■感想 ジョージ・R・R・マーティン, 中村 融訳『洋梨形の男』
ジョージ・R・R・マーティン, 中村 融訳
『洋梨形の男 (奇想コレクション)』(河出書房新社)
身勝手な男が痩身願望の果てに“猿”に取り憑かれる「モンキー療法」、変わり果てた昔の友とのおぞましい再会譚「思い出のメロディー」、ひとりの作家の内面に巣くう暗黒をあぶり出す「子供たちの肖像」、酒場のホラ話ファンタジー「終業時間」、チェスの遺恨を晴らそうと企む男のSF復讐劇「成立しないヴァリエーション」の全6篇を収録。ネビュラ賞・ローカス賞・ブラム・ストーカー賞受賞。
実は『サンドキングス』も未読のマーティン初心者(何故かいままで読む機会を逸していた)ですが、このアンソロジー、しっかり楽しめました。
今回も名アンソロジスト中村融氏の目利きが素晴らしい一冊。奇想コレクションにしてはいずれの作品も読みやすいストレートな作品。(ただイメージは鮮烈で「奇想」を外している訳ではないので御安心を。)
例によって(久々だけれど)、僕の好みの作品から短評です。
■成立しないヴァリエーション(1982)
過去のチェスの大会を起点にした同窓生たちの物語。
SFネタが何かはここで書かない方がいいと思うのだけれど、そのSFテーマとがっぷり四つに組んだ主人公達の姿勢の物語がここち良い。そして夫婦の回復の物語も。(チェスを知らなくてもこんなに楽しめたんだから、チェス好きにはさらに堪らないでしょうね)
■子供たちの肖像 (1985) ネヴュラ賞ノヴェレット部門受賞
これが一番余韻をひいた。ある作家とその娘(画家)の物語。ふたりの人間関係が、実体化する登場人物達とともに描かれ、後味のわるーい読後感を残す。
本当は父親を理解していて、物語の本質を読み取って絵画化していく娘と父親のアンヴィバレントな関係。他の超現実的な恐怖に対して、この作品は人間関係の闇が前面に出ていて鬼気迫るものがある。
■終業時間(1982)
掌編だけれど、鮮烈なラストがとてもいい。
いきなり加速度的に展開するところがまさにSF空間を構築している。
■思い出のメロディー(1981)
これも「成立しないヴァリエーション」と同じく、アメリカ映画/文学で定番の同窓生もの。
この悪夢はリアリティがある。現実にこれに近い形で友人に悩まされるアメリカ人って多数いるんだろう。そこの恐怖を超自然的にうまく描いている。
■洋梨形の男(1987) ブラム・ストーカー賞ノヴェレット部門受賞
イラストレータの主人公にじわじわと染み込んでくる隣人の恐怖。
絵に影響が出たり、嫌悪しつつひきづられていく感覚が怖い。平山夢明作品をなんだか想起した。これを読んだ後、カールおじさんの顔を思い出した。カール(スナック菓子)が食べられなくなります。
■モンキー療法(1983) ローカス賞ノヴェレット部門受賞
最後のビジュアルはなかなかおぞましい。まさに悪夢。
この手法、なんでもありダイエット健康雑誌に来月載ったりして(^^)。
◆関連リンク
・ジョージ・R・R・マーティン - Wikipedia
当Blog記事
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・『輝く断片』シオドア・スタージョン/大森望編
・E・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』中村融編訳
・エドモンド・ハミルトン『反対進化』中村融編
・テリー・ビッスン『ふたりジャネット』中村融編訳
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