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2012.02.24

■感想 黒沢清監督『贖罪』

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連続ドラマW「贖罪」|WOWOWオンライン
 黒沢清監督 新作『贖罪』、これはテレビドラマの枠なんて関係なく、正真正銘の黒沢清映画作品。
 各女優陣はいずれもハイレベル。中でも安藤サクラと池脇千鶴が鬼気迫る出来。そして最終話のあの男優。近くにいたら怖くて狂いそうw。

 映像空間が呪いに満ちる黒沢映画で言葉による意識下への呪いを映像化して欲しいですね。『贖罪』はまさに四人の少女にとり憑いた言葉の妖怪の物語w。
 以下、各話ごとに感想をまとめます。

◆第一話「フランス人形」
 続きが激しく観たくなる初回、傑作である。
 森山未來、映像の独特の間に、狂気が宿っている…。

 湊原作未読ですが話の骨格は『告白』に似て、あざとさギリギリのラインw。
 というか有り得ないレベルではみ出てるか…。だけれど鬼気迫るラストになってるのは、この話がどこにでもありそうな夫婦の大きなすれ違いをカリカチュアとして描いてるからだろう。

 何気ない日常の光景に異物が混入してくる映像はまさに黒沢清映像の真骨頂。体育館の夕方、カーテンによる光の差し込み方で描かれた恐怖のトラウマの刻印は見事。 特に跳び箱のシーンはヤバかった。

 そして刻印シーン、残された4人を前に俯いてて髪を上げる小泉今日子の怖さ、ただ事でない。

【蛇足】冒頭、上田の町へ越してくる転校生の都会の少女。あの辺りの描き方で『マイマイ新子』をデジャヴュしたのは僕だけだろうか(^^)。

◆第二話「PTA臨時総会」
 地味だけれどジワジワくるこの重苦しさは何なんだろう。前回の蒼井優もそうだったけれどロボット的な小池栄子。麻子による一種の呪いをかけられた描写だと思うがこのトーンが息苦しい。そして今回も体育館描写、その映像が興味深い。

◆第三話「くまの兄妹」
 安藤サクラ、凄かった(実は出演作初見w)。
 そして今回も黒沢清の光の演出による、呪いに落ちたような日常空間。ただ今回、前二話に比べると話の屈折率が低い。安藤の演技に黒沢も負ってる感じで、もっと闇への偏光を見せて欲しかった(^^;)。

 凄まじく呪いがかかってる。安藤サクラがこちらへ走ってくるシーンは画面から逃げ出したくなるくらい何かが籠っている。こうした映像の空気感を撮らせたら黒沢清って世界一の監督かもw

 1時間という枠が描写的に厳しかったかも。もっと兄 加瀬亮の異常性を描いて、妹 安藤サクラの呪いをかけられた上での正常性を強調するくらいでも良かったのでは。加瀬の描写にあと10分ほしいw。

 一番印象的だった話なので、少し点が辛くなっているw。

◆第4話「とつきとおか」
 麻子の「呪い」が直接的に悲劇を生むのではなく、空いた空洞がねじ曲がって作り出す恐ろしい憎悪による悲劇。この泥泥はたまりません(げっ)。あざといが、観てて胃がキリキリしてくる。
 池脇千鶴の普通だけれど、大きく狂っている言葉が鬼気迫る。

◆最終話「償い」
 静かだけれど狂ってて凄まじい演出。破天荒なストーリーを、演出のタッチでここまで見せるのが凄い。光と小物の使い方、人格の論理破綻描写、タイトルが重く伸し掛るラスト。

 それにしても小泉今日子の"老い"をアップの連続で見事に映画のイメージに、冷酷に利用している。あの顔に刻まれた何ものかが映像として物語をあざとい補強する。

 そしてあの男優の役柄、虚無と長く付き合った人間を、的確に演じている。なんだろう。視線と、歩行と走行の少しだけの標準から のズレ…。演じる時の俳優の心の持って行き方を想像する。たぶん自分の中の虚無をマックスに振りきった状態で歩行してるんだろうな。

 それにしてもWOWOW、いいドラマを企画してますね。15日間無料視聴で見せていただいて申し訳ないですw。

◆関連リンク
小池栄子&安藤サクラ&池脇千鶴 3人が語り交わす
 黒沢清監督、女優陣に人気ですねw。
黒沢清監督「贖罪」インタビュー

"いくつか映画の企画が頓挫した頃WOWOWから打診…少女の遺体が転がっている場面など「映画でも難しいかも」と思った撮影も「大丈夫です」と言われた。規制なく表現できることに驚いた"

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