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2012.06.18

■感想 原將人監督『初国知所之天皇(はつくにしらすめらみこと)』DVD

Photo_2

初国知所之天皇

"『初国知所之天皇』は、1973 年、当時23歳だった原將人(正孝)によって発表された。8ミリ+16ミリの作品で、『古事記』と『日本書紀』をベースにした北海道から鹿児島まで旅する 壮大なストーリであるとともに、神話的世界の国づくりが映画づくりに重なり、国家と個人が統合されるという現代芸術最先端の構造を持っていた"

原 將人監督の作品 「通信販売限定ショップ」(公式サイト)

"商品番号:MSP-0001(初国知所之天皇 マルチヴァージョン 108min DVD)"

 原將人監督『初国知所之天皇』のDVDを観た。
 8mmで撮られて16mmにブローアップした映像で構成された2画面マルチ映像。僕が観たのは、1993年に作られた16mmマルチヴァージョン 1Hour48Min版。

"まるで映画を見ているようだ。車のフロントウィンドウが映画のスクリーンの様。そして車を降りても広がる視界は全てが映画のようだ。"

 映画を撮りたくて仕方がないのに、何を撮ったら良いのかわからない、23歳の原のさすらいの旅。

 「誰でも身についてしまう、器用さを放棄したいと思う」そんな映画の映像の世界と袂を分かって撮られた、こちらの"現実"の世界のドキュメント。
 当時23歳の原監督の映画への意志が素晴らしい。そして逆に現実の映像が彼岸にとても近い幽玄な雰囲気になっているのが興味深い。

 日本各地をとらえた8mm映像にかぶる監督自身による映像論のナレーション。
 それを醒めて批判する、二つ目のナレーションの声は、まるでこの世に存在しないような原監督のろれつの廻らない途切れ途切れの言葉。
 さらに多層に重なる、これも原監督による幽玄な歌…。

 二つのナレーションと幽玄な歌。
 ホームシアターのスクリーンに映し出された映像の光は、こちらの世界を映しているのに、なぜか透明に観える。
 その映像は、存在が透明なために、その網膜も透明で、外の光を透過してしまう、
まるで幽霊の視線のような映像。
 原の茫洋で幽玄なヴォーカルと相まって、まさに彼岸のような映像詩となっている。

 そして圧巻は、鹿児島シーケンス。
 ここで語られるエピソードと原監督の行動と夕空の雲の映像に息を飲む。


 この世界が破滅するか、自分が消えるか。という独白。映画を初めて撮った少女の物語。それを映し出すカメラ、夕方の雲の光景。あちらの世界への視線。

 『20世紀ノスタルジア』の無邪気に見える少女の映画制作とその喜びを描いたシーンにダイレクトにつながっている、胸に迫るシーンである。
 この映画と、『20世紀ノスタルジア』による回復の映像の同時上映を希望したい。

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Dvd

 原將人監督のDVDを3本購入!
 全て監督御自身による手書きのDVDでサイン入り! このライブ感に感激至極。心して、毎週末一本づつ週末にゆっくりと拝見したいと思っている。

◆関連リンク
原將人監督『初国知所之天皇』(はつくにしらすめらみこと)に関するインタビュー記事とスチル  (後半大ネタばれに注意w)。
 以下、詳細。
映画芸術: 金子遊のこの人に聞きたい Vol.11 原將人(映画作家)インタビューPART3 『東京戦争戦後秘話』『初国知所之天皇』

"その風景のどこにも自分はいない。「いま、ここにいるってことは、たまたま、いま、ここにいるだけで、いま、ここの風景のどこにも自分はいない」ってことです。そして、それは魂の浮遊性につながってくる。可能性としては「私は遍在するのだ、ありとあらゆるところにいるのだ」ということになってくる。その身体の遍在性と魂の浮遊性の二極分解のなかから、日々新たに世界を発見していこうということになるわけ。それがスケージュールによって移動する旅行ではない、「旅」のもたらすものなんです。芭蕉が言っている「軽み」というものもそういうものではなかったかと思います。風景に向けていたカメラをゆっくり自分の方に向けると、不在証明としての風景から不在証明としての自画像になっていくわけです。"

映画芸術: 金子遊のこの人に聞きたい Vol.12 原將人(映画作家)インタビューPART4 『初国知所之天皇』

"ベルグソン的にいえば、知覚というものが単に自分のなかに入ってくるものではなく、自分が作り出しているということが理解できるようになります。まさに哲学的なメディアなんです。自分の知覚のなかに映画のすべてがあるということを手っ取り早く理解できる方法です。"

 深い言葉ですね。「自分の知覚のなかに映画のすべてがある」。同じ映画がスクリーンに映し出されても、その観客個人に、知覚できるものしか映画として観られない、ということなのでしょうね。映画レビューをやっている僕にも凄く実感できる言葉。

・映画芸術: 金子遊のこの人に聞きたい Vol.12 原將人(映画作家)インタビューPART4 『初国知所之天皇』.

"このバージョンが情報量は減らさずに2時間で見れる『初国』ということで、かなり評判がよく、川崎市民ミュージアムからネガ編集する料金も出すから、普通にマ ルチ上映できるプリントが一本欲しいという注文が来て、93年に単面16ミリ版のネガを解体して、ネガからマルチを組んで、音もいじらなくていい、普通にマルチ上映できるバージョンが完成した。まあ、それが『初国』の創造的進化の歴史といったところでしょうか。進化したのかどうか分からないけど…(笑)。"

・当Blog関連記事
 ■CDメモ 原正孝(原将人)『 はつくにしらすめらみこと』
 本映画で使われている楽曲、原監督の作詞作曲ボーカルによる歌。
 僕はこのCDだけ、以前に入手して随分聴いているので、その曲が映像とともに流れてきた時に、別の感動を覚えました。味わい深い良い曲です。

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