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2015年9月

2015.09.28

■感想 樋口真嗣監督, 尾上克郎特撮監督『進撃の巨人 END OF THE WORLD』

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 後篇、観てきました。今回は都合が合わず、IMAXではなく、通常版。4DXもトライしてみたかったけれど、これも時間が合わずに残念ながら断念。

 今回、もっとも素晴らしかったのは後半にある巨人の肉弾戦。
 格闘家の俳優が演じたという、着ぐるみを着て戦う人間による本格的な戦闘と、それに合成される蒸気と高熱を帯びた巨人の体の光によるエフェクトの合成。
 異質な壁に囲まれた世界での、気味の悪い巨人の、血肉が飛び散る戦闘による鬼気迫る異様な迫力が、原作と特撮映画の融合とした、みごとな奇想映像を創り出していました。

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 NHK BSプレミアムで放映された「日本特撮ルネサンス ~映画「進撃の巨人」の舞台裏~」で紹介された巨人映像のメイキング画像が右。
 こちらは着ぐるみでなく操演で数人の人によって操られた超大型巨人の例であるが、精緻に作られた巨人の造形に、(たぶんCGの)蒸気や光が合成されていく様がよくわかる。
 これを肉弾戦のダイナミックな動画で、1コマ1コマ作り出されたのが、今回のクライマックスシーン。

 いずれBlu-rayが発売されたらコマ送りで、精密に組み立てられた特撮映像をつぶさに眺めてみてみたいが、高速で動きぶつかる巨人の姿に、ワクワクしない奇想映像ファン、特撮ファン、SFXファンはいないはず。

★★★★★★以下、ネタバレ注意★★★★★★★




◆物語について

 僕は冒頭に書いたシーンとラストに至る盛り上がりで満足して映画館を出たのだけれど、途中いろいろと物語/演出的には、もう少し工夫されていたら、上記の特撮シーンが最大限映画としてのカタルシスにつながったんじゃないかな、と思った部分が幾つか書いてみます。

 まず前半白い部屋で何故か唐突にすぐに謎解きが二人の会話でなされるところ。
 ここはあっけなく冒頭で消えてしまう“『闇』を統べる者”クバルを絡めて、もっと作劇の中で、徐々に説明していく形は取り得たのではないだろうか。

 ズバリと語られてしまうより、徐々に真相の断片がキャラクターの動きに合わせてみえてくる様な描写の方が良かったんじゃないかな〜。
 特に町山脚本が実にシンプルな謎解き(SFとしてはその分、物足りなさは否めなかったが、、、)を提示しているので、明確に述べなくても、今のSF映画の観客は断片を提示するだけで十分にこの真相を理解したのではないだろうか。

 あの歌も、自然を背景に、鳥と波を映すシーンで流すべきではなかったか。
 本作のテーマが、原作が見事に描いている世界に対する若者の違和感であるのだとしたら、壁の向こうとそれを見た主人公たちが示す感情がもっとも重要なポイントになるはずなので、白い部屋で唐突にあの歌を流すより、ラストこそふさわしくなかったか、と思うのだ。

 以上の二点と最後に述べる俳優のオーバーアクトがなんとかなっていたら、傑作になっていたんじゃないかと、残念でならない。

 最後に一番苦言を呈したいのは、その、シキシマ役の長谷川の演技。
 前編のリンゴシーンをなかなかいいかな、と思った僕でも今回の悪ノリしすぎの演技はいただけなかった。謎解きとかのシーン含めて、あまりに作りすぎた演技で、思わず画面から眼を背けたいくらい。
 
 『シン・ゴジラ』でも主役の一人だそうだけれど、頼むから自然体の演技を見せて欲しい。本来、空想科学映画は想像力に富んだ映像を見せるのだから、観客の視点を一部代弁し、現実世界とのつなぎの役割を担う俳優たちは、どちらかというとオーバーアクトよりも抑えた演技で日常を表現し、眼に飛び込んでくる非日常を、観客の視点にある部分冷静に見つめる役割は必要なのではないかと思うのだけれど、、、。映画とのインターフェースである俳優が大げさな演技で騒ぎすぎると、物語に入っていこうとする観客に白々しい気持ちを呼び起こして、入り込みにくくするデメリットが大きいと思う。

