■金田伊功 の 作画解析-3 3D空間をいかに原画に取込むか
金田伊功氏のアニメートについて「3D空間の取り込み」という観点で以下、まとめてみた。あの強烈なパースを持ち、そして歪んだ絵に関し、仮説を立て検証してみた(^^);。
まず上の『無敵超人ザンボット3』において、ザンボエースがマグナムを構えたシーンを見てほしい。
この激しいパースと、本来、眼から腕、そして銃までが一直線に並んでいるはずなのに、歪んでいる絵(特に左)。これにより強烈な立体感が絵に強い力を与えていることがわかると思う。
自身の作画について多くを語らずに逝ってしまったこの天才アニメータについて、この絵の謎に少しでも迫りたいという想いがいまだに僕の中に強くある(^^)。お付き合いいただければ、幸い。
■仮説
アニメーションなので、立体感を奥行き方向に動く画で表現するのは当然として、金田伊功は一枚の絵にも3D空間を封じ込めている。
3D映像は左右の眼の視差で成立している。金田原画はそれを1枚の絵で封じ込めるために絵が歪む。左右両眼の画像を一枚で表現するために、絵に歪みが生じるのではないだろうか。
■検証
絵画には、遠近法というものがあるのだが、これは写真のように、単眼の静止画における手法であって、人間が立体を把握している原理を全て再現しているものではない。上述の歪みというのはこの遠近法による物体認識に対するズレのことである。
立体映画の普及から近年広く知られるようになっているが、人間の立体感は両眼の視野の違いから、脳内の視覚処理により生成されている。
もともと我々の両眼に入って来る外界の視覚情報は、左右別々の眼には直線により構成される遠近法で世界がとらえられている。しかし実際、視覚認識の過程ではその両眼の画像が頭の中で合成されて、実は遠近法から外れて歪むことで立体把握がなされていると考えられる。
単純にこれを証明するために次の画像をデジカメで作成した。
正月前に適当な素材を探していて、たまたま見つけたのが破魔矢。今晩、初詣で奉納するのであるが、金田氏のアニメートのように、これが常識的な遠近法の世界を突き抜けてくれると思う(^^;)。こんなことに使ってバチが当たらないか、少々心配(^^;;)
これは立体視の平行法で、立体画像が認識できるように、両眼の視差をデジカメをズラすことで作成した画像である。
できればここで、平行法が可能な方は、一度、立体視してみてほしい。矢の先が画面に向かって飛び出てくるのがわかると思う。
次にこの画を2枚重ねて、脳内でまず左右の映像が合成された状態(と思われるもの)を擬似的に作成したのが次の写真(右上)。
両眼の視差で、矢のズレがどんな具合になっているかがわかっていただけると思う。
長さと角度の違いがよくわかる。
次に右の2枚目を見てほしい。
本来、左右別々の視差の映像を脳内で視覚処理することに見えている立体画像を、もし静止画で表現するとしたら、どのようになるかと考えて作ってみたもの。
この2枚目は、右眼の前方の画像と、左眼の後方の画像を半分づつ組み合せた映像である。
一番下に比較のために、左眼だけの画像を並べてみたが、どうだろうか、2枚目の方が立体感を感じられないだろうか。
■金田伊功作画の歪み
ここまでで何を僕が言いたいか、わかってもらえると思うのだけれど、この検証画像2枚目のように、金田伊功は、右眼と左眼の画像を、合成して一枚の絵として表現していたのではないか。
2枚目で示したように一枚に合成すると、矢は単なる遠近法の世界から外れて、本来直線であるはずなのに、曲がって見える。
単純に右左半々の画像を足したようなものではないだろうが、金田伊功の原画は、両眼で見えているが認識されていない上の1枚目の画像を、一枚の原画に封じ込めようとして、遠近法の世界から外れ大きな歪みを持ってしまったのではないかと考えられる。
冒頭のザンボエースは、前方に向かう程、反り上がったようなパースが取られている。これと上の2枚目は似たようなパースになっていると言える。
加えて、ご自身の視覚で、特に意識して試してみてほしい。
眼の近くで自分の体(特に手)が動いた時の視覚認識についてである。
例えば、眼に近いところから遠いところへ手がのびて動いているとする。すると右眼と左眼の視野における腕の画像は大きくズレている。これを脳でひとつの映像として処理しているのだが、明らかに動く時には、その画像は大きく歪んで感じられるのではないだろうか。
腕を眼の前で伸ばして、右眼と左眼を交互に閉じて、確認してもらうとわかるが、この歪みは半端ではない。それをむりやり視覚は、一つの立体として認識し、立体的な空間認識を実現しているわけだが、交互に閉じて確認した画像と、さらに腕を動かした時に、遠近法から外れた大きな歪みが感じられないだろうか。
金田アニメートを見ていて、僕がまず感じたのは、非常にこの自分の近辺で動くものの視覚認識に近い動きが再現されているのではないか、ということだった。
おそらく金田伊功は、ロボットの巨大感を出すための絵をイメージしていく過程で直感的にこの手法を編み出したのではないかと想像できる。
絵を動かすが故に、奥から手前に来る時の視覚の変化の表現が必要になり、遠近法から外れざるをえなかったのではないか。
また巨大ロボットを描かなければいけなかったが故に、巨大感の表現のために、遠近をわざと静止画で強調するために、立体的な空間の導入/遠近法からの歪みが必要であったのだと考える。
■補足
単眼のカメラは、広角レンズ他レンズの画角や、ボケによって立体空間を捉えようとしている。その枠の中だけでは、金田氏のアニメートは説明できないと考えて、上記検証をしてみた。
本来、冒頭のザンボエースの画でなく、もっと他にこの説明に近い画を引用して比較する作業も必要であると考えるが、今日のところはひとまず、ここまでとする。追って、他の金田作画の例を引用していきたいと思う。
また3D映画の隆盛で、両眼カメラによる立体空間取り込みのノウハウもこれからどんどん進化していくと思う。
次回は、3D映画のアングル/画面レイアウトと金田作画の関係についても描いてみたいと思う。
以上、現代のアートにおいても金田伊功の位置づけはとても重要でないかと思っていて、遠近法からどのように離脱しようとしていたのか、といった観点で、今後、もっと解析が進むことを望むものである。
■蛇足
実は破魔矢の前に、下記のような画像を試しに作ってみた。
破魔矢に似た形で、戦闘機を用いて作った画像である。
ただし、もともとが立体写真を撮ったのでなく、ビデオにより航空祭を撮ったものから平行視できそうな画像をキャプチャーして代用したので、随分無理をして作ったものである。
なので、とてもへんてこになってしまったので没!
いずれ本当にこういう対象物で検証したいけれど、今回は失敗作として掲載しておきます(^^;)。戦闘機はヤマトのブラックタイガーとかの金田作画と比較してみたい。
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