■新刊情報 佐々木中『夜を吸って夜より昏い』
atarusasaki.net / 夜を吸って夜より昏い 書籍情報
"うねる文体、はじける口語が、衝撃の結末になだれこむ。書かれていることの鮮烈さと、書かれていない謎の深みが、読者を戦慄させる"
哲学者 佐々木中氏の『晰子の君の諸問題』(2012年)に続く、最新小説が刊行される。3/18発売(既に店頭には3/16には並んでました)!
ここで述べられている「書かれていない謎」にアンテナが触発される(^^;)。
本書の参考データとして、上記リンク先で佐々木中氏自らが「夜々夜話」と題して語っている。(佐々木中(atarusasaki) Twitterでのつぶやきのまとめがリンク先)
"『夜を吸って夜より昏い』は、今までの僕の小説とはかなり違います。誤解を恐れず端的に言うと、「反原発抗議行動小説」なのです。なぜそれを「小説」にしたのか?現実の行動ではなく、小説に?それは後々。"
たぶんこの著者のことなので、もちろん単純な「反原発抗議行動小説」ではないだろう。震災直後に僕はラジオで、この佐々木中氏を知ったのだけれど、3/19に以下の様な視点で、語っていたのが強烈に印象的だった。
こうした視点の作家が、どのような視座から原発をとりあげるのか、興味は尽きない。ちょっと長くなるが、以下ラジオで語られた内容を紹介する。
これを読んで興味を持たれたら、きっと本書を手に取りたくなる気持ちがわかってもらえると思う。
◆TBS RADIO 放送後記 第206回(2011年3月19日)
タマフル春の推薦図書特集(ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル)
佐々木中推薦
中井久夫ほか『昨日のごとく―災厄の年の記録』
阪神淡路大震災の被災者であり、なおかつ被災者を救う立場にいた精神科医 中井久夫氏の本を紹介しながら、佐々木氏が、以下の様な自分の杞憂を語った。
(以下、Podcastからのほぼ聴き書き。宇多丸氏との対話だったけれど、佐々木氏の言葉のみ書き出しました。ニュアンス等、正確な表現でない部分もあるので、正確には原典に当たって下さい。関連リンク参照)
" (中井久夫氏らが阪神淡路大震災の時に)一番恐れたのは関東大震災がまた来るのではないか、ということ。
関東大震災では、朝鮮人が虐殺され、戒厳令下で大杉栄という社会運動家が軍部によって殺された。残虐行為が吹き荒れた。中井久夫さんたちはそういう残虐性がまた奮われるのでは、と恐れた。
結局略奪放火暴行強盗などは横行しなかった。
当時の日本人は誇りに思って、俺たちは秩序だっていて暴動など起こさない、と言ってたらオウムが現れ冷や水を浴びせられた。
もちろん震災とオウムに厳密な因果関係を求めるのは難しいと思う。ただ、ある種の暴力性がそこに噴出した。
これはクライストという18世紀末、ドイツの詩人の『チリの地震』に関する小説の中に書いてあることだが。地震なんかが起こると、数週間、一種の高揚感というか疲労の蓄積と裏腹なんですが、高揚感、至福感、テンションが上がって、お祭りだぁ、という非日常感があって、共同体感情が芽生える。
つまり秩序が壊れてしまい、隔てる垣根が壊れ、フランクに人々が助け合ったりポジティブな面が出てくる。しかしネガティブな面もあり、暴力というふうにもなってしまう。(略)
『チリの地震』の小説の中でも虐殺シーンで終わる。
暴力の噴出と表裏一体。
秩序が取り払われたことにより、暴力がまた露わになる。
いい秩序を作ろうとする時に、やはり自然なんかに頼っちゃだめですね。変化は人間自身で作り上げるものであって、地震に便乗しようとすると、ろくでもない事になる。(略)
今でも日本人は秩序だっていて素晴らしいという言説が振りまかれているが、僕はしっぺ返しを恐れます。それ自体は100%良いんだけれど、そこに酔っていると、また足下をすくわれる。そこに危険が潜んでいるとみるべき。中井さんはみているし、僕もみたい。
関東大震災で我々は暴力を振るってしまった。間接的ではあるとはいえ、阪神大震災の時にもすぐ暴力的な日本人、日本人は暴力的である、となってしまった。
でもね、二度ある事は三度ないんだよ。人間なめんなって。
本当にそこで、テレビとか見ると不安になるし、不安が堪ってポジティブな高揚感はストレスと裏腹ですから、一歩間違ったら、暴力っていう事になりかねない。
で、もう一回繰り返します。二度あることは三度ないっ!次こそは我々はそういうことをしてはいけない。しないっ。
ということ、これは中井さんは言っていないが、僕が訴えたいこと。あのね、で、すが、ん、はははっ、あのー今、僕が言ってることが、なんだ中(あたる)、おまえさぁ、心配げに言ったけど、何年か後に杞憂だったじゃん、おおげさに言ってたのと言われる事を心から願ってます、、、。"
これは繰り返すが震災直後の2011.3/19に語られた言葉である。
今、現在、ここで述べられている様なことは幸いにして起こらず、佐々木氏の希望通り、杞憂に終わっている。言わずもがなだけれど、この発言の内容を現時点で佐々木氏が同等に思っているかどうかは、不明である。
また本書でこの視点から何らか述べられていることがあるかどうか、それは読了後の感想で書いてみたいと思う。
◆関連リンク
・佐々木中『夜を吸って夜より昏い』(Amazon)
・中井久夫ほか『昨日のごとく―災厄の年の記録』(Amazon)
・タマフル 20110319 「春の推薦図書特集 feat. 佐々木中」 ‐ ニコニコ動画(原宿)
タマフルの過去分のPodcastファイルは、惜しくも本年2月に、TBSラジオの都合だけで、ネットから消されてしまったので、現時点、聴けるのはこうした録音版だけです。残念でなりません。
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