■感想 岩井俊二監督『ヴァンパイア』Vampire
"惹かれあう孤独な魂たち。この世の果ての恋物語ーー。鬼才・岩井俊二が脚本・監督・音楽・撮影・編集・プロデュースを務める映画の原作!
「死ぬなら君の血をくれないか」
「僕はヴァンパイアなんだよ」"
『ヴァンパイア』@TOHOシネマズ名古屋ベイシティ初日 11:00~。
岩井俊二監督 舞台挨拶に行ってきた。
『ヴァンパイア』とても静謐な映画だった。劇中で使われた死の方法と同じように静かに死が沁み入ってくるような…。
物語よりも複雑な何かを描いた映画。エンドタイトルで何かが背筋をじわりと走って行くのだけれどそれは言語化できない。60兆の細胞と8%の血液が私に話しかけるざわめき…劇中のキーワードを使って述べると、こういったところだろうか。
精神へのゴシックな物語の大量投与が生んだ吸血症:ヘマトフィリア。
それと現代的な死の問題との掛け算で発生した北米の片隅の物語。映画は静かにその光景を追い、やがて行きつく美しい…。
作品全体に、フラクタルに死が潜んでいるような…。
一つ一つのセリフがじわりと背中を震わせる感覚…。
前者の茫洋とした奇妙な存在感、後者の背負ったものの重さを底にたたえ、なお少女的な空気感。
地下室の青空が象徴的な二人の関係が素晴らしい。しかしそこに容赦のない、監督のシニカルな展開。悲しすぎますね。
こう綴ってきても多分映画の魅力の8%も語れてない。
傑作『スワロウテイル』は物語がその中心を占めていたが、その後は個々のエピソードと情景が映画を占有して一本の作品としてのダイナミズムが落ちていたような…。今回はその延長上だけれど、大きな潮流が生み出されている。
それは前述したフラクタルの効果によるのかもしれない。
挨拶ではこの映画の誕生と英語ネイティブへの苦労が語られた。
興味深かったのは、映画のタイトルが重複しないように申請するが、このタイトルは1940年頃のスパイ映画があったきりとか。まさに新しいヴァンパイア映画でこのタイトルしかない気がしてくる。
閑話休題 IMDbで調べてみると、このスパイ映画はたどり着けませんでした…。あれ、ジョン・カーペンターの"Vampires "(1998) そうかこれは複数形の"s"が…。
今回の映画は岩井監督が英語のみで生活し、ネイティブの感覚をできるだけ取り入れたものだということ。ダイアローグにこだわる、氏らしいアプローチだと思った。
その結果は、まさに洋画然として、それでいて岩井監督の作品以外ではあり得ない映像として結実していた。これでハリウッドでの岩井監督の認知度は確実にあがったのではないか。素晴らしい監督であることが英語圏の映画人に明確にアピールできていると思う。
岩井監督のこのハリウッドアプローチは、間違いなくビッグバジェットの大作企画があるからに違いない。いずれ登場するその映画を今は夢想したい。
最後に蛇足。
パンフは買わない方が良かった。樋口尚文氏と中森明夫氏のエッセイが何とも…。特に前者。通りのいい解釈だが、映画でしか描け
ないあの映像と音楽とダイアローグによる繊細な独特の構築物に迫れていない。代わりに岩井俊二による小説を買えば良かった…。
今回は、プレミアムスクリーン2という会場だっけれど素晴らしい環境だった。
この劇場、シート個々に肘掛けが付きリクライニングできて通常より2割程幅広で最高(^^)!
◆関連リンク
・vampire(公式サイト)
・side by cide(公式Blog)
"ある調査によれば、血を飲む趣味のあるヘマトフィリアの人は アメリカだけでも5万人はいると言われているそうだ。(略)
血液には吐き気をもよおさせる作用がある(略)
理由はよくわかっていないらしくて、
でも少なくとも精神的な問題ではないらしい。"
なかなか興味深い。こんな映画が出てきていなかったのが不思議という事か。
ヘマトフィリア:haematophilia - Google 検索すると日本にもそれなりにいるようです。(もちろん、これらの書き込みが本当かどうかは不明ですが…)。あ〜胸が悪くなる。個人的には一生触れたくない世界だ。
・岩井俊二監督の新作、全編英語作「ヴァンパイア」公開日決定
"同作は、岩井監督がカナダを舞台に全編英語で撮り下ろした“吸血鬼映画”。自ら演出・脚本・音楽・撮影・編集・プロデュースと1人6役を務めるなど、“岩井ワールド”が炸裂した作品だ"
・Vampire movie trailer - YouTube
予告篇。
・@sindyeye 岩井俊二監督 Twitter
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