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2011.10.28

■感想 『ヤン・シュヴァンクマイエル&エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー展〜映画とその周辺〜』

111022

ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展〜映画とその周辺〜
 @京都文化博物館 別館 後期展
(京都精華大学HP)

 『ヤン・シュヴァンクマイエル&エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー展〜映画とその周辺〜』を会期ギリギリの週末10/22(土)に観てきた。
 会場は、平日に行った前期展に比べて、凄く大勢の観客で賑わっていた。
 今回も若い女性がやはり多いが、高齢の方々も含め年齢層も幅が広がっていた。一般的な美術展へ参加する方も、随分と来られていた印象。京都の街のそんな方々が、チェコのシュルレアリストの奇妙な美術をどう受け止められたのか、とても興味が沸いた。
 
◆作品鑑賞
 総論としてまず書くと、1F入り口 ヤンの立体オブジェ作品と2Fのエヴァのメディウム・ドローイング系の作品が僕には圧巻だった。

 ファウストの2m近い人形や「黒魔術」「拷問されるフェティッシュ」「飛翔するフェティッシュ」(凄い名だw)等のオブジェ!
 そしてエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーのドローイング「チェコ国における狼の再繁殖」等、毒々しい赤い色が印象的な絵画の前に、ずっと佇んで離れられなくなってしまったw。

 これらの作品が持つ圧倒的な存在感が、現在の僕にとってのヤン・シュヴァンクマイエル&エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーへ強く惹かれる部分である。以下、特に惹かれた作品について幾つか個別にとりあげて、簡単に感想を。

「飛翔するフェティッシュ」
 大きな馬の頭蓋。骨と肉の固まりと大きな足。昔の飛行機のようなフォルム。
 フェティッシュと名付けられた作品は、どれも表面に粉っぽいものが吹き付けられた独特の質感を持っていて、深い味わい。そこから離れたくないこの感覚は何なのだろう。

「食虫植物1」
 鳩,河豚,貝殻,木屑,蝸牛の殻。大きな足。展覧会のイメージ作品として取りあげられている作品。この不気味だけれど可愛らしい造形は、シュヴァンクマイエルの日本での(特に若い女性の)人気の源泉なのではないかと思う。気味が悪い死体の組み合せなのだけれど、どこか滑稽で稚気に溢れている。
 僕が他の退廃的なアート作品(ゴス系とか)にどこか一線を引いて構えてしまうのは、きっとこの稚気のあるなしが大きく関係していると思う、今日この頃なのである(^^;)。

「黒魔術」
 焼け焦げた鳥の骸骨,蛇,蝸牛の殻。図録ではとても小さい写真しか出ていないが、これは素晴らしい傑作だった。思わず上から下から後ろから、散々360度、眺め回した。僕の鞄の中には3Dハンディカムが、、、。カメラを取り出してこの造形の立体映像をどれだけ撮りたかったことかw! なんとか思い止まり、脳内立体映像アーカイブにしかと格納しました。

「触覚の詩」
 手で触る触覚作品。他にも何点か触れる作品があり、触覚のシュルレアリスム作品鑑賞の貴重な機会が与えられた。
 これら固まった粘土から、作家の手の触感が伝わってくる。
 前回のラフォーレ展の際にサイン会で握手させていただいたヤン・シュヴァンクマイエルのあの生暖かいポッチャリとした手の感触が思い出される。
 「触覚の詩」と名付けられた作品を丁寧にひとつづつの造形物を触って、言語的に読み取ろうとしたが、何が書かれているかはついぞ理解できなかったけれど…。
 我々は触覚を意識して言語として表現するスキルを、多く持ち合わせていないことが残念に痛感される。

「知られざる神の人形」
 1.3mほどの大きなオヴジェ。貝殻の眼と鼻。脚の骨。木屑。
 『ファウスト』の舞台装置もだけれど、人間大の人形の持つ迫力と魔力を存分に浴びて帰ってきました。自分の家にもしこれらがあったら、と想像するとどこか震え上がるのですが、、、。まさに死がうちにやってくる感覚があります。