 『シン・ゴジラ』は庵野総監督が現実の日本を反映させると言っているので、きっと重い思弁を含んだ作品になるだろう。その時、俳優がどのように画面の中で動くのか。『進撃の巨人』でのいろんなところで語られているマイナス面の評価を、次の作品で十分にフィードバックしてほしいものです。

◆関連リンク
「進撃の巨人」メイキング映像も、樋口真嗣らが特撮語るドキュメンタリー今夜放送 - 映画ナタリー

町山智浩、『進撃の巨人 END OF THE WORLD』の副題は『◯◯◯』を意識

 このリンク先はネタバレありますので、要注意。

"2015年9月15日放送のTBSラジオ系のラジオ番組『たまむすび』(毎週月-金 13:00-15:30)にて、映画評論家・町山智浩が出演し、脚本を担当した映画『進撃の巨人 END OF THE WORLD』の副題は、小説『■■■』を意識したのだと仄めかしていた。
町山智浩:そっちじゃないんですよ。『世界の果てまで』なんですよ、実は。こっちの歌がまずあって。後編は、ほとんど僕が作った話になってるんですよ(笑)
町山智浩
:それで、1人で考えられないんで、原作者の諫山先生と話ながら、「こんな感じでまとめていこう」みたいな感じで、今回は謎解き編です。"

・町山智浩、映画『進撃の巨人』後編の見どころについて言及「僕たちが住む現実の日本と、どういう風に繋がるか」 | 世界は数字で出来てい

"町山智浩:そういう感じになってますけど。現実、僕たちが住んでるこの現実の日本と、どういう風に繋がるかってところを観てもらいたいですね。
赤江珠緒:ええ?!現実の日本と?
町山智浩:今、我々が暮らしてる日本と、どうやって話が繋がるのかな、と。

町山智浩:だから、どうなってるか分からないんで、実際、試写観たらびっくりしましたよ(笑)色々とびっくりしましたよ(笑)「なんでこうなってんの?」って(笑)
山里亮太:はっはっはっ(笑)
町山智浩:「これは何?」って。長谷川さんのところもそうでしたよ。
山里亮太:へぇ。
町山智浩:「ここ、こうしちゃうんだ」みたいな。"

 このあと、映画は監督のもの、現場で作られる、と語る町山氏は、直接語らずこの映画への批判を口にしていると感じられた。

・Below the drop.: Skeeter DavisのThe End Of The Worldの和訳.

なぜ鳥達はさえずり続けるのだろう? なぜ星々は空で輝き続けるのだろう? みんな世界が終わってしまったことを知らないのだろうか? 私が貴方の愛を失ってしまった時に世界は終わったというのに

 

【前編】宇多丸 実写映画「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN 樋口真嗣監督」感想語る シネマハスラー - YouTube
【後編】宇多丸「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド」の感想 - YouTube
 ライムスター宇多丸氏のレビュー。
 興味深いのは、撮影前に町山智浩氏から宇多丸氏が脚本の相談を受けていたという部分と、その脚本と映画の相違点の説明。ファン必聴です。

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2015.09.23

■感想 神林長平『だれの息子でもない』

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『だれの息子でもない』神林長平|講談社ノベルス|講談社BOOK倶楽部

"本人(オリジナル)の死後も、ネット内を徘徊する人工人格(アバター)。 彼らを消去することが、市役所に勤めるぼくの仕事だ。 撃ち抜けるのか。記録と、記憶を、跡形もなく。

「当たり前の現在(いま)から始まる、隣り合わせの未来(あす)の怪談」

日本には、各家庭に一台、携帯型対空ミサイル、略称:オーデン改(カイ)が配備されている。
安曇平市役所の電算課電子文書係で働くぼくの仕事は、故人となった市民の、ネット内の人工人格=アバターを消去することだ。しかしある日、ぼくの目の前に、死んだはずの親父の人工人格が現れた 。

