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2012.06.29

■感想 原將人監督『百代の過客』DVD

Hara_kantoku

原 將人監督の作品(公式サイト)

"☆商品番号:MSP-0008(山形ドキュメンタリー映画祭 入選4時間ヴァージョン 240min DVD) 1本 5,000円 20本在庫あり"

 先週に引き続き、原将人監督の作品を観た。今月は週一本づつ私的原監督映画祭開催中(^^)。

 前作『初国知所之天皇(はつくにしらすめらみこと)』(1973年)から20年たった1993年に作られた『百代の過客』3時間40分の大作。

 300年前の芭蕉の奥の細道の旅を、父子でたどる旅。
 そして8mmフィルムとビデオカメラによる映像を、俳句になぞらえて各地の様子をとらえていく旅。

 映像を俳句になぞらえる原が作中で述べているのは、今は、誰でもがビデオをもった芭蕉である。芭蕉の俳句は旅の記録であり、現代ではそれは旅人が持ち記録するビデオに置き換わったのではないか。もしも現代に芭蕉が生きていたら、きっと映像を残しただろう。当時は文字での記録しか出来なかったが、芭蕉の俳句は映像喚起力があり、素晴らしくシャープな映像を残している、という夢想。

 当時の8mmビデオで撮られた映像を原が俳句になぞらえているのは、即興で使われるフェードイン、スローシャッター、ソラリゼーション等の技法。それらの表現がまさに俳句の余韻を持った語尾の「や」とか「なり」といった文字表現に置き換え得るのではという解釈が語られている。
 
 そうした映像表現に加えて、画面にはワープロで打たれた原による俳句と、そして前作にも共通する作詞作曲と歌が監督自身である多数の楽曲が使われている。

 描かれるのは、奥の細道の旅と、親子の関係修復の物語と、そして300年間の日本の変貌が重なって表現されている。

 原監督と高校生の息子である丸珠くんの物語は、離れて暮らす二人の関係が、楽曲と映像の制作を通して、近づいて行く様を生々しく描いている。

 日本の変貌のひとつとして語られるのは原発。
 芭蕉が通ったらしい、柏崎と敦賀の原発が映し出されている。
 芭蕉が句を読んだという敦賀の浜に立つ原発を前に、原監督は次の300年後の日本人は廃炉となったその核施設をどのように観るのだろうと、深く語っている。311後の現在、もんじゅを含むこの映像を観ていると、感慨深いものがある。
 さらに300年後の未来の芭蕉が観て記録する光景が岩井俊二監督の小説『番犬は庭を守る』で描かれたようなディストピアでないことを祈るしかない。

 映画のクライマックスで描かれている立山の登山の光景がとても良かった。
 300年前の山小屋。頂上からの見事な雲の映像。

 そして最後に、途中で語られる原の次回作とそこで使われる歌。これが『20世紀ノスタルジア』の原型となったプロットと主題歌である。
 語られている原型は、自分の助手だった若者の死。その彼がモデルで、物語はその死をめぐり、恋人だった少女がビデオを観ながらたどる、というものだったようだ。

 『初国知所之天皇』と『百代の過客』、原監督のフィルモグラフィをたどる僕の旅(^^;)も、このようにして『20世紀ノスタルジア』へと辿り着いたようだ。

 次週は『20世紀ノスタルジア』再見(何回目w?)の予定。

◆関連リンク
日本心中 針生一郎・日本を丸ごと抱え込んでしまった男。 - goo 映画

"美術・文芸・社会評論を通じ、新しい日本の秩序と芸術創造のあり方を模索してきた人、針生一郎。カメラは、彼が韓国の市場を散策しながら、あるいは日本の彼 の書斎の中で、日本の美術の役割や古代から続いている日本の様式、ついては天皇制について語るのを静かに見守る。またある時はカメラは芸術ともいうべき刺 青を体に刻み込む過程を追うが、それは圧倒的で息をのむほど生々しく美しい。また画面では針生氏の頭の中を覗き込むかのように朝鮮のパンソリや詩を朗読す る男女の幻想的な場面が走馬灯のように流れる。かつて日本に新しい秩序を造り上げようとしてきた彼の「痛魂」のモノローグは続く。

 原監督の息子さん、原丸珠氏が制作したドキュメント。

当Blog関連記事
■原將人『父と子の長い旅』

"この父と子の夏休みの旅の中で、『百代の過客』が撮られ、そして次の初商業映画の企画が立ち上がってくる。『20世紀』の「遠山杏」のカメラワークは、こ の旅でまるじゅが撮ったDVカメラの映像が参考にされている。そしてまるじゅの感性の一部がきっと「片岡徹」へ移植されている。
「うん、だから、俳句っていうのが映像的だから、すごく人気があったんじゃないの。今のコンパクトカメラだよ。今の人たちがカメラを持って楽しむよう に、俳句を楽しんでたんじゃないの。江戸の人たちは。」P140原監督のコメント


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