「十字架」(『ルナシー』より)
 2m近いキリストの像。これも迫力が素晴らしい。磔の鋲と無数の釘に打たれた人形の身体が痛々しい。この禍々しさは宗教的なものに対するシュヴァンクマイエルの批判的意志、触覚的に最大限の痛みの皮膚感覚で表現した作品であるように感じられた。

7

「チェコ国における狼の再繁殖」8点
 僕が好きな赤系メディウム・ドローイング的作品は14点。特にエヴァが亡くなる2005年の一年前に描かれたというこれら、最後の作品に満ちるチェコの戦闘的シュルレアリスムが凄まじい。
 これらの作品が1Fの目立つ部分でなく、2Fの狭い通路のようなスペースに置かれていたのが残念だった。近くからと離れて観るのと、両方の視点から眺めたいのであるが、通路的なスペースでは離れることが出来ない。
 何故、これらの素晴らしいシュルレアリスム作品がこのような扱いになったか、とても残念である。

 とはいえ、今、もっとも観たいメディウム・ドローイング系作品をこれだけの量、見せていただいたのは本当に貴重な機会だった。図録と記憶で反芻しながら、潜在意識がザワザワと騒ぎだす、これらの汲み尽くせない作品の魅力の言語化を少しでも続けてゆきたいものである(^^;)。

◆関連リンク
図録『ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展―映画とその周辺』

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コメント

 青の零号さん、お久しぶりです。
 最近、twitterのTLを全く追いかけられず、、、。おまけにFacebookも何だか楽しくなってきたし(^^;)。手を広げ過ぎですかね。

>>東京会場で「チェコ国における狼の再繁殖」を見た後に
>>『人狼』のセル画展が開催されたのは、偶然とはいえ
>>絶好のタイミングでした。
>>映画で使用されたセルや設定画などの素材を見ながら、
>>改めてエヴァの作品を思い返したものです。

 まさかの沖浦作品とエヴァの対比。
 狼つながりではありますが、あまりに意表をつかれました。

 言われてみれば、狼と血のイメージ/赤ずきんが沖浦作品にも色濃く出ていましたね。

>>そういえば国は違うけど、アンジェイ・ワイダも
>>東欧の映画監督だったことを考えれば、

 そしてワイダ!
 ワイダは凄い昔に数本観たきりなのですが、この連想は、さらにイメージがわきませんでした(^^;)。

 エヴァさんのは、僕の理解は今のところ政治的なイメージとのつながりを付けられないでいます。どちらかというと個人の心的な世界かと。

 沖浦とワイダとの連環、気に留めておきたいと思います。

投稿: BP(青の零号さんへ) | 2011.10.30 20:08

ども、ご無沙汰してます。
京都でのシュヴァンクマイエル後期展、盛況のようですね。

>気味が悪い死体の組み合せなのだけれど、どこか滑稽で稚気に溢れている。

これは私も同感です。
グロテスクで攻撃的なんだけど、悪意というよりは
子どものような率直さを感じさせる部分があって、
見る側を変に構えさせないのも魅力かなーと。

立体作品では、鉱物と生物、水棲と陸棲といった異種のものを
あえて組み合わせたような素材選択も面白かったです。

東京会場で「チェコ国における狼の再繁殖」を見た後に
『人狼』のセル画展が開催されたのは、偶然とはいえ
絶好のタイミングでした。
映画で使用されたセルや設定画などの素材を見ながら、
改めてエヴァの作品を思い返したものです。

そういえば国は違うけど、アンジェイ・ワイダも
東欧の映画監督だったことを考えれば、
エヴァの描いた「空想のチェコ」と、『人狼』が描いた
「空想の日本」がどこか似て見えるのは、
それほど不自然ではないのかもしれません。

投稿: 青の零号 | 2011.10.29 17:35

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