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2011.01.18

■感想 トラン・アン・ユン監督 村上春樹原作『ノルウェイの森』

Jpg

映画|ノルウェイの森(公式サイト)

 トラン・アン・ユン監督『ノルウェイの森』を遅ればせながら観た。
 傑作! 俳優と音楽、そして映像が語る豊潤な空間。奇跡のようなショットがいくつもある。
 特に冒頭の引用写真のシーン。
 直子からの手紙で会えることがわかって階段を駆け上がるワタナベの映像から、直子が治療する京都の阿美寮の森の空撮への切替えのカット。凄い映像の快感がある。
 そして、その阿美寮の夏の草原シーン(下左)と、レストランでの会話するハツミに迫るカメラの映像。特に前者はなんとも不穏な空間を見事に切り取っている。なんなのだろう、この異界感覚。
 他にもいくつもあるのだけれど、この3ショットに特に痺れた。この映像を観るだけでも映画館へ脚を運ぶ価値があると思う。

Photo

 トラン・アン・ユン監督の映画は、第一長編『青いパパイヤの香り』に続いて、観たのは2本目。
 第一長編も独特の映画空間で素晴らしかったのだけれど、新作は、そこからも凄く進化してる。映像と音と音楽の演出の文体が凄い。そして全体は村上春樹の作品としても成立している奇跡(^^;)。

 阿美寮のシーンに代表される不穏な狂気のような映像の凄み。 どこか黒沢清『カリスマ』を思い出したが、個人的には黒沢清作品比2.5倍の強度。もちろんホラーではないが、そうした映画のファンにも薦められるくらいの秘めた迫力がある映像。

 トラン・アン・ユン監督の文体。
 『青いパパイヤの香り』ではセリフを刈り込んで俳優の表情と情景と、そのアップ映像が特徴で、独特の静かなトーンだった。
 『ノルウェイの森』では才気走ったカット割と音楽のインサートがさらに凄みをそれに追加。まさに映画の神が宿ったような奇跡的瞬間を作り出している。

 トラン・アン・ユン監督の独特の映画演出に加えて、村上春樹の小説の文体が人物のセリフとして、映画としてはある意味、過剰に混入する。
 しかしそれによって獲得された映画の豊潤+村上文体をリアルな人がしゃべることで、いくつか吹き出すような笑撃もw。

20110116_135005

 加えて、音も凄い。
 最初の方で直子とワタナベの歩くシーン、そこの森の音にまずまいった。とにかく映像も音も物語も、鋭敏な刃物のような演出!

 撮影監督は李屏賓。
 スクリーンの印象は全体がくすんだように感じられる映像だったが、パンフのスチルで観るとクッキリ。くすんだ映像が良かったのだけど、映画の空気に侵入された僕の気のせいだろうかw。

 音楽はレディオ・ヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッド。主題のビートルズの歌も使われているが、全体の音楽のトーンはそれを汚したような歪んだ旋律に彩られている。不穏な弦の音にゾクゾクw。Amazonで視聴できる曲"レイコ"とかとてもいい。
 Jonny Greenwood "Doghouse" performed by BBC Orchestra
 『ノルウェイの森』サウンドトラックの基になったもの。この弦の不穏さを試聴あれ。

◆滝本誠さんとの『ノルウェイの森』をめぐるツイート

Twitter / butfilp トラン・アン・ユン監督『ノルウェイの森』

"映画としての異界度は私的には『マルホランド・ドライブ』以来のレベルだった。不穏な空気感、暗黒への踏み込み方等、まさに一級の異界映画。ベトナムから生まれたノアール、滝本誠さん( @noirtaki )は観られたのだろうか。"

Twitter / @滝本誠さん

"@butfilp 「ノルウェーの森」観てないのですよ。パンフに原稿依頼はあったのですが、とても断れない魅力的な編集者なので、これは試写観ると押し切られるという恐怖から試写行かずW。村上春樹氏はたしか以前、リンチからオファーがあれば、と書かれてましたが。"

