■『アニメージュオリジナル Vol.5 特集・金田伊功』
『アニメージュオリジナル Vol.5 (ロマンアルバム) 特集・金田伊功』
去る7月に亡くなったカリスマアニメーター・金田伊功さん。その仕事の魅力と、影響力を探る! ビジュアルギャラリー
特別対談01=磯光雄×井上俊之
特別対談02=橋本敬史×村木靖
総論=小黒祐一郎
82年に徳間書店が出版した「金田伊功SPECIAL」の抜粋縮刷復刻版が別添小冊子として付きます(4C16P/A5変型)。
特集は表紙を含め、わずか15ページでちょっと残念。ここまで表紙で特集をうたい、そして大人のためのアニメージュと言うなら、もっと硬派に充実した内容にしてほしかった。
「金田伊功SPECIAL」の抜粋縮刷復刻版もかなり削られているので、持ってない人には少し嬉しいが、今ひとつ。
この特集を「ユリイカ」か「美術手帖」誌でやってほしかったのは僕だけでしょうか。
◆CONTENTS
本特集の内容は、下記の通り。
表紙 ザンボット3 勝平の原画4枚
特集中表紙 ブライガー見開き2ページ
ブライガーOPより約150コマ 見開き4ページ
井上俊之×磯光雄対談 2ページ
ザンボット3 勝平の原画12枚 香月原画5枚
橋本敬史×村木靖対談 2ページ
幻魔大戦 バース さよなら999 画面写真とイメージスケッチ DVD紹介
小黒祐一郎 「アニメの夢」はまだ醒めず
一番面白かったのは、井上俊之×磯光雄対談。さすがにこのお二人のカリスマアニメータの語りは、実作者であり、しかも分析眼のある方達なので鋭い。
僕が特に面白かった部分を引用すると
磯光雄 発言
小林治さんと水が近い感じがある。源流とさえいえないほどの(略)
コマ送りすると"消えちゃう"ものがある。「コマ送りすればこの作画の秘密が全部解明できるはずなのに・・・あれ? なんでわからないんだ」ってことになる。1コマづつ模写して、角度まで似せても、(金田さんの描いた動き通りには)再現できない。再現可能な部分は「金田モドキ」の人達もみんなやってるんだけど、再現できない何だかよくわからない部分が、特に初期の頃にはある。(略)
金田さんの作画には絶対にまだ、2世代後くらいに発見されるような何かがあると思うーというのは私の仮説。まだ自分で検証したわけじゃないから、あくまでも仮説だけど、将来に向けて可能性だけは指摘しておきます。
亜細亜堂の小林治氏の作画との関係。これは金田氏が『ど根性ガエル』で仕事をしたことがある、という文脈もあるかもしれないが、体質的なところを言っているように読める。
『ど根性ガエル』や『天才バカボン』での小林の作画は、あのコミカルで様式化された動きが素晴らしかった。『ザンボット3』の勝平が大口あけるところに顕著なように、その影響があることは間違いない。
そして『まんが日本昔ばなし』や『まんが偉人物語』で小林が見せた独特の人物のフォルムとリミテッドアニメを活かしたあの動き。そこに一脈通底する部分を磯が指摘しているのだと思う。これはいままで指摘されたことはなかったと思うが、重要かも。(あとこの対談で初めて知ったけれど『アタックNo.1』も小林治が作画しているらしい。そして井上が、小林原画のフォルムのかっこいい鮎原こずえを、金田が好きだったのではと指摘)
あと磯が指摘している「コマ送りすると"消えちゃう"もの」には僕も物凄く興味がある。もっとここの部分を磯に語ってほしかった。
ネットで動画(主に映画予告編)を観てコマ送りをすることがある。
そうすると動画として観ていた映像が急に生彩を失う。これは以前の記事で書いた脳内の映像処理機能に密接に関係していると思う。つまり、動画の時は、脳内で静止画のつながりから予想しながら間の(存在しない)画を補完して生成している可能性がある。それによるスムーズで活き活きとした映像が静止させることで、その補完機能を殺してしまい、ただの一枚づつの精彩を欠いた画像になってしまう、ということではないか。(詳しいことは以前の記事「アニメーター磯光雄と金田伊功と脳の構造の関係」を参照下さい)
そして金田伊功の独特の動きは、現実に存在しない動きであるが故に、その補完機能がいままで体感したことのない動きの画像を追加しているのではないか。当然それは動いている時だけに脳内に生成される幻の映像であり、静止させてコマ送りしても見えない映像なのではないか。と、そんなことを考えていたので、この磯の発言には敏感に反応してしまった。
あと金田氏のリミテッドアニメにおける全原画について語り、「金田モドキ」が中割りを入れたのに違和感をとなえる指摘も、全原画を展開している磯ならでは。磯の全原画も金田フォロワーな技術と思っていたのだけれど、そこのところの関係はどうなんだろうか。
それにしても、この対談でも述べられているが金田伊功が分析的な人ではなかったので、彼自身による自己の作画の解析はほとんどコメントが残っていないのは残念。いまさらだけれども、この磯、井上両氏と金田氏の作画対談なんてものがなされていたら、と思うと残念でならない。この二人が金田氏に聞きこめていれば、金田作画の謎を解くヒントがいろいろと引き出せていたのではないか。今となっては想像するしかないのが本当に残念。
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コメント
箱ミネコさん、まいど、です。
>>か・・・買わねばぁぁぁぁーーー!(血涙)
本の実物を確認されてから、の方がいいですよ。あまりとなえさんも書いてるように高すぎます。
>>しくしくしく・・・立ち直れそうにないわ?
