■感想 神林長平『だれの息子でもない』
『だれの息子でもない』神林長平|講談社ノベルス|講談社BOOK倶楽部
"本人(オリジナル)の死後も、ネット内を徘徊する人工人格(アバター)。 彼らを消去することが、市役所に勤めるぼくの仕事だ。 撃ち抜けるのか。記録と、記憶を、跡形もなく。
「当たり前の現在(いま)から始まる、隣り合わせの未来(あす)の怪談」
日本には、各家庭に一台、携帯型対空ミサイル、略称:オーデン改(カイ)が配備されている。
安曇平市役所の電算課電子文書係で働くぼくの仕事は、故人となった市民の、ネット内の人工人格=アバターを消去することだ。しかしある日、ぼくの目の前に、死んだはずの親父の人工人格が現れた 。編集担当者コメント
<敵は海賊>、<戦闘妖精・雪風>シリーズなど数多くの著作を発表し、SFファンの圧倒的な支持を受ける作家、神林長平さんの最新作が登場です! 舞台は、インターネット上に集積された個人情報が、本人(オリジナル)の死後、もう一つの人格としてネット上を徘徊してしまう近未来の日本。そんな故人の人工人格(アバター)を消す仕事を生業としている「ぼく」と、死んだはずの父親の人工人格の冒険譚です。私自身、普段の生活で片時もスマートホンを手放せないことにふと怖さを感じるのですが、この物語はとても鮮烈に、ウェブに依存する私たちの「あり得る未来」を描いてくれています。さらに、父と息子、そして母親の家族小説としても、素晴らしく面白い傑作です。ぜひお読みください。"
講談社の「小説現代」に連作として掲載された中編を3本集めた作品集。といっても3本でひとつの物語を構成していて、これは長編と呼んだ方が良いかもしれないひとつの物語である。
すでに昨年出版された本だが、遅まきながら読んだので簡単に感想。
神林長平の住む新潟の隣県 長野県が舞台。これだけ現実の地名が出てくる神林の小説はすごく珍しい。現実に根付いた設定は、中間小説誌掲載というところが影響しているのだろうか。
本作は、『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』『いま集合的無意識を、』『ぼくらは都市を愛していた』といった近作に連なる「意識」をテーマにした作品の最新作。
どちらかというとこの作品は、神林の『敵は海賊』シリーズのような、ユーモラスなシリーズに近く、軽妙な語り口で綴られている。
まず設定が面白い。各戸に対空ミサイルが配備され、ネットワーク内のインターフェースに、自己の記憶を複写して擬似的な意識を持たせた個人個人のアバターが存在する2029年頃の世界(あと14年!)。
ネットとのブレインマシンインターフェースを介して、ネットの中のアバターが主人公の脳にアクセスし、ゴーストのように彼の意識に介入。あたかも幽霊が過去から蘇って、そばに寄り添い主人公に語りかけ続ける。ホラーストーリーの背後霊との会話が、現代的なITインフラを通して、テクノロジーの問題として浮上する。
ここはまるで磯光雄監督『電脳コイル』のSF小説版。
そして神林の筆は、近作のテーマとして書き続けている「意識」の存在について、アバターを通して思索を深めていく。
今回は、神林のデビュー以来のテーマである、「言葉」「言語」のキーワードは出てこない。わざと封印している気配もあるが、今回はそれらと「意識」を絡めず、ネット上に生まれた「意識」の意味について、探索が進む。
ファンとしては、それらのキーワードと「意識」をつなぐ、神林長平のミッシングリンク(^^;)にあたる、人類の「意識」と「言語」に切り込む大作が、今後書かれることを想像せずにはいられない。
伊藤計劃が、その残された作品群でアプローチし、盟友・円城塔が『屍者の帝国』でその探求を進めた「意識」と「言語」の問題。
これに決着を付けられるのは、神林長平だけではないかと、デビュー当時から「言語」の問題に注目して読み続けてきた僕は思うのだ。
そのテーマにふさわしいのは、『戦闘妖精 雪風』シリーズではないかと考えるのだけれど、神林ファンの皆さんは、どう思いますか。
本作で肩慣らしをしたテーマを、昇華される神林の入魂の一作が書かれるのを、こころして待ちたいと思う。楽しみにしています(^^)。
◆関連リンク
・神林長平『だれの息子でもない』(Amazon)
当Blog関連記事
・■解読 神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』
・■ネタバレ感想 伊藤計劃×円城塔『屍者の帝国』: The Empire of Corpses
・■感想 円城塔『道化師の蝶』そして「松ノ枝の記」
| 固定リンク
« ■情報 中島志津男監督『伝説の巨獣 狼男対ゴジラ』 : Science Fiction Artists "Wolfman vs Godzilla" | トップページ | ■感想 樋口真嗣監督, 尾上克郎特撮監督『進撃の巨人 END OF THE WORLD』 »
コメント