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2012.02.08

■感想 岩井俊二監督の小説『番犬は庭を守る』

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『番犬は庭を守る』(岩井俊二映画祭)

" 原子力発電所が爆発し、臨界事故が続発するようになった世界では放射能汚染による精子の減少と劣悪化が深刻な問題となっていた。
 有料精子保有者である「種馬」の精子は民間の精子バンクが高額で買い上げ、その一家には一生遊んで暮らせる大金が転がり込んで来る。
 一方で、第二次性徴期を迎えても生殖器が大きくならず、セックスのできない不幸な子供たちは「小便小僧」と呼ばれていた。
 高校を卒業し、警備保障会社に就職をした小便小僧のウマソーは、市長の娘に恋をした罰として、使用済みの核燃料や放射能廃棄物で溢れる、廃炉になった原発を警備することになる。
 やがてウマソーの性器は徐々に失われ...。"

 岩井俊二監督の小説『番犬は庭を守る』。
 冒頭日本でない、存在しない国の異風景は、中井紀夫氏の<タルカス伝>の雰囲気がある。登場人物達のネーミングの感覚が近いからそう感じたんだと思う。

 各地でメルトダウンが起こり、放射性物質が漂う世界。日本でない架空の異国が舞台だが、主に生殖機能に被害が及び、まさにディストピアの様相を呈した物語。そんな場所でも人々は順応し、子供を作り生きていく…。

 物語は主人公のウマソーのほぼ一人称で進むため、読者はそのディストピアで不自由な生殖器官を持ち、底辺へ落ちて行く生活を擬似体験する。
 おぞましい日常と、それでも経験する異性との痛々しい快楽。

 
 岩井俊二氏らしい瑞々しいシーン/感覚もあるが、今回の筆はあくまでも徹底してディストピア的なウマソーの地獄のような日常を描き出すことに終始する。

 圧巻は我々の世界ではない物語の中で、後半、廃炉作業のシーンが巷で聞く東電原発の様子とラップするところ。
 核が舞い汚染水に溢れた場所の作業が日常になり、慣れることで危機感が鈍化していく職場描写。この異界が既に日本の一部になっていることに気づき逆照射され、前半のディストピアが日本の未来に重なってみえる恐怖。
 
 現在の日本への批判、原発対応策…そうしたことは何も述べられていないが異様な世界を体験した後、現在の日本が物語に重なることで感じる戦慄は、批判的に書かないで当たり前の日常として描写されることで鮮烈さを増す。
 これは、現在のまま、世界で原発が動き続けたら、あり得るかもしれない我々の未来である。

 
 奇想小説として読むと、先に書いた冒頭、中井紀夫氏の<タルカス伝>を思い出し、全体的にはテリー・ギリアムの描く悪夢世界を想起。
 ただ出てくるものは幻想でなく全てあり得るかもしれない核汚染したリアルな世界。滑稽さも合わせ持ち異世界異文化噺とも読める。

 
 
 『番犬は庭を守る』元々映画企画だったそうだけれど、岩井俊二映画になったとしたらどうだろう。話は陰鬱だが滑稽な悲劇。楽しみなのはビジュアルだ。Yen Townを見事に世界に現出させた手腕でギリアムを超える異様な未来を観せて欲しかった。
 資金がかかりすぎるという事で映画化されなかったそうだけれど、今こそ東電がスポンサードして映画化すべきではないか。
 
 ブラックかもしれないが、東電スポンサード『番犬は庭を守る』映画版。
 徹底的に異界として映像世界を描いた後に、一転、東電原発事故現場でのドキュメントロケに転調するのはどうだろう。
 全然違うけれど、山田太一の『終わりに見た街』を超える衝撃の再生…。

◆関連リンク
岩井俊二監督『番犬は庭を守る』前夜祭出版記念トークライブ - シネマトゥデイ
岩井 俊二『番犬は庭を守る』
岩井俊二映画祭 (公式HP)
バックナンバー|岩井俊二映画祭
 月刊の公式ビデオマガジン。ヌービーヌーボーというシナリオを音楽付で動画として観る試みが興味深い。

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