■感想 片渕須直監督『マイマイ新子と千年の魔法』
評判のいい『マイマイ新子と千年の魔法』、DVDが7/23発売されたので待ち望んでレンタルで観た。
豊潤な土地と子供時代の描写が圧巻。
ウィスキーボンボンの後のハンモックシーンくらいから涙腺の内圧が上がりっ放し。それが何故だか解析できない、、、片渕須直監督の組上げた魔法にやられました。
涙腺内圧上昇の理由は、子供時代のディテイルの描き方がひとつの大きな要因だろう。自分が今、思い出す子供時代は記憶の時間のベールの向こう側でぼんやりとしている。この映画のディテイルは脳の皺の奥底に埋もれているその記憶を掘り起こしてくれるような感覚がある。
見事な自然描写と、主に新子のモノローグによる子供時代の心象描写。色鉛筆をナイフで削る感覚、麦の中を進む足元。そして昭和30年の町並みと学校生活の細やかな描写。こうした諸々が過去の自分の記憶の残滓と共鳴し、脳内に立ち上がる。
これが内圧上昇の根幹にあるものだと僕はぼんやりと感じた。
随分とタイプは違うが、こうした作用で思い出すのが岩井俊二監督作品。特に『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』である。少年時代のほのかな恋愛感情と大人の事情による別離を描いたこの作品が描いたディテイルを僕は思い出していた。岩井監督も登場人物の心象を凄く繊細に画面に定着する演出をされるのだけれど、今回の片渕須直監督の筆致も、その演出力が素晴らしい。
アニメーションのテクニックについては、日常芝居とファンタジーの緩急自在の作画とか良かったのだけれど、僕にとっての『マイマイ新子と千年の魔法』は、やはりこの演出につきる。もちろんその演出を支える映像技術、画面構成/作画監督の浦谷千恵、尾崎和孝両氏の功績が大きいことは言うまでもないのだが。
映画の疑似体験としては、是非この映画は子供達に見せたいですね。
一番いいのは、昔の小学校でやっていたような講堂での上映会。クラスのみんなとこういう映画をワクワクしながら観るのって、きっと得難い経験になると思うのだけれどなー。
■その他
・防府に一時住んでいた金田伊功氏と3年3組の関係について片渕監督が語られている。DVDの発売日は7/23だが、金田氏の一周忌の7/21でも良かったように思う。
・金田氏と今回の映画の作画のつながりとして、小林治的フォルムの登場人物が出ていたが、なんだかそのあたりは源流で繋がっている気が。
・浦谷千恵さんはアニドウ→ジブリ、尾崎和孝氏は『電脳コイル』の印象が強い。浦谷さんはFilm1/24とかにイラスト描かれていて昔から知っているので(もちろん誌面でだけw)、エンディングタイトルでメインスタッフと知って嬉しかった(^^)。
・今敏、細田守、片渕須直、磯光雄、湯浅政明といった各監督の作品をあのレベルで作り続けているマッドハウスって、既に実力的にはスタジオジブリ以上かも。少なくとも演出力では超えている。
・これだけ実力のある映画なので、宮崎駿が静かに一部の人気を得ていたのが、一気に大ヒットへ行ったように、今後、きっと片渕須直監督の映画は認められていくように思う。本来のジブリの正当な進化系がここにあるって感じ。
◆関連リンク
・ 高樹のぶ子『マイマイ新子』
演出の描いた心象風景の根幹にきっとこの原作があるように思う。この小説は是非一度読んでみたい。
・片渕須直 - Wikipedia
・ 岩井俊二監督『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
7/30追記
ファンタジア映画祭にて、最優秀アニメ賞を受賞! - 映画「マイマイ新子と千年の魔法」公式ブログ
ベスト・アニメーション(長篇):マイマイ新子と千年の魔法
ベスト・アニメーション(短篇):Bastien Dubois’ MADAGASCAL
ベスト実写映画(長篇):川の底からこんにちは(石井裕也監督)
実写部門グランプリ:川の底からこんにちは
アニメ観客部門グランプリ:サマー・ウォーズ(細田守監督)
サマー・ウォーズとのダブル受賞。マッドハウス、凄い! スタッフの皆様、おめでとうございます!
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コメント
青の零号さん、コメント有り難うございます。
>>機会があれば、次こそはスクリーンでご覧いただきたいですね。
>>ぜひ大画面で麦の海へとダイブしてください。
>>「国衙は広大だわ・・・(笑)」
今回もソースはDVDですが、いちおうスクリーンで観ました。次はテレビのハイビジョン放映を楽しみにして、麦の海を楽しみたいと思います。
その前にサマーウォーズのハイビジョン放映も楽しみです。
>>アニメ製作志望者はこの作品一本じっくりと見るだけで、
>>ものすごい勉強になるんじゃないかなぁ。
本当に緻密に編み上げられてますね。
若き日の『カリ城』の宮崎氏よりも情感的な演出は凄いかも。
投稿: BP(青の零号さんへ) | 2010.07.31 10:54
映像通のBPさんにようやく見てもらえて、しかも絶賛していただけるとは、
マイマイファンの一人としてめちゃくちゃうれしいです。
機会があれば、次こそはスクリーンでご覧いただきたいですね。
ぜひ大画面で麦の海へとダイブしてください。
「国衙は広大だわ・・・(笑)」
>ウィスキーボンボンの後のハンモックシーンくらいから涙腺の内圧が上がりっ放し。
その前のシーンで重い内容を笑いに紛らせてストンと出してから
二人の距離が一気に縮まるまでの流れが絶妙だと思います。
アニメ製作志望者はこの作品一本じっくりと見るだけで、
ものすごい勉強になるんじゃないかなぁ。
>本来のジブリの正当な進化系がここにあるって感じ。
片渕監督といいマッドハウスといい、日本アニメの未来は
もうあそこではなく、むしろこちらにあるのかもしれません(^^;。
投稿: 青の零号 | 2010.07.30 23:09