 残念w‼ この映画にとてもマッチしたLPの形態をした見事なパンフに、足りないのが滝本さんの評論。いずれどこかで是非、書いていただきたいものです(^^;)

 そして、村上春樹のデイヴィッド・リンチへの監督してもらいたいという情報。リンチが撮っていたら、、、、想像するだけで、脳内映像が暴走します(^^)。

◆あと極々私的に。
 加えて『ノルウェイの森』は、1/14深夜1/15早朝にtwitterでつぶやいた『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』をめぐる意識についての話とクロスする(またかw!読み飛ばしてねw)。
 言語で描かれる小説はまさに意識の紡ぐ物語。比して映画は、音楽と映像と言語とそして言語化されない人体の動きと呼吸から構成される。言語をはみ出た豊潤さを獲得した『ノルウェイの森』。

 村上春樹が生み出した登場人物たちの湛える精神的な病のいくつかは、言語と意識が生起したものだろう。映画が始まって、それと拮抗する無意識の知性(身体の動き?)が映画の演出でどう描かれるか期待しつつ観た。そこはたぶん村上も主題にした性の部分として描写された。

◆関連リンク
『ノルウェイの森』トラン・アン・ユン監督インタビュー -インタビュー:CINRA.NET

"他にも映像化したい作品はありましたか?
トラン:それはもちろん、映画化しても素晴らしい作品になる可能性は多くの日本文学から感じられます。私は今までたくさんの刺激を受けて来ましたし、オリジナル脚本で撮る予定の次回作にも多くの日本文学、特に村上春樹さんの影響があると思います。"

Togetter - 「映画「ノルウェイの森」を読み解きながらほとばしるドーパミンっ、村上隆さん @takashipom の 壮絶・悶絶・絶賛!っぷり。」

 村上隆さんの『ノルウェイの森』の大絶賛ツィートをまとめたもの。内容は最高のハイコンテクスト映画であり、革新的と書かれている。
 特に以下のユン監督とのやりとりの部分が興味深いので、以下引用。

"・『ノルウェイの森』監督の Tran Anh Hung様より、ウェブのお問い合わせメールから、メールを頂きました。凄く驚くと共に感動的な手紙の内要でした。誰かがフランス語に翻訳してくださったのでしょう。 takashipom 2011-01-12 11:16:37
・ 『ノル森』監督の トラン・アユン監督からの手紙。クリエーターは常に孤独なのです。なぜなれば、頭脳に瞬くきらめく閃光を通常の文法しか持たない大衆に向けて表現し、共感を呼ぶ行為は『不可能』に近い事を知っている。 takashipom 2011-01-12 11:19:05
・ 「ノル森」:しかし、勇気を持って今ある文法をパッチワークし、その隙間に新しい文法を忍び込ませて、世界のどこかにいる同士にむかって暗号を流す。しかしそれは孤島から瓶に手紙を封じ込めるのと同じように不可能性の高い伝達方法なのです。 takashipom 2011-01-12 11:20:44
・ しかし、それが『芸術』なのです。その暗号を受け取る能力を持った人間が実は評論家、批評家としてこの世に存在するのですが、『ノル森』においては、なぜかその言語解読者がいなかった。 takashipom 2011-01-12 11:22:01
・ 僕は仕方なくと言うか、流れ着いた瓶のふたを開けて出て来た暗号を解読して、皆に伝えねばならないと思った。それが漂着した瓶を拾ってしまった者の責任だから。takashipom 2011-01-12 11:23:19"

Togetter - 「番外編: 村上隆さん @takashipom ハイコンテクスト編 2010年12月21日」
・TBS RADIO ザ・シネマハスラー「ノルウェイの森」 (ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル)
 Podcastを聴くと、他に、時系列で並べていない2.5時間版, 脚本通りの3.5時間版もあるらしい。これはブルーレイで全ver出してほしい。
 釈然としないところが多いとライムスター宇多丸氏は語っている。あと阿美 寮の夏の草原シーンとレストランでのハツミを挙げ前者はJホラー的と言っている。

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