編集担当者コメント

<敵は海賊>、<戦闘妖精・雪風>シリーズなど数多くの著作を発表し、SFファンの圧倒的な支持を受ける作家、神林長平さんの最新作が登場です! 舞台は、インターネット上に集積された個人情報が、本人(オリジナル)の死後、もう一つの人格としてネット上を徘徊してしまう近未来の日本。そんな故人の人工人格(アバター)を消す仕事を生業としている「ぼく」と、死んだはずの父親の人工人格の冒険譚です。私自身、普段の生活で片時もスマートホンを手放せないことにふと怖さを感じるのですが、この物語はとても鮮烈に、ウェブに依存する私たちの「あり得る未来」を描いてくれています。さらに、父と息子、そして母親の家族小説としても、素晴らしく面白い傑作です。ぜひお読みください。"

 講談社の「小説現代」に連作として掲載された中編を3本集めた作品集。といっても3本でひとつの物語を構成していて、これは長編と呼んだ方が良いかもしれないひとつの物語である。
 すでに昨年出版された本だが、遅まきながら読んだので簡単に感想。

 神林長平の住む新潟の隣県 長野県が舞台。これだけ現実の地名が出てくる神林の小説はすごく珍しい。現実に根付いた設定は、中間小説誌掲載というところが影響しているのだろうか。

 本作は、『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』『いま集合的無意識を、』『ぼくらは都市を愛していた』といった近作に連なる「意識」をテーマにした作品の最新作。

 どちらかというとこの作品は、神林の『敵は海賊』シリーズのような、ユーモラスなシリーズに近く、軽妙な語り口で綴られている。

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 まず設定が面白い。各戸に対空ミサイルが配備され、ネットワーク内のインターフェースに、自己の記憶を複写して擬似的な意識を持たせた個人個人のアバターが存在する2029年頃の世界(あと14年!)。

 ネットとのブレインマシンインターフェースを介して、ネットの中のアバターが主人公の脳にアクセスし、ゴーストのように彼の意識に介入。あたかも幽霊が過去から蘇って、そばに寄り添い主人公に語りかけ続ける。ホラーストーリーの背後霊との会話が、現代的なITインフラを通して、テクノロジーの問題として浮上する。
 ここはまるで磯光雄監督『電脳コイル』のSF小説版。
 そして神林の筆は、近作のテーマとして書き続けている「意識」の存在について、アバターを通して思索を深めていく。

 今回は、神林のデビュー以来のテーマである、「言葉」「言語」のキーワードは出てこない。わざと封印している気配もあるが、今回はそれらと「意識」を絡めず、ネット上に生まれた「意識」の意味について、探索が進む。

 ファンとしては、それらのキーワードと「意識」をつなぐ、神林長平のミッシングリンク(^^;)にあたる、人類の「意識」と「言語」に切り込む大作が、今後書かれることを想像せずにはいられない。

 伊藤計劃が、その残された作品群でアプローチし、盟友・円城塔が『屍者の帝国』でその探求を進めた「意識」と「言語」の問題。
 これに決着を付けられるのは、神林長平だけではないかと、デビュー当時から「言語」の問題に注目して読み続けてきた僕は思うのだ。

 そのテーマにふさわしいのは、『戦闘妖精 雪風』シリーズではないかと考えるのだけれど、神林ファンの皆さんは、どう思いますか。
 本作で肩慣らしをしたテーマを、昇華される神林の入魂の一作が書かれるのを、こころして待ちたいと思う。楽しみにしています(^^)。

◆関連リンク
神林長平『だれの息子でもない』(Amazon)

当Blog関連記事
■解読 神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』
■ネタバレ感想 伊藤計劃×円城塔『屍者の帝国』: The Empire of Corpses
■感想 円城塔『道化師の蝶』そして「松ノ枝の記」

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2015.09.21

■情報 中島志津男監督『伝説の巨獣 狼男対ゴジラ』 : Science Fiction Artists "Wolfman vs Godzilla"

Godzilla attacked a northern military base ! Wolfman vs. Godzilla

Adobe Premiere 経由でアップロード済み

Posted by 中島志津男 on 2015年9月5日

Legendary Beast Wolfman vs. Japan self-Defense Forces.

