■感想 『東のエデン 劇場版II Paradise Lost』
というわけで神山監督の2年間のプロジェクトの最後を飾る『東のエデン 劇場版II Paradise Lost』、先週初日に観てきました。感想が遅くなりましたが、twitterでは既につぶやいていたのでそのまとめです。(つぶやきは 自動的にtwilogにまとめられています。)
-------------ネタばれ、あります-----------------
■総論 個のポテンシャルへの期待
「個のポテンシャルへの期待」、僕が見終わってジワジワと広がって行くテレビシリーズと映画の感想として、ひとことで言語化するとしたら、そんな言葉が思い浮かぶ。
特にこの映画版第二作では、亜東才蔵が語るある言葉でグッときた。映画の中のそのセリフ自体でなく、そこで今まで無意識で受け止めてきたものが圧縮解凍される感覚。それが先に挙げた言葉として集約された感じである。
意識的に深く後へ引く作りで、一定の結末は作るがカタルシスは最低ライン。最終話はエンターテインメントを外し、思索と論議を観客に期待したものを狙っている。潜在的救世主は個々の全員であるという、まさにノブレス・オブリージュなラスト。
AIとしてのジュイスの成長がこの計画で、亜東の狙ったもうひとつの目的だったのだろう。去って行くタンクローリーと三姉妹の映像が、成長したAIの今後の活躍を想像させる。あの映像は、ジュイスが潜在的救世主たる多数の日本人をサポートしてくれるのを暗示させているのだと思う。
■各論メモ
・唾棄すべき世代
上の予告篇映像から引用した地下トンネルのシーン。
師匠を含む団塊の世代(というか全共闘)批判になっていて笑ってしまった。「こうした活動を続けておく必要があったかもしれない」というパンツの呟きが染みるセリフになっている。
ここを観た時に思ったのは、テレビ版のミサイルシーンで『TOKYO WARS』の日本を疑似戦時情勢下におけば何かが変わるかもしれない、という押井守のテーマ設定の全否定との連関である。今回の映画版でのさらに後追いするこの団塊世代批判、これはもう神山監督、確信犯である(^^;)。
ここからやはり、押井守と神山健治のエデンテーマでの対談のセットは、アニメーションジャーナリズムの必須課題になったと思う。どちらかのアニメ誌で企画されんことを切に望む。もしそうしたものが企画されなければ、作品を世に送り出したプロダクションI.Gが主催して、パネルディスカッション、なーんて企画を期待したい。
・血縁の描写と出自の500円玉
今回、わざとなんだろう、日本的血縁的な話になっていた。ウェット感たっぷり。戦後日本の価値観が通用しなくなる様を亜東がつぶやくのだけれど、そこの構造を補強する為にそうした描写を入れたのかもしれない。
そしてこのくだりで、まだ整理できていないテーマが滝沢とその母が語る金銭に関する部分。使うことよりもそれを稼ぐことに視点を移したらどうだろう、ということに聴こえたけれど、ここは当初から滝沢の母に関する唯一の記憶として描かれていたように、はじめから重要なテーマ設定がなされていた部分。次に観る時にはここをより理解できるように注意して観たいものです。
・その他のつぶやき
・神山監督、SAC 2nd GIGと直結するテーマの深化。低きへ流れる人々の気持ちをどう個として進化させるか。
・救世主たらんとして、個と個がどう立ち向かうか、ということだよね。こんな堅苦しい言葉でなく(^^;)表現されているのだけれど、、、。
・真っ向社会派SFだと思うのですがtwitterプロSFの人達のつぶやきがない。なんでかな? 神山テイストが斜に構えたSFスタンスに合わない所はあるけれど..寂しい。
・ロマンアルバム『東のエデン 神山健治の世界』に監督インタビュー"(東のエデンは)続けたいという思いもあるし、ずっと続けられるとも思います"(P61)アニメという媒体かは不明。
・『東のエデン 神山健治の世界』監督インタビューが大量だ!と買ったらエデンの話は10頁だけ。後は監督の生い立ちと作品歴。後者も面白いけどエデンのこと読みたかったので肩すかし。オトナアニメの特集号を買えばよかったかな?
