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2013.04.15

■感想 海猫沢めろん『全滅脳フューチャー!!!』

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全滅脳フューチャー!!! (太田出版)

" オタクにしてホスト、そして・・・ぼくが人類を全滅させる!?
 著者の特異な経歴が「本人」連載時から話題を集めた青春小説、カバー作品制作に気鋭のアート集団Chim↑Pomを迎えてついに完結!
 実話をもとに描かれる、神なき時代を生き抜くための「新しい希望」!!極限の問題作!!!

 九十年代、どこにでもあるような地方都市「H市」。
 主人公の「ぼく」は十八歳、美少女アニメとゲームとマンガがちょっと好きな程度の、いたって普通の工場作業員だ。夏のある日、なんとなくトラックで職人を轢き殺そうとしたのがきっかけで、仕事をクビになってしまった。
 お別れ会と称して親方に連れて行かれたのは、どこにでもあるような安いスナック。そこで出会ったある女性の紹介で、新しくオープンするホストクラブで働くことに......。
 だが、そこにいたのはホストとはかけ離れたシャブ中のチンピラ「シンさん」だった。その出会いが、ゆるやかに「ぼく」を変えていく。

第1話「恐怖、溶解人間」
第2話「最強、土下座マシン」
第3話「夏の黒魔術」
第4話「デッドエンド」
第5話「神のゲームとヒューマントラッシュファクトリー in my ぼく」
第6話「ライフ・イズ・アニメーション」
第7話「全滅 NO FUTURE」
最終話「YES FUTURE!」"

 『全滅脳フューチャー! ! ! 』を新しく出た幻冬舎文庫版で読了。
 「文科系トークラジオLife」をずっと聴いているのだけれど、そこでの海猫沢めろんの自身を語る逸話、そして独特のスタンスの言葉に魅かれて、自伝的小説ということでこの4月の文庫版出版を機に、手に取ったのだけれど、その鮮烈な面白さにノックアウトw。(2009年のハードカバー版出版時も手に取ったのだけど、未読のままだった不明を恥じます(^^;;))

 アニメオタクが紛れ込んだ関西のシノギ世界、中島らもを思わせる異様な人々の描写に引込まれつつ、挿入されるクールな視点の融合で醸し出される、紛れもない21世紀傑作小説。

 同時に刊行された村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を前日に読んで、続けて『全滅脳フューチャー! ! ! 』を読んだのだけれど、この二冊は現在36〜37歳の同世代を主人公にした小説。
 前者が昭和から見た21世紀の感性を描いてたのに対して、後者は明らかに平成の感性が描いた21世紀小説。
 何が違うか、もちろん作家の個性の違いが大きいw。
 だが特筆したいのは、後者について、脳内に映像作品を注入し続けて育った世代の感覚描写が凄いのだ。ここをもって21世紀小説と僕が呼びたい理由である。
 映像の世紀であった20世紀の末、映像が溢れかえる世界に生まれ、それを摂取して育った21世紀の大人、それが後者の主人公である。

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 『全滅脳フューチャー! ! ! 』の感覚を完全映画化できる監督がいるとしたら(園子温がもっとオタクならw?)、タランティーノ『パルプ・フィクション』に比肩する"日本の"新世代映画になるだろう。

"私の考える娯楽の本質は、現実逃避だ。日常を忘れてここではないどこかへいくのが、娯楽。ホイジ ンガや、ロジェ・カイヨワなんか読まなくてもわかる。では、自分の住む世界が、アニメだと思えば、幸せに生きることが可能か?そんなわけがない。心を持っ たアニメの主人公など、すぐに気が狂ってしまう。ここは現実以外のどこでもない。"(P278)

 多数挿入されるアニメソングとゲームに耽溺した感覚から発せられる主人公の言葉。自らを地球観測に送り込まれた、完璧に人間に模して作られたロボット(某レプリカントは不完全だった)と定義する感覚と周囲のズレの混沌…。

 映像の世紀が生み出した日本のいびつな2次元世界(クールジャパン?クソ喰らえw!)、これに脳を溶かされた主人公と、ドラッグで脳が蕩けている「シンさん」の凄絶な関西の地方都市での、どこにでもあるかもしれない物語。
 これを本書に引用される数々のアニメやゲーム映像をザッピングして、映画に埋め込んだら…どんな異次元空間がスクリーンに登場するか、是非とも観てみたいものだ。
 そして素晴らしいクライマックス。泣ける最終話「YES FUTURE!」!
 優れた震災映画の側面も(?)持つ、このクライマックスをそのまま映像化したら、きっと世の中では強く否定されるだろう。
 だけれどもここにはある種の僕たちの震災に対するひとつのリアルが間違いなく存在する。この側面の鮮烈な映像化もどこかで観てみたい自分が脳の中に居ますw。
 映像化は無理だとしても、それを脳内スクリーンに投射するための素晴らしい小説がここにあります。めろん先生の混沌に貴方も参戦しませんか(^^;)。

◆関連リンク
全滅脳フューチャー!!!文庫発売 (海猫沢めろん.com)

"無事発売になりました!本日から書店に並んでいると思います。ピンク色の背景と表紙の西島画伯のセラムンっぽいキャラが目印。あらすじがすげえ……(略)

ぼくのことをよろしくお願いします!"

海猫沢 めろん『全滅脳フューチャー! ! ! (幻冬舎文庫)』

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