Adobe Premiere  経由でアップロード済み

Posted by 中島志津男 on 2015年7月17日

 中島志津男監督の自主映画『伝説の巨獣 狼男対ゴジラ』、ゴジラ愛にあふれた映像ですね。監督のFacebookページからシェアさせていただきました。以下の動画も同様です。素晴らしい映像、ありがとうございます。映画全体の完成が、とても楽しみです。

 上の2本目は、狼男 vs メーサー殺獣光線車、なかなかの迫力です。

ゴジラ vs 自衛隊

狼男、変身シーン!

変身シーンのメイキング

◆関連リンク
FACEBOOK MONSTERLAND - a safe habitat for giant monsters.
 ニコラス・ケイジとこの映画のポスターの2ショット。
「伝説の巨獣 狼男対ゴジラ」について : asabatyouのなんでもブログ2.

"これは「キングコング対ゴジラ」が大好きなファンがいて、その人が作った自主制作映画です。 狼男が他のモンスターと1対1の戦いをするのは、かつてユニヴァーサルが1943年に作った「フランケンシュタインと狼男」を思わせます。 ですがこの狼男、色は白いし体もごついので、何だかホッキョクグマや雪男みたいで(「スター・ウォーズ」シリーズの、ワンパに見えなくもない)、一般的な狼男のイメージと大きくかけ離れています。 しかし良い意味で他の狼男との差別化が出来ていますし、いかにもモンスターらしいルックスもあって、私は好きだったりします。正直、自主制作のキャラのままなのが、惜しいです。 ひょっとしたら、「ヴァン・ヘルシング」の狼男の原点かもしれません。 残念ながら、まだ完成していないようですが、いつか必ず完成してそれを見てみたいです。"

「伝説の巨獣 狼男対ゴジラ」を求めて(海外記事紹介) | PAMI-roh.

"この作品に出てくるゴジラは中島志津男さん、狼男は品田冬樹さんが造形。撮影されてから約30年経った現在でも編集などの作業が続けられており(!)以前のG-FESTで上映されたのはごく一部だそうです。"

・In Search Of Monsters: WOLFMAN vs GODZILLA « SciFi Japan
 その海外記事。

godzilla 62 vs wolfman movie awsome sculpture
 ファンメイドのフィギュア

狼男対G - ニコニコ動画:GINZA どこかの上映会での映像。

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2015.09.16

■情報 押井守監督『ガルム・ウォーズ ザ・ラスト・ドルイド』米公開 'Garm Wars: The Last Druid'

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Arc Nabs 'Ghost in the Shell' Director's 'Garm Wars: The Last Druid' -

"ARC Entertainment has acquired US rights to the action-sci-fi thriller Garm Wars: The Last Druid.

Directed by Mamoru Oshii (Ghost in the Shell) and co-written by Geoffrey Gunn (Siren), the film stars newcomer Melanie St-Pierre (Barney’s Version), Kevin Durand (X-Men Origins: Wolverine) and Lance Henriksen (Aliens). 

ARC Entertainment will be releasing the film in-theaters and on VOD on October 2, 2015. "

 アメリカ公開が10/2からに決まったようですね。劇場とビデオ・オン・デマンドによる公開。残念ながら、日本は未だ公開情報なしですね。
 押井守監督『ガルム・ウォーズ ザ・ラスト・ドルイド』、Google検索するとこんなポスター(右上)が出てきますが、果たして公式なのか不明。
 米国公開の10/2に向けたものなのか....??いかにもアメリカ版(?)。
 メラニー・サンピエールケヴィン・デュランドを中心に据えた売り方になっていますね。

◆関連リンク

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DVD予告ページ
 右上の画像は、DVDのパッケージかもしれない。
Garm Wars: The Last Druid | DVD | Sale Price
 こちら(右)もDVD予告ページの画像。こちらの方が良いですね。12/7発売のようですね。(リンク先はリージョン不明ですので、ご注意を。)