・3/13〜『東のエデンII』主人公はNo.9。憲法9条からも由来する名前。 #edenoftheeast http://9.gaga.ne.jp/ RT @kumamchu 3/19〜NINE 4/10〜第9地区 5/8〜9番目の奇妙な人形。3ヶ月連続“9”にちなんだ作品。偶然
◆関連リンク
・【インタビュー】神山健治監督が語る『東のエデン』の世界
『東のエデン 劇場版II Paradise Lost』3月13日公開
もともと新しいものを受け入れていく良さというのはこの国、日本にもあったのですが、古い人間は、俺たちの時代でひとつ完結したのだから、もう新しいもの を受け入れて変化したくないと言い、若い世代は昔のことは知らんと言う。そうなると、深みは増さないだろうなと。最終的に『劇場版II』を描き終えた段階 で思うことは、そういうことでしたね。
現在ニートと呼ばれている人たち、そして団塊の世代が、自分たちだけの世代で完結しようとしている部分について考えてみようということでスタート した企画でしたが、そういった世代が互いに断絶するのではなく、繋がっていくことによって新たな深みを手に入れていけば、まだまだこの国は捨てたもんじゃ ない。そんなことを感じてもらえたらいいな、というのが、『劇場版II』を終えた時点での僕の総括ですね。
『東のエデン』という物語に出てきた若者たちは、映画が終わっても、どこかでまた前に進んでいっているじゃないかと思える作品になっていると思います。こ こで終わってしまうのではなく、ここから先を彼らは生きていくんだ、そんなことを、『劇場版II』をご覧になった皆さんにも想像してもらえたらうれしいな と思っています
・『東のエデン 劇場版II Paradise Lost』
映画評 氷川竜介(アニメ!アニメ!)
「お金を使うこと」と「お金をもらうこと」の対比から浮かぶセレソンゲームの真意は痛快だが、主張のいくつかはシュガードリーム的で、手厳しい批判にさらされる可能性が高いとも思った。しかし、そうしたアンバランスさを越えた、ひたむきさが伝わってきたことも事実である。
・ 神山健治監督『アマゾン限定 東のエデン 劇場版I The King of Eden + Air Communication Blu-ray』
2010/03/24発売
・ニッポン放送 吉田尚記のPodcast『東のエデン』神山健治監督インタビュー!(クリックでiTuneが立ち上がります)
・ 『オトナアニメ Vol.15 東のエデン&プロダクションI.G特集』
◆twitter上での会話
最後にここからはtwitterのお二人の仲間との会話を、紹介させていただきます。「RT」以降がお二人のつぶやきの一部引用、それ以外の部分は僕のつぶやきです。臨場感をお楽しみいただければ幸いです。
あとお二人の元発言へのリンクは、ここでは貼れませんが、butfilpのtwilog 3/14, 3/15をご覧下さい。
■ZERO_tortoiseさんとのtwitterでの会話
・あ、単品という考えは全くなかったです。シリーズの最終話、で、寸止めは凄いとww。単品としては1の方がいいですね。 RT @ZERO_tortoise: @butfilp あえてカラミたいんですが「エデンの東 劇場版Ⅱ」、単品の映画としてはどうお考えですか?…監督の寸止めの企みw
・あの公開規模なので興行と言えるか否か(特に東海は1館だけ)。あのテーマはオープンエンディングしかないかも。 RT @ZERO_tortoise 東のエデンⅡだけ観たら計算されたアンチクライマックスとローカタルシスの映画なのでツライw興行映画として
・@ZERO_tortoise 今回もTVからのシリーズだし、神山監督って本当はまだ「映画は撮ったことがない」のかもしれません。早く独立した本篇を観たいもの。でも師匠がボケるま で撮る(勝つために戦え!<監督篇>)と言ってるのでIG一軍はずっーと使えないかも。上がりを決め込んだ...
■青の零号さんとのtwitterでの会話
会話の紹介の前に、青の零号さんの感想はこちら。
→ 『東のエデン 劇場版II Paradise Lost』感想 - Biting Angle
・青の零号さんの骨のある具体的感想だ!せっかくなのでハッシュタグ! #edenoftheeast Reveal the World♪かけてRe! RT @BitingAngle @butfilp いやいや、いま帰ってきてざっと感想をさらってるとこです。そろそろつぶやきますよ~
・そうですね、この姿勢が気持ちいい! RT @BitingAngle Ⅱを単独で見ると問題提起に寄り気味、ディベート重視のスタイルなため、劇場映画としてのバランスはやや悪い。まあそこまでして生真面目な姿勢を貫く作風も、また神山監督らしさではありますが。
・リアリズムへ落とさざる得ないくらい監督の受け止めてる空気は重いのでしょうね、それも切ない。 RT @BitingAngle ..もっと大風呂敷や突拍子もないビジョンが示せたのではないか..最後はリアリズムへと落とし込んだ作り方をどう評価したものか..
・あの描き方はまさにそこへ落とす筋道がありますね。でもそれを安易に描かなかったのも監督の覚悟でしょうね。
RT @BitingAngle: SF的な視点で..AIとの共存を模索するという発想も..コンシェルジュAIの確立とか
・絶対続編有ですよね。そこまでにtwitterの集合知も監督にInputされどう発酵するかw? RT @BitingAngle しかし神山監督は..しごくマトモな結論ではあるけれど、SF的には逆にマトモすぎるともいえるのがちょっと惜しまれるところ..
・そうですね。僕も今回はファーストインプレッション。1回では密度高く全部受け止めきれなかった。そのまま2回目観ようかとよほど思ったのですが、、、ww。 RT @BitingAngle: いずれにしろ、もう1回は見に行って頭を整理し直したいですね..
