■感想 伊藤 計劃『ハーモニー』
「一緒に死のう、この世界に抵抗するために」—御冷ミァハは言い、みっつの白い錠剤を差し出した。21世紀後半、「大災禍」と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は医療経済を核にした福祉厚生社会を実現していた。誰もが互いのことを気遣い、親密に“しなければならない”ユートピア。体内を常時監視する医療分子により病気はほぼ消滅し、人々は健康を第一とする価値観による社会を形成したのだ。そんな優しさと倫理が真綿で首を絞めるような世界に抵抗するため、 3人の少女は餓死することを選択した—。
遅まきながら昨年のSF大賞受賞作『ハーモニー』読了。
健康テーマのユートピアもの、と単純にイメージしていたのですが、豈図らんや、伊藤計劃氏が追求していた「意識」テーマの本格SFでした。
我々人類が獲得した意識なるこの奇妙な形質を、とりたてて有り難がり、神棚に祀る必要がどこにあろう。(P316)
このストーリーはある意味SFの王道である。『幼年期の終わり』を思い出させる。そして僕の文脈だと『The End of Evangelion』にもつながりますね(ありゃありゃ)。(おおげさに言うと)デカルトの打ち立てた「近代」くんの転倒。そしてそれに立脚した「文学」ちゃんへの決別でもありますね。
そしてもしかしたら作家からご親族へのギリギリの状態のメッセージ。本当にラストページ、涙なしには読めません。
伊藤計劃氏、やはり「意識」が主要テーマだったのですね。
次に「From the Nothing, With Love」(『超弦領域』所収)でさらにそれを深化させる方向性が書かれていただけに(こちら参照→ http://bit.ly/751Rhf)、本当に残念。もっともっと読みたかった。
伊藤氏が亡くなり、今は叶わぬこととなってしまったが、この本のラストの後の世界を描く小説が読んでみたかった。あのラスト、小説の形態を喰い破っているわけだから、その先を描いたらそれは「ポスト小説」。なんだかわからないものになりそうだけど、そんなゴールを伊藤氏が構想していたとしたら、、、。
この本では、意識と意志の区分けが曖昧だった(両者をイコールとして書かれていた)。意識=意志+コミュニケーション(言語)では、と思うのでこのコミュニケーションについて触れていないのは少し残念。
ここを描いて、意識のメカニズムが自明になった世界において(つまり「近代」の呪縛から解き放たれて)、主人公たちが行動して行くような小説が読んでみたい、なーんて夢想をしてしまった。
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コメント
箱ミネコさん、こんにちは。
>>兄も現在映画監督(映像作家)になって
>>そんな世界観を追いかけております、
映画監督(映像作家)!
どんなもの撮られているんですか?
>>金田氏も少年時代、大空を見上げていたのでしょうね、
幼少期 父親の乗る戦闘機を地上から眺めるって、凄い影響力と思います。父親がバスや電車の運転手って子供にとって凄く誇らしいですよね。それが戦闘機って、どの程度の影響力か想像できません(^^)。
そういえば、宮崎氏も父親が飛行機会社。やはり空を見上げてたでしょう。あの飛行シーンには影響が何らかあるでしょうね。
そして押井氏の父は探偵。これは少し違いますか(^^;)。
投稿: BP(箱ミネコさんへ) | 2010.01.10 12:17
記事「愛媛」に直しました~
ははは勘違いでした☆(駄目駄目)
ありがとうございます!
父は航空機パイロットになりたかったので
同じ志のいとこと猛勉強したそうですが、
視力の問題で挫折!!(残念)
カメラマンになったのでした。
でもいとこは無事、国内線のパイロットになりましたよ☆
私も兄もそんな父の影響で
航空機から宇宙ロケットと大空にあこがれましたが
兄も現在映画監督(映像作家)になって
そんな世界観を追いかけております、
飛行機乗りへのあこがれは
創作ヒントになるのかもですね~
金田氏も少年時代、大空を見上げていたのでしょうね、
そんな共感、嬉しいかもです♪
投稿: 箱ミネコ | 2010.01.09 15:15
箱ミネコさん、こちらこそ、今年もよろしくお願いします。
>>身内の不幸と
>>新型インフルエンザ入院(涙)などで
>>すっかり遅くなりましたが
Blog、拝見しました。本当に御愁傷様です。
新型インフルエンザも、入院とは大変でしたね。
>>「意識」がテーマのSF、私も惹かれます、
>>機械が好きな理由も突き詰めればそこにあるのかも?
>>仕組みと規律が何かによって動き出す、
>>ロマンチック~!(オイオイ)
そーなんですよね。人の心のメカニズムもロマンチック。伊藤氏の本を読んでるとドキドキしてきますからね。僕も仕組み/仕掛け、好き。
>>そういえば戦闘機はお好きですか?(いきなりだな)
>>今回ウチのブログで旧日本軍の「紫電改」の記事を書きましたが、よろしかったら覗いてみてね、
うわぁ、感動的ないい記事ですね。お父様、素晴らしい経験とお仕事をなさってるのですね。「紫電改」のビデオ、観たくなりました。
Amazon見ると、愛知でなく愛媛と書いてますが、両方あったということでしょうか。
戦闘機、時々航空祭へ行くけど余り機種も知らないぬるいファンです。
金田伊功氏と言えば、お父さんが自衛隊戦闘機乗りで、それがアニメートへ良い影響を与えていたと思うのですが、紫電改の引き上げの話、金田氏で映像化されたら、とても良さそうな話ですね。
金田アニメートで箱ミネコさんのお父様が少年時代に見られたのと、海底の紫電改を映像化。凄く観てみたい(^^;)
投稿: BP(箱ミネコさんへ) | 2010.01.09 09:34
身内の不幸と
新型インフルエンザ入院(涙)などで
すっかり遅くなりましたが
今年もよろしくです★
「意識」がテーマのSF、私も惹かれます、
機械が好きな理由も突き詰めればそこにあるのかも?
仕組みと規律が何かによって動き出す、
ロマンチック~!(オイオイ)
去年のアクセス解析記事読みました、
金田伊功氏が好成績だったのは何だか嬉しかったです、
そーいえば私も金田氏で検索してここに来たのだった!!
偉大なり、天才☆
そういえば戦闘機はお好きですか?(いきなりだな)
今回ウチのブログで旧日本軍の「紫電改」の記事を書きましたが、
よろしかったら覗いてみてね、
知識的には全然ダメですが(ゴメン)
ノスタルジックな話です。
投稿: 箱ミネコ | 2010.01.08 03:19