なんかポッカリ、穴が空いた感じですよね。
穴を埋めるのに、何かをこれからも書き続けていくのかなって、、、。
投稿: BP(箱ミネコさんへ) | 2009.11.04 22:10
shamonさん、こんばんは。
>>こんなの出ていたんですね。
>>でも15pってのは少ない。
表紙がいいですね。150ページくらい欲しい感じ(^^)。
>>某前衛芸術家とかジブリと組んでやってもらえないのでしょうか・・・。
>>それなら本も売れると思うのに。
やはりその線でしょうね。まだ金田伊功の名前だけでは残念ながらマスは狙えないのでしょうね。メジャーorその芸術性の認知のために、まず某カイカイキキの人とジブリをセットにするしかないのでしょうね。
村上隆氏のPodcastを聞いていると、アート界で金田さんの評価を認知させていく活動をされるように話されていたので期待です。
村上氏だったら海外でのネームバリューがあるので、世界に認知させることも可能なのかも。
ジブリは、ジブリブランドで各アニメータの原画シーンを集めたDVD発売もやってほしいものです。著作権問題もクリアだし(^^)。
なんにしても村上氏が言われているように「金田伊功の評価はこれからが本番」だと思います。
投稿: BP(shamonさんへ) | 2009.11.04 22:05
あんまりようさん、こんばんは!
>>自分も買いました。高いんですね結構(泣)。
>>で、たしかに特集と銘打った割には少ない…
ずいぶん買うのをためらいましたが、この表紙だけでも所持してなきゃ感がひしひしと。アニメージュ本誌の特集は思いとどまったのですが、、、。
>>井上×磯対談では、山下将仁と上妻晋作に言及していたのが嬉しかったです。
僕は当時も今も、どうも金田フォロアーの作画は、どっか受け入れられないものがあります(結構楽しめるのですが、、、)。
なんでかなー、と思うのですが、立体感というか、透明感というか、そうしたものが決定的に金田氏と違うような気が、、、。
>>上妻作画も同様ですが、更にやや色気というか動きに妙な…フェティシズム(なんかこの言葉もあやふやなニュアンスを誤摩化す感じでアレなんですが)も加味されてて好きでしたねー。
上妻晋作って実は僕はほとんどノーマークでした。今回の対談読んで、リンクしてもらったニコニコのを初めて見たくらい。
フェティシズム、なんとなくわかりますよ。
ポーズとその柔らかな動きから感じるんでしょうね。
投稿: BP(あんまりようさんへ) | 2009.11.04 21:56
patchさん、コメント、ありがとうございます。
>>これからは昔の作品も積極的に見ようと思いました。
金田伊功が開花した頃の僕たち世代のワクワク感を追体験いただけたら、と思います。今はDVDやYoutubeとかあって昔のものも見られていい時代ですね。
逆に放送しかなかった頃の一回だけしかチャンスがない希少性はないわけで、それは体験としてはマイナスなのかもしれないですが、、、(^^;)。
>>ついでに、もうご存知かもしれませんが「アバター」「東のエデン」の新予告編を貼っておきます。
ありがとうございます。まだ見てませんでした。
「アバター」は作り物感が気になりますね。3Dで観るとまた違うのでしょうが、、、。
「東のエデン」、こちらの展開の方が気になります。神山監督、我々をどこまで連れてってくれるのか。期待です。
投稿: BP(patchさんへ) | 2009.11.04 21:47
か・・・買わねばぁぁぁぁーーー!(血涙)
しくしくしく・・・立ち直れそうにないわ?
投稿: 箱ミネコ | 2009.11.03 23:30
まいどでーす。
こんなの出ていたんですね。
でも15pってのは少ない。
>この特集を「ユリイカ」か「美術手帖」誌でやってほしかったのは僕だけでしょうか。
ここに一人おりますσ(・・)。
某前衛芸術家とかジブリと組んでやってもらえないのでしょうか・・・。
それなら本も売れると思うのに。
今月は「ラピュタ」が地上波放送、
また観てしまいそうです。。。
投稿: shamon@ヘルペスバトル継続中 | 2009.11.03 11:00
自分も買いました。高いんですね結構(泣)。で、たしかに特集と銘打った割には少ない…
井上×磯対談では、山下将仁と上妻晋作に言及していたのが嬉しかったです。
山下作画は、中割りを原画に近くさせるタイミング(…ええと、言わんとする事はおわかりになりますよね…?)が非常に心地よいものでした。結局あのタイミングを更に突き詰めるとか継承するアニメーターはその後いなかったようだけど…。
ビューティフル・ドリーマーの深夜の友引高校が頂点、ダロス最終巻の前半バトルシーンが白眉。
上妻作画も同様ですが、更にやや色気というか動きに妙な…フェティシズム(なんかこの言葉もあやふやなニュアンスを誤摩化す感じでアレなんですが)も加味されてて好きでしたねー。
YouTube - 剛Q超児イッキマン
YouTube - 幻夢戦記レダ 3 Fantastic Adventure of Yohko Leda 3/11
上妻晋作 MAD‐ニコニコ動画(9)
投稿: あんまりよう | 2009.11.03 05:33
最近のアニメしかよく知らない自分にはいろいろ勉強になります。
これからは昔の作品も積極的に見ようと思いました。
ついでに、もうご存知かもしれませんが「アバター」「東のエデン」の新予告編を貼っておきます。
YouTube - 東のエデン 劇場版予告編 Vol.2 Eden of the East THE MOVIE Theatrical trailer Vol.2
YouTube - AVATAR - Official Launch Trailer (HD)
投稿: patch | 2009.11.03 00:19