・あの描き方はそうでしょうね。
価値観って奴をどう突破するかのヒントは描かれてたし.. RT @BitingAngle 親子や血の「繋がり」もテーマのひとつであった..そんな「繋がり」を次は世代間で結んでいこうというのが滝沢の考えであり亜東氏の思い..
・大丈夫です。猛獣はごく一部しかいません。一番の猛獣は監督御本人 @kixyuubann だったりして(^^;)。 RT @BitingAngle @butfilp うわ、猛獣の中に生肉を投げるような仕打ちだw
・鋭い見方!それは思いつきませんでした。SFにするより世代間を描写を構造として選択されたということでしょうかね。 RT @BitingAngle たぶん監督の中でも大きな方針転換...母親の登場で、母性としてのジュイスが前に出しにくくなっただけかも..
・タンクローリーの行く末は観てみたい
SAC新作もボチボチ観たいし。押井が攻殻をという噂もあり、SAC再びプロジェクトもあるかもww
RT @BitingAngle ..神山監督の作る作品は何らかの形で「続編」..さらに深化した完全新作にも魅力..
・TVとしては画期的かも。低い民度が議論されるTVでこそ意味あるケース。夜9時台で放映してたら..w RT @BitingAngle フィクションが現実とどう向き合うか、あるいはフィクションを通じて、観客を現実とどう向き合わせるかというテストケース..
・ロマンアルバムで2年間の活動、特に09末は大変な状況とのこと。でも監督のtweetでは既に活動されてる様子ですね。ご自愛下さいと言いつつ次作を期待!! RT @BitingAngle ..休む間もなく次回作を練って欲しいという..気持ちも..
・@BitingAngle 勝手にハッシュタグを付けまくり、すいません。これも直列化のために必要なこととご理解いただきたく!! (^^;)どんなResが付くか楽しみにしつつ、今夜はここいらでお休みなさい。あー、なんでshamonさんはいないんだ?!ww
■謝辞
クロスレビュウでおつき合いいただいたshamonさん、青の零号さん、長いこと、ありがとうございました。これだけ続けられたのも御二人のおかげです!! 感謝!
また次の神山作品か、磯光雄作品でクロスレビュウ、しましょうね!!
■当Blog記事
『劇場版 I The King of Eden』
第11話「さらにつづく東」
第10話「誰が滝沢朗を殺したか」
第9話「ハカナ過ギタ男」
第8話「あらかじめ失われた道程をさがして」
第7話「ブラックスワン舞う」
第6話「東のエデン」
第5話「今そんなこと考えてる場合じゃないのに」
第4話「リアルな現実 虚構の現実」
第3話「レイトショーの夜に」
第2話「憂鬱な月曜日」 第1話「王子様を拾ったよ」感想
竹田悠介美術 HDR(High Dynamic Range)写真タッチの映像
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コメント
青の零号さん、まいどです。
さっそくのコメントとTB、ありがとうございます!
>>私のまとまらないつぶやき関連までご紹介いただいて、恐縮でございます。
こちらこそ、勝手に使わせていただいてすみません。
自分としては刺激的で面白い会話だったので、使わせていただきました!
>>特に、「一定の結末は作るがカタルシスは最低ライン。」という言葉は
>>劇場版Ⅱの総括としてこれ以上の表現はないと思いました。
恐縮です。表現はともかく、さきほどtwitterでもつぶやきましたが、とにかく映画としての構造を破綻させてまでも、滝沢君を真摯に描く神山節にまいりました。
>>エデンを巡っての直接対談も面白いですが、やはり押井監督には
>>作品によって態度を示して欲しい気もします。
>>その点でも、この師弟を巡る今後の作品からますます目が離せません(笑)。
この神山監督の投げかけに答えるような愁傷な師匠じゃないと思いますが(^^;)。『アバター』に負けたと嘆く押井監督は、もとから神山氏が設定したエデンのテーマ設定には、現在あまり興味ないのだと思います。
なので無理矢理でもその対談が聞きたいのですがねー。だれかUSTREAMでもいいので企画してもらえないかなー。
投稿: BP(青の零号さんへ) | 2010.03.23 00:17
こんばんわー。
私のまとまらないつぶやき関連までご紹介いただいて、恐縮でございます。
当方でも感想書きましたが、BPさんの情報量と冷静な分析には到底及ばず。
特に、「一定の結末は作るがカタルシスは最低ライン。」という言葉は
劇場版Ⅱの総括としてこれ以上の表現はないと思いました。
>押井守と神山健治のエデンテーマでの対談のセット
エデンを巡っての直接対談も面白いですが、やはり押井監督には
作品によって態度を示して欲しい気もします。
その点でも、この師弟を巡る今後の作品からますます目が離せません(笑)。
投稿: 青の零号 | 2010.03.22 20:24