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2009.11.09

■古川日出男「どのあたりが犬の視線か?」
 (『4444』河出書房新社より)

4444 4444 古川日出男|河出書房新社

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 古川日出男の小説がネット掲載されている。
 現在、掌編が18本。そしてそれは全文転載も可。

 というわけで、以下、我がブログ初となるプロの作家の小説掲載です。しかもあの古川日出男。これが全文です。引用ではありません、お楽しみください。

16 どのあたりが犬の視線か?|4444 古川日出男|河出書房新社

 この話を聞いた人間はいない。彼女は毎日身長が変わったそうだ。それは二十一歳の誕生日とともにはじまったそうだ。毎日、目覚める瞬間まで「何センチ」 になっているか、わからなかったそうだ。ただし一一一センチより小さかった例はないそうだ。最大で一八二センチだったそうだ。この現象には精神的ななにご とか、たとえば傷が関与しているのだろうか? わたしたちは以前、年齢とともに身長をのばしていた。すなわち年齢と身長はほぼ比例していて、それが十代のある時点までつづいたのだ。その時点をすぎるや、年齢だけはさきに進んで、身長はその場から一歩も動かなくなった。この事実を彼女は重く受けとめすぎたのだろうか? 朝、一五三センチのとき、彼女は中学時代の自分を感じるが、一三〇センチだと小学時代のそれも半ばに戻ってしまうし、土曜日の朝に身長一七八 センチだったりすると仮想の二十八歳・ビジネスウーマンを生きているような気になったそうだ。しかし本当は、彼女は犬になりたかった。x歳の自分よりも、すなわち(たいていは)過去に戻る自分よりも、大型犬の視線の高さや、中型犬のそれに。しかし、なかなか体高一一一センチ以上の犬はいない。だとしたら、何センチになって目覚めたらよかったのか? 彼女はいまは身長が変わらない。そして起床のたびに絶望している。この話を聞いた人間はいないのだから、あなたはこの話を聞いていない。

◆関連リンク
EnJoe140 (EnJoe140) on Twitter
 こちらは円城塔氏のtwitter小説。傑作が目白押し。ハッシュタグは #twnovel 。
雑誌「フリースタイル」で相対性理論が各界の人々とコラボ

 ポップカルチャー誌「フリースタイル」10号が11月11日に発売。(略)
 やくしまるえつこがイラストを描いた古川日出男の書き下ろし小説「深夜バス、バスジャック、ジャックお座り」

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