■情報 米IT企業のAR技術と『電脳コイル』の特許的進歩性について
Magic Leap augmented reality demo gives glimpse of Google's $500m investment
最近、AR:オーグメンティッド・リアリティ、MR:ミックスド・リアリティの技術が賑やかだ。MicrosoftのHololensとか、上の動画に見られるような、Googleに関係するARとか。
動画を観てもらうとわかるが、これは明らかに『電脳コイル』が描いた世界を追いかけている様にみえる。
VRで先行していた日本発で、AR/MRは世界に誇れる技術になれたはずが、GoogleやMicrosoftやOculusやAppleに先を奪われているのが凄く残念でたまらない。
でも彼らが特許を出す時、その基本概念は磯光雄監督が映像として既に8年前公開してるので、それが公知資料となって、特許取得は難しいはず。どうだ、参ったか!(^^)
もし磯監督によって特許出願されてれば、軽く新作映画を撮れる位のロイヤリティーが獲得できたかも…。
特許情報プラットフォーム|J-PlatPat
念のためこのリンク先の特許検索サイト(誰でも自由に使える)で、磯光雄氏の名前を入れて特許検索をかけてみたが、残念ながら出願されてない様だ。
磯監督の特許出願は、個人ではハードル高かったかもしれないが、企画段階でNHKとか企業側に少しでもITについて目鼻が付く方がいれば、組織として出願できていたのに、と残念。
政府のクールジャパン政策も、そうした面の支援もひとつの手かもしれないと思ったり。
日本の「クール」なアニメで、今日もいろんな基本特許技術がパブリックドメインになっているわけです(^^)。
◆『電脳コイル』の特許性
というわけで、前から整理したいとも思っていたので、以下、特許性について確認と検討をしてみました。(実はこの上の文章をFacebookに書いたところ、ある方からコメントで『電脳コイル』技術の特許性(特に概念的な部分)についてコメントを頂いたので、そのれをきっかけに考えてみました。僕のFacebookでそのやりとりは見て頂けると思いますが、この記事はその中から僕の検討結果部分を改稿して、さらに追記を加えて掲載するものです。考えるきっかけになる、貴重なコメントとやりとりを頂きここで感謝します)
上で述べた『電脳コイル』が公知資料となるのは、「基本概念」部分。
技術者がもっとも抑えたい「基本特許」と言われる、請求範囲がもっとも広い部分である。
この基本特許をアメリカの超巨大IT企業に取られると、技術的には回避に苦労する。(細かい請求範囲の特許で他社と本数のバーターにしてパテント料を軽減する手は常道としてありますが、、、)。
『電脳コイル』の放送によって世間一般に公知となったあの概念は、もはやどんなIT企業でも特許化は不可能。あの映像で描かれた技術は、概念として多様に表現されているので、そうしたものの基本特許は取れない。
(もちろん特許の審査官が『電脳コイル』を知らないとしたらw、審査過程でライバル企業なり我々『コイル』ファンが特許庁に公知資料情報を報告しないといけないw)。
確かに『電脳コイル』技術の細部は別にして概念部分は、ARやMRそのものと言えるかもしれない。なので、ARやMRが既に世の中で語られていた2008年時点で、そこまでの広い概念の特許化は無理(そうした概念自体がそれ以前にどこかで特許として出願されているかもしれないですが、、、東大舘研周辺とかw)。
そうしたARやMRは公知としても、『電脳コイル』で示された概念は、その先進性と独自性から少なくとも僕には衝撃力を持っていたので、基本特許レベルの新しいアイデアがあったと思っている。
ではそれが何なのかと言われると、今のところ思いつくポイントは、町全体のデータ構築と、それを現実の位置変化も含めて、リアルタイムに更新かつ、その位置情報に合わせて映像をオーバーレイしていくところだと思う。
◆『電脳コイル』の特許請求範囲 第一クレーム 試案
特許的に書くと以下のような請求範囲になるw。
(特許文章はもっと厳密に書く必要がある。これはあくまでも雰囲気だけと思って下さいw)。近年、ITでの知財権を守る為、必ずしも装置に落とし込む必要はなく、ソフトウェア特許というものもあるが、まずは旧来の特許で求められる装置的な表現をしてみた。
「地形と建物の外部と内部、家具、道具に至るまでの3次元位置情報から仮想の街をシームレスにデータ化し、随時移動体の位置を更新する情報処理装置を持ち、当該情報処理装置にアクセスし現実の街での3次元位置情報と装着者の視線情報を検出するセンサを持ったメガネ型デバイスに、現実の街の映像に重ね合わせて3次元映像として投影することを特徴とする仮想現実装置」
サブクレームで「仮想上のアイテムを現実の物体の位置とそれとの干渉の度合いをフィードバックしながら、重ね合わせて表示することを特徴とする仮想現実装置」
うーん、確かにAR,MRそのものと捉えられかねない。特許庁から拒絶査定が来そう(^^;)。拒絶に対する意見書で訴求するとしたら、この特許の独自性は「仮想の街を地形から内部の道具までシームレスに」という部分で頑張るんでしょうけど、公知資料の組み合せで容易に思いつく、と言われるかもしれないですねww。