 日本公開前にDVDとBlu-rayが出て、海外からの輸入で劇場よりも家で観るファンが増えるかもしれない。残念ですね。

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2015.09.14

■感想 REBECCA "20年振りの再結成LIVE ― Yesterday, Today, Maybe Tomorrow"

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レベッカ 20年振りの再結成LIVE ― Yesterday, Today, Maybe Tomorrow ―|音楽|WOWOWオンライン

 レベッカ再結成LIVE録画観。
 NOKKOの高音のあのボーカルは健在、そして土橋安騎夫の曲、20-30年前と同じ旋律が、過去へのタイムトリップを誘いますね。
 NOKKOの高音に感じる溌剌さとそれに混じる繊細な神経とか、どこか幽玄が混在したシャープな曲想とか、、、あの頃の自分の感覚、就職して一人暮らし、自分の車でカセットでレベッカをかけて感じた疾走感といったものを想い出します。
 "MOON"とか"Cotton Time"の旋律は、磨耗してきて奥底に埋もれている自分の細い神経wを刺激するし、"Love is Cash" "76th Star"の突き抜けたトーンは、疲弊した細胞を賦活する(^^)。

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 2015年ver.として新たに英語部分を日本語詩に置き換えた"真夏の雨"は、NOKKOの語りから、母親がいつもこの歌は「終戦の歌」だと言うのを想起しつつ書かれたという。
 暗くした会場で、バンドの直上から落ちる青いライトに囲まれる形でこの曲が歌われたのだけれど、まさに真夏の雨の匂いを運んでくるようで、とてもマッチしてました。
 最後の"MAYBE TOMORROW"が流れる頃には、まさにあの頃のNOKKOが戻ってきたようなオーラが会場に充満しているようで、、、。
 これなら、今から新曲も有り得るんじゃないか、というのが僕の感想。ぜひ、来年くらいにニューアルバム、といった奇跡が実現するのを待ちたいものです。

コンサートのセットリスト

"1.RASPBERRY DREAM
2.MOON
3.LONELY BUTTERFLY
4.Cotton Time
5.ONE MORE KISS
6.CHEAP HIPPIES
7.メドレー (Hot Spice~Girls Bravo!~Boss Is Always Bossing~Love Is Cash~蜃気楼~Hot Spice)
8.真夏の雨
9.Time
10.76th Star
11.LITTLE DARLING
12.(It’s just a) Smile
13.OLIVE
14.WHEN A WOMAN LOVES A MAN
15.MONOTONE BOY
16.PRIVATE HEROINE
アンコール
17.Friends
18.MAYBE TOMORROW"

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2015.09.09

■感想 マグリット展 @ 京都市美術館

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京都市美術館 > 展覧会案内 > マグリット展

"7月11日(土)~10月12日(月・祝)
ルネ・マグリットは、私たちの思想や行動を規定する”枠”を飛び超えてみせる独特の芸術世界を展開した20世紀美術を代表する芸術家である。京都で44年ぶりの本格的な回顧展は,ベルギー王立美術館とマグリット財団の協力を得て,代表作約130点を展示。初期から晩年まで、画家の思想や創造の過程をたどり、マグリット芸術の謎の魅力を堪能する。"

 先日記事にしたヤノベケンジ×増田セバスチャン×髙橋匡太 「PANTHEON-神々の饗宴-」へ行った際に、平安神宮近くの京都市美術館で「マグリット展」を観てきた。初期作品から晩年の見知った絵まで、マグリットの画業の全体像に触れられた。
 思っていたのより、作風が多彩、というか、時代時代でかなり変貌していく作風。
 ルノワールの時代とか「ヴァーシュ(雌牛)の時代」(1947-48)とか、不勉強で知らなかったのだけれど、マグリット的な理知的なシュールレアリスムの絵しか知らなかったので、とても興味深かった。

 特に味わい深かったのは、パリ個展のために作られたという、雌牛の時代の作品。ラフな30枚の絵が描かれたというこの時代の作品、展示会では2枚ほどしかこの時代の絵はなかったのだけれど、他も観てみたくなって検索してみた(vache Magritte - Google 検索)

