■感想 「館長庵野秀明 特撮博物館」 樋口真嗣監督「巨神兵東京に現わる」
◆館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技(公式HP)
究極映像研 初オフ会ということで、東京分室のひねもすのたりの日々のshamonさんと、Biting Angleの青の零号さんの三人で行って来ました。究極映像研として東京へ赴いたのは、シュヴァンクマイエル氏が2007年に来日した際以来。
今年の夏は外せません(^^)。「特撮博物館」は小中学生時代の自分、そして「巨神兵東京に現わる」はまさに現在の自分が希求して病まない(いや、止まない)イベントw。
まずは「特撮博物館」から。既に分室の御二人を初め、多くの方々がレポートされているので、一般的な紹介は他を観ていただくとしてw、個人的な感想を中心に書きます。
今回、企画展のタイトルは「ミニチュア」となっているけれども、絵コンテからイメージスケッチ、絵画までかなり幅広く奥深く特撮に関するアートが表現されている。成田亨、小松崎茂も原画は初見なので、その色やタッチをしっかりと味わうことができた。
特に僕が感激したのは、やはりその中核のミニチュアw。
円谷プロの『マイティジャック』のMJ号と『ウルトラセブン』ウルトラホーク1号、そして東宝映画の『日本沈没』の深海潜水艇わだつみ。
子供の頃に熱狂して好きだった空想科学映像を創り上げた、その映像素材が生の形で観られるのは、何にもまして感慨深い物が、、、。まさかこんな物を観ることが夢のように叶うとは子供の頃には思ったこともなかったわけで、あの頃の自分に「21世紀は君が思っているほど、未来感が溢れているわけではないけれど、こんな凄い企画も待っている、なかなか捨てたもんじゃない」と教えてやりたいものだw。
特撮の技巧としては、超遠近法のマイティジャックの青焼き図面と、実際に何かの映画で使われた(?)山間部の高速道モデルが観られたのが大きな収穫だった。
残念ながら写真は撮れなかったのだけれど、MJ号の等尺模型に対して、主題歌にあるドックで進水を待つシーンの超遠近法の写真を、展示室で見比べてその効果の絶大さが実感できたのは貴重な体験だった。
そしてミニチュア撮影可能な特撮ステージでは、今回、SONYの3Dハンディカムで、特撮3Dカメラマンになりきり撮影できたので、血湧き肉踊る体験だった。
その成果は、今週は編集が間に合わなかったけれど、来週にはYoutubeの3D動画としてアップしたいと思っている。
ここから少し辛口で書くと、そうした郷愁を差し引いて、美術館のアート展として見ると、ミニチュアはなかなか厳しいものがあるw。
郷愁を持たない世代や、海外の一般客がどう見たか、是非知りたいものだけれど、たぶん美術としての評価はそれほど高くはないだろう(人によっていろんな受け止め方はあるかと思うけれど、、、)。
その視点で大変残念だったのは、成田享氏の怪獣デザイン画と高山良策氏の怪獣造形品の展示、特に『ウルトラQ』のあの奇想な怪獣の展示が一つもなかったこと。
まさに「特撮美術館」でなく「博物館」という呼び方が正しいのかもしれない。
今回の展示は、そういう意味で一般性はおそらく持ち得ない、ローカルな世代とマニアへの贈りものなのだと思う。
自分の過去の空想科学史をたどるタイムトラベル的な楽しみ(^^)。
◆感想 樋口真嗣監督「巨神兵東京に現わる」
まず特筆すべきは、その上映会場入り口に置かれた、映画のシーンにはない特別に作られたミニチュア造形の素晴らしさ。
まさに崩壊した物の美しさを見事に表現した国会議事堂。超高層ビルの内蔵されたコード類と溶けた鉄骨が飛び出した造形。そして東京タワーの残骸。
特に国会議事堂は、現在の日本人の精神の一部と、政治の崩壊感を風景として表現していて強く迫ってくる。(ここで提示された日本ミニチュア造形のひとつの到達点、非常に多くのミニチュアが漏れなく掲載されている充実した図録に、これらの作品が入っていないのは完成した時期の問題なのか、それとも意図的なのか?)