これは特許で求められる「新規性・進歩性」の両要件のうちの「進歩性」の問題。(「新規性・進歩性」についてはここのサイトの説明がわかりやすいです)
厳密には08年までの出願特許含めリサーチしないといけないが、おそらく上に書いた請求項は「新規性」は大丈夫ではないかと思う(VR/AR/MRについてかなり興味を持って世間の情報をみていたので、その感覚的な判断です(^^)。公開特許のウォッチングはしていないので、いい加減なものですが、、、w)。
◆『電脳コイル』の特許的進歩性
では、次に進歩性は? といったところで課題が残る。
進歩性とは、簡単に言うと、世に知られた技術の単なる組合せでなく、誰でもが思いつけるようなアイデアではないか、どうか。どれだけ斬新な着想かを問う観点である。
つまり従来概念として公知となっていたAR,MRの技術と、GPS他の位置情報を街から家の中までシームレスにトレースする公知技術の二つの組合せで、同業他社なら容易に思いつく、と特許審査の際に、特許庁の審査官から進歩性がない、特許にはできない、と拒絶の査定がでるのではないか、ということ。
確かにその二つの技術を知っている技術者であれば、思いつくのは比較的容易なのかもしれない。ただそれがその時点で、世の中に発想があったかどうかというと僕はそこに磯光雄監督の新しいアイデアがないと、あの光景は描けなかったのではないか、と思うのだ。まさに「進歩性」はあの映像を観て、既知の感覚でなく、何か新しい物を観た、という驚きを感じたファンにはわかってもらえるような気がする。
今回のMicrosoftのHololensとか、Google関連の上記動画Magic LeapがARで考えていることは、まさに磯光雄監督がこの世に初めて現出させた光景。
そして映像を観た時にこんなもの見たことないとか驚きの感覚があり『電脳コイル』の発想の進歩性がそこにあるという印象は拭えない(^^)。
◆進歩性のポイントとアメリカでの可能性
先に書いた「シームレス」が真のポイントではなく、通信電波網を利用し街のどこでもからでもどのメガネからも同じ3次元位置データの情報処理装置にアクセスできるところとか、街全体がその情報処理装置の中に仮想空間としてデータ設定されているところとか、そうした部分を丹念に拾っていけば、きっと進歩性は訴求できるのではないだろうか。
もし仮に「進歩性」が認められないとしても、比較的アメリカの特許庁は(僕の本業での特許経験から言うと)この「進歩性」部分は評価点が甘い。
先行特許と公知技術にそのままの請求項の記述がなく「新規性」が認められれば、「進歩性」は特許申請の課題設定とか効果をうたう文章の中で、公知資料とは目的が違う、とうまく説明すれば、特許成立する可能性は十分あったと考える。
アメリカの特許は、比較的「コロンブスの卵」的なものが認められる(僕の本業の自動車関連でも、時々とんでも無いペテント(ペテンのようなパテントw)が権利化されていたりするのだ)。ここらあたりもベンチャーが育まれやすい土壌なのかもしれない。
◆『電脳コイル』のオリジナリティ
記憶に頼って書くが、あの当時、AR,MRは、ごく局所的な場で使われるような構想が一般的であった。そこを街全体に拡張することによって、あのような豊かな(豊かでそして危険な)広がりが我々の世界に現出するというビジョンは、『電脳コイル』のまさにオリジナリティである。あれだけのIT関連の着想は、今も少なくとも日本国内では見たことがない。
MicrosoftやGoogleがやっと今、その一端に近い構想を現実化しようとしているが、まだまだあの広がりのある『電脳コイル』世界には追いついていない。
暴論を承知で書くと、そんな先駆的ビジョンが認められない特許制度というのはありえないはずで、たぶんここまで書いてきた僕の特許的なスキルが足りないだけではないか、と思ったりもする(^^)。どなたかVR,AR,MRの専門の方、ご意見いただければ幸いです。
日本のITが米国に比べて弱いのは、こうした大きな構想の部分だと思うので、『電脳コイル』の描いたヴィジョンというのは、日本の貴重な資産だと思うのだけれど、、、。
◆『電脳コイル』の価値
出されてもいないw特許についてアレコレ考えてきたが、あとは若干の蛇足。
例え特許が成立するような技術が提示できていなかったとしても、『電脳コイル』の斬新なAR/MR映像/映画としてのルックの衝撃力は高いレベルで評価されると考える。なので、最悪、特許でなく意匠での登録もありえるかもしれないw。
特許、意匠といった権利関係はともかく、あのオリジナリティのある世界は、本当は映画、テレビといった映像の世界だけでももっと幅広い物語を紡げるだけの深みがあると思う。
いまだ沈黙を守る磯光雄監督に、コイル世界の別の物語なり、次の作品を是非とも作っていただきたい、という多くの映像ファンの気持ちを書いて、この駄文を締めたいと思う。磯監督、待ってます。
と書いたところでネット検索して、磯光雄監督による「2036年の未来予測」というのを見つけた。新作につながるような、またも斬新なヴィジョンが語られているので、次回の記事で詳細を紹介したい。
◆関連リンク
・電脳コイル 当Blog関連記事 Google 検索
当時の興奮を今回改めて思い出しつつ書きましたが、当時の僕の感想はこちらです。
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