■感想 シネグリーオ製作・冨永昌敬監督『アトムの足音が聞こえる』
◆業務連絡(^^)
先週の記事 シネグリーオ製作・冨永昌敬監督『アトムの足音が聞こえる』試写会プレゼントに応募いただき、有難うございました。
応募は4名様でしたので、全員の方に、試写状をお送りさせていただきました。
お楽しみいただければ、幸いです。 あと1枚、試写状がありますので、上記記事に書いてある注意事項を読んでいただいた上で、記事にある宛先へ、メールいただければ、先着でお送りするようにしますw。
2/10 23時追記。
さっそく本日、試写会ご希望のメールいただきましたので、締切らせていただきます。
◆『アトムの足音が聞こえる』感想
企画・プロデューサーの坂本雅司さんから試写状の後、本篇のサンプルDVDをお送りいただいた。地方在住で試写会へ参加できない私に、ここまでしていただいて大変、ありがたい。
音響をテーマにした映画ということで、僕の貧弱なスピーカーでは心もとないが、さっそく拝見した。(映像は当研究所の100inchスクリーンの家庭用DLP上映なので、そこそこ映画的環境になっていると思う(^^;;))
大野松雄〜宇宙の音を創造した男〜@草月ホール - One Way To The Heaven
"僕がいままで追求してきた、この世に存在しない音、「この世ならざる音」というものを、やっぱり今でも探し続けている。それが今回、何かひとつのかたちとなって現れたら有り難いな、と思っています"
———— 大野松雄"
まさに「この世ならざる音」を生涯かけて追求している音響デザイナーの静かだけれども、気迫に満ちた姿勢を見事にとらえたドキュメンタリー。
冒頭で音響効果マンの著名人の方々が、映画/アニメにとっての音の重要さを様々な形で示される。
ここを見ながら、自分の記憶をたどり、国産初のTVアニメ『鉄腕アトム』に、僕がどんな印象を持っているかを思い出していた。
実は意識していなかったのだけれど、想像以上に自分の中に、音によるアトム世界の構築がなされているのに気づく。
今、見ると、御世辞にもうまいとは言えない、リミテッドを極めるあのアニメ映像が、大野の電子音によって、不思議な暖かみと未来感覚を伴って迫ってくる。
だがそれは、以前に円谷作品について書いた、あの映像に刷り込まれたノスタルジーと判別のつかない圧倒的な質感とは別物だ。
僕らのアニメ映像に肥えた眼に映るのは、やはりチープとしか言いようのない映像。しかしあの音とのコンビネーションで、ある質感を獲得しているのがわかる。
それが何なのかは、僕にはちゃんと分析できていないのだが、「この世にならざる音」に焦れて、まるでDJがレコードをスクラッチするように、オープンリールの音響テープを手でヘッドにこすりつけて、不思議な音を作る大野氏の挑戦に、その一端があるのだけは、しっかりとわかる。
これは、もし『鉄腕アトム』の音響がどこにでもある町の音だけで構成されていたら、と想像すると容易にイメージできるだろう。
ディズニーもフライシャーも知らない田舎の幼児にとって(僕です)、生まれて初めてみる動く絵であった『鉄腕アトム』。絵の動きもだけれど、あの音の持つ未来感覚は格別のものだったと、再奥の記憶領域が僕の意識に働きかける、なんちゃって。
後半、現在の大野氏の生活の中心を成す、あざみ寮・もみじ寮がドキュメンタリーの舞台となる。
寮で年に一度開催される芝居のシーンもなかなか凄い。
歌は素朴に「僕らはみんな生きている」だが、冨永監督はその音を極端にしぼって、大野の音響を上から被せている。
そしてあの極彩色に彩られた老人たちの演技が始まった時、映像はその音と相まって、どこかこの世ならざる舞台を眼前に立ち現す。80歳になって、なおこうした場でも自分の姿勢を崩していない大野氏の立ち姿が素晴らしい。
※この記事の文末、「関連リンク」の下に、ネタばれの感想も書きます。
本来、公開前の映画で物語映画のネタばれとは違いますが、映画の本質を表現し観客に感慨を与えるシーンであるため、書いてしまうのは迷いました。
ただ、どうしてもラストのセリフが、僕のこのBlogにとって、必須の感慨深いセリフだったために、ネタばれ注意の表記とともに、書いてしまうことにしました。
もし関係各位から削除要請があれば削除する前提で、まずは掲載することとします。かなりこのBlog固有の感慨であるかもしれず(^^;)、なかなか複雑なのですが、、、。
◆その他 感想メモ
・電子音響についての歴史も映画の中で、紐解かれているが、ドイツのカールハインツ・シュトックハウゼンや、黛敏郎/諸井誠「7のヴァリエーション」とか、大野に刺激を与えた、音の探求者についての初見も映画の中で語ってほしかった。
。映画の中での音の表現。音を時間の波として、線画で音の強弱のみを示していたが、これをFFT:スペクトルの波形で周波数と音圧をカラー化して示していたら、もっと映画的でよかったかもしれない。
・他に、若者のオープンリールを自動演奏するバンドOpen Reel Ensembleとか、レイ・ハラカミの曲「put off and order」remixed by 大野松雄(「レッドカーブの思い出」('01)より)とか、今日の大野の活動も興味深かった。