同じく国会議事堂を崩壊(溶融)させた松林宗恵監督 円谷英二特技監督『世界大戦争』(絵コンテ:小松崎茂、うしおそうじ)に近いものがあり期待感を高める。
これらを堪能して、上映会場へ入ると、舞城王太郎が書いた謎の言葉が冒頭で提示される。舞城が得意とする兄弟をその素材として描かれた言葉。東京の街の実写映像にかぶる林原めぐみによるナレーションと、空を舞う火の粉(?)の醸し出す不安感はなかなかのもの。
その後の実際の巨神兵による迫力あるハルマゲドンの風景。
一部残念だったのは、せっかくの巨神兵の造形が充分に映像として記録されていなかったこと。事前に素晴らしい発色で公開されている竹谷隆之氏の造形美が、映画の画面では、巨神兵の黒く茶色の艶かしいボディが、何故か光で白茶けたようなハイキーな映像になっていた。そして電飾も少し安っぽい作り物感が…。これは好みの問題かもしれないが、特撮の映像は、スチル写真より本来もっとイメージ喚起力があるはずである。樋口監督による映像は、いつもながら素晴らしいレイアウトとカット割りで感嘆したのだけれど、もう一歩、巨神兵そのものの色が元々の造形に極力近いものになっていたらと思わずにはいられなかった。
そしてもうひとつは、何故か写真の書き割りの人物。本来、特撮は実在する風景に異界のものを合成する醍醐味があるはずなのに、冒頭で実写で表現した人々の住む街 東京が崩壊する前に(写真を切り抜いて立てた書き割りのペラペラな人以外いない)無人の街と化してしまっている描写はどうにもいただけなかった。本来逃げ惑う人々の動きと組合せた映像のダイナミズムがミニチュア特撮の醍醐味なのに。何故? 動かず携帯のカメラでシャカシャカ撮影を続けるのが現代の東京のリアルであるわけはないだろう。
あと期待した都市の崩壊シーン、コンクリートの高層ビル群が巨神兵のプロトン砲で裂かれて熱で溶融する『世界大戦争』のような地獄図が観られるかと期待したのだけれど、あのレベルまでは到達していなかったような…(もちろん予算や準備期間の課題は大きかったと思うけれど、純粋に映像のインパクトとして)。
ということで、火の七日間の始まりの表現として巨神兵の群れの映像には感動したのだけれど、もっと特撮映像の可能性を表現できるはずの素材だっただけに、そうした部分が残念でならなかった。(やはり庵野秀明監督によるアニメ『風の谷のナウシカ漫画版』の3部作かTVシリーズを是非とも実現して欲しいものである。もちろん絵コンテは樋口真嗣監督も加わって!)
映像表現としてのミニチュア特撮の未来については、次回!
◆関連リンク
・「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」(東京都現代美術館): ひねもすのたりの日々
・東京都現代美術館「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」 - Biting Angle
今年の夏は外せません(^^)。「特撮博物館」は小中学生時代の自分、そして「巨神兵東京に現わる」はまさに現在の自分が希求して病まない(いや、止まない)イベントw。
まずは「特撮博物館」から。既に分室の御二人を初め、多くの方々がレポートされているので、一般的な紹介は他を観ていただくとしてw、個人的な感想を中心に書きます。
今回、企画展のタイトルは「ミニチュア」となっているけれども、絵コンテからイメージスケッチ、絵画までかなり幅広く奥深く特撮に関するアートが表現されている。成田亨、小松崎茂も原画は初見なので、その色やタッチをしっかりと味わうことができた。
特に僕が感激したのは、やはりその中核のミニチュアw。
円谷プロの『マイティジャック』のMJ号と『ウルトラセブン』ウルトラホーク1号、そして東宝映画の『日本沈没』の深海潜水艇わだつみ。
子供の頃に熱狂して好きだった空想科学映像を創り上げた、その映像素材が生の形で観られるのは、何にもまして感慨深い物が、、、。まさかこんな物を観ることが夢のように叶うとは子供の頃には思ったこともなかったわけで、あの頃の自分に「21世紀は君が思っているほど、未来感が溢れているわけではないけれど、こんな凄い企画も待っている、なかなか捨てたもんじゃない」と教えてやりたいものだw。
特撮の技巧としては、超遠近法のマイティジャックの青焼き図面と、実際に何かの映画で使われた(?)山間部の高速道モデルが観られたのが大きな収穫だった。
残念ながら写真は撮れなかったのだけれど、MJ号の等尺模型に対して、主題歌にあるドックで進水を待つシーンの超遠近法の写真を、展示室で見比べてその効果の絶大さが実感できたのは貴重な体験だった。
そしてミニチュア撮影可能な特撮ステージでは、今回、SONYの3Dハンディカムで、特撮3Dカメラマンになりきり撮影できたので、血湧き肉踊る体験だった。
その成果は、今週は編集が間に合わなかったけれど、来週にはYoutubeの3D動画としてアップしたいと思っている。