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 展示されていた一枚はこの引用画の中断一番左の絵。背広の男が持つ拳銃がネクタイと混じり合ったような服を着ている、色彩豊かな絵でマグリットの有名画と比較すると、その破天荒さ、カラフルさに吃驚する。
 どちらかというと、「超現実」といっても現実のリアルを優先し、細部はリアリズム描写のイメージが強いマグリットだけど、この絵のように物体が溶融し、奇怪な形状とサイケな色彩のこのような絵があるとは。
 どちらかというと、有名画よりも、今回この絵画に強い興奮を得たのである。

 初期から時代が進む順に約130点の絵画を鑑賞できる今回の展覧会。
 パネルにはマグリットの絵画に関する思索の流れがわかるような説明文が書かれていたが、哲学的な、人がとらえる現実と真の現実とのズレを意識したマグリットの言葉が印象的だった。
 その思考を絵画化した、額縁の絵と窓の外の実景を描いた絵画や、月という一つしかない事物と三人の男の脳内のそれぞれの月を並列に描いた絵画。
 こうした絵から窺えるのは、シュルレアリスムといっても、感覚的/自動書記的なものではなく、とても理知的なロジカルに組み立てられた「超現実」を狙っていたように読める。

 他にも幾十ものシルクハットのジェントルマンが空中に浮かぶ「ゴルコンダ」のところに記されていたような、「絵には感情はありません、見る人にある」と言ったマグリットの言葉。これも人の認識を哲学的に分析した言葉であり、感覚よりも理知を優先して、リアリズムの手法で超現実を描いた作風の根幹にある思想であるかのように見える。

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 今回、こうしたマグリットの思索と絵画を同時に鑑賞できるとても良い機会となり、貴重な経験だった。

 右は展覧会を観終わって訪れたすぐ隣の平安神宮で写した、HDR写真。

 HDRは現実の映像を露出を変えて2枚写して、明暗のダイナミックレンジを広げて「現実」を写す、現代の「超現実」の手法である。

 マグリットが平安神宮へ訪れていたら、どんな「超現実」を描いてくれるか、というようなことを考えるとともに、雌牛の時代のマグリットにもここを訪れてもらい、空間と色彩が歪むような「非現実」的風景も描いて欲しいと考えながら、この赤が眩しい建物に見入ったのでした。

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2015.09.07

■感想 園子温監督『映画 みんな! エスパーだよ!』

 園子温監督 映画『みんな! エスパーだよ!』観てきた。
 心配は的中し、TVシリーズ番外編『みんな! エスパーだよ!〜エスパー、都へ行く〜』に続く、悪ノリ大作wだった。たぶん園子温史上最大の悪フザケ暴走エロ大作。  園監督の出身地である東三河(監督は豊川出身)、豊橋の街は催淫の雰囲気に包まれ、街じゅうの人々が往来で下着姿になり、しなだれるw。

 物語はTVシリーズの冒頭を描きなおし、そしてそこから暴走が始まり、TVドラマの際にあった主人公 鴨川嘉郎の青春の哀愁とSFとして結構秀逸だった爆笑のセコイ超能力描写は、背景に押しやられて、ただただ画面は若い女性のパンチラと下着/水着姿で埋め尽くされていく。

 一応、物語の縦糸として、胎児だった時に出会った嘉郎の「運命の人」との邂逅をテーマとして見せているが、それは映画を観客に申し訳程度に繋げ止める、最低限の物語要素だけだったりする。
 この映画、園監督が高校生時代まで過ごした地元豊橋を舞台に、青春の性的妄想が爆発して街に現出している。おそらく監督の当時満たされなかったリピドーが東三河に復讐し、それを映像として定着されたものなのではないかw。三河弁ベタベタで埋め尽くされた性的妄想。妄想だけに本当に計り知れない、観客を置いてけぼりにするシーケンスも幾つか。あれは何だったのだろう...って。
 これはまさに、園子温青春私小説の暴発作である。

 一点、光っていたシーンは、後半でエスパー教師ポルナレフ愛子が英語詩を口づさみながら、嘉郎の前から去っていくシーン。ここに結晶化された物語の縦糸の描き方はゾクっとした。あの詩はどこかに掲載されていないのだろうか。園監督作?

