■感想 原恵一監督『カラフル』
樋口真嗣監督
"アニメーションを用いなくてもできる描写ばかりなのに、アニメーションでなければできない表現に到達しているではありませんか!比類なき強靭さを湛える演出の進化に驚愕です!"中島かずき氏
"アニメとか実写とか関係ない。映画としての大傑作。一人寡黙に未踏の頂をめざす原さん。僕らも黙って彼の 背中を追っていくしかない。まいりました"
樋口監督、最大の賛辞!
中島氏の「寡黙に未踏の頂」っていうのもかっこ良すぎるww。
というコメントはCMなので割り引くとしても、twitter各所の評判がいいので、原恵一監督『カラフル』を初日に観てきた。
◆総論
丁寧に作られた心にしみる映画。現代的な事象で描いてあるが普遍的なテーマを描いている。
いつもの原監督のノスタルジーもあるがそれを否定する発言を登場人物に言わせて、あくまでも時代に寄らない人間のありのままの姿を描いている。
でも実は僕が一番グッと来たのは、はしだのりひこの「風」の曲が鳴るシーン(なんだノスタルジーかよ!>>自分(^^;))。その部分のストーリーも、アニメーション映像の良さが相まって、とにかくグッと来た。こういう描写をすると原監督、相変わらずピカイチだ。
映像表現では背景とキャラクターの演技が秀逸。実は冒頭タイトル手前の街の描写がちょっと、たるくって背景を心配したのだけれど、中盤から後半、街と自然の描写が特にいい。背景がテーマを素晴らしく謳っている。
実は川のシーンや屋上からの街のシーンが実写かと思ったけど、そうじゃないらしい。
テーマを表している言葉「カラフル」。光と闇の混沌ということかな。誰でもなんどか経験している自分の心の動きを、映画が丁寧にトレースしてる。で、記憶をいろいろと呼び覚まさせる。僕の記憶は学生時代よりも何だか最近の父親としての自分だったりしたけれど、、、(^^;)。
◆その他 よもやま話
初日の観客は、思ったより入ってた。原監督の知名度で東海地方の夜9時頃の回、4割程の入りならまあまあかも。ただ見終わった会場の雰囲気はそれほどいい雰囲気でなかったような印象。何故か?
実は僕は『マイマイ新子と千年の魔法』派(^^)。どちらも演出は甲乙付けがたく素晴らしいので、後はテーマ、呼び覚まされる記憶等の、個人的好みになるのだろうが、、、。
ストーリー的に、クラスメートの描写がもっとあっても良かったと思う。あまりに閉じた世界で描かれていて、回想シーンだけのクラス描写は残念(真の記憶でいじめを描くところ)。そこが実際のクラスメートとの関係で描かれるとリアリティの強度が増すのに(^^;;)と残念だった。
クラスメートについては描き始めると、全体の時間が増々足りなくなるという危惧はあるが、二子玉川駅あたりの時間を削っても描くべきだったような気がする。
あと、今回、劇判の使い方で違和感のあるところが(^^;)。感動を盛り上げようとするところでしつこいくらいの劇判の使用があり、あそこは抑えた方が良かったかと。(マイマイ新子もその点は一部同様のシーンがあった記憶。)
◆感想 中原俊監督 実写『カラフル』(森田芳光脚本)
この原作は、2000年に中原俊監督、森田芳光脚本で、既に実写映画化されていた。これは邦画界では期待できるスタッフ。
日本映画専門チャンネルでアニメ版公開に合わせて放映されたので比較して観てみた。
ストーリーがコメディ調。原作品とは色合いが大きく違う。
お母さん役の阿川佐和子、この方、役者だっけ? というくらいで、アニメのお母さんにくらべて辛すぎる演技。もともとコメディ的に撮っているので仕方ないかもしれないが、それにしても家庭のあの状況に対して、あまりにのほほんとし過ぎている。
そして、衝撃の事実w! なんと主人公の真が看護婦姿で兄を...なシーンがある!
原監督作品のイメージを保ちたいファンの方は、絶対に観てはいけません(^^:)。
ただ、コメディタッチで原作品を観た後だと噴飯もののシーンもいくつかあるが、でもラストに至る感動は、これはこれでなかなか捨てがたい、とフォローもしておく。屋上のところはジワッと来た。
中原俊監督の実写版とアニメ版の差分で、原演出のポイントが浮き出てくる。全体のトーン統一と細部のきめ細かさ。もっとも異なったのは一番うしろの家族の食事シーン。実写ではそこが拍子抜けする終わり方。アニメ版では家族の心情のクライマックスになっていて、ここに至る組み立て方が原監督の演出の真骨頂である。
◆関連リンク
・ 森 絵都『 カラフル』
・ 浜野 保樹『アニメーション監督 原恵一』
これは名著です。原ファンは是非。
・ 浜野 保樹『Colorful オリジナル・サウンドトラック: サントラ』
・ 中原俊監督『カラフル』
当Blog記事
・Animation Director HARA 浜野 保樹編『アニメーション監督 原恵一』
・原恵一監督『河童のクゥと夏休み』&『クゥの映画缶』
・BS アニメ夜話 第三弾『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』
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コメント
とある町に住む映画好きさん、コメント、ありがとうございます。
>>映画を見に行ったのは前だけど、見た事のない映画とは違う気がします。アニメの灰●連盟と設定が同じな気がします。カラフルの少年と、灰●連盟のカラスを見くらべてほしい。
文字化けしてますが、『灰羽連盟』ということでしょうか。未見です。機会があれば、観てみたいものです。
投稿: BP(とある町に住む映画好きさんへ) | 2011.01.06 23:14
映画を見に行ったのは前だけど、見た事のない映画とは違う気がします。アニメの灰●連盟と設定が同じな気がします。カラフルの少年と、灰●連盟のカラスを見くらべてほしい。
投稿: とある町に住む映画好き | 2011.01.06 16:30
青の零号さん、超亀レス、失礼しました。
>>決して好きなタイプの話ではないのに、やっぱりクライマックスで
ジーンとくるのは、その真摯さと演出のうまさによるものなのでしょうね。
そーなんですよね。僕もアニメでこういう話って、実は好きではない。
アニメでしか出来ない描写もあるけれど、でも実写に向いたネタと思います。
これが原監督の指向であることはよくわかるし、演出力も凄いけれど、アニメとしてなら、もっと飛躍した描き方があるだろうと思うのです。
クレしんに戻ってくれた方が、絶賛作品になるような、というと顰蹙買いますので、原作のチョイスをもっと奇想寄りにと、好みで書いておきます(^^;)。
投稿: BP | 2010.09.18 09:05
カラフル、日曜日に見てきました。
結構人が入ってましたけど、途中退出が多かったのは気になったところ。
内容の重さが期待とは違っていた、ということなのでしょうか?
まあ必ずしも心地よいとは言えないお話ですが、空想に逃げずに
現実と向き合おうとする強い意志が感じられる、とても真摯に作られた
力作だと思いました。
決して好きなタイプの話ではないのに、やっぱりクライマックスで
ジーンとくるのは、その真摯さと演出のうまさによるものなのでしょうね。
アニメの可能性をまたひとつ高めてくれた作品だと思います。
投稿: 青の零号 | 2010.09.07 22:00