ここから少し辛口で書くと、そうした郷愁を差し引いて、美術館のアート展として見ると、ミニチュアはなかなか厳しいものがあるw。
郷愁を持たない世代や、海外の一般客がどう見たか、是非知りたいものだけれど、たぶん美術としての評価はそれほど高くはないだろう(人によっていろんな受け止め方はあるかと思うけれど、、、)。
その視点で大変残念だったのは、成田享氏の怪獣デザイン画と高山良策氏の怪獣造形品の展示、特に『ウルトラQ』のあの奇想な怪獣の展示が一つもなかったこと。
まさに「特撮美術館」でなく「博物館」という呼び方が正しいのかもしれない。
今回の展示は、そういう意味で一般性はおそらく持ち得ない、ローカルな世代とマニアへの贈りものなのだと思う。
自分の過去の空想科学史をたどるタイムトラベル的な楽しみ(^^)。
◆感想 樋口真嗣監督「巨神兵東京に現わる」
まず特筆すべきは、その上映会場入り口に置かれた、映画のシーンにはない特別に作られたミニチュア造形の素晴らしさ。
まさに崩壊した物の美しさを見事に表現した国会議事堂。超高層ビルの内蔵されたコード類と溶けた鉄骨が飛び出した造形。そして東京タワーの残骸。
特に国会議事堂は、現在の日本人の精神の一部と、政治の崩壊感を風景として表現していて強く迫ってくる。(ここで提示された日本ミニチュア造形のひとつの到達点、非常に多くのミニチュアが漏れなく掲載されている充実した図録に、これらの作品が入っていないのは完成した時期の問題なのか、それとも意図的なのか?)
同じく国会議事堂を崩壊(溶融)させた松林宗恵監督 円谷英二特技監督『世界大戦争』(絵コンテ:小松崎茂、うしおそうじ)に近いものがあり期待感を高める。
これらを堪能して、上映会場へ入ると、舞城王太郎が書いた謎の言葉が冒頭で提示される。舞城が得意とする兄弟をその素材として描かれた言葉。東京の街の実写映像にかぶる林原めぐみによるナレーションと、空を舞う火の粉(?)の醸し出す不安感はなかなかのもの。
宮崎駿はまだこの映画を観ていないというが、この会場のレイアウトで表現されている崩壊感と、映画の冒頭を、無意識として/意識としてどう受け止めるか興味 深い。ここで 『風の谷のナウシカ』において宮崎が巨神兵にこめた想いの一部は確実に具現化されていたと思うのだけれど。
その後の実際の巨神兵による迫力あるハルマゲドンの風景。
一部残念だったのは、せっかくの巨神兵の造形が充分に映像として記録されていなかったこと。事前に素晴らしい発色で公開されている竹谷隆之氏の造形美が、映画の画面では、巨神兵の黒く茶色の艶かしいボディが、何故か光で白茶けたようなハイキーな映像になっていた。そして電飾も少し安っぽい作り物感が…。これは好みの問題かもしれないが、特撮の映像は、スチル写真より本来もっとイメージ喚起力があるはずである。樋口監督による映像は、いつもながら素晴らしいレイアウトとカット割りで感嘆したのだけれど、もう一歩、巨神兵そのものの色が元々の造形に極力近いものになっていたらと思わずにはいられなかった。
そしてもうひとつは、何故か写真の書き割りの人物。本来、特撮は実在する風景に異界のものを合成する醍醐味があるはずなのに、冒頭で実写で表現した人々の住む街 東京が崩壊する前に(写真を切り抜いて立てた書き割りのペラペラな人以外いない)無人の街と化してしまっている描写はどうにもいただけなかった。本来逃げ惑う人々の動きと組合せた映像のダイナミズムがミニチュア特撮の醍醐味なのに。何故? 動かず携帯のカメラでシャカシャカ撮影を続けるのが現代の東京のリアルであるわけはないだろう。
あと期待した都市の崩壊シーン、コンクリートの高層ビル群が巨神兵のプロトン砲で裂かれて熱で溶融する『世界大戦争』のような地獄図が観られるかと期待したのだけれど、あのレベルまでは到達していなかったような…(もちろん予算や準備期間の課題は大きかったと思うけれど、純粋に映像のインパクトとして)。
ということで、火の七日間の始まりの表現として巨神兵の群れの映像には感動したのだけれど、もっと特撮映像の可能性を表現できるはずの素材だっただけに、そうした部分が残念でならなかった。(やはり庵野秀明監督によるアニメ『風の谷のナウシカ漫画版』の3部作かTVシリーズを是非とも実現して欲しいものである。もちろん絵コンテは樋口真嗣監督も加わって!)
映像表現としてのミニチュア特撮の未来については、次回!
◆関連リンク
・「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」(東京都現代美術館): ひねもすのたりの日々
・東京都現代美術館「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」 - Biting Angle
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