・宇宙戦艦ヤマトの柏原満、ガンダムの松田昭彦の両氏が、各々の作品の効果音について、実例で語る。こうしたシーンも貴重。
◆関連リンク
・CD 『 [大野松雄の音響世界(2)] 「そこに宇宙の果てを見た/「惑星大戦争」電子音響』
"大野松雄3枚同時リリースの2枚目は、大野松雄の代表作の初CD化。宇宙をイメージした恐ろしいまでに内面に働きかける電子音響世界。心臓も凍るような ディープな響きは、幻想的なトリップを経て、奈落の彼方へと落ちてゆく。オリジナルは1978年東宝レコード。さらに、同時期に制作された『惑星大戦争サ ントラ』(東宝レコード)内の音楽にかぶせるために制作された電子音部分のマスターテープ(約20分)も発見され、特別付録として同時収録。"
映画であまり多くは聴けなかった大野氏による「この世ならざる音」。
このCDにたっぷりと未知の宇宙の音が描かれているようです。リンク先で試聴できます。
・蒸気幻楽の青: Open Reel Ensemble
ステージで5台のオープンリールテープレコーダが自動で音響を奏でる。
そして彼らが大野氏にハウリングの効果的な使い方を伝授される。
・YouTube - Rei Harakami レイ・ハラカミ - Double Flat (Max 404 Mix) (Opa*Q, 1999)
・CD [大野松雄の音響世界(1)] 『 鉄腕アトム・音の世界/大和路/Yuragi・他』
・CD [大野松雄の音響世界(3)] 「『はじまり』の記憶」
★★★★★★★ネタばれ、注意★★★★★★★
未見の方は、決して、読まないで下さい。
何故、企画・プロデューサーの坂本さんが僕にこの映画のDVDを送っていただいたか、ラストでわかった。
ラストで80歳になった大野氏の映像にナレーションがかぶる。
「彼はこう言います。一度掴んでしまったらその音はこの世に存在する音になってしまう。存在する音に僕は興味がない」
「この世にならざる音」に魅せられた男がラストに語る、凄い言葉。
ここに大野氏の背骨になった思考が込められている。クリエータとして、なんという気迫に満ちた言葉だろうか。
そして、ここからは極個人的な感慨(^^)。
ここで感じたのはまさに「究極音響研究所:大野松雄」(^^;)というイメージ。
この彼の言葉の「音」を「映像」に置き換えると、まさに僕がこのBlogでやっていきたいこととズバリ重なる。
クリエータと、唯の映像/音響 鑑賞者という違いは、「月とスッポン」ならぬ「アンドロメダ星雲と大腸菌」くらいの差wはあるのだけれども、志として物凄く共鳴してしまった。
もしかしたら、この言葉があったからこそ、シネグリーオの坂本さんは、このblogに試写のお誘いをいただけたのかもしれない。
大野氏と自分を比べる身の程知らずを許していただければ、このラストで語られる言葉で、僕はそんな感慨を抱いたのである。まさに自意識過剰なのだろうけれど、これだけはどうしても個人的に書いておきたかった、、、。
そして本当のエンドクレジット直前、「この世ならざる音」をもっと聴きたいと観客が思うタイミングで、冒頭のタイトルバックに感じた違和感を払底するような鮮烈な音が僕たち観客を待ち構えている。
この映画のスタッフが作り上げた、この感動の仕掛けはとても素晴らしいと思う。
・cinegriot 「CI 音響デザイン大野松雄」
CG映像と大野氏デザインの音で、見事な「この世ならざる映画の1シーン」となっていた。
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コメント
Qさん、こんばんは。
さっそくのレポート、ありがとうございます。
>>ちょっと?やっぱり?大野さんって異端児だった。アーチストっぽいw
あの眼がいいですね。まさに探求者の鋭い視線。
>>ありもしない、アトムの足音を作るってのがすごいし、楽しいんだろーなーって思った。
手塚氏が漫画を描いた時のイメージは、どんなだったんでしょうね。今は想像するしかありませんが、きっとアニメに音が付いてからは、漫画を描くときもあの音が聴こえていたんでしょうね。
>>手塚治虫さんの
>>「こうした新しい試みがもっとひろがっていくように~」
僕も実はアニメの効果音をあまり意識したことがなかったのですが、この映画で、新たに注目するひとつのポイントになりました。
>>試写チケットありがとうございました。
楽しんでいただいて、よかったです。
これからもこういう機会が増やせるといいのですが、、、(^^;)。
映画関係者の皆様、お声をかけていただけると幸いです。
投稿: BP(Qさんへ) | 2011.02.16 00:22
どもーチケットいただいた者です。
アトムみてきました!
ちょっと?やっぱり?大野さんって異端児だった。アーチストっぽいw
擬音って言葉や文字で表現すると、「ワンワン、bowwow」と国によっても違うのに、
ありもしない、アトムの足音を作るってのがすごいし、楽しいんだろーなーって思った。
手塚治虫さんの
「こうした新しい試みがもっとひろがっていくように~」
と、大野松雄さんの効果音アルバム「鉄腕アトム音の世界」に書かれているように、
この映画を通してさらに拡がるといいですね。
試写チケットありがとうございました。
投稿: Q | 2011.02.15 22:57