blog記事
・庵野秀明総監督 『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:序
EVANGELION:1.0 YOU ARE (NOT) ALONE』
旧版は制作陣、特に監督のもろもろの切羽詰った心情がストレートに14歳の主人公に投影されたとかで、10歩進んで20歩下がるような悩みまくりの観たく もない屈折ムービーだった(世間ではそうした部分が受けていたようだけど、僕はそこの部分、評価できない。映画版のラストのアレを描くために必要だったと いう理解もできなくはないけど、、、)。 そこをエンタテインメントとして、今回は成長物語にしてくれたら、(エヴァでなくなる部分は確かにあるけど)、僕は期待したい。
僕はうじゃうじゃしたシンジの世界系描写なんて馬鹿馬鹿しくてどうでもよく、19話「男の戦い」から先、なんで初号機他の暴走がエスカレートしていった大 センス・オブ・ワンダーなSF新生物ストーリーが観れないのかと不満に思っていた。なので、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』四部作は、そんなワクワクする映 画になるのなら、観てみてもいいかな、と思っている。
・アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』CHILDHOOD's END
人類の未来 映像の未来
『幼年期』のクライマックスで現出する無表情な無数の子供たちの異様な姿。このシーンは明らかに映画版『新世紀エヴァンゲリオン』に影響している。 そしてこの映画は、たぶん『2001年宇宙の旅』を超えて、今のところ『幼年期の終わり』の不気味な進化に最も近いイメージを映像化した作品といえるだろう。たぶんリビルド『ヱヴァンゲリヲン』の最終話が作られるまでは。
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コメント
ミのつく職人さん、お久!
>>庵野監督が何をしたいのかさっぱり判らない、なんともシンクロ率の低い結果となりました。
えぇー、驚愕(^^)。明確じゃないですか!
投稿: BP(ミのつく職人さんへ) | 2011.08.30 00:22
まことに遅ればせながら、先日の放送を録画して見ました。
庵野監督が何をしたいのかさっぱり判らない、なんともシンクロ率の低い結果となりました。
投稿: ミのつく職人 | 2011.08.28 15:07
あんまりよう/あまりとなえさん、熱いコメント、ありがとう。
>ラストに静かに流れる涙を赤面しつつ拭う、なんて体験ははじめてだったなあ(泣)。
リビルド、最初はなんでいまさらって、思ったのですが、とてもいい取り組みになってますよね。庵野監督、これで(これとパチンコ機で)稼いで、前からやりたいと言っている特撮映画を自主制作で思う存分制作できるといいですね。
んで、名実ともに「カラー」が平成の「円谷プロ」になり、TVで怪獣もののシリーズを立ち上げる。
そのためにはあと2本は毎年公開のペースでやって、監督の50歳代初頭で特撮大作、くらいのペースでやってほしいですね。
>>劇中の、ミスマッチな(でもネラってるよう
にも思えないww)
あっこって、もうどんな歌を流してもカンドー間違いなしのシーン。そこであの曲であのはずし方は意表をついてますよね。奇妙な味が出ていることも確か。
>>レイとゲンドウの食事シーンでかかる「京都
買います」の曲(フェルナンドソルの「モーツァルト魔笛の主題による変奏曲)に…嗚呼。
あ、これは全く気づきませんでした(^^;)。
ウルトラシリーズのリスペクト、健在ですね。
にしてもミサト携帯の着信音がほしい、今日この頃(^^)。
>>うーむしかしあと2本、旧作の展開ではあと1作でじゅうぶん完結な流れですけど…更にその先にあるものを描く意気やよし(意味不明)
TV1-19話(約380分) → 序,破(101+108=209分)
残りTV20-24話(約100分)+映画2本(86分)=186分ですから、序破の比率で行けば、あと1本ですが、旧映画2本分はそれほど圧縮できないでしょうから、やはりあと2本は必要かも。枝分かれしているパラレルワールドなストーリーがどう新展開するか、ですねー。
>…嗚呼
>でもまた何年も先かあ……死ねないなあ(意味
不明)。
たしかに死ぬわけにはいかない(^^)。
ヱヴァ破、観て、健康に気をつけよう、と誓ったのは私です。あと4年は不治の病にはかかりたくない。末後を看取る家族の顔を見ながら、心は「ヱヴァ観たい」という最後だけは避けたいし(^^;;)
投稿: BP(あんまりよう/あまりとなえさんへ) | 2009.07.11 09:09
こんばんは。
遅ればせながら、今日観て来ました。
詳細は当blogへ。
ラストに静かに流れる涙を赤面しつつ
拭う、なんて体験ははじめてだったなあ(泣)。
劇中の、ミスマッチな(でもネラってるよう
にも思えないww)楽曲への分析、流石です。
あの2曲は……成る程、正鵠を射た心持ちです。
レイとゲンドウの食事シーンでかかる「京都
買います」の曲(フェルナンドソルの「モーツァルト魔笛の主題による変奏曲)に…嗚呼。
うーむしかしあと2本、旧作の展開ではあと1作
でじゅうぶん完結な流れですけど…更にその先に
あるものを描く意気やよし(意味不明)…嗚呼
でもまた何年も先かあ……死ねないなあ(意味
不明)。
投稿: あんまりよう/あまりとなえ | 2009.07.09 22:48