■感想 長谷川和彦監督『太陽を盗んだ男』
ごくごく普通の中学教師が、プルトニウムを盗み出して自らの手で原爆を作り上げ、国家に挑戦していく姿を描いた、伝説の監督・長谷川和彦による反体制的ピカレスク・ロマン。一見荒唐無稽風でアラも多いが、それを凌駕(りょうが)する映画のパワーに満ち満ちている快作であり、20世紀を代表する日本映画の1 本にこれを推す者も多い。
以前からDVDは持っていたが、もったいなくて観てなかった。
二十うん年ぶりに観たのは、実は庵野秀明監督『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の前半、新東京市の朝の何気ないシーンを描いたシーンで、この映画のサントラ曲「YAMASHITA」が使われていたのがきっかけ。
何気ないシーンなのだけれど、滅びの影が忍び寄る未来都市が、今そこに存在する実感を見事に表現していた。
どうしてこの音楽がこんなにぴったりくるのか。よくわからない。
でも聴くたびに何故か涙腺が刺激されるシーン。
で、ひさびさに観た『太陽を盗んだ男』。
この曲、井上堯之の「YAMASHITA」は、『太陽を盗んだ男』の原爆を作る男・城戸誠と戦わざるをえなくなった警部・山下満州男のテーマ曲である。本篇で3度使用されているが、それは全てこの菅原文太演じる山下警部を描いたセリフのないシーン。情景描写にかぶせたこの曲で山下というキャラクタを雄弁に語っている。
映画は今観ても傑作だった。
当時の「シラケ」と呼ばれる空気を見事に体現した「原爆の兄ちゃん」沢田研二。あの憂鬱だけれども中味が何もない、と感じさせる主人公がなかなか素晴らしい。僕は倒れてくるビルを押さえるシーンとか、いきなりゼロを放り投げるシーンとか、好きです。
原子力発電所のシーケンスと原爆を奪還するところのコミカルさと同居する被曝の影響による死の影の描写。あまり時代論で語るべきでないと思うが、あの頃の、お笑いと悲痛な不安がどちらも街にあふれていたような空気をうまく映像に定着しているような気がする。
そして『太陽を盗んだ男』は、神山健治監督『東のエデン』ファンは必見。ネタバレになるから言いませんが、明らかに『東のエデン』に2つほど大きな影響が。
■以下、ネタばれを含みますので未見の方は注意ください。
『東のエデン』ファンは、この映画をみて驚くために、以下リンクの予告篇も観ない方がいいです。
まさか神山監督(@kixyuubann)のtwitter名とこんなに関係しているなんて。
そしてエデンのテロリスト滝沢と「原爆の兄ちゃん」沢田の関係。
2話にあった『太陽を盗んだ男』ネタ
・刑事が9番を追う
・9番が梅ガムを買う
ネットでは既に指摘されてた。9番という名のテロリストが出てくる映画という共通項。
第1の要求は「プロ野球ナイターを試合の最後まで中継させろ」。電話を介しての山下との対決の結果、その夜の巨人対大洋戦は急遽完全中継される。快哉を叫ぶ誠は山下に名乗った。俺は「9番」だ、と(当時、世界の核保有国は8ヶ国、誠が9番目という意味)。
9番にはこんな深ーい意味があったんですね〜。
あと原爆によって日本政府にオールマイティに好きなことを要求できるようになった「9番」って、まさにセレソン。
そして、DJの沢井零子:ゼロ(池上季実子)に電話する城戸誠。
ラジオで何でも実現できるとしたら何を頼みたいか、と募集。
その結果で野球中継を9:00で打ち切らないで放映させるところなんて、まさに首相の「ギャフン」を思い出させる。
twitterで@kixyuubannさんに、『太陽を盗んだ男』のファンですね?、と聞いたのだけれど、まだ返事はいただけてない(^^;)。
◆関連リンク
・YouTube
- 「太陽を盗んだ男」予告編
予告篇は非常に古い感じがする。映画本篇に比べて、ストーリーの紹介の印象も違うし、そもそもの作りが7-80年代っぽい。
・YouTube
- 「ルパン三世 カリオストロの城」予告編
同じ東宝で1979年の同じ年に公開。しかも本作のわずか3ヶ月ほど後に公開されたのが宮崎駿のこの傑作。『太陽を盗んだ男』が1979.10/6公開。『カリオストロ』が1979.12/15公開。こちらの予告も古いww。
・YouTube -
ヱヴァンゲリヲン新劇場版: 破 - 山下 (HD)
この傑作シーンは是非Youtubeでなく、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』全篇としてしっかり観てほしい。
・ 井上堯之他『太陽を盗んだ男サントラ』
このAmazonのサイトで視聴できるが、ほとんど『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で使われたのがオリジナルスコアであることがわかる。「原爆
Part2」という曲もメロディは「YAMASHITA」の変奏。
・ 森田芳光監督『ときめきに死す』
この映画が公開された当時、『太陽を盗んだ男』派と『ときめきに死す』派の静かな戦いが僕の周辺であった(^^;)。実はゴジ監督には内緒ですが、僕はどっちか選べといわれたら『ときめきに死す』なんですが(^^;)。
・ときめきに死す - Wikipedia
松岡正剛『千夜千冊』によると、森田監督は、松岡正剛と谷川浩司をキャストに考えており、松岡には実際にオファーしている。松岡の役は、日下武史に受け継がれた。
ひぇー、知らなかった。
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