◆関連リンク
『みんな!エスパーだよ!〜欲望だらけのラヴウォーズ〜』|dTV
 dTVでオリジナルドラマもあったんですね。「」、こっちは園子温は総監督。
【WOWOWぷらすと】映画 みんな!エスパーだよ!公開だよ! |WOWOW動画 【旧:W流】.

"中井圭、早織、ゲスト:深水元基、マキタスポーツ
9/4(金)~公開の映画「みんな!エスパーだよ!」で共演の深水元基さんもお迎えし、撮影秘話をたっぷりお届け!"

 もともとプリクエルにする企画もあったようで、胎児の時代を描いているのは、その名残のようです。

続きを読む "■感想 園子温監督『映画 みんな! エスパーだよ!』"

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2015.09.02

■感想 切通理作『本多猪四郎 無冠の巨匠』

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 切通理作さんの『本多猪四郎 無冠の巨匠』読了。

 本多監督が作品に込めた想いを、本多監督のスクラッププックや日記等資料に加えて、御家族/関係者へのインタビュー、故郷探訪、そして脚本と映像作品の徹底的な比較等々の徹底分析から、丁寧にあぶり出した力作。

 最後の章「新しい怪獣映画の話をしよう」が特に興味深い。
 本多監督が最後の映画作品『メカゴジラの逆襲』以降で考えていた作品に関するメモとコメントの分析。

本多猪四郎の言葉。
 "核の恐怖というものはなくならないのだから、ゴジラの存在の根底には放射能というものがいまだにあっていいんだけれども、それの認識の仕方・・・今後人間が生きるために作り出していく反作用みたいなものに対するゴジラとの関わりというかな。こういうものをもうちょっと突き詰めていけば、新しいゴジラができるはずだと。それは思いますよ"(P455)

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 この言葉を読んで感じたのは、311後の『ゴジラ』、庵野秀明&樋口真嗣版の課題のひとつは、福島の東電原発事故の存在をどう扱うかということでないかということ。初代『ゴジラ』と本多監督への強いリスペクトを持たれている御二人が現代の日本で新作『ゴジラ』を作るのであれば、原発メルトダウン後を、どう描くかは重要なテーマであるはず。

 この本多監督の言葉から、以下のような映画のシーンが思い浮かんだ。           

 冒頭、大震災直後の破壊された福島第一原発をカメラがなめて、映し出される震源である太平洋の凪いだ海原。カメラはそのまま海底へトラックダウン、そして映し出される黒い巨体。
 上陸し、さらに破壊される東電原発。ゴジラの体に降り注ぐ燃料プールのプルトニウム。

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 その先もしばらく役者は登場せず、ドキュメント的に津波にさらわれた海岸を南に向けて進むゴジラが映し出される。福島、茨城、そして東京へ無言のまま、地響きのみをたてて突き進むゴジラ。
 画面は一転、鹿児島。現れた二体目のゴジラ。
 破壊される川内原発1号機。つづいて日本各地に現れるゴジラの総数は、54体。全国の全原発が破壊され、全てのゴジラが向かうのは東京。破壊される国会議事堂と皇居。ここではじめて、54体のゴジラの咆哮。そして街に向けて放たれる放射能火炎。
 タイトル『ゴジラ311』。
 物語は廃墟となった日本でスタートする....



 戦争を体験し科学技術の暴走を何よりも心配されていた本多監督。
 現在、もし本多監督が生きていたら、どんなゴジラを撮るのだろうか。凄まじくノワールなゴジラが登場し、そして最後には絶望に突き落とされた我々観客に、それでも希望を提示されるのではないだろうか。そんなゴジラが観たくてたまらない。

◆関連リンク
【WOWOW】 【町山智浩×切通理作】 無冠の巨匠 本多猪四郎 その1 - YouTube

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