■感想 ポール・オースター 柴田元幸『幻影の書』:The Book Of Illusions
ポール・オースター 柴田元幸『幻影の書』|新潮社 (Amazon)
"その男は死んでいたはずだった──。何十年も前、忽然と映画界から姿を消した監督にして俳優のへクター・マン。その妻からの手紙に「私」はとまどう。自身の 妻子を飛行機事故で喪い、絶望の淵にあった「私」を救った無声映画こそが彼の作品だったのだから……。へクターは果たして生きているのか。そして、彼が消し去ろうとしている作品とは。"
ひさびさのポール・オースター、『幻影の書』読了。
消えた映画監督ヘクター・マンを巡る映像探求の迷宮。
傑作セオドア・ローザック『フリッカー、あるいは映画の魔』に続く映像研究小説(^^)。オースターが描く幻の映画監督 ヘクター・マンの映画群を観てみたくて溜まらなくなる。
本書は主人公の文学者ジンマーが世界各地に散らばるヘクターマンの映画を探求する物語を中心に進む。それは積極的な研究のためではなく、ある出来事による空虚を埋めるための旅である。
そしてジンマーが追うヘクターマンの謎に、影を落とす映画監督の暗黒。
この物語は、映画を縦糸に失意に落ちた二人の男の、相似する人生をたどって行くものになっている。
オースターは、おそらくわざとこの二人を似た人物として造形している。
読者には、2人の物語は読んで行くうちにいつしか融合し、二人の人物像が溶け合って、あたかも一人の大いなる失意に沈んだ人物の物語と区別がつかなくなって行く。絶望の自乗。
そんな物語が最後にたどり着く先は、幻の映画の死の現場である。
ラスト、そのヘクターの映画についての仄めかしが、読者に大きな余韻を残す。
そこから始まる新たな物語を想起させる余韻が絶望を超える何かを提示しているようだ。綿密に組み上げられたオースターの物語は、強固に、ある映画監督の中のイメージを、クライマックスで読者に対して強く転送してきている。
こうして、映画の魔に取り憑かれた人間の物語がまたひとつ映画ファンのコアにインストールされるのである。
◆ヘクター・マン監督『マーティン・フォレストの内的世界』
ポール・オースター『幻影の書』で描かれた、消えた映画監督ヘクター・マンが撮った幻の長篇映画 "The Inner Life Of Martin Frost"が、なんとYoutubeに!。小説でオースターに描写されたあの映画そのものが存在する! w。
一時YouTube
にあったのだけれど、現在は、削除されている。
(^^;) 実はこの映画は、本書出版後にオースター自身が監督した映画である。
もし関心がある方は、日本未公開だが、海外版DVDを買うことは可能な様なので、そうした形での視聴を御薦めします。僕も観たいw。
◆ヘクター・マンとイクター・マン(以下、蛇足)
映画監督ヘクター・マンの名前から、劇作家 生田萬(イクター・マン)を想起した僕は、勿論ブリキの自発団ファン(^^;)。
しかしポール・オースターがブリキファンだとは知らなかった!(違う、違うw)
◆関連リンク
・Paul Auster DVD『The Inner Life of Martin Frost』
オースターが監督した映画のDVD。
・Paul Auster『The Inner Life of Martin Frost』
こちらはその映画のシナリオと、オースターへのインタビューを納めた本。
・Last night - Not Merely Living
ポール・オースターが『幻影の書』について語ったナイトショーのレポート。このページから冒頭の写真は使わせて頂きました。サン・フランシスコの素敵なMerelyさんに感謝(^^;)。
・「墓の彼方からの回想」/フランソワ=ルネ・ド・シャトーブリアン - double edge - Yahoo!ブログ
主人公の文学者ジンマーが翻訳に取り組むシャトーブリアンの著作について。
・The Book of Illusions - Wikipedia, the free encyclopedia
・当Blog関連記事
セオドア・ローザック『フリッカー、あるいは映画の魔』
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