■感想 よしながふみ『大奥』1-5巻
治療法も見つからぬまま80年余りが経過し、病は『赤面疱瘡(あかづらほうそう)』という名で国に根付いていた。凄まじい勢いで減っていった男子の人口は、女子の約4分の1で安定した。そして男子はその生存率の低さから子種を持つ宝として大切に育てられ、女子があらゆる労働力の担い手となっていくのであった。
よしながふみ『大奥』5冊、やっと近所のレンタル屋で借りてきた。
ティプトリー賞受賞に納得。ジェンダーテーマのSFというだけでなく、ティプトリー作品に通ずる凄みがある。特に2巻クライマックスの<修羅の道>描写は奮える。大奥って、この本での男女の転倒も面白いけれど、そうでなくても場所としていまさらながら凄まじい設定だ(現実にあったというのがまた凄い。当時の政権の家系を絶やさないための子づくりシステム!)。
そして『大奥』3巻。だんだんこの異様な世界が、一妻多夫の人類以外の生物の物語に見えてくる。この異質感はラディカル!!
5巻まで読んだが、でもやはり1-3巻の吉宗篇と家光篇が白眉だ。あの世界が構築されていくところの面白さとその中で蠢く生物としての人間。その後は歴史改変の面白さだろうけど、3巻までのような人物描写の凄みが薄れている。
映画は吉宗篇。ティプトリー賞対象は1,2巻のようだ(下記関連リンク参照)。
◆関連リンク
・コミックナタリー - よしながふみ「大奥」、米のSF賞「ティプトリー賞」に輝く
ティプトリー賞の公式サイトによると、審査員は「疫病によって日本の若い男性の4分の3が死亡し男女の立場が入れ替わった、パラレルな封建社会の日本」という設定に惚れ込んだとのこと。 この設定を用いて、男女間の微妙なパワーバランスで成り立つ社会を巧みに描き出した、と評価している。
・James Tiptree, Jr. Literary Award Council
We chose Fumi Yoshinaga’s Ooku, Volumes 1 and 2 as our Tiptree winner with some trepidation. No one on the jury has read much manga; no one is an expert in Japanese history. What we fell in love with was the detailed exploration of the world of these books — an alternate feudal Japan in which a plague has killed 3/4s of Japan’s young men. In Ooku, the shogun and daimyo are women and much of the story takes place among the men in the Shogun’s harem.
The first volume (set in a later time period than the second) shows us a world in which men are assumed to be weak and sickly, yet women still use symbolic masculinity to maintain power. The second volume focuses on the period of transition. Through-out the two books, Yoshinaga explores the way the deep gendering of this society is both maintained and challenged by the alteration in ratios.
The result is a fascinating, subtle, and nuanced speculation with gender at its center.
ティプトリー賞HPに記された受賞を紹介する記事。
特に審査員に日本文化の専門家がいたわけでもないのに、ティプトリーに通ずる凄みが選者に伝わったのでしょうね。
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コメント
shamonさん、こんばんは。
>>「聞こえなんだか、暇を取らす。下がりゃ!」
凛々しすぎます( ̄▽ ̄)
吉宗にピッタリ。
田中敦子で、アニメ版の方が実写より観たいですね。
投稿: BP(shamonさんへ) | 2010.08.29 21:26
ども、所長(。・ω・)ノ゙ コンチャ♪
以前書いた水野編CDドラマの感想をTBします~。
>ラディカルで冷徹に見つめている視線がティプトリー。
絵がさらっとした感じなだけに余計凄みを感じますね。でも人間の愚かさに対する暖かい視線が作品の芯にある。
>作者も吉宗への思い入れが相当あるように見受けられるので
何せCDドラマの吉宗役は少佐・田中敦子さん(笑)ですから。
「聞こえなんだか、暇を取らす。下がりゃ!」
凛々しすぎます( ̄▽ ̄)
投稿: shamon@東京分室 | 2010.08.23 04:37
shamonさん、青の零号さん、こんにちは。
どうもtwitterで会話しているので、こちらのレスがおろそかになってすみません。
>>この作品が斬新なのはそれを実際の歴史に取り込んだ点ですね。
>>プラスえぐすぎる人物描写が大きく評価されたのでしょう。
人物描写、冴えてますね。ラディカルで冷徹に見つめている視線がティプトリー。
>>3巻までの劇的な社会変革は確かに凄みがありますが、
>>男女逆転封建制が確立して以後の4~5巻については、
>>また別の読み応えを感じます。
もともと歴史に弱いのも災いして、4~5巻は乗り切れませんでした。やはり凄みが気迫なのが、、、(^^;)。
>>今月末にはいよいよ6巻、将軍吉宗再登場なるか?
>>さて、次はいよいよ敦子吉宗の治世となりますが、彼女はどのような将軍ぶりを見せるのでしょうね。
作者も吉宗への思い入れが相当あるように見受けられるので、月末が楽しみ。
財政改革の豪腕は、現世の政治家どもに見せてやりたいものです。
飯沼朗首相を画策した神山健治監督に、『大奥』評、書いてほしいものです。
投稿: BP(shamonさん、青の零号さんへ) | 2010.08.22 11:52
こんばんわ、青の零号です。
『大奥』すっごいですよね。
まさにティプトリー賞を獲るべくして獲った作品。
疫病という要素を史実に投げ込むことで、歴史的事実は変えずに
世界観を丸ごとひっくり返すというはなれわざに痺れます。
疫病を発端とする改変世界小説にしてユートピア小説であるという点も、
ティプトリーの傑作中篇「ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?」と
通じるものがありますね。
3巻までの劇的な社会変革は確かに凄みがありますが、
男女逆転封建制が確立して以後の4~5巻については、
また別の読み応えを感じます。
家光時代で世界の書き換えを完了した後、今度は新たに生じた
女権的封建社会の文脈によって「犬公方」の逸話を読み換え、
一人の姫君の悲劇へと転換して見せた発想に驚きました。
綱吉もあの時代、あのような立場に生まれなければ、
普通の利発な女性として生きられたのに・・・などと、
つい同情したくなっちゃいます。
さて、次はいよいよ敦子吉宗の治世となりますが、
彼女はどのような将軍ぶりを見せるのでしょうね。
よしなが先生の筆の冴えに、ますます期待が高まります。
投稿: 青の零号 | 2010.08.21 19:30
ども、所長(。・ω・)ノ゙ コンチャ♪
柴田昌弘の「ラブ・シンクロイド」も
原因不明で男性が減る異世界SFですが、
この作品が斬新なのはそれを実際の歴史に取り込んだ点ですね。
プラスえぐすぎる人物描写が大きく評価されたのでしょう。
このえぐさは山岸涼子作品にも通じます。
今月末にはいよいよ6巻、将軍吉宗再登場なるか?
投稿: shamon@東京分室 | 2010.08.19 21:23